女王の秘技
『暗示』にかかってしまったマルチーズは、ラブラに殴りかかろうとする。
シバはようやく巡ってきたチャンスに、自分を王様と認めさせることよりも、ラブラを攻撃しろと『暗示』をかけてしまったのだった。
ラブラは向かってくるマルチーズ王子を、躊躇なく引っ叩いた。
ゴールデンは怒ってラブラに詰め寄る。
「おいーーーっ、マルチーズ様に何てことしてくれたんだ!!」
「大丈夫、ちゃんと平手打ちですよ!」
ラブラは兄にそんなことを言う。
「そーいう問題じゃないだろ!どうして手をあげたんだ!」
「いや、だって・・やられそうだったから・・ねっ」
「ねっ。じゃないだろ!」
ラブラは、マルチーズ王子にはこれまで色々と迷惑もかけられてるから、これぐらいは別にいいかと思っていた。
そのとき丁度やってきたコーテッドは兄2人がケンカをしているのに驚き、止めにはいった。
「いいところに来た、コーテッド!
マルチーズ様が『暗示』をかけられた。一緒に止めてくれ。」
こうして2人は協力してマルチーズを止める。
その間、シバは何をしていたかと言うと、コーテッドの美しさに見惚れていたのだった。
そのぼーっとしているシバに気付いたラブラは、強烈な蹴りを足元めがけて打ち込みまくる。
バタッと倒れ、いよいよ形成逆転と言うときに、シバの救世主が現れたのだった!
「あなた達、何をしているのですか!!」
女王は、牢に響き渡るぐらいの大きな声で呼びかけた。
「義姉上、この者たちが私のことを攻撃してくるのです〜」
大袈裟に甘えておく方がよさそうだと、猫なで声で女王に助けを求めた。
何も返事がないのでどうしたのかなと顔を上げる。
「義姉上?」
そこには、げに恐ろしい顔でこちらを見下している女王がいたのだった。
シバは、つきさっきまで一緒にお茶を飲みながら談笑していたのに、どうなってるんだと焦る。
「誰が・・誰が義姉上じゃーい!」
そう言うと、女王はシバの手を憎々し気に踏みつけた。
そしてゆっくりとシバに顔を近付けてきた。
「あなた方の悪事は全てお見通しです!潔く罪を認めなさい。」
その言葉で本当に暗示はとけてしまったのだとシバは実感する。
一体どうやって? 『打消』『消去』の特性持ちの仕業か?!
いや、そんなことよりも・・早く女王にもう一度『暗示』をかけなければ!!
シバは女王の顔をじーっと見つめる。
「陛下、『不屈』に『私利私欲』が見えてます」
ラブラは女王にそう告げた。
女王はシバがすぐに罪を認めれば、恩情をだすつもりだったのだろう。
だからこそラブラは『感知』で彼の気持ちを伝えなくてはいけなかった。
「そうですか・・・・仕方ありませんね。」
そう言った女王の顔は、一瞬だけ残念そうに見えたが、すぐに微笑んだ。
何かを感じ取った王配とレトリバー父は慌てて耳を塞いだ。
それは女王の秘技だった。
『記憶』の特性と、お母さんの得意技『小言』の合わせ技である。
実は女王の特性『記憶』は重要なことはもちろん、まあどーでもいいことまで、こと細かに覚えているのだ。
さっきからシバへのダメ出しもまあ細かい!
王族としての心得から始まり、貴族や城内の者への接し方。
立ち居振舞いに言葉づかい、姿勢に歩き方に爪の切り方にと、だんだんおかしな方に話が進んで行く。
挙句は、いつ何秒遅刻してきたの、どの日とどの日にお茶を飲むときにずるずるとすすっただの、出て行くときの扉の閉め方の音の大きさがどうだっただのと・・・
まあ、小言が出るわ出るわで聞いているこっちまで気が狂いそうになる。
王配はこれをくらうといつも体重が減り、レトリバー父は必ずプチ家出をするらしい。
レトリバー三兄弟は初めて直にみて『これはキチーな!』と、父に同情するのだった。
シバもその小言の数々にさすがにしゅんとしている。
だが彼の母親もなかなかの小言言いだったので、途中からは聞き流しに入っていた。
女王が暗示にかからないよう手が触れるようにしていたリサは、真横でその攻撃をうけて、頭がぐわんぐわんしていた。
その時、コーテッドから結びで話しかけられた。
『マルチーズ様が暗示をかけられているので、解いてほしい』
リサは嬉々としてそちらに行こうとした。




