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余談


3人の王子とそれぞれに仕えるレトリバー家の三兄弟は心機一転で頑張っていた。


特に王都のマルチーズ王子は『パグは死んだのだ』と心に蓋をすることで、なんとか心の均衡を保っていた。

また今までのことを反省し、積極的に城下に出ては市井の者たちと言葉を交わしたりしていた。


「パグ様はお元気でらっしゃいますか?」

「ご病気だと伺ったのですが、お加減はどうですか?」

「パグ様がいなくなったってのは本当かい?」


行く先々でみながパグのことを訊いてくる。

人々に支持されていたのは自分ではなく庶民出身のパグだったのだ・・・

突きつけられる現実は想像以上に厳しいものだった。


マルチーズとゴールデンはその度になんとも言えない顔で、曖昧に言葉を濁してごまかしていた。


それでも!

と王子は心を奮いたたせ、時間があるときは城下に足を運んだ。

するとどうだろう、すぐにマルチーズ王子は庶民にも気軽に声をかけてくださる優しい方だと噂は広まっていった。

それに反比例してパグのことを話してくる者は徐々に減っていった。


それこそが王家が大事にしている『魅了』の特性だった。

一度でも姿を見てしまうとその人に対する好感度が上がってしまう。

ゴールデンが思った通り、マルチーズ王子の評価はすぐにパグを追い抜いた。



最近では積極的に色んな施設の運営状況を視察して回っている。

その日は牢舎を訪れていた。

最近の犯罪のことや、問題点、改良したい点などを看守長から話を聞く。

質問も終わりそろそろ帰ろうと見送ってもらっているときだった。


看守長は余談を始めた。


「もう10年以上も前になりますかねー。

1人の少年が強盗でここに来た時に『俺は王様の息子なんだ、放しやがれー!!』とそりゃスゴい暴れて暴れて手がつけられなかったんです。

そのうちその子に同情したのか、看守がその子を逃してしまいましてねー。

で、大問題になってその看守を問い詰めたんですが、その男もなぜ自分がそんなことしてしまったのか全然覚えていなくって・・・・・・あれは不思議でした。」


ゴールデンは「それで」と続きを話すように促す。


「あの少年は本当に王子様で、王様から釈放するように言われたんじゃないかー・・・なんてみんなで勘ぐったりしてたんですよ。」


看守長は言い過ぎたかなと、マルチーズの様子をちらりと確認する。

思いのほか王子が難しい顔をしていたので、慌てて「ほんの冗談ですよ」と付け加えた。


「え? その看守はどうなったって? 

もうこの仕事を続けていく自信がないと、この仕事を辞めてしまいまして、今は妻と一緒に何か商売してたな〜。

調味料の口をキレイにする商売だったか・な?・・それは前か・・拾ってきた石に顔を描いて売ってるんだったっけ・・」

話はどうでもいいことにそれていってしまった。


その帰り道、馬車に揺られながら2人は考えていた。

「どう思う?」

マルチーズは強盗で捕まるようなヤツの言うことなど、嘘に違いないと思っていた。


「まあ、でまかせでしょうね・・・念のため、父には報告しておきます。」

ゴールデンは前のことがあるから慎重になっていた。



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