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内内の会議 ー2ー


そのサモエド王子はというと、いくら国のためだとはいえリサや自分の気持ちを無視しての婚約など、はじめはもちろん反対だった。

だがその言葉で心が揺らぎだす。


サモエド王子は初めからリサのことを『空からの使者』として信じて疑わなかった。


リサはあっと言う間にこの国の言葉を話すようになり、城内の者たちともすぐに打ち解けた。

あのコーテッドやピンシャーの心までも開かせたのだ。


リサがいるところにはいつも笑いがおこっていた。

サモエド王子はそういう気の利いたことが言えないのでリサが羨ましかった。


それにリサが来てから『サモエド王子の見張り番』と揶揄されているコーテッドがリサのほうに気を取られて、うっとおしいぐらいにべったりと付き添わなくなったのだ。


いままでこんなに自由だったことがあったろうか・・・

解放された王子は自室で間食したり、長椅子に足を投げ出してうたた寝したり、と束の間の1人の時間を楽しんだ。



そうするともっと自分の時間が欲しくなってきた。

コーテッドに「リサといると楽しそうで良かったね」と言ったのが、どうにも逆効果だったようだ。

ほったらかしにされて拗ねていると、勘違いされたのだ。

「私はサモエド様といるときが一番幸せです!」と、コーテッドは高らかに宣言し、またしばらく付きまとわれることになってしまった。


サモエド王子は決してコーテッドが嫌いなわけではない。

ただあの過保護っぷりをもうちょっと緩めて欲しいだけなのだ。

お互いにもっと他のことにも目を向けて、高めあえるのがよいのではないだろうかと思っていたので、今は良い距離を保てているのではないかと思っている。



それはリサの出現によって実現されたことだ。

国の憂いのみならず、サモエド王子の心の憂いも晴らしてくれて、まさしく『空からの使者』さまさまだ。


リサがいてくれたら安心する。

王子である自分がいてもあまり気を遣っている感じがしない。

変に媚びるわけでもなく、他の人に接するのと同じように接してくれるのが嬉しい。

空気が重いときは、気を利かせ雰囲気を良くしてくれるのも心強い。

それに自分が知らないことをたくさん知っていそうで興味をひかれた。


それが『好き』という気持ちなのかはわからない。

でも、もし彼女がずっとそばに居ててくれるというなら、もっと自分に自信を持てそうだ。

だから形式上とはいえ、婚約したらリサはそばにずっといてくれることになる。

サモエド王子にとってそれは魅力的な提案だった。


「その条件でしたら、リサが良ければ僕は構いませんが・・・」


サモエド王子の返事にコーテッドは目を見開いた。


「王子がよろしいのでしたら、決まりでいいですね。」

父は腹立つぐらい満面の笑みを浮かべていた。


コーテッドは頭をフル回転させて、どうしたらこの婚約を阻止できるだろうと考える。

だが気が焦るばかりで全くいい考えが浮かばない。


一方のリサはというと先程からの怒涛の展開に、全く付いていけてなかった。

どこがどうなってサモエド王子と私の婚約になるわけ?

これってドッキリ??

まさかここに来てからのことがぜーんぶ夢とか!? 



『コーテッド様 わたし、王子と婚約するの?』

リサは結びできいてみた。

『それ・・は・・・・・・・・・い・や・・だ』

コーテッドは思わず本音が漏れてしまう。


そのとき名案が浮かんだ。


『今から、結びを使って指示を出すからその通りに話すんだ!

上手くいけば婚約はなくなるかもしれない。』

リサは訳が分からないまま、コーテッドの言葉を信じて指示に従うことにする。


『いいかこうだ・・『お前たちいい加減にしろ!』』

『そんな、女王様にお前たちなんて言っていいの? 捕まったりしない?』

『いいから、そのまま一言一句(たが)わずいえ!』

コーテッドの剣幕にリサは頭に流れてくる通りに言う。


「おまえ たち いいかげん に しろ

 わたしは 『空からし 使者』だぞ

 えっ? 何?

 かって な こと ばかり いってると この国 に わざわいを

 もう一回?

 もたら して やる〜」


言い終わると、みんな無言でじーっとしてリサを見ていた。

『コーテッド様! ど、ど、どうしてくれるんですか!!

 みんな怒ってるじゃないですか。』


女王陛下はさっと立ち上がり、腰を折る。

その姿を見てみんな同じようにポーズをとった。


「大変失礼なことを申し上げてしまいました。先程のご無礼はお許しください。」

許しを乞う女王陛下の声は震えていた。


叱られると思っていたリサは、唖然とする。

『コーテッド様、これって一体どういうことですか?』


当のコーテッドもこんなに上手くいくとは思わなかったので驚いていた。

リサがたどたどしく言ったのが、より『空からの使者』っぽくてより良かったのかもしれない。


「そんな謝らないでください。」と恐縮している今のリサとのギャップが、また人知を超えた者が取り付いたかのように見えたようだ。


こうしてサモエド王子とリサの婚約は立ち消えたのだった。


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