抱き心地
憂鬱なラブラは今はそんなことは忘れて、目の前にいるリサとコーテッドの馬鹿話に参加していたいと会話に耳を傾けた。
「しかし、今まで一緒にいておかしいなって思うことなかったんですかね?」
「だから見た目は女性そのものだったと言ってるだろう!」
そう言われても、その美しい女性の姿を見ていないリサにはピンとこない。
「でも抱き心地は男性と女性では違うでしょ、違和感なかったのかな〜」
「抱き心地って・・・」
思いがけない言葉にコーテッドは少し戸惑う。
「どれどれ〜」
言いつつ、ラブラはさっとリサに抱きつく。
リサは突然のことにフリーズしてしまっている。
「あ、兄上」
コーテッドが2人に割って入った。
「ん、なんだ?お前も女性の抱き心地の確認をしたいのか?」
その言葉にコーテッドは顔を赤らめる。
「違います!そんなことをして、特性が消えてもいいんですか!!」
「べっつに〜。いつも色んなものが見えるのも疲れんだよ!!」
そう言いつつラブラは次にコーテッドに抱きついてきた。
突然のことで今度はコーテッドがフリーズしている。
「やっぱ、全然違うよな〜。」
ラブラはコーテッドから離れて、またリサに抱きつく。
コーテッドはむっとしてリサとラブラを再び引き離そうとした。
その時!
ラブラはコーテッドの両手をつかみリサの体を包むように持っていった。
リサとコーテッドは抱き合う格好になった。
その瞬間、コーテッドは特性のことなど頭からすっぽり抜け落ちた。
顔が紅潮していくのがわかる。
それにリサはやわらかくてその体温がとても心地いいのだ。
「男と女の抱き心地の違いがわかった?」
すぐそばにはラブラがいて、ニヤニヤしていた。
コーテッドはガバッとリサから離れ、咳払いをし、なにか言わねばと必死に考える。
「2人とも私を実験台にしないでくださいよ!」
リサが怒り出した。
「ごめんごめん」
ラブラは軽く謝るが、リサが照れ隠しのために怒ったことぐらい『感知』がなくったってわかる。
君にそんな顔をさせているのは誰なんだろうね・・・
今はまだこの弟なんだろうけど・・・
そのうちに俺だけにそんな顔を見せてくれたらいいのにな・・・
ラブラはその特性のせいで目から入ってくる情報が多くて、いつもうんざりすることが多かった。
だからどうでもいいときは、大抵は目を閉じて、入ってくる情報を遮断している。
そうしておくと夕方ぐらいから悩まされる頭痛がラクになるからだ。
なのに今はどうだろう!
特性が消されたお陰で弟の顔も普通に見れるし、今、弟が顔を真っ赤にしてどんな思いをしているのかも想像することができるのだ!
生まれてからこんなに楽だったことがあるだろうか。
リサがいてくれたら普通の人のように過ごすことができるのだ。
だが・・・・・
そうなるとスピッツ王子にとって何のお役にも立てないのかと、ラブラはジレンマに陥るのであった。




