兄と弟
コーテッドはこっちに近づいてくるラブラをいち早く見つけた。
リサの腕を掴み自身の背中に隠れるようにした。
しばらく声を出すなよと釘をさす。
「やあ、コーテッド。パーティーは楽しんでいるかい?」
「ええ、まあ」
曖昧な返事でごまかす。
「例の人を探しているんだが、お前、知らないかい?」
あらぬ方向を指差してあの辺にいたと答える。
「そっか、じゃあ一緒に行こう!後ろにいる人も一緒にね。」
ラブラはニヤリと笑った。
よくわからないまま人気のないところに連れてこられた。
パーティ会場から抜け出せてリサはホッとする。
「初めまして、コーテッドの兄のラブラドールです。
ラブラって呼んでね!」
似てるーー!
身長や髪色こそ違うものの、顔の一つ一つのパーツや、それに佇まいもそっくりだ。
ただ愛想の良さが全然違う!
リサが顔を凝視していると、どうかした?と訊いてきた。
「2人があまりにも似ているのでビックリしたんです!」
リサの言葉に今度はお兄さんが驚いている。
ラブラが妙な反応をしたので、リサは戸惑った。
「えっ、よく言われません?」
ラブラは子供のときに、弟の特性『美』の前によくわからない言葉がついているのが、ずっと気になっていた。
大きくなって調べたら『絶対的』という言葉であったのでびっくりしたのだ。
『絶対的美』などという最上級の『美』を持った者と、『美』の特性のない自分とでは同じに見えるわけがない。
ラブラは「初めてそんなことを言われたよ」と笑い出す。
「どこも似ていない・・」
コーテッドも怒ったように言ったのだった。
「君、名前は?」
「いや、待って当てよう!ーーー『シクラ アリサ』じゃない?」
兄さんって、テンション高めの人だな〜。
トイレに小銭をばらまいた〜!
みたいな顔をしているコーテッド様に結びで話しかけた。
『顔はそっくりだけど、この人本当にお兄さん?』
『残念ながらな・・』
『それってあっちのセリフじゃないの?
この無愛想で怒りっぽいのが残念ながら弟なんでーす。』
『お前が怒らせるようなことがばかりするから、怒っているんだ。』
「私だって怒らせようとしてるわけじゃないんです。だってこっちの常識がわからないんだもん!」
興奮して普通に喋ってしまった。
「あっ」
口を押さえてコーテッド様を見る。
『バカ!』と一喝されてしまった。
兄さんは愉快だという感じでこっちを見ている。
「失礼しました。イシクラ リサです。」
『い』のところを強調して自己紹介をする。
「ふーん、イシクラ リサさんね。聞いていた名前と違うんだね。」
コーテッドが彼女にかなり気を許していることが、ラブラには意外だった。
彼女に主従の結びをさせているようなので、まあ要注意人物ということはないのだろう。
だが、『鑑定』しても『感知』をしても、特性も感情も一切わからないのだ。
こんなことは生まれて初めてだった。
ラブラは挑戦状を突き付けられているようで、何だか愉しくなってくるのだった。




