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空の上からこんにちは

初めての投稿で緊張します。


コーテッドは悩んでいた。


それまでの悩みと言えば、爪の間のインクがなかなか取れなくて『不潔な人だと思われていたらイヤだなー』とか、声の通りが悪いようで、一度の呼びかけで誰にも気付いてもらえないだとか、正直、今の悩みに比べたらどーでもいいことばかりだ。


目の前にいる悩みの元凶はというと、呑気に鳥かごを眺めている。

飼い主である自分に全く懐かない小鳥は、その人の指に飛び移った。


「な、な」

何ということだ!

こっちは何度挑戦しても、突つかれてばかりだというのにー。


「かわいいですね。」

やっかむこちらの気持ちを逆なでするように、満面の笑顔を向けて来た。

諦めていたことを、さらりとやってのけられて、コーテッドの眉間にしわが寄った。



事が起こったのは今から半年近く前のことだ。


ワンダ王国の第三王子のサモエドと、王家に代々忠実に仕えてきたレトリバー家の三男コーテッド達は、地方の巡察の途中で、賊に襲われている行商人に出くわした。


数的には向こうの方が有利だが、こちらは王子を守る為に、精鋭の騎士達がいた。


次々と賊どもが切られていく中、後がなくなった首領は、一番弱そうな男を捕まえて、首に剣を立てて人質にした。

その人質こそ何を隠そうこの私だ!(お恥ずかしい)


「こいつの命が惜しければ、武器を置いて金目のものを全部よこせ!」

「私のことは構わずにこの者をお切りください!」

とか言えたら良かったのだが、いざとなると怖さが勝って、そんな言葉は出ない。


首領の言われるままに、仲間が武器を手放していくなか、いよいよあのセリフを言うときだ!と息を吸い込んだその時

「ギャーーーー」

ものすごい声がして、そちらを見たらなんと人が落ちてきているのだ!


次の瞬間には、同じように見上げていた首領の顔を足蹴にし、さらに、逃げかけていた別の賊にも、跳び蹴りをして倒してしまったのである。


突然の出来事に、皆が唖然としている中、いち早くサモエド王子は、落ちてきた者に駆け寄った。

王子自らその者を助け起こし、王族の紋章の入った馬車の中に横たえた。


ぐったりしていたので滞在先の子爵のところに連れ帰ったが、その日はそのまま目覚めることはなかった。


その人(女だったのである!)は高いところから落ちてきたくせに、賊を下敷きにしてたからなのか、かすり傷程度の怪我だったのである。



王子は興奮したようすで話し出した。


「国の憂いは空からの使者が解決する・・・・・ただの伝承だと思っていたのだが、本当にこのようなことがあるのだな。」


「王子、先程のことは国の憂いなどではありません。」

「少なくとも、私にとってコーテッドを失うことは、国の憂いぐらいの一大事だよ。何事もなくてよかった。」


この言葉にコーテッドは『そうかそうか王子にとって私は、そんなに大切な存在なのだな』と満足そうに頷いた。


顔が、にやけそうなるのをこらえ、大事なことを確認する。

「あのような素性のよくわからない者を、ここに泊めて大丈夫なのでしょうか?」


コーテッドが捕まったことで事態が悪くなり、しかも窮地を助けてもらったのにそんなことは忘却の彼方だ。


「我々を助けて下さった『空からの使者様』に、その言い方はないだろう!」

王子に強く言われて、コーテッドは尻込みする。


しかも空からの使者様って・・・王子ともあろうかたが、素性のよくわからないヤツに『様』付けだぞ。

そんなこと、あっていいわけがない!!


「急に現れたのは、何か仕掛けがあったんでしょう。もしや、サモエド様を狙っていたのかもしれないんですよ。」


「何を馬鹿なことを言うんだ!お怪我だってされているのだぞ。きちんと治るまでお世話させていただかないといけないだろう。」

「ですが・・・」

「もういい、使者様が目覚めたら必ず知らせるように!」

そう言い残し王子は自室に帰った。


なぜ私が悪者にならなきゃいけないのだ。

それもこれもあの女のせいだ!とコーテッドは怒るのだった。



「コーテッド様、ただいま戻りました。」

声をかけてきたのは、王子付き筆頭騎士のピンシャーだ。


「何かわかったか?」

「数名は取り逃がしましたが、話は聞き出すことができました。どうやらあの行商人の男はグルだったようです。」


賊共は溜まり場にしている酒場で、あの行商人の男に「儲け話がある」と声をかけられたそうだ。

こちらがターゲットを誘うから、その者たちを襲ってほしい、との依頼だったそうだ。


「それで、あの行商人は?」

「残念ながら、逃げられてしまいました。」

あの女の出現で、作戦は失敗だと早々に見切りをつけて逃亡したのだろう。


行商人の男が王子のすぐ後ろ、いつでも手をかけられる位置にいたことを思い出し、身震いする。


「どう思う? 狙いは王子なのだろうか?」

「儲け話と持ちかけたことからも、そのように思います。」


ピンシャーはその足で、酒場まで話を聞きに行ってくれたらしいのだが、店の親父もその者の素性は知らなかったらしい。


「憶測ですが、サモエド様がわからずにコーテッド様を人質にしたのかも知れません。」

「え? そ、そうかな〜、そんなにサモエド様に似てるかな〜。」

誰も似てるとは言ってないのに、勝手に良いように解釈して、一人でにやにやしている。


『この人、殺されそうになった自覚あるのか・・・全く王子のこととなるとポンコツだからな。』


ピンシャーは咳払いを一つし、総括をした。

「とにかく、似顔絵は()()()()()()()()。行商人の男は王子に会ったことがない。そして裏に誰かいる。今わかっているのはこれぐらいですね。」


「似てない」で、我に返ったコーテッドは、ピンシャーをムッと見遣り、肝心なことを思い出す。

「お前、あの女のことはどう思う?やはりあの盗賊の一味だと考えるよな。それが妥当だよな?」

質問と言うより、同意を求めるように言ってくる。


ピンシャーは人質になっていたコーテッドのことをそっちのけで、王子が甲斐甲斐しく、彼女を助けていたことを思い出した。

きっとたっぷり、私情もふくまれていることだろう。


「今のところ何ともいえませんね。

行動を見る限り、助けてもらったことになるわけですから。」

「味方のふりをして、今度こそ王子を手にかけるのかも知れないんだぞ!」


「確かにその可能性も捨てられません。

しばらく様子をみるのがよいのではないでしょうか。」


このままだと彼女がいかに怪しいか、王子はそんな怪しい者をどんなに手厚く助けたのかを永遠に聞かされそうなので、ピンシャーはさっさと部屋を後にしたのだった。


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