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ブラックドラゴン  作者: 青香
第三章 復讐の始まり
29/36

3

 心に余裕が出来たおかげで、ミリアの事を思い出す。

 「ねぇ、ミリアはどこ?」

 「うん?ミリア?」

 解らず聞き返すとクロノは答える。

 「髪がキラキラ光る人。あと、優しい匂いがするの」

 「髪がキラキラ?女の人なのかしら、ね?」

 「そうだよ」

 「そう、ね」

 パルムは思い当たる節があった。


 獣人達が必死に守ろうとした、治癒能力を使う女。

 クロノを奪うために吹き飛ばした、あの女の事だろう。

 しかと見たわけではないが、この子が身を挺して彼女を庇おうとしていたような気がする。

 クロノに取って、ミリアという存在は大切なのかもしれない。

 それが事実なら、腹立たしい話だ。


 確かめる為にも、とぼけてみた。

 「わからないわ、ね」

 「そっか」

 「そのミリアさんって人は、クロノちゃんの友達?」

 パルムの問いかけに考えるクロノ。

 友達というのはディーバの事で、ミリアはそれ以上の存在だ。

 「友達はディーバで、ミリアはなんだろう?わかんないけど、一番好きだよ!」

 「そう。大切な人なのね」

 「うん!大切な人!」

 嬉しそうに話すクロノに対して、パルムは微笑みを向けていた。


 しかしながら、内心は穏やかではない。

 ーー彼を封印した元凶の末裔が、易々と心に取り入るなんて!

 胸の内では怒りが煮えたぎりそうだった。

 しかし、この子の感情を嗅ぎ取る性質を理解しているパルムは、上手く取り繕い平静を保つ。


 そして辻褄を合わせる為に、話を作り出した。

 「クロノちゃんは、私のお家の前に倒れていたのよ。どうやってそこまで来たか、覚えているかしら?」

 当然知る由のないクロノは首を横に振る。

 「そう、ね。何処かで逸れたのかしら。大切な人みたいだから、私も一緒に探してあげる、ね?」

 「本当?ありがとう!」

 クロノは思わず抱きつく。

 それが嬉しくて、パルムは笑う。

 「フフッ。どういたしまして」

 彼女の本心から出る愛情に、クロノの鼻は反応する。

 「パルムも良い匂いがする」

 「そうなの?」

 「うん。ミリアと似てる」

 「フフッ。そうなの、ね」

 微笑んで見せたが、忌々しい女に似ているのは良い気分ではない。

 ーーまぁ、この子に好かれる要素があるなら、構わないかしら、ね。

 そう思い、クロノの頭を撫でた。


 久方ぶりの感触。

 サラサラとした髪が指の間を通っていく。

 ーー柔らかい。あの時と同じ。

 昔を思い出し、涙ぐみそうになる。

 ーーこの中に彼が居るはず。また逢える。

 

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