3
心に余裕が出来たおかげで、ミリアの事を思い出す。
「ねぇ、ミリアはどこ?」
「うん?ミリア?」
解らず聞き返すとクロノは答える。
「髪がキラキラ光る人。あと、優しい匂いがするの」
「髪がキラキラ?女の人なのかしら、ね?」
「そうだよ」
「そう、ね」
パルムは思い当たる節があった。
獣人達が必死に守ろうとした、治癒能力を使う女。
クロノを奪うために吹き飛ばした、あの女の事だろう。
しかと見たわけではないが、この子が身を挺して彼女を庇おうとしていたような気がする。
クロノに取って、ミリアという存在は大切なのかもしれない。
それが事実なら、腹立たしい話だ。
確かめる為にも、とぼけてみた。
「わからないわ、ね」
「そっか」
「そのミリアさんって人は、クロノちゃんの友達?」
パルムの問いかけに考えるクロノ。
友達というのはディーバの事で、ミリアはそれ以上の存在だ。
「友達はディーバで、ミリアはなんだろう?わかんないけど、一番好きだよ!」
「そう。大切な人なのね」
「うん!大切な人!」
嬉しそうに話すクロノに対して、パルムは微笑みを向けていた。
しかしながら、内心は穏やかではない。
ーー彼を封印した元凶の末裔が、易々と心に取り入るなんて!
胸の内では怒りが煮えたぎりそうだった。
しかし、この子の感情を嗅ぎ取る性質を理解しているパルムは、上手く取り繕い平静を保つ。
そして辻褄を合わせる為に、話を作り出した。
「クロノちゃんは、私のお家の前に倒れていたのよ。どうやってそこまで来たか、覚えているかしら?」
当然知る由のないクロノは首を横に振る。
「そう、ね。何処かで逸れたのかしら。大切な人みたいだから、私も一緒に探してあげる、ね?」
「本当?ありがとう!」
クロノは思わず抱きつく。
それが嬉しくて、パルムは笑う。
「フフッ。どういたしまして」
彼女の本心から出る愛情に、クロノの鼻は反応する。
「パルムも良い匂いがする」
「そうなの?」
「うん。ミリアと似てる」
「フフッ。そうなの、ね」
微笑んで見せたが、忌々しい女に似ているのは良い気分ではない。
ーーまぁ、この子に好かれる要素があるなら、構わないかしら、ね。
そう思い、クロノの頭を撫でた。
久方ぶりの感触。
サラサラとした髪が指の間を通っていく。
ーー柔らかい。あの時と同じ。
昔を思い出し、涙ぐみそうになる。
ーーこの中に彼が居るはず。また逢える。




