53.尾張統一戦、牛屋(大垣)城の攻防の事(2)
尾張統一戦ファイナル祭り!
統一戦最後まで投稿します。
ごごごごぉぉぉ、土岐・斉藤・朝倉連合軍が迫ってきます。
正面の大手門の上で千代女ちゃんが大声で叫びます。
「勇敢なる兵士よ。我が方の勝利は確定している。死にたくない人はちゃんと指示に従って!そして、この大垣を襲う蛮勇の野蛮人どもに織田の力を見せつけるわよ」
「「「「「「ウオ オオオオオ アアア アーーーー ッ ッ ッ」」」」」」
千代女ちゃんは距離を見定めて言います。
『放て!』
ダダダダダダァァァァァ~~~~~~ン!
ぷしゅう、ぷしゅう、ぷしゅう、ぷしゅう、ぷしゅう、ぷしゅう!
鉄砲200丁が一斉に火を噴き、弓とクロスボウの矢が放たれます。
敵の足軽は分厚い盾を持って先頭を走ります。
槍隊と弓隊はその盾に身を隠すように進撃してくるのです。
鉄砲と弓で倒れた兵士は少なく、その後ろに付いて来る丸太隊の進撃速度は変わりません。
「武者様、お見事です」
「以前の敗退を参考にさせて貰っただけです」
大盾の厚みは通常の3倍もあり、鉄の板を挟んで鉄砲の威力を完全に殺しているようでした。
しかし、千代女ちゃんも慌てた様子もありません。
「向こうの盾はばらついているわ! 構わず撃ちなさい。必ず当たります」
そうです。
斉藤軍の盾隊はバラバラです。
ファランクス(密集陣形)というにはお粗末だったのです。
鉄砲隊も予備鉄砲に持ち替えて、次々と放ちます。
近づいてくると頭上からの攻撃になり、次々と兵士が倒れてゆきます。
しかし、丸太を守る盾隊の働きで第一の大手門まで到着し、丸太が大手門を揺らします。
「いけぇぇぇぇ!」
ダ~~~ン!
「もう一丁!」
ダ~~~ン!
安普請の大手門が揺れ出します。
うおおおおぉぉぉぉぉ!
丸太隊が取り付いたことで後続の兵も走り出します。
ズドン!
大手門の止木が壊されて、わずかに開いた門を強引に押しのけると、斉藤軍が城に雪崩込むかと思えました。
にやり!
千代女ちゃんに悪い笑みを零します。
ダダダダダダァァァァァ~~~~~~ン!
門の内側で門が開くのを待っていた鉄砲隊200丁が一斉に火を噴きます。
飛び込んで来た兵が一斉に倒れたのです。
「盾隊、盾隊を前に!」
斉藤の武将が叫びます。
しかし、門に陣取っていた鉄砲隊は1発だけ撃つと通路の奥に逃げてゆきます。
この牛屋(大垣)城の内部は、堀と土手で迷路のようになっているのです。
次の角でも、新手の鉄砲隊200丁が敵を引き付けて待っています。
そうです。
2つの鉄砲隊が角毎に構えて待ち受けるのです。
鉄砲を避ける為に盾隊が前を行くと、通路で交通渋滞が起こる。
交通渋滞では上から狙い撃ちされる。
「仕掛け箱、放て!」
末端の紐を切るだけで、小型の矢が60本も発射される仕掛け箱が最初の武器です。
土手の上にずらりと並べられた仕掛け箱から矢が放たれると、雨のように矢が降ってきます。
しかも矢の先にしびれ薬が縫ってあるという念の入りようです。
「第一の土手を放棄する。皆、引け!」
使い捨ての仕掛け箱を使うと、一番外の土手を放棄します。
鮮やかだね!
わずかな時間で300人以上の敵兵を戦力外に落としました。
この人を食ったような戦い方に光安と鎧武者は怒りを覚えます。
「矢にしびれ薬とは卑怯千万な奴め!」
「門が破られるのを承知した策ですか!」
「刀も交わさずに土手を放棄するなどあり得ん!」
「こちらが盾隊を用意すると承知していたようです。この相手は厄介そうです」
光安は武士として誇りもない戦い方に飽きて、鎧武者は軍略で負けていることに怒り覚えていました。
「少数で突破を計れば!」
「正面と頭上から鉄砲で撃たれます」
「何か策はないのか?」
「兵を進めながら、同時に土手も占拠してゆくしかございません」
「やはり、それしかないか!」
敵の罠と承知しながら人海戦術で兵を進めるしかない。
大盾を先頭に進みながら、同時に土手も攻略する。
あの重い大盾を持って土手登り?
やらされる兵士も困るでしょう。
でも、それが結論です。
但し、数で勝る連合軍の勝利は揺るがないと二人は考えていました。
千代女ちゃん、いじわるそうな表情で相手を舐め回す(からかう)つもりでした。
しかし、その懸念が突然に消えるのです?
「えっ、もう来ちゃったの? 仕方ない。仕掛け箱を放って、第3の土手まで撤収します」
無駄弾です。
でも、仕掛け箱を敵に使わす訳にはいきません。
西門の義龍の軍は無茶苦茶でした。
全軍で一斉攻撃を掛けたのです。
西門と土手の同時攻略です。
これは千代女ちゃんも予想していました。
指示を受けた甲賀衆の者が言われた通りに対応していたのですが、武将自らが先陣を切って土手を掛け上がってくるのです。
これでは兵も逃げる訳に行きません。
最低でも土手に上がってくるまでにクロスボウを5本は発射できると予想を立てていたのですが、3本目で中腹まで登って来たのです。
撤退ラインでした。
「仕掛け箱を放って撤収!」
大外の土手はあっという間に占拠されます。
第2の土手から油が引かれてあったので土手を上るのに苦労していますが、その勢いを止まりません。
「第2の土手も放棄する。仕掛け箱を放て!」
西門側の第2の土手を放棄したので、正門の後背に出てくる可能性が出てきました。
正面も引くしかありません。
◇◇◇
正門と西門の道は第2の門の前で合流し、鉄砲隊が門の中に逃げ込んできます。
「ほぉ、斉藤軍も中々にやりますな!」
「骨がありそうで面白そうでないか」
宗厳様と家厳のじいさんが嬉しそうに話しています。
一方、千代女ちゃんはちょっと怒です。
第2の門まで半刻(1時間)は持たすつもりだったのに半分しか持ちません。
正面の第一の大手門から広い道と西門に続く狭い道は、第2の門前の広場で合流します。
そこからは中広場、第2の門、中広場、第3の門、大広場、二の丸門(第4の門)、広場、本丸へと続くのです。
「なんだ! 結局、合流するのか!」
「そのようでございますな!」
先に到着した義龍ら中広間の奥で止まっていたのです。
「土手から回れるか?」
「無理です。橋が壊されて、土手の前を一度降りないといけません」
「つまり、西門と同じということか!」
「そうなりますな!」
「ならば、土手と門を一緒に攻略しろ!」
「「「「「「うおおおおおぅぅぅぅ!」」」」」」
義龍の方が力押しだった為に指揮を統一されていたようです。
しかし、ここからは柳生の門弟も参入です。
「あぁ、恥かいたわ。みんな、しばらく死守するわよ」
義龍の武将が再び先頭に立って土手と門の攻略を開始します。
勢いよく空堀を駆けて降りる義龍軍の姿を見て千代女ちゃんが呆れます。
「西門もこれでやられました」
「これは私の失策ね! 初手からこんな無茶をすると思わなかったわ」
「どうしますか!」
「仕掛け箱、偶数放て!」
「次、奇数放て!」
使い捨ての箱を変えて、次の箱を置き、偶数と奇数を交互に打ってゆきます。
もちろん、弓やクロスボウにも撃って貰っています。
10セットしかない仕掛け箱があっという間に尽きてします。
無茶をした甲斐があり、義龍軍の負傷者が3桁を超えました。
そんな土手の攻防を無視して、第2の門が丸太隊で破壊されます。
ダダダダダダダダダダダダァァァァァァァァァァ~~~~~~ン!
なだれ込む義龍軍に400丁の一斉射撃が終わると、宗厳様と家厳のじいさんを先頭に柳生衆500人が突っ込みます。
「死にたくない奴は後ろに下がれ!」
「ほれ、脇が甘い」
宗厳様は門から入ってきた兵を滅多切りです。
赤鬼のように突き進みます。
次々と名だたる武将が宗厳様に挑みます。
義龍軍、馬鹿ですか?
一瞬で首が飛び、あるいは、胴体ごと真っ二つです。
それでも次の餌食が飛び込んでゆくのです。
一方、家厳のじいさんは槍を持って、かわしざまに突きを放ちます。
斬られた本人も気が付かない小さな傷です。
でも、そのすぐ後に力なく倒れます。
すれ違いざまに喉元を斬られて息ができなくなったり、首筋を切ってゆくのです。
あるいは、ちくりと突き刺します。すると脇腹に穴が空いており、それが致命傷だったりします。
宗厳様は派手に大物を倒していますが、家厳のじいさんはその6倍の命を頂いて無双しています。
二匹の赤鬼が大暴れていました。
他の柳生衆も大活躍です。
まぁ、白銀の甲冑をプレゼントしたから圧倒しています。
甲賀の衆にも特製のインナーをプレゼントしています。
一方的に倒されてゆく義龍軍の有様を見て、義龍自身が飛び出そうとするのを、家臣が必至に止めています。
「殿、ご自重を!」
「ええぃ、その手を放せ!」
「全員で押せ! いずれ疲れる」
千代女ちゃんが大量の爆竹に火を付けて放り投げます。
ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ~ん!
撤退の合図です。
「第二の門も放棄! 第三の門に移るわよ」
柳生衆も第二の門から第三の門に撤退し、柳生が門をくぐると固く閉められます。
義龍軍は600人余りの死者を出し、3,000人近い負傷者を出す大失態でした。
しびれ薬など根性で動けとか無茶言っています。
先陣を切った武将もしびれ薬で動けなくなった事で義龍軍の指揮者を大量に失ったのです。
広場に突入した光安と鎧武者が見た姿は、疲弊した義龍軍と怒り狂う義龍自身でした。
「何たる失態か!」
「お兄様」
「離せ、突撃じゃ!」
「殿、今は無理でございます」
負傷者を回収しながら義龍軍は光安軍に広場を明け渡して西門の外に退避したのです。
戦術的な勝利をおさめた千代女ちゃんですが、戦略が崩壊していることに気がついています。
初手から武将が先頭を切って襲い掛かるって、もう軍じゃないでしょう。
これじゃ、子供の喧嘩よ。
やっぱり怒でした。
もう、作戦が大無しです。