45.尾張統一戦、北畠と志摩地頭十三人衆による志摩沖海戦の事(2)
転移終了!
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!
なんでウチの藤八がラスボスみたいな奴と戦っているのよ!
軍監が何で先頭を切って戦っているの?
「ちょっと、そこのあんた!」
後にいたちょっと偉そうな服を着た者を見つけて腕を掴んだ。
うぐぅ!
ヤバぃ、力加減を忘れて掴んだので、『ピシィ!』という音が聞こえたような気がしたので、すぐに手を放した。
口のマフラーを外して、もう一度聞く。
「どういうことが説明してくれる?」
武将は鵜飼 実為の子で、宮崎 久左衛門という。
この船の副官をやっているらしい。
どうでもいいけど、兄の鵜飼 福元は練習船4番艦の副官らしいが、荒尾 善次が幼いので、実質の船長を務めることになります。
横陣を引いて窮地に陥り、その善次の養父である空善が敵に突撃をして敵の動揺を誘いました。
その隙を突いて、帆船は敵中突破を図ります。
しかし、敵も横槍の空善を逃がしてくれないようなのです。
そこで脱出できそうもない空善の救援に藤八が飛び出して助けにいったというのです。
無茶し過ぎでしょう!
相手はどうみてもボスクラスよ。
今回は実為の戦略ミスだ。
その評価は後でいい。
藤八がいった中央突破の方は悪くないが推奨したくない。
実為の戦術を使うなら近づく過程で鉄砲隊は左右に分かれさせて、小早のみで接近戦を行えばよかったのだ。
そうすれば、中央を押しながら左右から援護射撃ができるので死兵を作らずにすんだ。
まぁ、被害は甚大になるだろうけど、火力の違いで勝利は間違いない。
実為の決定的な失敗は、弓隊と鉄砲の撃ち合いなんてしたことだ。
同じ数なら弓の方が有利なんだよ。
鉄砲が弓より優秀なんて勘違いしたのが間違いだ。
どんなものでも適材適所がある。
「ウチの千代女ちゃんなら、敵の前をぐるぐる回って、1日中でも鉄砲のみ届く距離から威嚇攻撃を続けるわよ」
「1日中ですか?」
「そう、1回の攻撃で4人しか倒せなくても、100回も繰り返せば400人になる。実際はもっと被害が大きいから、敵は巣穴から飛び出してくるしかない。ウチの千代女ちゃんなら逃げながら遠距離攻撃で敵を完全撃破するわよ」
「それは余りにも卑怯ではありませんか?」
「鉄砲の威力を見せ付けたいなら、そうしなさいって事よ」
おそらく、千代女ちゃんなら小早をどこかに隠して、逃げながら『釣り野伏せ』でワンサイドゲームにするだろうな!
藤八の中央突破は慶次様っぽいけど、慶次様なら練習船2隻で突撃をして、旗艦に移乗攻撃を仕掛けるだろう。
その方がおもしろいとか言って!
そもそも海戦で負ける要素がない。
久左衛門の話で何となく判った。
「佐脇殿は脱出のきっかけを作った(荒尾)小太郎殿の進路が塞がれるのを見ると迷わず救出に向かわれたのです」
「で、そこの甲板から飛び降りたのね!」
「はい、お供の方々も『あの中に飛び込むのは嫌だ!』という声が聞こえましたが、迷わず佐脇殿を追い駆けていかれました」
誰が扱っても余裕で勝てると思っていたんだけどね!
おっと、あぶない!
《AIちゃん》
◇◇◇
【 夏見 角介 】
初夏の日差しが暑くなりかけた頃、甲賀の山々を駆けて簡単な仕事を終えて家に戻ると、父と母に呼び出された。
「おまえには尾張に行ってもらう」
「えっっっ! なんで?」
「分家を立てる事にあいなった」
青天の霹靂、弟が元服するまでと思っていた夏見家頭領代行は、その日の内に弟が元服し、私は尾張夏見家の頭領に就任した。
終わった。
どこかに嫁いで悠々自適な美味しい物を食べるだけの平和な姫様な生活が消えた。
姫様的な生活!
その手の仕事は意外と多いのだ。
どこか家に養女になって、他家への人質として嫁いでゆく。
六角の姫様として大名や公家に嫁げば、食うに困らない。
簡単な諜報をするだけで、危険な仕事もしなくて済む。
お家が断絶にでもならない限り、一生食うに困らない。
六角の姫はいいよ。
絶対に大切にしてくれる!
「あの六角様のお話は?」
「お断りの話がきた。何でも斉藤家の娘が嫁ぐことになったので必要なくなったらしい」
斉藤家…………私の嫁ぎ先って美濃だったの?
それはよかったかも!?
嫁いで行っても長生きできそうもない。
諦めて、尾張に赴いた。
ある意味、尾張は天国だった。
ご飯はおいしいし、野良仕事をするだけで危険な仕事もない。
時々、行われる頭領の会議に出るだけだ。
仕事は下に任せる。
後は、婿を迎えるだけだ!
油断していると、護衛の話を望月の者が持ってきた。
「私が死ぬと夏目家が断絶しますから?」
「大丈夫です。護衛と言っても信長様の小姓の一人を守るだけです。船の上で見守るだけの簡単な仕事です」
「判りました」
「指揮は伴五兵衛がとります。副官は猿飛佐助がつきます」
「承知、猿飛とは聞いたことがない名ですな?」
「猿飛というのは偽名でございます。三雲 賢持様でございます」
「三雲家の嫡男がどうして、こんな場所に来ているんですか?」
「尾張三雲家の下人に扮して、視察に来ているのです。何かあっては大事と、こちらも気を使っています」
三雲家、三雲 定持は六角の重臣の一人であり、明と貿易をして巨万の富を持つ。六角家でもかなり発言力を持っている。
いやぁ、待て!
これは玉の輿の好機じゃない。
無理か、嫡男ということはいずれ帰ることになる。
子種を貰って、三雲家と縁を結ぶのは悪くないかも!
会ってみると、少し小柄だけど割といい男だった。
久しぶりの仕事だ!
子供の子守、船に揺られるだけの楽な仕事だ。
ちっ、ちょっと!
信長の小姓が船から飛び降りた。
八艘跳び、義経ですか!
「わたし、あの中に飛び込みたくないんですけど!」
「何を言っておる。いくぞ!」
甲板を蹴って、小早に飛び乗る。
残っている敵をサクサクと処分して、次の船に移る。
信長の小姓って、小天狗なの?
放たれる矢を簡単に避けて、足場の悪い船に上を自在に駆けまわり、敵を翻弄して先に進む。
敵が混乱してくれて仕事が楽だ。
伴頭と猿飛副頭の腕がいいので付いて行くだけですむ。
この軽装は凄い!
矢をものともしないよ。
信長の小姓はもう中央に近づいていた。
渡る船がないぞ。
えっ!?
槍を船に突いて飛んだ!<棒高跳びの応用です>
どうして?
飛んでくる矢を空中で避けるのよ。
くるくると体を回して、敵中央の船団に取り付いた。
「急ぐぞ!」
伴頭と猿飛副頭の足が速くなった。
遅れる訳にいかない。
遅れたら、敵の中に一人ぼっちになってしまう。
待って、待って、待って!
『赤玉』
袋の中から赤い玉を取り出し、鮫皮の腰巻きを擦ると火が点火する。
何という便利な道具だ?
「投げ込め!」
ズドン!
信長の小姓のいる後方の小早に放り込むと大爆発が起きる。
ちょっと?
私達が持っている袋の中身って、滅茶苦茶に危ないじゃない!
「馬鹿野郎、小早の床に投げろ! 無駄玉はないぞ!」
「は、はい」
佐助に怒られた。
小早の床に投げると敵を吹き飛ばし、底を突き破って小早が沈んでゆく。
私達は空を飛ぶ訳にいかないので、船を漕いで信長の小姓のいる場所まで近づいてゆく。
赤玉は1人6個だ。
護衛は私を含めて8人が赤玉を放り投げ、20艘の小早を撃沈して荒尾衆の退路は確保した。
「敵の大将はかなりできる」
「うむ、大将同士の戦いに水を差すつもりはない。周りを狩る。散れ!」
漕ぎ付けた小早を捨てて、敵の小早に乗り移ってゆく。
2人で1艘は大変だ。
海に落ちても死、敵の攻撃を受けても死だ。
狭い船では連携もできない。
足場の悪い所でどうやって戦えてっていうのよ?
「助かりました。ありがとうございます」
「不要に飛び込んで掴まれないようにしなさい」
「はい」
「足場が悪いんだから、もっと悪くして、相手が踏ん張っている足を少しだけ払ってあげる。そうすれば、勝手に落ちてくれるから!」
「はい」
私の相手は山中十太夫というひよっこだ。
(自分のことは棚にあげています)
「勝手に死なないでよ。私が怒られるのよ」
周りは私達が暴れているので大混乱です。
荒尾衆の小早が次々と抜けてゆき、最後尾が近づいてゆくと元の船に戻ります。
「佐脇様、もう十分でございます」
「判ったのです」
「逃がすと思うか!」
敵の激しい攻撃が信長の小姓を捉え、海に落ちます。
死んでは困るのよ!
腰の白玉を放り投げると、伴と猿飛も同じように投げていました。
何かを察したのか、敵の大将が下がります。
ピシャ!
ただの発光玉です。
信長の小姓を回収しようとすると、もうその場にいません?
「撤収だ!」
いいの?
信長の小姓はどこに行ったの?
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
◇◇◇
※).寛永十一甲年 御上洛御目見江帳
寛永11年(1634年)
島原の乱より4年前の寛永11年に、家光が上洛のため甲賀郡水口を通った際に集まった甲賀者の名簿録「寛永十一甲年 御上洛御目見江帳」がある。
①鵜飼勘左衛門(54)
②望月兵太夫(63)
③望月与右衛門(33)
④芥川清右衛門(60)
⑤芥川七郎兵衛(25)
⑥山中十太夫(24)
⑦伴五兵衛(53)
⑧夏見角介(41)
⑨岩根勘右衛門(54)
⑩岩根甚佐衛門(56)
伴五兵衛:松平飛騨守殿ニ而知行三百石給奥付相勤罷有候
清水内膳に始まる系図に伴五兵衛が登場する。
親類書
一、祖父 以前山崎甲斐守殿ニ知行百五拾石給相勤罷有 清水彦右衛門
五拾年以前病死仕候
一、父 水谷出羽守方ニ而知行弐百石数年郡奉行相勤 清水弥右衛門
其以後宗旨改役被申付候只今ハ備中之内
西阿知村ニ引込罷有候
一、伯父 松平飛騨守殿ニ而知行三百石給奥付相勤罷有候 伴五兵衛
一、伯父 稲葉丹後守殿ニ而知行三百石給者頭相勤罷有候 清水儀右衛門
一、伯父 山崎主税助殿ニ而知行百石給當年在所相勤罷有候 清水助左衛門
一、伯父 同家中ニ切米ニ而元分役相勤罷有候 清水彦之丞
一、従弟 稲葉丹後守殿ニ中小姓相勤罷有候 清水瀬兵衛
一、従弟 同家中ニ知行弐百石給出入司相勤罷有候 高野瀬作兵衛
一、従弟 山崎主税助殿ニ中小姓相勤罷有候 清水権太夫
先主水谷出羽守方より親ニ掛リ罷有候一分ニ奉公ハ被
申付
一、従弟 松平伊予守殿ニ中小姓相勤罷有候 谷田弥三郎
右之通ニ御座候 右之通ニ御座候
清水彦右衛門
先主水谷出羽守に而親ニ懸リ罷有候一分ニ奉公ハ
被申付相勤罷有候四年以前・・・
丑
正月十一日 本国近江
生国備中松山 清水彦右衛門 花押