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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第2章.尾張統一、世界に羽ばたく信長(仮)
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39.尾張統一戦、那古野の軍議の事

尾張統一戦の開始です。

第2章もいよいよ佳境に突入です。

【 那古野軍議 】(ナレーション忍)

天文15年9月25日(1546年10月19日)は今川義元が岡崎城に到着に先駆けて、松平 広忠(まつだいら ひろただ)が陣触れを出して兵を集め、矢作川の東岸に向かったと言う早馬からはじまります。


その早馬が那古野に入ったと聞くと家臣が集まって来たのです。


やっとはじまる。

やっとか!

はじまるぞ!


気の早い方は甲冑を身に纏い、家臣や兵を連れて那古野周辺で陣取っている人もいます。


まぁ、いいけどね!


那古野城の南側には家臣一同を住まわせる屋敷街が用意されており、空き地に事欠きません。

(まだ、家はありませんよ。)


刈り入れも終わって暇も持て余す百姓も多く、いい臨時収入と思ったのか、意気揚々と参陣しているみたいですね。


それを聞き付けたのか、最初から待っていたのか、陣借りの傭兵や加世者も集まっています。


すでに2,000人くらいが集まっていない?


そんな家臣や兵士らに飯と酒を提供しています。


少し距離はありますが、北に行けば無料の銭湯もあります。


好きなだけキャンプを楽しんで下さいと言っても、今日で終わりですけどね!


「林殿、信広様は何と言って来られましたか?」

「信広様は兵3,000名を引き攣れて、矢作川の西岸に陣取ると書かれておる」

「して、援軍は!」

「すでに準備は万端。今すぐでも問題ありませんぞ」

「先駆けは我に」

「わたくしが引き受けますぞ」

「抜け駆けはいかん。林殿、こちらも準備に怠りはございません」

「抜け駆けはいかんと言いながら、怠りないと何ですか?」

「武士の心得でござる」

「ならば、某も」


林のおっさんが呆れていますよ。


「無用と書かれておる」

「なんと、我らは無用と申しますか!」

「口惜しや」

「今川は万を超える大軍ですぞ」

「何の為にここに集まっておると思っておるのか!」


戦ができると期待に満ち溢れていた家臣達が嘆きます。


「信広様はお若い。斥候でもお出しになるべきかと心得ます」

「おぉ、斥候か!」

「斥候なら致し方ない」

「某に」

「某こそ」

「待て、待て、拙者こそ適任」


諦めの悪さだけは見事なものです。


林のおっさんは騒ぎが小さくなるのを待って付け加えます。


「最後にこう書かれておる。清州の動きがおかしいのでご注意召されよと」


がやがやがや、清州とは守護代織田信友です。


家臣の中には頻繁に清州の者が訪ねて来ている者も多いのでしょう。


謀反を唆していると言えば、然にあらず。


親戚や縁者の者がほとんどであり、那古野や竹取の乱の事を詳しく聞きに来る者がほとんどです。


別れの盃を交わしに来た人もいます。


もちろん、中には坂井大善の密命を受けた者もいます。


清州が那古野を警戒しているのは当然であり、那古野が空になれば、攻めてくる可能性は非常に高くなる。


それくらいは承知してましよね!


「信広様はそこまでお考えてあったか!」

「なんという深謀遠慮だ」

「流石、織田の長子であられる」

「信友様の事など忘れておったわ」

「腰抜けだからな!」

「来たら来たで追い返してやるわ」


那古野の家臣団の中で信広の株が急上昇中ですって言うか、考えてなかったのか!


この脳筋の馬鹿共め!


 ◇◇◇


【 那古野軍議 】(ナレーション忍)

さらさらさら、那古野のお昼は冷茶漬けです。


出来立てのご飯を冷たい出汁に浸し、大茶碗に掬って、様々な具材を乗せて出します。


仕上げは自分で冷たい特製出汁を掛けて完成です。


昼を食べる習慣のない武将達も美味そうな冷茶漬けに食い付きます。


美味い物を食べれば笑顔が零れ、ギスギスした雰囲気も和らぐ事になります。


「一献、頂きたい所ですな!」

「如何にも、如何にも!」

「冷たい茶漬けに、熱いからあげ(・・・・)が乙ですな」

「嫌々、こちらの冷たい出汁巻きこそ乙ですぞ!」

「味噌を茶漬けの上に乗せるが王道」


5日間でみんな食通になってしまった。


食事が終わった程よい時間、まったりと和んでいます。


そこにばたばたと足音を立てて使者がやってきます。


まるで見計らったようなタイミングです。


誰ですか!


そんな小細工したのは!


美濃の斉藤、伊勢の長野、志摩の北畠、上尾張の信安、清州の信友が陣触れを出したと報告が入るのです。


「斉藤は判る。何故、北畠が!」

「荷止めはやっておりますぞ。当然では?」

「荷止めと戦は別物じゃ!」

「それより信安様だ。味方でなかったのか?」


さらに、追い打ちを掛けるように使者が入ってきます。


「東尾張の岩崎城の丹羽決起。また、鳴海城の山口殿が謀反」


がやがやがやがやがやがやがやがやがやがや、もう口々に言い合って収拾が付かないほど慌てています。


「何故、ここで謀反など!」

「丹羽め! 抜け抜けと!」

「末森はどうするつもりだ」

「末森より那古野でござる」

「岩倉から攻めてくるなら、守山か、那古野しかござらん」


ばたん!


ふすまが勢いよく開かれた大きな音を立てたのです。


「何を大騒ぎしているの? 落ち着きなさい!」


そう大声を上げるのが千代女ちゃんです。


千代女ちゃんの後には、慶次様、宗厳様、長谷川、山口、佐脇(藤八)、加藤(弥三郎)がぞろりと並んでいます。


「「「「何故?」」」」

「どうしてここにおる? 信長様は?」

『私達は最初から乗船名簿に載っていないわよ。何かの勘違いじゃないかしら?』


奉行方がそっと乗船名簿表を開きます。


「誠じゃ!」

「載っておらん」

「何故だ?」


『乗船者には限りがあります。私達が遠慮するのは当然の事でしょう。山籠もりから帰ってきたら、何ですか! 信長様の家臣団でしょう。しゃきっとしなさい』


千代女ちゃんは中央を歩いて信勝ちゃんの方へまっすぐに歩いてゆきます。


慶次様らは方々衆の後ろに座ります。


「はい」


千代女ちゃんが私の手紙を信勝ちゃんに渡します。


『望月千代女を軍師として、言う通りに動け! 然もないと、おしおきだぞ! 竹姫』


がたがたがた、手を震わせ手紙を読み終えると千代女ちゃんの方を見上げるのです。


千代女ちゃんはにっこりと微笑むと「お任せ下さい」と穏やかにいいます。


「大丈夫です。私は竹姫ほど、怖くありません」

「まことか」

「はい」

「うむ」

「織田は勝ちます。勝たせてみせます」

「よろしくたのむ」

「お任せ下さい」


ずかっと信勝ちゃんが立ち上ります。


「いまより、この望月を我がぐんし(・・・)とする。いろんはみとめぬ。心えよ」


千代女ちゃんは懐から書状を開きます。


「出立に先立ち! このことを苦慮し、信長様から対策を頂いております。おのおの方、お従い頂きたい」

「信長様はこの事態を察しておられたのか!」

「流石、殿じゃ」

「信じておりましたぞぉ」


調子がいいね!


どたどたどた、追い打ちを掛けるように使いの者が入ってきます。


千代女ちゃんは使い者が口上をいう前に、「中に通しなさい」と指図します。


承知とばかりに使いの者が戻ると、滝川一勝を先頭に甲冑を着た滝川ファミリーがゾロゾロと入って来たのです。


「滝川殿、いかがなされた?」

「恥ずかしい限りで」


一勝は信勝、おとな衆の前で平伏します。


「思い留まるように説得したしましたが力及ばず、前田 利春(まえだ としはる)、謀反」


林家の与力筆頭の前田家が寝返ったのです。


「愚か者め」


林のおっさんが天を向いて呟きます。


「一勝、如何なる次第でそうなった?」


平手のじいさんが仔細を聞きます。


「はぁ、尾張守護斯波家臣高畠直吉が『竹姫討伐令』をお出しになり、那古野織田に塁を及ぼさずとの口上を信じて決起いたしました。(坂井)大善がそのような約定を守る事などないと何度もお止しましたが、力及ばす」

「決起したのは、前田家のみか?」

「米野城の城主、中川弥兵衛(なかがわ やへいじ)、縁戚の竹野家と蟹江家が同調、我が屋敷は囲まれておりますので、那古野に退避させております」


おかしいと思った千代女ちゃんが利家を呼びます。


「はい、はい、ここに控えております」


障子が開かれ、縁側で利家が頭を下げています。


「利家、屋敷を出る時におかしな事はなかったのか?」

「はぁ? 戦の準備をしておりましたが、どうせ那古野に来るなら同じと思い出仕して参りました」

「家の者は止めなかったのですか?」

「兄者が行くなと言われましたが、某は信長様の小姓でございますから、兄者の言う事を聞く義理はございません。それに薪割をせねば、賄いの方が困ります。竹姫より命じられた薪割は絶対でございます」


利家は馬鹿でした。


千代女ちゃんも知っていたハズだけど、侮っていたのかな?


林のおっさんが前に出ます。


「利家、よく聞け!」

「はぁ」

「お主の父は謀反を起こした」

「はぁ? ありません。信長様への忠誠は某より高こうございます」

「判っておる。信長様への謀反でなく、竹姫様への謀反である」

「それこそ無茶でございます。父が束になって掛かっても竹姫に敵う訳もございません」

「信長様への随行に選ばれながら取り消された恨み辛みであろう。武士の面子を立てたのじゃよ」


千代女ちゃんらを随行から外すのは当初からの予定です。


今川とか、攻めてくるからね?


織田の精鋭が強い所を見せるのも、今回の大切な布石なんだよ。


その主力の三人を連れていったのでは意味がありません。


小姓は連れていかない。


そこに目を付けた平手のじいさんが言ったこじつけ(・・・・)です。


こっそりと信長ちゃんの小姓に利家を加え、小姓を出している家は随行できないと林のおっさんを説得したのです。


林のおっさんも前田利春をそれで納得させました。


でも、納得できてなかったみたいね!


「まぁ、いいわ!」


千代女ちゃんは切り替えます。

(ホンの少し前に聞いていたしね!)


岩倉の信安軍5,000人に対して、那古野軍3,500人が3,000人に減るだけです。


「(平手)久秀さん、信長様の命令で城下町の警護となっていましたが、警邏隊200名で荒川城を抑えて頂けましか?」

「承知!」

「黒鍬隊500名を付けます。陣地を構築して、出てくるようなら牽制して下さい」

「荒川城を落とせとは命じてくれんのか?」

「黒鍬は陣地構築、援護専門の部隊です。城攻めに使わないで頂きたい」

「仕方ない。だが、討って出てくるなら相手をしてよいのだな」

「お好きにして下さい」

「委細承知!」


(平手)久秀は嬉しそうです。


城下町の警護では活躍の場がありません。


槍働きできそうな場所への配置転換をラッキーとでも思っているのでしょう。


「慶次、清州軍への遊撃隊に廻せる黒鍬隊が1,000から500に減るけどいいわね」

「問題ない」

鵜飼 実為(うかい じつため)荒尾 空善(あらお よしつぐ)、佐治水軍を預ける。北畠の志摩水軍を抑えよ」

「畏まりました。息子の福元(ふくもと)宮崎(みやざき) 久左衛門きゅうざえもんとで成し遂げてみせましょう」

「「お任せあれ!」」

「我が息子、荒尾 善次(あらお よしつぐ)に南蛮船を預け、儂は荒尾の者を引き攣れ、小早(こはや)で戦いと思いますがよろしいでしょうか?」

「好きにしていいわ!」

「ありがたき幸せ」

佐脇 良之(さわき よしゆき)軍監(ぐんかん)に付ける」

「女神様の稚児、お預かりします」

水野 近守(みずの ちかもり)、本来なら二軍の指揮をお願いしたい所だが、鳴海城の山口が裏切った以上、警戒は怠れません。大高城より鳴海城、および、沓掛城の牽制をお願います」

「畏まりました」

水野 守次(みずの もりつぐ)水野 忠守(みずの ただもり)水野 忠分(みずの ただわけ)、熱田と津島に貸した船を借り上げた。水野水軍で差配せよ」

「「畏まりました」」

加藤 弥三郎(かとう やさぶろう)を付ける」

「「「はぁ、ありがたき幸せ!」」」


出島にいる者達は嬉しそうだ。


藤八と弥三郎という子守を預かるのが嬉しいのかな?


他の家臣団は首を傾げています。

8歳と9歳の小姓を預かって何が嬉しいのか判らないのです。


うん、私もそう思う。

(山の神様の稚児だからです)


そうそう、水野信元は佐治氏など織田に臣従した知多半島の衆と差が付く事を嫌い、大高城の近守、緒川城の忠守と布土城の忠分に離反させて織田に臣従させました。


忠守と忠分に水野水軍の半数を預けます。


でも、船はすべて刈谷が没収って何だよ?


あっ、最初に呼ばれた水野 守次(みずの もりつぐ)は常滑城の常滑水野家の当主です。


佐治のおっさんの居城である大野城のお隣さんで、佐治のおっさんに誘われて、追うように織田に臣従してきました。


本家の刈谷とは疎遠だったみたい。


この守次とこの水夫が分乗してくれるので南蛮船が動かせるのよ。


刈谷から来た水夫だけではちょっとね!


どっちにしても外洋なんて無理ですけどね。


安祥城(あんじょうじょう)には、矢作川西岸と吉良様、戸田殿から援軍を送らせる手筈が整っております。安祥城は信広様にお任せします。牛屋城は私と柳生 宗厳(やぎゅう むねよし)柳生 家厳(やぎゅう いえよし)の三人を援軍として送ります。筒井勢一万を親子二人で撃退した強者です。二人を送り届けるだけで十分でしょう。清州の軍は、勝幡織田の信実のぶざねにお任せします。但し、遊軍として、滝川 利益(たきがわ とします)が倉街の警邏隊500名が騎馬隊として後背を挟撃します」

「なぁ、清州を落としても文句なないな!」

「お好きにどうぞ」

「言質取ったぜ!」

「大言壮語は結構ですが、清州軍は5,000兵、遊撃は500騎という現実を踏まえて、時間稼ぎを優先して下さい」

「判っているって!」


気軽くいう慶次が大物喰いをするつもりなのは誰から見ても明らかです。


「我々、那古野の敵は信安軍に絞られます」

「おぉ、これなら目途が立つぞ」

「信安軍の総勢は8,000兵です」

「多いな!」

「しかし、犬山城など3,000名の兵が後詰めとして岩倉城に入り、那古野に進軍するのは5,000名のみです」

「林殿の居城は土岐川(庄内川)の向こうにありますから主力は動かさず、城門を固く閉めて守って下さい」

「兵の分散は愚策と心得ますが、よろしいのかな?」

「退路を断てる兵力を温存するのは兵法に乗っ取っております」

「温存している兵をお使いになる気か?」

「いいえ、人夫を兵として使いません。必要もありません。黒鍬集1,000名を加え、3,000名の兵が準備できます。信安軍5000名を相手に十分以上に戦えます。というか、那古野のみなさんなら十分過ぎる兵力と心得ます。この兵力で勝って下さい」

「よう申した。 勝ってやるわ!」

「よろしく、お願い致します」

「信安の軍など、一捻りじゃ!」

「大船に乗っておれ!」

「流石、那古野の家臣団は勇猛でいらっしゃる」

「がははは、勇姿をお見せできんのが残念じゃ」

「牛屋の空で名声が聞こえるのをお待ちしております」

「儂の室にならんか!」

「残念ながら信長一筋でございます。でも、体は2つあれば、お受けした所でした。逞しいお体。この凄い傷の付いたごつごつした腕の触り心地がよいものです」

「がははは、そうか、そうか! 残念だが仕方ない。この度は信長様に譲ろう」

「ありがとうございます」


千代女ちゃん、一人一人に声を掛けてゆきます。


一人一人の自信のある所とか、自慢話をちゃんと予習していたみたいね。


おじさん達を乗せるのが巧いな!


あっという間におじさんの星になっちゃたよ。



ここまで読んで頂いてありがとうございます。





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