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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第2章.尾張統一、世界に羽ばたく信長(仮)
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19. 雪斎、『三者一両得』の策の事。

北畠 晴具(きたばたけ はるとも)は伊勢国国司北畠家の第7代当主であり、伊勢守護です。妻に細川高国の息女を頂いたので中央とも強く繋がり、天文年間に志摩をほぼ制圧すると、大和にも進出して吉野郡と宇陀郡を制圧し、紀伊へも進出して熊野地方から尾鷲・新宮方面までを領有化、十津川まで支配領域を広げたのです。


しかし、北伊勢の雄たる長野氏とは南北朝から争い続け、天文12年にも対立して引き分けており、お互いに睨み合いを続けていたのです。


そして、7月中頃に今川から使者がやってきたのです。


「面を上げよ。今川よりの書状は読ませて頂いた」

「ありがたき幸せ」

「いくつか聞きたいがよろしいか」

「何なりと」

「聞く所によると、織田は善政を敷いていると聞く。勤王の忠義も厚い。討伐の意義を感じぬのだが、今川はどう思うっているのか」

「我が叔父、太原雪斎が言うのは、織田は南蛮人に備えて日の本を1つにする忠義心によって兵を上げております。ゆえに奪った土地でも善政を敷き、民は豊かになり、暮らしも楽になるといいます。民の事を思うなら、織田に降るのが上策と叔父は申しておりました」

「雪斎か!」


太原雪斎は北条との交渉の為に伊勢に行く事ができません。

そこで甥の庵原 忠胤(いはら ただたね)に策を授けました。


『諸葛孔明の計』


呉の孫権と魏の曹操を戦わす為に、「曹操に早く降伏した方がいいですよ」と孫権に唆したのです。


「劉備は皇帝の血を引く尊い血筋、曹操のような狗の子に降伏などできません」

「孫権の血が狗の血だと申すのか?」

「いえ、それは言葉の例えでございます」


そう言って、孫権を怒らせた策です。

降伏すれば、自ら狗の子と宣言するようなモノです。

孫権は戦う事を選びました。


「は、は、は、織田に降伏するのが上策と言うならば、何故、今川は織田に降伏せぬ」

「我が今川家は『御所(足利将軍家)が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば、今川が継ぐ』と言われた名家でございます。奉行か何か知りませんが、どこの狗の骨か知らぬ、織田などに降伏できましょうか!」


君主の晴具が怒るより早く、息子の具教(とものり)が激昂した。


具教は塚原卜伝に剣や兵法を学び、奥義である一の太刀を伝授されたという豪の者です。


「我が北畠家は村上源氏久我家支流である中院家(なかのいん け)から続く名家であるぞ。今川が降らぬのに、我が家には狗に降れと申すか!」

「我が主は共に戦いたいと申しております」

「父上、狗に降る気はございませんぞ」

「織田は強い。特にあの南蛮船は厄介だ」

「乗り込んでしまえば、何とでもなります」


北畠は苦心して志摩と志摩水軍を手にいれました。


しかし、南蛮船を持つ佐治水軍が伊勢湾で大きな顔をするようになりました。


伊勢湾を取られてしまうと、北畠の勢力は半減してしまうのです。


すでに、北畠が持つ湊の1つである大湊(おおみなと)の収入が減ってきています。


それもそのハズです。


佐治の南蛮船が熱田と安濃津(あのうつ)の荷を運んでいるのです。


それに伴って、佐治の拠点である常滑湊との交易も増え、尾張の熱田と安濃津と大浜と常滑を結ぶ船の数が増えているのです。


何と言っても織田弾正忠領内では関所がありません。


通行税が『ゼロ』です。


中継地であった大湊(おおみなと)と桑名は大損なのです。

(桑名は織田に近い為に、北伊勢の商品が尾張に流れるので、総額では儲かっていますよ。中継の交易量が減っているだけです)


次期当主である具教の一言で北畠の総意は決しました。


しかし、北畠が織田に攻めるには、北伊勢の長野家と講和をしなければいけません。


北畠氏と長野氏は200年も抗争を続けているのです。


日本版の『薔薇戦争』です。


200年も続けられるものですね!


 ◇◇◇


【 長野 稙藤(ながの たねふじ) 】

南朝方国司の北畠氏に対して、北朝方として長野一族は戦います。長野一族は足利尊氏に仕え、安濃・奄芸両郡の同族連合の国人で固め、細野氏、分部氏を筆頭に根気よく戦い続けていたのです。そして、南北朝の争いが終わっても北畠と長野の対立は続いていたのです。


「これが北畠晴具様からの約定となります。これらが長島願証寺の証恵(しょうえ)の添え状となります」


義元が長野一族を抑える一手は本願寺を挟む事です。


北畠が織田を攻める口実は長島の領地である沖島の奪還であり、奪還後はすべて北畠に委ねるという委任状であります。


委任状を貰った北畠は不法占拠する織田を排除すると言う大義名分を得て堂々と侵攻できます。


『これは正義の戦いなのです』


その対価として、長野一族との和議であり、中伊勢に侵攻しないという約束です。


事がなれば、

南蛮船を手に入れた北畠は中伊勢に固執する事なく、大海に出てゆく事ができます。


狭い中伊勢の取り合いに終止符を打つ事ができるのです。


「北畠が攻めて来なくなるだけで、我が方に益が少ないようですね」

「やせ我慢はそれくらいになさいませ」

「なっ、何を言うか」


長野 稙藤(ながの たねふじ)は今川の使者である庵原 忠胤(いはら ただたね)に威勢を吐きます。


「あの『垂水鷺山の合戦』、『葉野の合戦』で多くの犠牲者が出た事を存じておりますぞ。特に細野家と分部家はもう一戦も耐えられないのではないですか?」

「武士の本望であろう」

「一族が滅びては意味がありません」

「…………」

「…………」

「相判った。この和議を受け入れよう」

「ありがとうございます」


伊賀藤林衆を使って、長野一族を調べ上げた情報戦の勝利です。


もう戦う力がない長野一族にとって渡りに舟だったのです。


今川は口先1つで味方を増やし、

長野は滅亡の危機を回避し、

北畠は織田という甘い果実を見つけた。


雪斎、『三者一両得』の策でした。


無事に任務を果たした忠胤は雪斎と義元から労いの言葉を頂いたそうです。


これって、みんな空手形なんだよね!


織田が負けた事が記載されていない。


雪斎、会心の策です。


ここまで読んで頂いてありがとうございます。



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