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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第2章.尾張統一、世界に羽ばたく信長(仮)
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3.浄土真宗、親鸞と弥勒菩薩の事。

空誓(くうせい)

我が祖先は浄土真宗の開祖、親鸞聖人であられる。

親鸞聖人は聖人と呼ばれる事を酷く嫌った。

だが、皆には弥勒菩薩のようなお方と伝わっている。


我も彼も皆すべて仏の弟子なり。(※1)


そう言うお方なのだ。

俺も開祖を見習って、民を極楽往生に導くのみである。

なぜなら、


『善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや。』


善人も悪人も『南無阿弥陀仏』と唱えれば、皆、極楽で往生できるのだ。


 ◇◇◇


武士と言う者はロクでもない。

民を苦しめて戦いを続ける。

銭がのうなって困った松平 広忠(まつだいら ひろただ)は、銭と強力欲しさに守護使不入特権しゅごしふにゅうとっけん を売りよった。


馬鹿者じゃなぁ!


まぁ、こんなモノはタダの紙切れに過ぎぬ。

だが、大義を手に入れた。

これで借金のカタに土地を奪おうと、門前町で座を廃して物を売ろうと文句は言わせん。

約束を破れば、実力行使にでるだけじゃ。


 ◇◇◇


安祥城を易々と取られよって広忠も何をやっておる。

くそぉ、忌々しい織田め。

これでは約定の効果が半分になってしまうではないか。


広忠も今川を頼った為に、織田と今川の戦いになっているが、北条を背中に戦う今川も頼りない。


懐柔を迫ってくるが、守護使不入特権を提示せねば、手など結べるものか。


まぁよい。


(安祥城の)南も北も治まっておらん。


いずれ泣き付いてきたら、高く売り付けてくれよう。


 ◇◇◇


「今、なんと申した」

「はぁ、高浜で織田信長が初陣を完勝し、碧海郡7城と西条の吉良を臣従させました」


ぬかった。

まさか、7城が落ちるとは!


「何があった」

「赤鬼が出ました。大浜の兵の首を悉く刎ねて、衣ヶ浦を真っ赤に血で染めたと伝わっております」

「赤鬼だと、織田は邪教に屈したと申すのか」


赤鬼が襲ってくると覚悟して、近隣の寺々に声を掛けて僧兵を集めたが、織田は一向に攻める気配を見せなかった。


聞こえてくるのは碧海郡の百姓からの歓喜の声ばかりだ。


しばらくすると、見聞に行かせていた僧侶から意外な話を聞く。


「今、何と言った」

「水路が作られ、沼地が畑に変わっております。その畑に木綿の苗を植える人を集め、大人なれば、日に20文、女子供でも10文を出して雇っております」


植えているのは、木綿の種と麻の種のようだ。

木綿と麻、どちらも衣服の材料になる。

なるほど、織田は巧い事を考える。


貧しい農村に高価な木綿と需要の高い麻を作らせれば、農村を助けながら織田の銭となる木綿が手に入る。


麻は不思議な草でどんな場所でもよく育ち、種は食糧にも使える。


しかも麻は不作知らず、米が不作の時に役に立つ。


「ただ何故、金を払ってまで百姓を借り出す?」

「詳しくは判りませんが、その金で米・味噌を買って帰るそうです。しかも、肥料とするイワシは家族の人数分のみ、自由に持ち帰る事ができるそうです。夕餉には、米、味噌汁、魚が膳に並び、さらに赤鬼が差し入れと称して、鹿、猪を村々に配っておるそうです」

「何ゆえに?」

「判りません。ただ、余った銭で門前町の朝市が随分と潤っていると申します。酒、昆布などの嗜好品(しこうひん)を求める百姓が現れ、商人共は喜んでおります」


とにかく、我々も潤っているらしい。


 ◇◇◇


俺は織田信広からの手紙を読み終えると使者となった僧侶を足蹴にした。


「ぬかったわ」


高浜の戦いからまもなく1ヶ月が近づこうとする今頃になって、やっと織田の真の狙いに気が付いた。


「織田が何と言ってきました」

「タダで沼地を開発してやるから、年貢の2割を寄越せと言ってきおった」

「なんと言う不遜な物いいか」

「受ける必要などございませんぞ」

「受けるモノか! だが、真の狙いはそこではない。村抜けする百姓はすべて織田で引き受けるゆえに、口出し無用と先手を打ってきおった」

「村抜けするような不届き者はいませぬ」

「馬鹿者、今の百姓の姿を見ておらんのか!」


わずか1ヶ月、寺の百姓らから織田の賦役に出る許可を求める者が増えてきた。

織田は筋を通し、寺の許可がない者は雇えないと断っているらしい。

他の寺では、渋々ながら許可を出していると言う。


なんと言っても生活の格差が酷過ぎる。


織田に組する百姓は四海の珍味を並べて毎晩の如く宴会を行っていると言う。


一方、寺の百姓は稗や粟で飢えを凌いでいる。


侍が戦ばかりするから田畑が痩せ細っているからだ。

今年は戦らしい戦もないので収穫は期待できよう。


しかし、隣村との格差は酷過ぎる。

賦役を許可すれば、飢えは凌げる。

だが、隣村が潤っている事を知って帰ってくる。


何故、ウチの村は貧しいのか?


賦役の手間賃は、普段の倍らしい。

熱田から送られてくる物資は大量であり、相場も安い。

荷卸した大浜から門前町に届けられて、門前町の商人もおおいに潤っている。

貧困に喘いでいるのは、寺の百姓のみだけだ。


何故、ウチの村は貧しいのか?


織田様の開墾の許可を寺が受け入れないからだ。


これでは賦役の許可を出した寺は織田に人質を出したようなものだ。

銭を持って帰って来て、織田は良い所だと言いふらしている。


この条件を飲まねば、寺の百姓が皆いなくなるぞ。


 ◇◇◇


は、は、は、信広の手紙を受けとってから数日後、長島の願証寺(がんしょうじ)から織田打倒の檄文が届いた。


おごる平家は久しからず。


銭に煩い長島の寺が動いた。

長島、尾張、三河での一斉蜂起だ。

これで織田の本隊は動けん。


『一向一揆』


織田は為すすべもなく降り、碧海郡7城ごと本證寺が貰い受けてやろうではないか!


「誰か!」

「空誓様、如何致しました」

「長島より檄文が届いた。『仏敵の信長』、『醜いこの世の鬼を討伐せよ』と言ってきおった。奇しくも安祥城の信広は守護使不入特権を持つ我らに年貢を納めよと弓引いた。これより我ら三河衆は織田を攻める。各寺々に急ぎ知らせよ」


僧兵、近くの村の衆はすぐに集まってきた。

しかし、思うほど百姓が集まらない。


「空誓様、百姓が攻めて来ております」

「何?」


赤鬼を慕う碧海郡の百姓が決起した。


その数にびっくりした寺々は門を開いて頭を下げたので、百姓はそのまま本證寺まで攻め上がってきたのだ。

数に劣ろうが、所詮は烏合の衆と思って討って出た。


だが、烏合の衆ではなかった。


死すら恐れぬ死兵となって襲ってくる。


また、鉄の農具が厄介この上ない。


刀や槍に劣るが、鉄は鉄だ。


堪らず、下がって寺に籠った。


どういう事だ!


何故、奴らは死を恐れん。


酒池肉林とは、何の事だ?


 ◇◇◇


戦いは一瞬で終わった。

所構わずに水が降ってきて、当たりを凍り付かせた。


一体どんな邪法を使ったのか、確かに人のそれではない。


見定める為に赤鬼を門の前で待ってやった。

凛とした顔立ちが美しく、黒髪の美人だった。

あらん限りの殺気を飛ばしてやる。


「怪しき術を使う輩め」


赤鬼は飄々と、否、むしろ喜んでいないか?


惚れた。


それほど眼光に自信が満ち、三方に僧兵に囲まれている事すら意に介さない。

なんと、堂々とした女子だ。

糞ぉ、赤鬼でなければ、妻としただろう。


坊主が一歩前に出た。


「まだ、やりたりないなら付き合ってやるぜ」


活きのいい坊主だ。

腕も悪くなさそうだ。

済まん。

相手をしてやれん。


「ふん、こちらの負けだ」


この女子に殺されるなら本望だ。


しかし、その後が呆れた。

勝者の権利をすべて放棄し、無罪放免だと。

何を考えている。

ただ、柳生家厳より強いと聞いた瞬間、すべてが見通せた気がした。


柳に風。

我ら如きでは、そよ風にもならんのか。


益々、惚れた。


「さぁ、そこでぐちゃぐちゃ言っている暇はないよ」


突然に動き出すと、怪我人の治療を始めるのだ。

おい、ここは先ほどまで敵中だったのだぞ。

その度胸に呆れるばかりだ。

主人の信長に物を運ばせ、公家の山科卿を「おっさん」と呼んでこき使う。


確かに鬼だ。


だが、敵も味方もお構いなしに助けてくれる。

弥勒菩薩様のようなお人だ。


「そこで、ぼおっと立ってないで、次の怪我人を運んで来て」

「判りました」

「この人達がちゃんと完治するまで面倒みるのよ」

「もちろんです」


休んでいると罵倒がすぐに飛ぶ。

気性の荒い方だ。


益々、気にいった。


身分の上下に隔てがないのも悪くない。

このような女子を見た事がないぞ。


「赤鬼様、弟を助けて下さい」

「無理を言うな! もう死にかけておる」


百姓らしい男が弟と言う者を連れて寺に入ってきた。

虫の息だが、まだ息はある。

だが、腹を引き裂かれて中身が飛び出している。


これは助からん。


赤鬼がその男の腹に手を翳した。


なっ、なんだ!


あり得ない。

周りもあり得ない光景に手を止めて、息を飲みこんだ。


そう、腹の傷が見る見る消えてゆくのだ。


「源三郎を助けてやって下さい」

「連れてきなさい」

「孫助を」

「大丈夫よ」


次々と重症の者が板に乗せられて運ばれてくる。


「助八も、助八もおねげします」

「ごめん、この人はもう亡くなっている」


天界の理か!

助ける事ができるのは、生者のみと言う事か。


「なんや、これぇ! 信じられへん」


公家の言継様が声を上げた。


気がつくと、皆が手を合わせて赤鬼、否、竹姫様に手を合して、「南無阿弥陀仏」を唱えている。


判る。

判るぞぉ。

これはもう人のそれではない。


釈迦(しゃか)入滅後、56億7000万年の後に、兜率天(とそつてん)から地上にくだり釈迦にかわって衆生を救済すると言われておられる弥勒菩薩様。

開祖様は弥勒菩薩のようなお方と言われたが、その弥勒菩薩ではない。


だが、俺は猛烈に感動している。


うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!<大涙>


溢れる涙で何も見えん!


「うるさいよ」


弥勒菩薩様だ。

赤鬼とは偽りの姿、竹姫様は弥勒菩薩様の化身に違いない。

疑う必要もない。


今まさに衆生を救済されておるではないか!


「あんた達、拝んでないで仕事しな!」


弥勒菩薩様を怒らせてしもうた。



作品の向上の為に、


『 評価 』


だけでも付けて頂けると幸いです。


ブックマークをつけて貰えると、さらに嬉しいです。


よろしく、ご協力下さい。


お願いします。


(あとがきに書いているのはタダの資料に過ぎません。読まなくても問題ありません)


 ◇◇◇


※1)『歎異抄』第六条「専修(せんじゅう)念仏のともがらの、わが弟子、人の弟子という相論の候ふらんこと、もつてのほかの子細なり。親鸞は弟子一人(いちにん)ももたず候ふ。」


『親鸞に弟子は一人もいない』


そう言い切った。

名文です。


覚如(かくにょ)聖人の『口伝鈔(くでんしょう)』に、師匠から教えて貰った教えは、破門などで出て行く時に、すべて返して出てゆくのが当然でありました。つまり、親鸞の書かれた物を持ち出すなど、弟子の覚如にとって以ての外なのです。しかし、親鸞は覚如にこう言ったのです。


「私もあなた方も如来のお弟子なのですから、みな同じ浄土への道を歩ませていただいている同行というべきです。」


そして、


「本尊や聖教をとりかえすというようなことは決してしてはならないことです。そのわけは、親鸞はわが弟子というようなものは、一人ももっていないからです。人をわが弟子とよべるような何事も私は教えていません。」


親鸞の心境はただ民の救済のみであって、弟子云々など些細な事に過ぎないのです。


□.親鸞は教祖としては失格であります。〔本人にその気がありません〕

天台宗、真言宗のように戒律を定め、順位を正しくする事で統制を強くし、端々にも目が届くようにしませんでした。そう、親鸞ははじめかた組織作りをするつもりがなかったのです。


後継者が苦労した訳です。


そりゃ、親鸞という方は、すべての僧侶、教徒と同じ仏の弟子であり、優劣を考えていない人だったからですね。


結果、寺1つが領主のような独立勢力となったのです。


三河一向衆、尾張一向衆、長島浄土真宗、石山本願寺浄土真宗など、様々な勢力がそれぞれの考えて動いていた訳なのです。


石山本願寺浄土真宗が伊勢国・美濃国・尾張国を加えた東海三ヶ国の本願寺門末の支配を認める起請文を送っていますが、尾張一向宗の瀬部門徒、河野九門から言えば、『それ美味しいの』と聞き返してしまうでしょう。


尾張、美濃の瀬部門徒、河野九門が長島の命令を聞く義理はなく、長島も命令ではなく、お願いをした訳です。


もちろん、浄土真宗として必要な時は一致団結します。

他宗派と争っていましたし、有力大名や公方とも争いました。

巨大な敵には、一致団結して挑んだ訳です。


しかし、石山本願寺と公方が和解したからと言って、加賀の一向一揆衆が従う訳ではありません。


大きな浄土真宗という組織でありながら、個々の浄土真宗と一向宗が入り混じった存在だったのです。


考えるだけでも厄介な宗教組織ですね。



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