38.ヤマトタケルが夢枕に立ったの事。
慣れというのは怖い物です。
尾張の民、特に熱田の衆は様々な事に慣れて来たみたいです。
突然に島が出来ても誰も騒がなくなってきました。
何でも熱田神社(※)の大宮司である千秋季光の夢枕元にヤマトタケルの命が立って、新たな土地を与えるので、飢える民を助けよとお告げがあったそうです。
目を覚まして海を見ると、巨大な島が生まれていたそうです。
『ヤマトタケルの命が作られた物は熱田の物です』
ヤマトタケル、ありがとう!
草薙剣、万歳!
食事所で誰かそう囁き、物売りの商人が噂を広める。
甲賀衆のみなさん、ありがとう。
見事な手並みです。
◇◇◇
なぜ、そんな面倒な事をしているか?
色々とあるのよね。
うん、そうしないと困るのです。
差し当たって長島の願証寺当たりが所有権を申し出ています。
願証寺が何を言って来ても熱田神社の大宮司様が、
「浄土真宗の本尊である『阿弥陀如来』にお願いをして、新たな土地をお作りになればよい」
と言い返してくれます。
これにて一件落着…………にならないのが、世の常なのですね。
長島を黙らせると、今度は那古野家中が騒ぎ出します。
人夫が増える。
家がいる。
土地が必要になります。
作業に便利な場所は那古野の北側です。
作業員の住居を作る為に百姓を移住して貰う事にしました。
必要な処置です。
移住する先は、長島のずっと沖に見える『沖島』です。
ヤマトタケル様が作ってくれた島です。
島は草原があり、丘があり、湖があり、林もあり、放牧地が隣接する住みよい土地です。
ただ、ヤマトタケルが作って島ですから熱田領です。
熱田は私の支配下なのです。
沖島に移住した家臣は私の与力となってしまうのです。
那古野城の北側の城主が怒り出した。
私の下が嫌なようだ。
「鬼の下じゃと」
「持病の癪が」
「お力になりたいのですが、某では力足らず」
「恐れ多くも先祖代々の」
別に支配する訳じゃないし、管理するのは信長ちゃんの代官ですよ。
と云う訳で、平手一族の城と交換する事で手を打って貰った。
平手のじいさん、ありがとう。
一族が反対する中をかなり強引に交換に応じさせてくれたみたい。
愛してないけど、感謝する。
でも、私の直臣になるのは嫌がった。
(平手のじいさん、がっかり!)
那古野城の北側の城に当主が残り、移るのは分家とします。
その分家は誓約で当主の指示に従う事を私に認めさせた。
別にどうでもいいんだけどね。
分家は私の半与力。
私の与力ですが、一切の命令は受けない。
こちらからお願いする事でもない、
どうせ信州あたりから大量の家臣候補がやってきます。
土地は大丈夫かって?
まだまだ家臣が増えても問題ありません。
知っています。
中部空港がある辺りまで浅瀬が続くんですよ。
えっ、北畠が文句を言ってくる?
知りませんよ。
◇◇◇
たっぷりとごろごろした後に、信長ちゃんと一緒におにぎりを食べます。
「忍様はごろごろとするのが、本当に好きですね」
「私はこの世界に遊びに来ているのよ。ごろごろして当然です」
「そうでした」
「信長ちゃんも早くごろごろできるようになりなさい」
「私がですか?」
「そうよ! 誰かに仕事を任せるのは大切な事よ。『話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず』と言うのよ。誰の言葉だったけ?」
聞いた私が間違っています。
「知らんな」
「某は知りません」
「藤八よ弥三郎は無理に答えなくいいわよ」
「「すみません」」
“山本五十六です”
知らんのは当然だ。
「誰の言葉かは知りませんが、心に響きました。忍様は何でもできるのに、我々にできる事をさせているのは、そう言う理由だったのですね」
あは、は、は、は、単に思い付きで言っただけです。
全部、最初から全部やらせるつもりでした。
なんとなく、思い付きとノリでやってしまったのよね。
あは、は、は、は、うん、これは秘密だ。
慶次様と宗厳様にはバレたような気もするが、藤八と弥三郎は気が付いていない。
このまま押し切ろう。
「ともかく、信長ちゃんがすべてを見るのは駄目なのよ。誰かに任せて信頼する事を覚えましょう。失敗を恐れてはいけません」
「しかし、忍様、まだ事業ははじまったばかりで」
「それがいけません。信長ちゃんが信頼する人を責任者にして、その人を信じるのです」
「ですが…………」
「煮え切らないね! そうだ、みんなで旅行に行きましょう」
「「「「旅行!」」」」
「信長ちゃんも行きたいと言ったよね」
「はい、いいましたが!」
「よし、決定!」
「「「「えっ!」」」」
「参加者は私、信長ちゃん、慶次様、宗厳様、千代女ちゃん………は忙しいから無理か! 藤八と弥三郎も連れて行くわよ。佐治さんとこ絶対ね。船で就航しなかったら、それこそおかしい。そして、管理を任せている飯母呂一族と甲賀衆のみなさんに会いにゆくよ!」
信長ちゃんが南蛮貿易を始めると言わせやろう。
「うん、派手に出港して、平手のじいさんの案を採用だ」
「平手の案ですか?」
「そう、散財を続ける織田の金が何故尽きない」
「それはクジラとかで儲かっていると聞きましたが?」
「確かにクジラ一頭で城が建つとは言うけど、今、造っている那古野城は建たないよ」
「無理ですか!?」
「無理だね! 最初の1頭は高値で売れるだろうけど、ウチが毎日というほど取ってきている。値崩れはすぐにそこだよ」
練習用の3・4番艦は捕鯨船だ。
先端に大型の捕鯨銃があり、後部にキャッチャーボートと言う滑り台のような取り入れ台があるのが特徴的な船です。
牛や豚を安定供給できるには、まだまだ時間が掛かるからね。
山狩りで鹿や猪を狩っているけど、全然足りない。
人は魚のみで生きるにあらず!
佐治 為景を中心に小型や中型のクジラ相手に日夜戦っているよ。
クジラのみなさん、ごめんなさい。
「ですから南蛮貿易ですか!」
「そういう事、いいアイデアよね」
一番儲けていたのが、アカプルコと呂宋を結ぶ交易だ。
メキシコのアステカ文明を滅ぼし、南米のインカ文明にも触手を伸ばすスペインのコンキスタドールは、去年(1545年)にポトシ銀山を発見し、それをきっかけに王室に喰い込んでゆく。
まぁ、その話はまた今度にするとして、このメキシコや南米の銀が太平洋を渡って、明に持って行かれ、中国産の絹織物や生糸、陶磁器を買い付けてスペインに戻ってゆく。
その銀がすべての悪だ。
何より問題なのは太平洋航路が生まれると、日本とオーストラリアを結ぶ航路とグアム当たりでぶつかってしまう。
「シドニーの為に潰しておきましょう」
「志土仁は一面麦畑です」
「お城も見逃せません」
藤八と弥三郎の説明でどこまで信長ちゃんに伝わっているんだろうね?
オーストラリアに原住民がいるなんて知らなかった!
「シドニーは住みやすくなって来たわよ」
「志土仁、夜な、夜な、農地が広がってゆく恐怖! って、千代女さんが言っていました」
『怪談か!』
「は、は、は、そりゃ! 日が昇ると、田畑ができているとびっくりしただろう」
「そうでしょう」
「二人とも気が付いていたの?」
「初日は違ったが、2・3日すると人の気配がするようになっていたぞ」
「おそらく、誰かが見張りに来ていたのでしょう」
『嘘! 全然、気が付かなかった』
待てよ。
千代女ちゃんも気づいていたな。
それで妙にお化けの話をしていやがったのか!
糞ぉ、仕返ししてやる。
「先住民がいるって思ってなかったのよ。それと弥三郎、千代女ちゃんの話まで信長ちゃんに伝える必要はないんだからね」
「「はい、気を付けます」」
「とにかく、いい所になってきたわよ」
「弟も行ってみたいと申しておりました」
「智ちゃん、藤吉郎は放っておこう」
「はい、判りました。もし、よろしければ、私も参加したいのですが………あっ、すみません」
「判った。今回は、奥の人で信用できる人も連れて行ってあげよう」
「ありがとうございます」
なんて私は寛大なんだ。
以外と大所帯になるな。
練習船2隻で何人乗れるのかな?
まぁ、いいか!
ふ、ふ、ふ、信長ちゃんと一緒に、『ビバァ、南国パラダイス』だ。
こほん、違いました。
「南国慰問旅行だ」
「慰問旅行?」
「そうぉ、新天地に向かった同胞を労う慰問旅行よ」
「慰問なら仕方ありません」
「よし、言質取った!」
中継地点のグアムも織田領にして行くぞ!
慰問旅行だ。
ビバァ、南国パラダイスだ。
※).熱田神宮:神宮と呼ばれるようになったのは最近の事であり、明治以前は神社と呼ばれていました。
〔幕末から明治にかけての1868年(慶応4年)6月に神宮号を宣下されて熱田神社から熱田神宮に改められた。〕ウィキペディア(Wikipedia)より
◇◇◇
オーストラリアにも原住民がいたんですね。
病原菌を貰って死滅したって、ホントですか?
どうも胡散臭いな。
アボリジニ族を今日は何人狩ったとか言う伝承が残っていますね。
スペインのコンキスタドール(征服者)たちは、アフリカ、アジア、北中南米、オーストラリアと、どこまで横暴を尽くした時代だったのです。