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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第1章.赤鬼忍、尾張に居つく
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32. 忍、乱心するの事。

誰がこまどり殺したの?


アガサクリスティは天才でした。

「U.N. オーエン(U.N.Owen)」』(アンノウェン)はUN KNOWNアンノウンと読め、『どこのものともわからぬもの』と答えが書いてあります。


誰が平手政秀を殺したのか?


牛一もはじめから書いていたのです。

憐れな名馬の為に。

さぁ、お手を拝借、Cock Robin!


帰ってきました那古野城、マイホーム!

部屋に戻って何をするか。

それはごろ寝です。


転移で帰ってくればいいじゃないか?


それは無理!


ひっきりなしに誰か来るのよ。

あいさつだけだけど!

のんびりできない。

でも、する事はない。

暇だから城外を巡ると余りに酷い有様に呆れた。

ロクな田植えもできていない田畑を巡って、ちょいちょい手伝って上げて、水汲みに足踏み水車を作ってあげると拝み出すのよ。


赤鬼様って、何?


灌漑事業もせずに戦をする三河武士って、何なのよ。


那古野に戻ってくるのは、お風呂にみんなで入る時くらいよ。


えっ、お風呂に戻って来ていたのかって?


帰ってきますよ。


お風呂は私のパラダイス!

信長ちゃんらを連れて帰って、心の洗濯です。

坂本龍馬が言ったでしょう。


『せんたくいたし申候(もうしそうろう)』って!


意味が違う?


いいんだよ。


あれが無かったら、私、爆発しちゃいますよ。


 ◇◇◇


大浜が臣従した翌日には、平手政秀に鉄砲隊と足軽衆を預けて、荷駄隊の荷物を安祥城(あんじょうじょう)に送って貰った。


西三河衆と吉良義昭の家老が臣従するパフォーマンスを終えて大団円(だいだんえん)、浴びるほどの酒を用意してやったよ。


ハズなのに!


何度も那古野に行く羽目になるのよ。


なんだ、あの連中は!


ふふふ、うわばみ共め、今に見ていろ!


35度の芋焼酎や60度を超えるスピリッツを用意して、クロスカウンターの1発で葬ってやる。


翌日、エキストラ役の武将達は林秀貞達に率いて貰って、ご退場だ。


私や小姓らだけでいいと言ったが、流石に聞き入れて貰えず、江戸時代で言えば、若年寄、あるいは、有力な城主の次期当主達が信長ちゃんの側近として50人も残った。


林の与力衆に前田家があり、次期当主代行に二男の前田三右衛門利玄(20歳)がいた。


それって、誰?


確かに記録にあるけど、記憶にないね。


その家来に3男の五郎兵衛安勝(15歳)、4男の又左衛門利家(10歳)がくっついた。


利家だと!


慶次様を追い落とした張本人だ。


本人は悪くないけど、敵の一人だ。


信長ちゃんも敵の一人だけど、可愛いから許した。


違う!


何が違う。


10歳に見えない。


10歳の利家が付いてきたのかと言えば、身丈は15歳の兄の安勝と変わらないのよ。


全然、可愛くない。


そりゃ、利家は6尺(182cm)の恵まれた体格まで育つからね。


育つのが早すぎだよ。


信長の元服に合わせて、急いで元服させたようだ。


この前田家は、がやがやと何かと煩い。


特に、利家が鬱陶しい。


毎日、利家は私と一手と戦いを挑みに来るんだよ。


慶次様と宗厳様の二人にぼこぼこにされても、翌日にはけろっと顔を出す。


ホント、脳筋馬鹿です。


でも、藤八に負けた時は、マジで泣いていたぞ。


「はじめて勝ちました」

「練習を真剣にやっているからね。その結果だよ」

「ちょっと嬉しいです」


慶次様と宗厳様の剣筋や槍の相手をしているから、利家の動きが遅く見えるんだよ。


まぁ、しばらくすれば、逆転するだろうね。



信長ちゃんは大忙し。

各城主の帳簿を見せて貰って、織田のやり方を教えねばなりません。

実際に教えるのは代官だけどね。


でも、織田のやり方を教えないと揉める原因になる。


暇な私は外に出ると、余りの貧しさに目を覆った。


ここでも田畑を手伝って、水を引いて、芋と綿の苗も渡して上げた。


織田の民なら餓死させないよ。


道もぼろぼろだから夜な夜な修復を入れる。

矢作川の底砂も浚っておいた。


これで氾濫も減るだろう。


信長ちゃんと1日1城、7カ所も回るハメになったよ。


私は行った先々で百姓の手伝いをやっていったのよ。


誰か褒めてくれないかな?


「偉い、偉い!」

「千代女ちゃんに褒められてもうれしくない」

「我が儘ね、誰かとか言うから褒めて上げたのに!」

「信長ちゃんに褒めてほしい」

「信長様は忍の10倍もがんばっているわよ。逆に褒めて上げなさい」

「うん、そうする」


百姓が総出で見送ってくれた。


なんか、『赤鬼の奇跡』、『赤鬼教』が生まれてないかい?


 ◇◇◇


那古野に帰って三日間、私は惰眠を貪ります。

我が小姓も稽古が終わると、主人に合わせて床に転がっています。

もう働かない。

ごろごろ、ごろごろ!


「暇そうね」

「千代女ちゃん、外に出るとみんなが私を見ると手を合すのは何故?」

「それは忍様が偉いからです」

「私もそう思いますです」


藤八と弥三郎は絵草子を読みながら答えてくれます。

信長ちゃんから私の監視役を仰せつかっているのを良い事に、二人は絵草子を満喫する日々を送っています。


もちろん、私が起きる前に慶次様と宗厳様の鍛錬に付き合わされているので、腕前をメキメキと伸ばしていますよ。


「そうね、赤鬼伝説が広がったからよ!」


『赤鬼伝説?』


千代女ちゃんの聞きなれない言葉に首を傾げるのです。


「何でも大浜の民の首をすべて切り落とし、衣ヶ浦を赤く血で染めたと伝わっているわ」

「何ですか、それ?」

「大丈夫よ。尾張では大浜の民数万余、城主から民・百姓に至るまで、赤鬼の竹姫に頭を下げたと伝わっているから!」

「ちょっと待て! 尾張が大丈夫って、どういう意味?」

「尾張以外は、なぜか首を取ったにすり替わったみたいね」

「首を取った?」

「うん、大浜の住人を根切りにした」


なんて迷惑な風評被害ですか!?


大浜の百姓から武士まで感謝されていたよね。

私、がんばっていたよね。


「感謝していた。感謝していた」

「どうして私が首を刈らないといけないのよ」

「それは海が赤く染まったからではないですか?」

「染まったの?」

「えぇ、衣ヶ浦が赤い水で埋め尽くされたらしいです」


それって、赤潮じゃない。

人の血で海が赤く染まったと思ったの?

嘘でしょう。


「御所では、織田親子が竹姫を取り合って、大浜の赤鬼を呼び出して、数十万の民を殺して、その血で海を真っ赤に染めたと伝わったみたいね」

「みたいねって、何!」

「仕方ないでしょう。御所の奥は警戒厳重なのよ」

「じゃぁ、話の出所は」

「公家よ。公家の話では、日の本が荒れる凶兆の現れとして『竹取りの乱』と命名したようね」


なんじゃそりゃ!


「大浜の戦い」でもなく、「高浜の戦い」でもなく、「竹取りの乱」ですか。


乱って、国家的な政変だったよね。


9人しか被害者いないのに、『乱』ですか!


『責任者、出て来い!』


「何よ、急に大きい声出して」

「ポテチを食べながら寝転がっている女に用はない」


そう、千代女ちゃんは絵草子を見ながら寝転がって新作品のポテチを食べていた。


さっきまで私も同じスタイルだったけどね。


「忍様、如何されました」

「丁度いい所に来たよ。信長ちゃん」

「はい」

「朝廷に今回の戦いを説明しに行くよ」

「忍、ちょっと待て!」


慶次様が慌てた!

凄く珍しい。

でも・・・・・・・・・・・・宗厳様と目があった。


「止めても無駄よ。間違いは正されないといけないのよぉ」

「…………」

「宗厳、あんたも止める口」

「止めはしませんが、その後は忍様に天下を統一して頂かねば、少々困ります」

「忍様、下手をすれば、我らは朝敵にされます」

「下手を打たないでも朝敵だ」

「柳生一族の存亡が懸かっております」


朝廷に殴り込む。

宮中は大騒ぎになる。

私が噂の赤鬼とばれる。

鬼は朝敵。

私も朝敵にされる。

朝廷を滅ぼして、忍朝を作る。

反発する全国大名。

全国大名を滅ぼして、天下統一に一直線。


ばたん。


それは面倒臭い。

流石にやりたくない。


『責任者、出て来い!』


「ねぇ、この前の戦いの責任者って、誰?」

「それは私ですね」


信長ちゃんが名乗り出た。


「忍様、何なりと罰をお与え下さい」

「判った。罰として、お風呂で私の背中を流しなさい」

「畏まりました」


ホントはもふもふとか、すりすりとかしたいけど、流石に引かれるわよね。

嫌われるのはなし。

それは絶対に駄目。


がっくり。


なんて安い罰なんでしょう。


 ◇◇◇


【平手政秀】

戦が終わると、信長様より厳命を賜った。


「平手のじい、持って来た荷物を、すべて安祥城(あんじょうじょう)に届けよ」


持って来た荷物は、永楽銭2万枚、爆薬481本、鉄砲200丁、弾と火薬5万発、バリスタ4基、竹槍31本、クロスボウ5,000挺、小矢50万本、その他に鉄砲衆が持つ鉄砲300丁と扱いを記した草紙です。


荷駄隊と鉄砲衆と足軽衆を借りて、平手一族で信広様に荷物を届ける役目を頂いたのです。

これだけの武器があれば、易々と岡崎城を落とす事もできるでしょう。


しかも、同じモノを那古野の倉街に用意しており、牛屋城(大垣城)にも届けるように密命を受けたのです。

これだけの荷物なので津島から船で運ぶしかありません。


津島の大橋(織田の重鎮)には話がついていると言うのですから、これはもう大殿の仕掛けに違いありません。


「父上、この度の約事、大変な名誉な事でございます」

「信長様が我が一族を頼りとされておる現れじゃ。裏切ってはならんぞ」

「裏切るなどありましょうか」


政秀の嫡子である平手 久秀(ひらて ひさひで)は父に似ず、中々の武闘派であった。


そう、武闘派の少し頭が足りない久秀ゆえに政秀は心配だった。


こやつは、果たして信長様がやろうとする事についていけるのだろうか。


新農法で石高が倍になる。

手柄もなく、倍の褒美を先に貰うのだ。

当然、信長様は倍の働きを要求される。


逆を申せば、

倍の働きでは、褒美は貰えん。


果たして、こやつはそれに耐える事ができるのか。


「父上、如何なされた」

「良いか、信長様のされる事に異を唱えるでない」

「何を申されるのか。異などございません」

「戦の世が終わるのじゃ。よ~く、心せよ」

「ははは、父上も大層な事を言われるようになった。この五郎右衛門、信長様の手足となって、武勲を立ててみせましょう」


政秀は頭を抱えます。

判っておらん。

此度の戦で何人の者が亡くなった。


わずか九人ぞ。


それだけの犠牲で三河西岸を取ってしまわれた。

九人とは言わんが、

この鉄砲や爆薬があれば、忍様と同じ事ができよう。


戦が変わるのじゃ。


「父上、腕がなりまする」


はぁ、判っておらん。


もうそこに戦働きが終わる日が来ておるのだ。




政秀の切腹の原因を作ったのが、この息子である五郎右衛門があったと『信長公記』に書かれています。


平読みすると、

五郎右衛門は非常の良い馬を持っており、信長が欲したがそれを断った事で逆恨みされて、それを許して貰う為に、政秀は腹を切ったとあります。


しかしです。


織田信長と言う武将は部下や民に物をやるのが好きだった。

百姓と共に踊ったり、汗を拭いてやったり、餅や米を配った。

他国の民が体を壊していれば、木綿二十反を与え、小屋を作ってやった。


そんな信長が馬を欲しがって断っただけで逆恨みするでしょうか?


絶対にあり得ません。

では、馬とは何なのでしょう。


『馬とは、隠語です』


久秀で乗るよい馬とは『信行』の事であり、久秀で乗らないと断った名馬が『信長』なのです。

平手久秀は林秀貞・柴田勝家などの誘いで信行に寝返ったと言う隠語だったなのです。


『どちらの馬(織田)に乗るか』


そうです。

答えは簡単です。



では、切腹で諌めたのは誰か?


嫡男の久秀であり、平手一族そのものだったのです。


『信長に味方せよ』


これが政秀の遺言であり、信長に当てた手紙は平手一族が信長を裏切らないと言う誓書だったのです。


信長が政秀に向けた感謝は限りないモノとなった事でしょう。


そもそも、『信長公記』を書いた牛一は柴田勝家の家臣です。

主人の柴田勝家の汚名を残したくない。


当然の処置です。



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