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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第1章.赤鬼忍、尾張に居つく
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22.忍、龍神さまにされてしまったの事。



【平手政秀】

平手政秀が那古野城に戻ってきたのは日が暮れた夕刻です。

頬はこけ、目にクマができるほど、疲労が色濃く現れています。

大広間では、めずらしい味の料理で湧いていました。

おとな衆の家老、林秀貞、青山与三右衛門、内藤勝介も揃っています。


「これは平手殿、遅うございますぞ」

「まだ、てんぷらは残っておるか」

「すぐに揚げて参ります」

「さぁ、さぁ、こちらに」


最近、信長が奇妙な事を始めたと言う噂を聞いた譜代城主も気になって、前日から参内したのですが、信長が奇妙な格好をしている事を除けば、割と普通であり、めずらしい料理で湧きあがっていたのです。


「しかし、随分とお疲れの様子ですな」

「は、は、は、少し厄介な仕事がございましてな」

「平手殿が厄介と申されるなら、相当な事ですな」


相当と言うより悪夢そのものだったのです。


 ◇◇◇


【平手政秀】

熱田で連れが藤八から弥三郎に変わると伊豆の先端にある日野に飛んだのです。

日野が風魔の隠れ里と言われているからです。

結界を無視して、村の真ん中に出てきた者に好意的である訳もございません。

況して、風魔は200人の乱破を従え、山賊、海賊、強盗、窃盗からなる『四盗』、すなわち、四人の頭『四頭』を従えており、血の気の多い者がごまんといたのです。


「えい、えい、てめら! ここをどこだと思っていやがる」

「ここを見て、生きて出られると思うなよ」

「忍、俺の結界術は外してくれ!」

「それならば、某もお願いします」

「判ってる? 私達は交渉に来ているんだから、殺しちゃ駄目だからね」

「大丈夫だって」

「承知」

「判っているなら、懲らしめてやりなさい」


ちゃ~ん、たったったたたぁた。

忍殿が口ずさんでいます。

もちろん、時代劇の名場面のような音楽が忍の頭に回っているなど判るハズもありません。

政秀にとって何がなんだか判らない内に乱闘が始まってしまったのです。


「いやぁ、風魔の人は判っているね」

「何がですか、忍様」

「ほらぁ、女、子供、じいさんには手を出さない。判っているじゃない」


じいさんとは儂の事でしょうか。

生死をやりとりとしているのを楽しむ忍殿に恐怖します。

この娘、何を考えているのだ。

尼子とのやりとりは誠だったのか?

そんな疑問が頭に過るのです。

慶次と宗厳の大立ち回り、死人こそ出ていませんが、裏刃で殴られて次々と男達が倒されてゆくのです。


「これで終わりか、もっとマシな奴はいないのか」

「慶次殿、ここまでにしましょう。これ以上は手加減ができません」

「仕方ねい」


慶次が刀を肩に抱えて戻ってきます。

この子が凄いとは聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。

宗厳殿に至っては刀も抜かずにいなしておりました。

いやはや、何と申せばよいのでしょうか。

一行を襲ってきたのは、この村を拠点にしていた賊の一味であり、正確には風魔忍ではないのです。

人ごみから道が開き、風魔忍と思える農民姿の者がやってきます。


「如何なる要件で参られましたか」

「平手さん、お願いします」


ちょっと待て!

農民姿ですが、全身が刃物のような殺気を帯びています。

この化け物みたいのと話すのか!

迷惑な方です。


「某、尾張は織田の信長様に仕える平手政秀と申します。風魔の頭領の所まで案内をお願いします」

「判りました。付いて参られよ」


こうして、風魔の頭領である小太郎殿に会えたのですが、身の丈七尺二寸(2m16cm)の大男で、熊のような骨格をして、大きな眼光が睨み、鼻が高く、黒ひげに剥げた頭が妙に大きく見える男だったのです。

儂はもう目眩がして倒れるのではないか。

いつ殺されてもおかしくない。

くわばら、くわばら、恨みますぞ。


「某は織田の家臣平手政秀と申します。我が主、信長様の命によって罷り越しました。我が主は風魔方々を直臣の士分にて、すべての民を召し抱えたいと申しております」


小太郎殿は微動だにしません。

周りの子分達が士分に取り立てて貰えると聞いて湧いています。


「俄かに信じがたい」


私は震える体を強引に押し込んで説得を繰り返しますが、武士に対して、相当の疑心暗鬼を持っていられるお方のようです。

何度お願いしても首を横に降るばかりなのです。


「平手さん、もういいわ」

「そうでございますか」

「ねぇ、小太郎さん。疑っていても、いつまで経っても自由は手に入らないわよ。北条は良くしてくれる」

「安全は保障してくれる」

「でしょうね。でも、自由は手に入らない。いつまで経っても貴方達は下賤な身分のまま、タダの消耗品よ」

「女、安全な土地を得るのがどれほど大変か判るか」

「知らないわ。でも、信じないと、その先は手に入らない。3人でいいわ。私に預けなさい」


そう言うと、5000貫箱を無造作に忍殿が床に出したのです。


「手付金よ。好きに使いなさい。但し、3人は織田に寄越しなさい。そして、その3人を見てから決めればいいわ」

「何をしたい」

「平手さんが言ったでしょう。織田の天下を作るのよ。私に手を貸しなさい。駿河に手を掛ける前までなら厚遇するわ」

「拒めば、根切りか」

「まさか、道端の草を刈ってゆく趣味はないわ」

「ふ、ふ、ふ、判った。3人だけ送ろう。この5000貫文は貰っておく」

「じゃぁ、次に行きましょうか」


小太郎の屋敷を出ると、目の前で転移というのをするのです。

まるで、風魔に見せ付けるように!


 ◇◇◇


【平手政秀】

平将門に味方した飯母呂一族の残党が筑波山にいるという話は初めて聞いた話です。

ですが、忍殿がいると言うならいるのでしょう。


転移というモノで飛び出した瞬間に矢を射かけられ、数百のもののふが一斉に襲ってきたのです。

うりゃ、振り下ろす斧が天上から襲ってきます。

這い寄る者が襲い掛かり、私は何度となく、殺されたと思うばかりです。

終わったと思ったのですが、実は指一本として触れられていないのです。


「死ね!」


槍の一閃が目の前まで迫るのですが、何故かその刀や槍が反転し、時には同士討ちになってしまうのです。

余りの激しさに肝が冷えます。


「武器を捨てなさい。私達は敵ではない」


忍殿が何度も叫びます。

然れど、時間が経つ度に攻撃が苛烈になってゆき、慶次と宗厳を結界の中に引き戻したのです。


「すまね。何人か、殺してしまった」

「ちょっと異常ですな」

「私もそう思う」


刀や槍で利かないなら、焙烙玉や火槍を撃ってきます。

飯母呂一族にとっての奥手なのでしょう。

その爆発音が耳を打って、はじめてのダメージを与えたのです。


「も~う、頭来た!」


確かに、忍殿はそう言ったのです。


『転移』


次の瞬間、私の足場が失われ、天空から大地に落ちる私を感じるのです。

その周りには数百の飯母呂一族も一緒です。

彼らは突然に事に悲鳴を上げて、喚き、慄き、騒ぎまくっています。

儂もちびりました。


「大袈裟ね、ちょっと上空に移動しただけなのに」

「忍殿、ここはいずこですか」

「上空3,000mよ。地上まで3分よ。すぐに終わるわ」

「平手のおっさん、安心しとけ。ほらぁ、空の景色が美しいぞ」

「天空より下界を見下ろすとは、こういうモノですか」

「宗厳は初めてだったわね。これはスカイダイビング。空の散歩よ」

「空の散歩とは優雅ですな」

「信長様に自慢できます」


慶次と宗厳と弥三郎は平気に受け入れています。

怖くないのか?

天界より下界を見るなど神の所業ではないか。

この忍どの、いや、様はいったい何者なのか?


地上がドンドンと迫り、恐怖に身が縮む思いをした所で元の場所に戻って来たのです。

奥の社から誰か走って来て、忍様の下で跪くのです。


「申し訳ございません。龍女様とは露知らず、弓矢を向けるなどお許し下さい。お怒りが収まらぬと言うのなら、私の命で」

「御社様、お待ち下さい。御社様をお助け下さい。お怒りなら我々が受けます」

「我々の命で御社様を」


大地に倒れた者が立ち上って、御社と呼ばれる少女の守るように皆が次々と頭を下げるのです。


「まだ、闘いたいと言うなら滅ぼしましょう」

「いいえ、いいえ、龍女様に逆らうなど、決して、決して」

「もう戦わないと言うのね」

「「「「「「「はい」」」」」」」

「では、交渉しましょう。平手さん」


ここで私に振るのは止して貰いたい。


ほらぁ、崇められています。

儂はそんな大層な者ではない。


そもそも、彼らが襲ってきた理由は、(天文14年)河越夜戦で足利晴氏に味方して敗れた小田氏が佐竹氏や下野宇都宮氏と抗争を繰り返していたそうだ。

小田氏を支援していた飯母呂一族は、佐竹氏や下野宇都宮氏から襲われており、滅亡の危機に瀕しているそうだ。


そこに結界を飛び越して、見知らぬ者が村に侵入した。

妻や子供を守る為に、男衆は必死に戦った訳だ。

死を恐れない特攻に慶次と宗厳も無傷で制圧できず、忍様を怒らせる事になった訳だ。


男衆が一瞬で天空に連れ去られ、そこで自分達が何に刃を向けたのかを知らされたと。


そりゃ、驚くわ。


もう交渉などと言う話ではない。


「織田への臣従だが」

「龍女様の御心のままに」

「待遇だが」

「龍女様の御心のままに」

「…………」


飯母呂一族は忍様を龍女、つまり、龍神と崇め、もう逆らう気がないと言う。

忍様は147戸計888人を一度に尾張に連れて行けるそうだが、肝心の尾張の体制が整っていない。

飯母呂一族は許されるなら山の合間に隠れ里を作って暮らしたいそうだが、尾張で山と言えば、犬山の奥地になってしまう。

話を通すにせよ、数か月は時間が欲しい。


しかし、飯母呂一族には、そんな余裕がない。

今にも佐竹氏や下野宇都宮氏が襲ってくるかもしれないのだ。


そう悩んでいると、村の周りに深い谷が生まれ、村を囲うような壁が生まれた。

そして、見た事ない鉄砲を預けたのです。


「これでしばらく持つでしょう。この谷は簡単に越えられない。攻めてくるのは山越えしか無くなったわよ。鉄砲で狙撃すれば、それすら難しいでしょう」

「ありがとうございます。龍女様」

「忍でいいってば! で、食糧はあるの?」

「1ヶ月は持ちます」

「そう、後で持ってくるわ」

「「「「「「ありがとうございます」」」」」」


本当に龍神なのか?


飯母呂一族の尾張移住が決定した。

小田氏への忠義もあるので、わずかな者を残すそうだ。

帰ったら、今度は犬山城主と話しを付けねばならない。


次は真田家と言ったな?


 ◇◇◇


【平手政秀】

着いた場所は甲賀の望月邸です。


「出雲守いますか」

「これは、これは、忍様ではございませんか。如何さなれました」

「武田にいる真田の者と会いたいのだけど何とかなりません」

「武田とは敵対関係ですよ」

「まだ、武田に信濃の望月は臣従していなかったの?」

「何をおっしゃいます」

「と言う事は村上ですか」

「はい。ですが、分家の滋野望月の拠点がありますから手立てがない訳ではないのです。繋ぎをとりましょうか」

(向こうも、分家の甲賀望月と呼んでいるらしい)

「お願います」

「息子、与右衛門に行かせましょう」


話しが済むと甲斐に飛びます。

甲賀も甲斐も一瞬じゃと、頭が痛くなってきます。

彼らが向かった先は甲州の望月庵の近くです。


「索敵、敵はいないみたい」

「では、少しお待ち下さい」


甲賀衆が散らばると、しばらく身を隠して待ちます。

与右衛門殿達が滋野望月衆と連絡を取ると、すぐに会う事ができました。

同じ、滋野家に仕えた者として連絡を取っているのは不思議ではありません。

その分、武田から警戒されているのでしょう。


真田 幸隆(さなだ ゆきつな)の屋敷に案内され、望月の縁の者と紹介されます。

(3男の昌幸(まさゆき)は来年生まれる予定で生まれてもいません。)


「尾張家臣、平手政秀と申します」


幸隆は驚いたようですが、すぐに平静に戻ります。

時間もないので単刀直入に申します。


「織田に来る気はございませんか」

「城どころか、家臣も碌におらぬ身の某を」

「我が殿は真田様を高く評価されております」

「ありがたき申し出なれど、尾張に行くと旧領の復活は無くなります。申し訳ござらん」

「それは仕方なき事です」


甲賀と同じく領地付きで一族郎党すべてを引き取るという好条件に驚いていますが、旧領への思いは強く、どうやら無理そうでした。

先祖伝来の土地を捨てるというのは、中々に難しい事なのです。

忍様も諦めてくれました。

忍様が機嫌を悪くされないかと肝を冷やしました。


「幸隆様、武田もどうなるか判りません。もしも3男がお生まれになった暁には、その子を織田に預けてみては如何ですか」

「無茶を言われるな」

「お家を分散させておくのは、一つの手かと」

「おもしろい事を言われるおなごじゃのぉ」


そう言って、忍様はあっさりと引き上げたられた。


与右衛門殿はこちらで用があると別れ、私達は尾張へと戻った。


「あぁぁぁぁ、富田郷左衛門(とだごうざえもん)とか、どうやって会えばいいか判んない。軒猿とか、まったく不明だし」


帰ってくると、訳の判らない奇声を上げたのです。

本当に何がしたいのだろうか?

まったく、理解に苦しみます。


神か、龍神か、将又、鬼か!


いずれにしろ、忍様は恐ろしいお方です。

何を考えているのか判らない事がさらに拙い。

とにかく、この方を怒らせてはいけない。


「あっ、政秀さん。私の力の事は秘密でお願いします」

「秘密ですか。しかし」

「しかしはなし。良いように使われるのは嫌なのよ」

「判りました」


困った。

どう説明すればいい?


「これは平手殿、遅うございますぞ」

「まだ、てんぷらは残っておるか」

「すぐに揚げて参ります」

「さぁ、さぁ、こちらに」


さぁ、困ったぞ。


どうでもいい話!


神社の境内をじゃりじゃりと音を立てて歩くと、一歩、また、一歩と聖域に入っている感じがして、とても厳かな気分になれます。

まるで清流にすべての穢れを落としてくれるような清々しさなのです。


最近、

境内の奥まで店が並び、発電機の音が甲高くなり響き、神々しさが消えてしまいます。

台無しだ。

神様を穢さないで貰いたいです。


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