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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第1章.赤鬼忍、尾張に居つく
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18.戦国パラダイスの事。

食事はみんなで楽しくが私のモットーだ。

信長ちゃんを上座に置いて、私と小姓達も一緒に食事を取ります。


「主人と同じ物を頂くと言うのは、如何な物でしょう?」

「長門君は頭が固いな」

「他の家臣への示しが付きません」

「信長ちゃん、何とか言ってよ」

「はい」


信長ちゃんが長門をじっと見続けます。

口を開くと負けそうな時は、無言の圧力を掛けるのです。

はぁ、長門君が折れた。


「月に2・3度だけ、談義と称して行いましょう」

「助かる」

「但し、月に1度、家臣を労って、食事を振る舞っては如何でしょうか」

「なるほど、そなたらのみを特別扱いしていないと知らすのじゃな」

「御意」


長門君は頭が良いな。

うん、私も見習うべきだ。


「藤吉郎もこっちにおいでよ」

「某はこちらで十分でございます」


藤吉郎は隣の部屋のふすまに隠れた所で食事を取っています。

御膳を並べるなど、恐れ多くてできないそうだ。


「そう言えば、藤吉郎は家に何も言ってないんだよね」

「はぁ、ですが、すでに家を出た身なれば、特に問題はございません」

「それでもちゃんと家の人には言っておきなさい」

「畏まりました」

「明日、1日だけお休みを上げます。お土産を持って家に帰ってきなさい」

「そう、急ぐ必要もなく」

「これは命令です」

「畏まりました」


藤吉郎の件は『これにて一件落着』です。


 ◇◇◇


信長ちゃんと藤八は可愛い。

慶次様は凛々しい。

宗厳様はイケメン。

長門君らも悪くない。

美しい景色、美味しいご飯、食が進むわ。

幸せだ。


「何をお考えか知りませんが、明日はどうされるのでしょうか。先に聞いておきませんと、色々と不都合が出てきます」

「何か拙い事があった?」

「拙い事だらけです」


長門君は辛辣です。

こんなに織田家に貢献している私に優しくしようという気がないのでしょうか。


「優しくして貰いたいなどと考えておりませんでしょうな」

「何故、判る」


はぁ、長門君がまた、大きなため息を付いた。

食事を終えたのか、箸を降ろして、私の方に振り向き直した。


「はっきりと申し上げさせて頂きます。忍様の織田への貢献は並々ならぬ物であり、他に類を見ない物です。しかし、余りにも派手過ぎて、信長様のお命が危のうございます」

「どうして?」

「那古野を狙う不貞の輩から守る為に、甲賀、伊賀の者を雇うのは賛成でございましたが、これほど派手に銭を使われますと、他国の腹を減らした狼や虎が寄って参ります。那古野を守るつもりが尾張を危のうしております」


あちゃ!

確かにそうだ。

織田に金があると知った東海一の弓取り今川義元、蝮の斉藤利政、甲斐の虎の武田晴信、剣豪大名の北畠具教も乗り出すかもしれない。


「甲賀、伊賀の話は瞬く間に全国に広がりますぞ。如何なさいますか」


どうしよう?


「さらに、金の出所は如何なさいます。天から金が降ってきたなど、荒唐無稽過ぎて、誰も信じますまい。それ所か、信長様は頭がおかしくなったとささやかれ、廃嫡の危機でございます」

「そうなの?」

「明後日の評定で忍様の事を正直に申せば、そうなるかと」


空から砂金の川を下って、天女様が降ってきた。

信じるか?

私が聞いたなら絶対に信じない。


信じて貰う為に砂金を見せれば、良からぬ事を考えそうな輩が沢山出てきそうだ。

そう、金の力は人を惑わす。

善人そうな人が、思わぬ悪行に手を染める事になりかねない。


『善人なおもって往生を遂ぐ いわんや悪人をや』

意味が違うか?


普請を行い、信長直属の兵を5000人くらいは揃えるまでは教えるのは愚策だろう。


「他には?」

「那古野城から見える倉街も問題です。一夜で倉が建ちましたとは言えません」

「問題が山積みだね」

「ご理解が頂けまして、よろしゅうございました」


長門君、私には辛辣だ。


「で、明日の予定はどうされますか」

「ここまでやったなら、鉢屋衆(はちやしゅう)も集めておきたい」

「鉢屋衆ですか?」

「長門、鉢屋衆とは何じゃ」

「鉢屋衆とは、平将門の乱で反乱軍に加勢し、四散した飯母呂一族の末裔の事でございます」

「主に、関東の風魔一族、筑波の飯母呂一族、尼子の鉢屋衆があるのよ。それと信濃の真田一族も味方にしたいわね。他にどこにいるか判らないけど、越後の軒猿も欲しいかな」

「関東、筑波、信濃、越後かな? それに尼子と言えば、出雲だ」

「信長様、明後日は評定がございますから、明日は城に居て貰わねば困ります」

「えぇぇぇぇ、一緒に駄目ぇ」

「駄目でございます」

「長門く~~~~~んぅ!」


信長ちゃんみたいに甘えた声で長門君の名を呼びましたが聞いてくれません。

判っていたけどね。


「判った。判った。信長ちゃんとは日を改めて遊びに行こう」

「楽しみに待っております」

「信長ちゃんが駄目なら、誰を使者にするのがいいかな?」

「ならば、じいじゃな」

「じい?」

「大人衆、次席家老の平手 政秀(ひらて まさひで)様でございます」

「判った。明日一番で使者として出る服装で登城するように手配しておいて」

「畏まりました」


これで明日の予定が大丈夫です。


「倉街は竹林で覆い隠すか? どう、いけると思う」

「大丈夫じゃないか。奴らにとって雑木林も竹林も同じさ!」

「確かに、竹林なら誤魔化す事ができましょう」

「後は、城の者に釘を刺しておけばいい」

「信長ちゃん、倉の事を内密にするように申し付けてね」

「主だった者を集め、呼び出しておけ」

「ははぁ」


これで倉街の件は終わりです。


 ◇◇◇


次は私の案件ですか?

織田の金周りのいい理由ね。

入浜式塩田で儲けたと言う以前に、まだ作ってもいない。

地曳網(じびきあみ)の大量捕獲でお金を儲けた訳でもない。

石鹸や真珠は論外だし。

正条植えも綿の栽培も始まっていない。

うん、栽培方法や製造法は草紙にして渡したけど、稲刈りが終わった秋以降だよね。

田植えも始まっているから今からじゃ間に合わない。


何となくできて、こっそり銭を溜められそうな方法ね。


「慶次、何か織田が銭を溜めていそうな話はない」

「そんな物があれば、やっているぞ」

「藤吉郎、昨日と今日で何か思う事はない」

「何故、銭を作ると儲かるのでしょうか」

(堺衆の事かな?)

本当に儲かるのか?


10円の青銅硬貨は10円以上の製造費が掛かり、作れば作るだけ赤字になってゆく。

鉛たっぷりの黒銭(にくせん)なら採算が乗ったから堺の商人は貨幣を鋳造した。

価値は本物の10分の一と言われる。

でも、銅と錫の量を増やせば、多分赤字だ。


パク、パク、パク、ち~ん!


在ったじゃないか!

粗銅だ。

日本の粗銅には、金や銀の含有率が多かった。

安い粗銅を買って『南蛮吹き』で金や銀を抽出させれば、黒字にはなる。

人件費を考えると、そんなにぼろ儲けとはいかないけどね。

でも、10年間、コツコツと貯めて来たと言えば、納得する。


否、人は夢現より現実的な儲け話を信じたがるのだ。


「長門君、君は明日一番に大殿の下に10万貫を届け、大殿の下に熱田と津島の商人を呼び出し、粗銅から金や銀が取れる草紙を渡して、大量に金や銀を取らせなさい」

「粗銅に金が入っているのですか?」

「最初から入っているのよ。でも、それは『南蛮吹き』を利用しないと取り出せないから知らなかっただけよ」

「忍様、そのような重大な事を我々だけで決めるなどできませぬ」

「手間を考えると、そんなに儲かるモノじゃないから安心なさい。つまり、粗銅から金・銀を取り出し、残った銅で永楽銭を作っていると思わせる事が大切なのよ」

「おぉ、なるほど。それなら那古野城に金と永楽銭が大量にある理由になりますな」

「そうよ。大殿が10年前からコツコツと貯めて来た銭を、『うつけ』の信長が湯水のように使い出した。もう、秘密にしていても意味がないので、大々的に熱田と津島に造って貰う事にした。こんな話ではどうかな?」


これで織田に金がある理由に説明が付く。


「さらに、尼子の姫を預かっているので、尼子から毎月、金が送られてくると、慶次が考えてくれたサクセスストーリーを本当の事にしましょう」

「尼子が後ろにいると脅す訳ですな」

「そういう事」

「面白い。忍様、面白いです」

「忍、尼子は乗るのか」

「乗らせるのよ」

「忍様、信長様、私にも判るように説明して下さい」

「簡単な話よ。尼子を買収して、織田に金を送らせるのよ」

「考えてみよ。忍様が金を運ぶのは一瞬じゃ。だが、尼子が織田に金を運ぶとどうなる」

「確かに! 目に付く事になるな」


藤八ら小姓ズにも判ったようだ。


「船頭たちと一緒に弁才船(べざいせん)を用意しておいて、朝から尼子に行くわよ。昼前に使うわよ」

「長門」

「橋介、飛騨守、船の方はお前達で手配してくれ」

「「畏まった」」

「藤八、弥三郎は連絡役を務めろ」

「えっ、俺は忍様に付いていきたい」

「それなら俺も」


藤八と弥三郎が私の方を見て、捨てないでと視線を送ってきます。


「判った。午前は藤八を連れてゆくわ。午後から弥三郎ね。それでいいわね」

「「はい」」

「俺も行きたい」

(私も連れて行きたい)

「信長様は諦めて下さい」

「相判った」


信長ちゃんも長門君には頭が上がりません。

おとな衆や家臣の相手は信長ちゃんしかできません。

仕方ない。


「じゃぁ、食事は終わったし、みんなでお風呂にいきましょう。今日の疲れをパッと汗と一緒に流すのよ」

「忍様、私も一緒でよろしいですか」

「信長ちゃんは当然よ。藤八達もおまけでOK」

「「「ありがとうございます」」」

「某もですか」

「宗厳も私の小姓になったからには一緒に入るのよ。慶次も当然」

「「畏まりました」」


やった!

選り取り見取り、夢に見た楽園よ。

これぞ、戦国パラダイス。


はぁ、何でそこで長門君は溜息を付くのかな?


「ねぇ、私も一緒でいいのよね」


千代女ちゃん!

って?

いつの間にか、信長ちゃんの横に移動しているのよ。

油断もスキもない。

新参者だから末席に座らせたのに。


「楽しみ! 信長様と一緒にお風呂」


おぉ~のぉ~、私だけのパラダイスじゃなかった。

この世界は辛すぎる。

でも、夢があれば、生きていけます。

夢だけで食っていけないけど、夢がなければ、生きてゆけない。

私だけの壺中の天(こちゅうのてん)よ。

それは、俗世間とは異なった別天地の異世界。

私だけのパラダイスです。


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