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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第3章「元親様も教育します。えっ、どうして世界が攻めてくるの?」
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5.全部、ちゃんばらなの事。

ちゃ~ちゃ~ちゃ~あぁ~、ちゅるりろりろ、ちゃ~ちゃ~ちゃ~あぁ~、ちゅるりろりろ、ちゅるりろりろ、ちゃちゃん、ちゃちゃん、ちゃぁ~……………!


私の脳内では、時代劇のクライマックの音楽が流れていた。


どうしてこんなことになったかは予想が付いた。


尾張で2~3日くらいゴロゴロしていると休憩に飽きてきた慶次様に急かされて旅に戻った。


近江の塩津から朝倉領に入り、敦賀に近づいてくると30人くらいの顔を隠した侍らに襲われた。


「イザぁ、尋常に勝負」


宗厳様に木刀、慶次様に杖を投げてつけて尋常に勝負もないよね!


まぁ、本気で仕合ましょうということだ。


相手は誰かと聞かれれば、考えるまでもない。


真剣な仕合とあって宗厳様はわすかに体を斜めに開き、切っ先を敵に向ける柳生流(後の新陰流)の中段に構えた。


直心影流の直立精眼の構えというらしい。


木の葉がふらふらと湖面に落ちて、波紋が広がるような静かな構えだった。


対する一人目は身を乗り出してまっすぐに正面を向く。


「やぁ、だぁ、かぁ」


やたらと吠えてうるさい敵であった。


でも、あれは威嚇ではなく、自らを鼓舞する呼吸法だと八瀬ちゃんが教えてくれる。

声を発する度に気が膨らんでゆき、木刀の先まで気が溢れているらしい。


全身に気を吐くって、ドラ●ンボ●ルか!


脳内エフェクトで金色の闘気が飛び出しているように想像しておこう。


対する宗厳様は気を内側に内包したまま外に出さない。


やぁ、ぴくり!


敵の切っ先がわずかに動いた。


八瀬ちゃんの超高速解説が唸った。


「正眼から左傾に入りますが宗厳様がすっと躱して、側面から頭を一撃と察して足を止め、左傾から返し八相で正眼から挑みますが、軽く切っ先を当てられて断念、ですが、剣は燕返しのような軌道で宗厳様の腕を狙いました。しかし、軽く足を半歩下げて安全圏に抜けます。後退して安全圏に向けると言っても神技です。


剣の軌道は腕の皮を一枚斬るか斬らないかのわずかな後退、体がブレたようにしか見えない後退から一転、わずか半歩の前進で切っ先を顔の正面に合わせます。


そのまま突きを繰り出せば、敵の一生はそこで終わっていたでしょう。


おそらく背筋が凍る思いで元の位置に戻りました」


う~~~~ん、見えなかった。


敵がちょっと前に動き、宗厳様の体がブレたように見ただけだ。

そして、互いに正眼の構えに戻ったらしい。


とても2つの生死を交わしているように見えなかった。


レベル高ぁ!


敵がさっきから何度か構えを変えて、宗厳様を威嚇するが微動だにしない。


だからと言って相手のレベルが低い訳ではない。


宗厳様の額からもうっすらと汗がにじみでている。


「八瀬ちゃん、解説、解説をして!」

「すみません。見入ってしまいました」

「うん、それはいい。いろいろな私の判らない攻防があったんでしょう」

「はい、よく足跡をご覧下さい」


足跡?


あっ、跳ねた。


よく見ると、敵の足元に無数の足跡が残されている。


すばやく動きまわっているってこと?


対する宗厳様はその足元の周辺だけが地面が露出して来ていた。


つまり、足元の雪がめくれるほど足さばきを交差しているんだ。


私は見えないだけで動いているの?


「敵は京八流の流れを汲む剣術を使われております。おそらく、中条流平法です」


検索、検索、あった。


中条 長秀ちゅうじょうながひでが創始者であり、足利義満の剣術指南役を務めた剣豪か!


『平法とは平の字たひらか又はひとしと読んで夢想剣に通ずる也。此の心何といふなれば平らかに一生事なきを以って第一とする也。戦を好むは道にあらず。止事(やむこと)を得ず時の太刀の手たるべき也。この教えを知らずして此手(このて)にほこらば命を捨る本たるべし』(中条流平法口決)


この意味が判る人がいる?


私にはよく判らないわ。


中条流を学んだ大橋勘解由左衛門高能より越前朝倉氏の家臣である冨田九郎左衛門長家に伝わり、子の冨田治部左衛門景家に至る。そして、冨田流とも呼ばれるようになる。


景家は生誕が大永4年(1524年)ってことは、今年23歳ですよね!


あっ、冨田 勢源(とだ せいげん)本人か!


「京八流は鞍馬山に鬼一法眼を招いて、源義経(牛若丸)が学んだのが始まりと言われますが、実際はどうか判りません」


鞍馬八流が京八流の源流と呼ばれているみたいだ。


そりゃ、牛若丸と弁慶の出会いを想い出せば、想像できる。


五条大橋に美しい笛を吹きながら颯爽と登場する牛若丸に薙刀で斬り掛かる弁慶、しかし、ひらりと躱すと牛若丸は橋の取っ手の上にぴたりと止まった。


激しくぶんぶんと斬撃を繰り出しますが、牛若丸は右に左にひらりひらりと飛んで躱したと伝わっているよね。


派手好きの京らしい立ち回りが、京八流と八瀬ちゃんが説明してくれます。


「京八流は蝶のように舞い、蜂のように刺す剣術です。しかし、宗厳様は先の後を制して、動きを封じています」

「柳生の本流は受け、後の後と言っていたよね!」

「はい、その通りです。これが手合せなら宗厳様は相手に隙をワザと作り、後の後で完全に受け切って柳生の本懐を遂げる所ですが、相手は仕合と言っております。間違っても負ける訳にいかない宗厳様は、相手の本来の姿を制して完璧な勝利を目指されているのです」

「つまり、蝶のように舞わせない」

「はい、そうです。相手の微妙な足取りや筋肉の張りから次の動きを予想して、切っ先をそちらの方に合わせてゆきます。当然、敵は本来の動きに制限が掛かり、無理をすれば、一撃が来ると察して、元の位置に戻っているのです」


互いに頭の中で相手の動きを予想して、脳内バトルを繰り広げているそうだ。


そして、敵、おそらく、勢源が覚悟を決めて上段の構えを取った。


「守りを捨てて、一撃に賭けるようです」


その空間に静寂が生まれる。


隣で戦っている慶次様が5人目の相手と対峙している。


決して、楽な相手じゃない。


機先を制するのが慶次様の戦い方だから長期戦になっている時点で不利が確定する。


今の所、何とか勝ち抜いている。


はじめて見る太刀筋に楽しそうな笑みを浮かべている。


必殺の『螺旋根』が相手の杖を払った。


激しい衝撃で杖が弾かれて、宙を舞って下に落ちた。


カコン!


その音が合図のように「とぉぉぉぉぉ!」と宗厳様の敵が大地を蹴った。


一瞬で間合いがゼロになり、宗厳様もすばやく振り翳してツバを合わせた。


「違います。敵は宗厳様を斬りに来ていますが、宗厳様はツバを外して、軌道を斬りに入っています」

「軌道を斬る?」

「はい、微妙の刀の腹を叩いて、刀の軌道を変える秘技の1つです。さらに恐ろしいのは、次の瞬間に力を抜いて押しきられるようにツバを合わせてままで、敵の刀を制していることです」


八瀬ちゃんが超興奮気味だった。


「ツバを合わせたままなので相手は次の動作に動き難くなっています。そして、懐に入った瞬間、逆手に持ち替えた柄を振り切ると相手の腹が真っ二つに斬ることができるのです。敢えて、振り斬らずに交差しましたが、これは向こうも判っているハズです」


敵は木刀を鍔に納めるようなしぐさをしてから頭を下げた。


「参りました」

「よき、仕合でございました」


宗厳様も頭を下げてあいさつを交わす。


「申し訳ないが、皆、血の気が多いので少し相手をお願いします」

「承知仕った」

「総掛かりで当たれ」

「「「「「「「「「おおぉぉ!」」」」」」」」」


弟子と思われる侍20人が宗厳様に向かってゆく。


こうして、冒頭に戻る。


代わる代わるに襲い掛かり、宗厳様が次々に打ち倒してゆく。


私の脳内で時代劇のクライマックスの音楽が流れていた。


見事なタテだ。


タテじゃなく、(手加減しながら)本気で打っているけどさ。


鮮やかに次々と倒されてゆく。


さて、慶次様は6人目で一際鮮やかな衣装をまとった総大将が相手をしていた。


「うらららららぁ、どうだ!」

「なんの!」


慶次様の機先を受けきった強者だ。


「まだまだ、百列槍」


必殺の『慶次百列槍』、どこかの漫画を読んでひらめいた連続突きの技だ。


慶次様も器用だから、様々な必殺技を盗んで自分のモノにしている。


百列槍は中二病が産んだ病気技だけどね!


藤八と練習していると「おまえはすでに●●(ピィ~~~)でいる」と台詞を吐くんですよ。


藤八も「ヤラレタのです。ブヒィ~!」とか言って倒れるのは止めよう。


遊んでいるのか、真剣に練習しているのか、判らなくなるよ。


慶次様の『慶次百列槍』も受けきられた。


強いわ!


「おぃ、おぃ、火男斎(ひょっとこさい)の爺さん。秋より弱くなっているぜ」

「うるさい、冬場は腰が痛くて本領が発揮できんのだ」

「言い訳とか、見苦しいね」

「ちぃ、まぁいいわ。儂の負けにしといてやる」


そう言って杖を雪の上に突き立てた。


秋に尾張に忍びで来た朝倉宗滴は火男斎(ひょっとこさい)という浪人の名を名乗って好き勝手に那古野城を遊び回り、遂に敵国の総大将が堂々と会議に混ざるのは止めて欲しい。


信長ちゃんも苦笑いしか出て来ない。


慶次様の相手は朝倉宗滴本人だったのか。


道理で強い訳だ。


ちょうど宗厳様の方も終わっていたので、教景(宗滴)が私の前までやって来て膝を折った。


「竹姫様に在られてはご機嫌うるわしゅうございます」

「久しぶり」

「竹姫様をどうお迎えすれば、よろしいのかと頭を捻りました。この趣向、如何でございました」

「私の趣味じゃないけど、二人は楽しめたみたいよ」


そう言って、私は頬を緩ませた。

宗滴の爺さんも口を緩めた。


「敦賀郡司、朝倉宗滴教景、竹姫様をお迎えに参りました」

「ありがとう」

「どうぞ、こちらに」


うん、私は『大義である』と言おうと思ったけど柄じゃないし、偉そうに聞こえるから普通に応えた。


まぁ、これでいいでしょう。


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