プロローグ
第3章です。
忍は本来の目的の為に旅立ちます。
えっ、大和は行かないか?
行きますよ。
でも、左近様の幼名って誰も知らないですよ。
下手に触ると、一生会えなくなりそう。
元親様に会う為に、
いざぁ! 土佐へ!
天文16年1月2日(1547年1月23日 )
ざくざくざく、私と慶次様と宗厳様は関ヶ原の関を超えて北近江の浅井領に入った。
私達の行く手を阻むのは雪です。
年末から降り始めた大雪は辺りを白銀の世界に変えてしまったのです。
近淡海(琵琶湖)は雪国ではないけど、意外と大雪が降ることはめずらしくない。
ねぇ、世界一の積雪記録って知っています?
昭和2年(1927年)2月14日の事です。
一晩中に降り続いた雪は辺りを白銀の世界に変えてしまいました。
伊吹山山頂で観測された積雪量は11メートル82センチとなっています。
新潟や信濃や北海道ではなく、世界一の積雪量を持つのは滋賀県です。
いやぁ、びっくりです。
この伊吹山周辺で1メートルくらい雪は割と普通に降るんですね。
しかも新雪だから歩き難い。
那古野を旅立って大垣の村に一泊させて頂くと、翌日は一面の雪だったのです。
1メートルほど積もった雪が掘っ立て小屋のような民家を押し潰して大騒ぎ、家の下敷きになった村人を救出し、簡単な治療を施した。
当然、被害がこの村だけである訳もなく、大垣・不破・関ヶ原の村々を回った訳だ。
「慶次、家を解体して薪を作って!」
「承知」
「宗厳、通路を確保、村人を使って雪かきを優先させて」
「判りました」
私が全部やったんじゃ意味がないけど、人命救助だけは優先した。
被害が一番酷かったのは関ヶ原の関原・小池・小関など村々であった。
2メートルも積雪が積もると、流石に全壊・半壊の家が目立った。
これも定めを諦めて、受け入れて生き残った者で再建する根性が素晴らしい。
草履で作業する村人が痛々しいので藁靴を進呈した。
見た目は普通の藁靴だ。
雪中で用いるわらで編んだ雪ぐつとも言う。
でも、中身の下地に毛皮を採用し、周りにゴム樹脂を撒いて完全防水処理をした上で藁編んだ藁靴に仕立てた。
「これ良いわね。長靴はまだ目途が立たないけど、これならすぐに使えるわ」
那古野で千代女ちゃんはそんなことを言った。
織田軍の雪中用藁靴に採用が決まった。
助けに来てくれた織田の兵士にも支給してあげたよ。
復旧は春になるとか言う。
可哀そうなので合掌造り集会場を提供して上げた。
村人50人が一緒に寝起きできる大型の屋敷だ。
えっ、領主の屋敷より立派で困る?
知らないよ。
いずれは代官所として使うと言っておいた。
農地は開拓したけど、不破や関ヶ原にはまだ代官が来ていないんだよね。
代官の研修が長引いているんだよ。
公家衆が引っ越してきたから、急きょ取次役が必要になった。
また、人手不足に逆戻りだよ。
千代女ちゃんは春までには間に合わせると言っていた。
そんなこんなで織田領を出るのが正月を超えることになった。
想定外だ。
◇◇◇
“忍様、囲まれております”
AIちゃん、ありがとう。
“どういたしまして”
「慶次、宗厳」
「あぁ、判っている」
「承知しております」
慶次様と宗厳様は気配だけで気が付いたようだ。
何人いるの?
“51人です”
織田領を出ると盗賊がでるとか、六角はどういう管理をしているのかな?
ここの支配は浅井家だから口出しをしない方針なのかしら?
無視して進むと完全に囲まれた。
道の前に数人の盗賊が待ち構えている。
「げへへへ、上玉じゃねいか」
体格は大きいけど、どう見ても頭が回る方じゃない。
「悪いけど、どいてくれるかしら。今日中に三嶋神社のある池之下村まで進みたいのよ」
「池之下村だと?」
「そうよ。三嶋神社は三島池を挟んで伊吹山を須弥山に見立てて作られた極楽の地なのよ」
「えへへへ、極楽なら俺達が連れて行ってやる?」
「ありがとう。でも、遠慮するわ!」
そう、三嶋神社の前に700年ほど前に三島池という人工のため池が造られた。
中国から持ち帰った極楽浄土の絵には、須弥山の前に池が広がっている。
ほらぁ、京都の平等院鳳凰堂の前にも池があるでしょう。
三嶋神社の創建は正歴元年(1184年)に佐々木秀義がこの地に勧請したといわれる。
平安時代の貴族は極楽浄土を求める人が多かったのよ。
「なるほど、忍は本当に物知りだな」
「えへへへ、こういうのが得意なのよ」
「つまり、伊吹山が美しく見える神社という訳ですな」
「そういうこと」
『おまえら、何をぐだぐだとしゃべってやがる。どういう状況か、判っているのか!』
何故か、盗賊の頭が切れていた。
「特に用がないから帰っていいわよ」
『出てきやがれ!』
木々や岩に身を隠していた部下が一斉に顔を出す。
中には弓を引いて威嚇している者もいる。
「もう一度言うわよ。今の内に帰りなさい」
『まだ、その減らず口が叩けるのか!』
「判った。判った。相手をして上げるわよ。助さん、格さん、やってしまいなさい」
「あいよ」
「承知」
ちゃ~ん、ちゃちゃちゃちゃ、たたたたん!
私の頭の中でテーマソングが流れ始めた。
51人といってもこの二人に掛かれば、赤子を捻るようなもんだ。
「「「化け物だ」」」
こら、逃げるんじゃない。
転移で元の場所に戻して上げる。
「「「「「「お許し下さい」」」」」」
「謝って済んだら警察いらないんですけど」
「なぁ、忍がいう警察って何だ?」
「警邏のようなものでしょう」
「あいつら、謝れば許しているよな!」
「そうですな」
「忍が許す訳もない。地獄行きだな」
「運が悪かった」
こらぁ、こらぁ、こらぁ、人を鬼のように言わないで欲しい。
聞いている盗賊が怯えているでしょう。
まぁ、許さないけどね!
「さぁ、決めなさい。強制労働か、新天地のどっちがいい?」
「どう違うのでしょうか?」
「強制労働は鉱山の労働よ。金も出すし、食事も与える。但し、10年間は島から出さない」
「新天地とは?」
「誰もいない無人島よ。がんばれば、生き残れるかもしれない。生き残れたなら島ごとあげるわ」
どちらも要領の得ない説明でした。
51人の内、40人が鉱山労働を選び、11人が新天地を選んだ。
転移だ!
あっという間に甲賀島(望月島)に並んである五島列島に連れていた。
「人手を連れてきたわよ」
「これは忍様、いつもありがとうございます」
「元、盗賊だから要注意よ」
「畏まりました」
鉱山労働を選んだ40人には、犯罪者の証であるチタン製の首輪を付けてある。
街で暴れた荒くれ共もみんなここに連れられている。
鉄鋼や石炭を運ぶ仕事は重労働だ。
代わりに食事だけはたっぷり与える。
態度のよい者は家族を呼ぶこともできると言ってある。
監視に付くのは強面の甲賀忍のおにいさんだ。
借りてきた猫のように連行されていった!
労働組が終わると、新天地組を無人島に案内する。
転移!
南の島々には無数の無人島が存在する。
生きてゆく為の樹木や獲物は生息していると思う。
元々、持っていた武具と刀と弓は返しておく。
私は手を貸さない。
がんばって開拓してくれたまえ!
「待てぇ! 待ってくれ!」
あぁ、面倒臭かった。
第3章「元親様も教育します。えっ、どうして世界が攻めてくるの?」
開幕です。
世界大戦を終わらせないと終わりませんからね!
でも、ちょっとペースを落とします。
ご了承ください。




