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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第2章.尾張統一、世界に羽ばたく信長(仮)
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72.震える北条の事

【 北条 氏康(ほうじょう うじやす) 】

北条 氏康(ほうじょう うじやす)は風魔から今川の惨敗を聞くと、織田を恐ろしいと実感したのです。


山科 言継(やましな ときつぐ)がやって来て、織田との同盟を真剣に考えるべきだと説いたとき、山科卿がどうしてそこまで推奨するのかが疑問でした。


南蛮船を所有する織田を恐ろしいと感じましたが、脅威とまで思っていなかったのです。


山科卿は言う通り、織田と北条の理想には近いものがあります。


北条は検地を実施して、民の暮らしを把握し、四公六民と善政を行っています。


織田は六公四民ですが、織田普請を実施して普請に際して銭を支払っています。


普請と言えば、あまねく奉仕を願うことであり、無償が普通です。


織田が普請で銭を民に返しているのです。


巧いやり方です。


北条が普請を行います。


皆、北条を信じて普請に参加してくれますが、その普請によって民を苦しめているのが実情です。


無理はさせられません。


ところが織田では、普請にでると暮らしが楽になるのです。


六公四民の内、二公が普請の財源となっていると、氏康(うじやす)は考えました。


織田と同じ北条普請を模索(もさく)できないかと考えるのですが、四公六民を六公四民に戻すのは悪手です。


河の改修、水路による耕作地の拡充、新農耕法、救荒作物の存在など、山科卿から聞いた織田の数々の施策に興味を持ち、氏康(うじやす)は織田との同盟を真剣に考えていたのです。


しかし、太原 雪斎(たいげん せっさい)が持ってきた今川との和平の話が魅力的であった為に織田の話は保留しました。


内政と外交上の安全、どちらが優先されるかは明らかです。


後顧の憂いをとった今川 義元(いまがわ よしもと)は4万もの大軍を用意して織田に攻め入ったのです。


義元(よしもと)の底力に恐怖を覚えました。


自分の判断は正しかったと得心したのです。


しかし、その義元(よしもと)が討ち取られた?


そればかりか、尾張国内、美濃牛屋、伊勢海戦にも完勝したと報告を受けたのです。


何よりも駿河湾に現れた織田の船団の話が氏康(うじやす)の肝を冷やします。


相模湾は駿河湾と同じく、湾の水深が深く、小田原城は駿河城より海に面した城だったのです。


織田の水軍に対して、小田原城は何の防御力を持たない。


さらに、安房を本拠とする里見氏と同盟でも結ばれれば、馳水海(はしるみずのうみ)(江戸湾)の支配も危うくなる。


それは北条の力の根源を失うに等しかったのです。


ところで!


どうでもいい話ですが、氏康(うじやす)は駿河城下町の火災を町人の不始末や空き屋を狙った盗賊の放火と報告を受けています。


一方、武田では城下町の付け火は織田の間者とされています。


なぜ?


この空き屋を狙った盗賊の中に風魔が下っ端がいたからだ。


風魔は下部組織まですべて掌握している訳ではないよ。


むしろ逆であり、強盗や盗賊、山賊、河賊などを風魔を棟梁に祭り上げていると言った方が正しかった。


強盗や盗賊、山賊、河賊などは風魔の命令で動いている訳ではないよ。


単なる利益共有者に過ぎない。


しかし、風魔と竹姫が接触したことを知っている三ツ者からすれば、駿河の強盗は風魔の指示であり、裏で織田が糸を引いていると判断した。


雪斎もそう思ったのかもしれない。


晴信は織田が自分と同じ領地の拡大を望んでおり、利害の一致より共闘することができると考えた。


自分がそうだから相手もそうだと考えるパターンね!


風魔は氏康(うじやす)にそんな報告をしていないので、武田と北条では織田の認識がかなり違っていた。


織田は直接的な攻撃を避けて駿河を後にした。


つまり、織田が主張したのは海で誰が強いかという力の誇示と受け取った。


現代風に言えば、制海権の主張だね。


もっと判り易くいうなら、


『さっさと荷止め・人止めを止めろ、ばかやろう!』


ということです。


そう氏康(うじやす)は解釈しました。


「まだ、海を見て悩んでおるのか!」


そう声を掛けてきたのは、北条 長綱ほうじょうちょうこう(後の幻庵)で早雲(そううん)の4男であり、氏康の叔父に当たる北条の要です。

早雲から風魔を託されており、すべて情報は長綱からもたらせたものです。


「いいえ、今は決めました。主だった者を集めて下さい」

「そうか、では集めよう」


祖父の早雲は伊勢新九郎という奉公衆であり、関東の争乱において駿河に下向して関東を治めます。


関東の争乱は京の縮小図でした。


将軍に代わって関東を鎮めようと考えたのか?


自らのし上がることができると野心を露わにしたのか?


早雲の心を知ることはできません。


ただ、民の安寧を旗頭にしており、四公六民による減税を実施し、徳政令も発行します。また、災害が起こると納税の免除を行って民を慈しみます。


新興国家ゆえに民に媚びを売っただけかもしれませんが、三代も続くと、それが国是となります。


北条家は関東の『王道楽土(おうどうらくど)』を目指していたのです。


そして、一代で作られた国ゆえに、当主を中心とする一門衆の中央集権国家でした。


俗にいう『小田原評定』(いつになっても結論の出ない会議や相談)は嘘です。


氏政・氏直親子が臣従・降伏をよしとしなかっただけです。


御隠居の氏政が臣従すると言っておけば、終わっていた話です。


上杉謙信ですら籠城で耐えたという悪い成功体験が判断を鈍らせたとしか言えません。


一方、政治において評定衆が家老クラスの奉行人・重臣による輪番制を採用したことで、裏切りをほとんど出さなかったという実績を残しています。


評定の間で重臣たちが集まって氏康に注目します。


「世田谷城主の吉良 頼康(きら よりやす)が世田谷八幡宮の建立の申し出を覚えておるか」

「はぁ? 頼康殿は鶴岡八幡宮の造営にも何かと便宜を図って頂きました」

「うん、その恩に報い、銭200貫文を世田谷八幡宮に献上したいと思う」

「よきお考えで」

「そうか」


昨日の事件より数日経ち、織田への懸案を聞けると思っていると、世田谷八幡宮の話が出て首を傾げます。


「さて、鶴岡八幡宮の再興を果たしてから6年、叔父上、私の名代として行って頂きたいと思います」

「あいわかった。戦勝の報告をしてくればよいのだな」

「こちらも銭200貫文を献上したいと思います。ですが、これほどの大勝です。大神様に直接ご報告申し上げるべきではないでしょうか」

「ふっ、伊勢神宮にも参拝して来いということでよいか」

「おなじく、銭200貫文を献上したいと思います」

「承知。さて、伊勢まで行くのでしたら鎌倉別(かまくらわけ)の祖であたるヤマトタケルノミコト様も拝んで参らねばなりませんな」

「お任せいたします」

「あいわかった」


これで話が通じました。


伊勢、熱田に向かう船を調達し、次に同行者の選別です。


「松千代丸、お主も同行いたせ」

「はぁ」


松千代丸、北条ほうじょう 氏政うじまさです。

後北条氏の第4代当主になれたのは、嫡子の氏親(うじちか)が若くして亡くなって為であり、この時点では氏康の子として同行することになります。


「お前も若に同行せよ」

「はい、父上」

「元服を許す。これより時長(ときなが)と名乗れ」

「はぁ」


時長(ときなが)は長綱の嫡子で、松千代丸と同じ8歳です。

松千代丸も目を輝かせて父の氏康を見ますが、どうやら元服はさせてくれないようです。


「若、お気を落とさずに」

「わかっておるわぁ!」

「若、元服は帰ってからでよいではないですか」

「そうです。まだまだ学ぶことがありますぞ」

「わかっておる」


松千代丸はちょっと拗ねました。

それを微笑ましく重臣たちが見守るのです。


他人事のように!


「そなたらの息子らも同行させよ。熱田には素晴らしい技術があるという。すべて持ち帰るまで帰ることを許さん」


えっ、評定衆一同が振り返って氏康を見ます。

松千代丸を同情していると、自らの息子も生贄に差し出させと言われてしまった。

当主自ら御子を差し出しているので、これは断り辛かった。


「織田にですか?」

「織田にある技術をすべて持ち帰れ!」

「人質ですか?」

「人質ではない。人質は別に用意する。叔父上、養女を一人頂きたい」

「畏まりました。信長の側室としてなら問題ありませんな!」

「すまん」


そこで長綱の嫡男の時長が声を荒げます。


「父上、織田は奉行職のどこの馬の骨か判りません。可愛い妹を側室などに出せましょうか!」

「長綱様、織田には正室と打診しては如何ですか」

「おぉ、それがよい」

「できるなら織田の姫を迎えいれたいですな!」

「そちらは善処しましょう。しかし、正室は無理ですぞ」

「どうしてですか? 格式、規模を我が方が上ですぞ!」

「格式をいうならば、正室に入るであろう尼子の姫の方が上ぞ」

「「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」」


みなさん、完全に私のことを忘れていたようです。

信長ちゃんは大好きだけど、結婚はね!

そんなことを知る訳もない。


尼子、血統と規模も北条の上でした。

尼子と言われて、時長も矛を降ろすしかありません。


「北条の次の世を築く者だ。ぬかりなきようにな」

「「「「「「「ははぁ」」」」」」」


長綱は交渉より子守が大変だと思っていました。


そして、子守の護衛に風魔を小姓として連れてゆくことにするのです。


風魔の小太郎を呼び出すと小太郎が驚きます。


「我らの子を士分としてですか?」

「いずれは思っていたが、よい機会がまわってきたのでなぁ」

「ありがたき幸せ」

「それとは別に200人ほどを我が家臣として取り立てる。織田に送っておけ!」

「取り立てて頂くのはありがたいのですが織田は手強く、探るのは無理でございます」

「何も裏口から行く必要はない。誘われておるのであろう」

「ご存じでありましたか」

「知らいでか、北条の家臣として織田に手を貸せ!」

「畏まりました」

「これで少しは早雲様の願いに近づいたな!」

「感謝の念に堪えません」


裏と表、これで織田の全貌が少しでも見えてくれば、そう長綱は思ったのです。



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