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信長ちゃんの真実 ~間違って育った信長を私好みに再教育します~  作者: 牛一/冬星明
第2章.尾張統一、世界に羽ばたく信長(仮)
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63.尾張統一戦、あづき坂の戦いの事(2)

尾張統一戦ファイナル祭り!


統一戦最後まで投稿中。


【 庵原 忠胤(いはら ただたね) 】

太原雪斎の義理の甥である庵原 忠胤は安祥城(あんじょうじょう)攻略を賜った仮の大将ですが、その気分はあまり嬉しいものではありません。


当初、安祥城の古地図を元に矢作川を如何に渡河して、野戦から攻城戦に移るかの策を練っていました。忠胤と同じ雪斎の弟子達が四万の今川軍で二万の織田軍をどう粉砕するかを議論したのです。


それはある意味、楽しい軍議だったのです。


二万の織田軍には鉄砲隊と火槍と呼ばれる武器であり、倍の兵力であっても安祥城を攻略するのは難しく、初戦の野戦でどれだけ削れるのかが軍議の焦点でした。


最低1万の織田を野戦で粉砕し、敵の士気を落とすのが今川の勝利条件であると結論つけました。


その野戦の策を持って、義元の元に向かったのです。


お館(義元)様はそれを見ることもなく、新しい報告書を我らに提示されたのです。


そこには安祥城とその周辺の全容が記されたものでした。


わすが3ヶ月でまったく別の城となっていました。


矢作川を同時に数か所から渡河して敵を包囲する策が使えません。


矢作川に土手が作られ、用意に渡河できない川に変わっているのです。


城も総石造りの四層の城になっています。


議論するまでもありません。


安祥城はこの4万の兵でも落とせない。<短期決戦で>


石造り城と鉄砲の相性が良すぎるのです。


4万の兵で安祥城を落とすには、2つの策しかありません。


付け城を周囲に造って、安祥城を孤立させて降伏に持ってゆくか?


攻城兵器を作って、城を攻略するか?


いずれにしろ、数か月、あるいは、1年を要する準備期間がないと攻略は無理だと口にすると、お館(義元)様が残念そうに我らを見る目が忘れられなかったのです。


 ◇◇◇


(庵原)忠胤は後方に作らせた本陣から安祥城の攻防を眺めていました。


「我らにも出陣の檄を!」

「ならん」

「「「「「「「忠胤様」」」」」」」

「ならん」


忠胤の隊は駿河・遠江の有力な武将の若者を集めた混成部隊であり、何の為にここに連れて来られたのかを彼らは知らないのです。


「そなた達は此度の戦をしっかりと見届けるのだ。それが今回のお役目と思え!」

「然れど、何もせず、本陣にいただけとは口惜しゅうございます」

「連れてきた兵は少ないであろう。何ができる」

「しかし」

「下がれ!」

「「「「「「「はぁ」」」」」」」


ふほほほ、残念そうに出てゆく若武者を見ながら雪斎が近づいてきます。


「叔父上から言ってやって下さい」

「言う必要もない。すぐに判る」


そういうと、伝令が走って来て、二ノ丸門を突破したという報告が入った。

後の陣幕で歓喜が上がっていた。

忠胤の顔がさらに曇った。


「私はお館(義元)様が恐ろしく思います」

「そうか、慣れよ」

「はぁ」


安祥城から小さな花火が1つ上がった。

反撃の狼煙であるのは明らかです。


「織田の信広、恐ろしい武将です」

「違うな!」

「違いますか?」

「信広にそんな知恵はない。信長か、あるいは、その近習の者だ」

「厄介ですな!」


忠胤は本丸まで味方が引き込まれたことを承知しています。

梯子や丸太で攻略できるほど生易しい城でないのです。

1,000丁の鉄砲隊を門の左右に並べるだけで、丸太隊では攻略できなくなる。


手持ちの鉄砲で2重盾は無意味なことは何度も確かめた。


兵に死ねと言っているのだ。


「これで駿河・遠江に徘徊する無法者が一掃されます」

「無用な混乱は避けた方がよいからな」

「今川に不満も持つ遠江衆の力も削げます」

「織田と同盟を組むとなれば、手の平を返して叛旗を翻すだろう。減らしておくに限る」

「歓喜に湧く彼らも肝を冷やすことになるでしょう」

「岡部、朝比奈、鵜殿など、その他の主だった者が否と申さないであるなら、同盟の話もすみやかに進めることができる」


そうです!


今川義元は負けるつもりなのです。


負けることで織田との同盟に反対する者の口を塞ぐのです。


井伊谷の井伊家のように今川家に反抗的な家の将と兵士の始末を織田に押し付けたので、遠江の連中は叛旗を翻すことになるでしょうが、肝心の将と兵がいません。


精々、不満を漏らすくらいしかできないでしょう。


織田との話が済むまで、彼らに大人しくして貰うのが義元の策なのです。


それを知って、先陣の総大将に命じられて嬉しいハズもありません。


安祥城に鮮やか炎が上がったと思うと、火槍が本陣の方へ火槍が飛んできます。


「ほぉ、届くのか?」

「叔父上」

「慌てるな!」


ズド~ン!


空中で火槍が爆散します。

その一陣の風が雪斎と忠胤の頬を揺らすのです。


ズド~ン、ズド~ン、ズド~ン!


本陣が急に慌ただしくなってきます。


「注進、敵の攻撃です」

「見れば判る。慌てるな! ゆっくりと隊を後退させよ」

「叔父上、あまりゆっくりもできないようです」


むっ、雪斎が前を向き、忠胤の見ている方に目を向けます。


「なるほど、火槍はわずかに届かぬようだが、そういう使い方もあるのか!」

「ですな!」

「ははは、思いつかなんだ」


当たりに火の粉が落ちて、田んぼの油に引火しているのです。


矢作川を渡河して、雪斎は一番に田の中を確認させました。

田がぬかるんで歩けないこと、そして、水でなく油が撒いてあること。


いったい、どれくらいの銭を使ったのでしょうか?


織田の財力に凄さが見え隠れします。


数日前から岡崎城から向こう岸で百姓が何かを撒いていたからです。


この時期に水やりは田をぬからせた嫌がらせと思っていましたが、水ではなく、油というのが織田らしいかったのです。


合図の花火が上がると、城の向こう側からも火が上がっています。


火がこちらに回るまでかなり時間が掛かると思っていたのですが、火槍から落ちた火の粉が引火して、中央からも火が上がってゆくのです。


「見事だ! 徹底しておる。城内にいる者もこれで逃げ道を失うことになるぞ」

「はい、城内の兵が出てきた頃には、こちらも火の海になるかと思います」

「恐ろしい敵だな」

「はぁ、お館(義元)様と対を為すほどに」

「そうだな!」

「父上、そろそろ行かねば、危なくなります」

「では、交渉の大魚を引き上げに向おうか!」

「はぁ」


雪斎と忠胤がその場で荷を捨てて、馬に乗って後退してゆきます。


炎との競争は若武者も気が気でないようです。


まぁ、慌てふためいて醜態を晒さないだけ褒めて上げるべきでしょう。


この本陣ですら命からがら逃げ出したのです。


城攻めに参加した者は絶望的でしょう!


少なくとも彼らはそう喧伝してくれるでしょう。


 ◇◇◇


再渡河を終えて岡崎側に戻ってくると、みすぼらしい泥だらけの甲冑を身に付けた(朝比奈)泰能の兵2,000人が出迎えてくれました。


(庵原)忠胤に従う本隊3,000人に若武者は、岡崎城に向かうように指示すると、(鵜殿)長持の兵1,000人を加えてで吉田(今橋)城を目指して南下します。


周りから見ると敗残兵が行軍しているように見えるでしょうか?


しばらくすると、黒ずくめ男が雪斎の前に現れます。


「信広、まもなくこちらにやってきます」

「ご苦労」

「後続に厄介なのが付いてきておりますので、(藤林)長門守は足止めに向かっております。なるべく早く決着を御付けになりますようにとの言伝です」

「食い止めならんか!」

「おそらくは」

「そうか、あいわかった」


長門守(藤林 正保(ふじばやし しょうほ))の部下らしいです。


叔父上の予想通りになって行きます。


やはり、叔父上(雪斎)も恐ろしいと、忠胤は思うのです。


そういうと黒ずくめの者が去ってゆきます。


「進路変更、あづき峠を越える」


泰能と長持が兵に指示を出して山間(やまあい)の道に進路を取ります。


岡崎城より南に5kmほど下がった所にある『あづき坂』という坂道を上っていると、信広の兵が襲い掛かってきたのです。


総崩れになるのを装って坂を上り切る所まで逃げるのです。


「よし、ここまでじゃ」

「反転!」


兵士達を反転して逆撃を加えます。


なぜならば、弓隊が先頭を走り、槍隊が最後方に配置した奇妙な配置も反転すると、あら不思議、足軽の槍隊が先頭になる普通の陣形に戻るのです。


『『押し返せ』』


泰能と長持の声が重なります。


あづき坂の戦いがはじまったのです。


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