57.尾張統一戦、南宮社の戦い余談の事
尾張統一戦ファイナル祭り!
統一戦最後まで投稿します。
安藤 守就と稲葉 良通は5000人を率いて南宮社に向かった。
鉄砲への対策は万全であった。
そう、板を三重に重ねた間に鉄の板を挟んだ『大盾』を用意したのだ。
考えたのは帰蝶様であった。
この『大盾』の欠点は重いことだ。
移動の際は荷車を使う。
足軽が両手でやっと運べる代物であって鉄砲盾として使い、鉄砲を撃った後に強弓で撃ち返すという作戦を(安藤)守就と(稲葉)良通で立てていた。
南宮社に立て籠もる不破 光治は300人ほどしか兵を持たない。
一人一人と戦力を削いでいけば、いずれ崩壊すると思っていた。
(安藤)守就と(稲葉)良通は大盾と強弓を揃えて、南宮社に挑んだ。
◇◇◇
わずか1ヶ月で城が作られていた。
報告では土を盛り重ねただけの砦と聞いていた。
しかし、到着すると『総石壁』の丘城が生まれていた。
「稲葉殿、どういうことですか? 聞いておりませんぞ」
「儂は知らん。土の砦と木の柵が覆われておったと!」
「これのどこが土と木の柵ですか?」
「言わずとも、見れば判るわ!」
内心、やり直したい。
引き返すべきだ。
心の警鐘がなっています。
南宮社を任せろと言ってきた手前、何の成果もなく帰る訳にいかないのです。
『『掛かれ!』』
(安藤)守就と(稲葉)良通はやることはいっしょと攻め始めました。
不破の400丁の鉄砲が何度も火を噴きました。
大盾はそれをしっかりと受けてくれました。
いける!
(安藤)守就と(稲葉)良通は確信したのです。
5,000人の内、1,000人も強弓の兵を揃えた極端な配置が功を奏しました。
弓ではなく、強弓というのが重要です。
強弓を撃てる者は多くなく、これだけの数を揃えるのに相当苦労したのです。
奥美濃と木曽という山深いことが幸いしたのでしょうか?
弓の名手が多くいる地域だったので、なんとか集められたのです。
弓の名手が一人、また一人と削ってゆきます。
鉄砲も3カ所に分散させたことも原因でしょう。
雨森良里が(不破)光治の側に寄って注進します。
「不破殿、拙いですぞ」
「如何しました?」
「こちらの打ち手を狙われております」
「いい弓手を揃えてきたようですな!」
「どうなされます」
「仕方なりません。仕掛け箱を使います」
そう光治がいうと打ち手の横の置いていた箱の紐を切ると、小さな矢が一度に60本も撃ち出されるのです。
それが100カ所あり、6,000本の小矢が雨のように降り注ぐのです。
「箱を交換せよ」
そういうと箱回収する者が置いてある箱を持ち上げて引き込み、奥に積んである新しい箱を台に置きます。
「紐切れ!」
台に箱を置くと紐を切ります。
すると、また60本の小矢が撃ち出されます。
都合、10箱!
計6万本の小矢が頭上から降ってきたので慌てました。
「退避、一時退避だ」
仕切り直しです。
休憩を入れていると、多くの者がしびれて動けなくなってゆくのです。
「稲葉殿、これをご覧下さい」
「これは先ほど撃ってきた矢であるな!」
「小型で恐れるほどでないと思っておりましたが、矢の先に毒がぬってありました」
「なんと卑怯な!」
「動ける者は何人残っておる」
部下に調べさせると、500人ほどが動けなくなっているのです。
油断大敵でした。
休憩の後に再度、編成を行います。
強弓士が不破の鉄砲と弓を一人一人と潰すことで、手柄を立てようと突撃を駆けていた部隊がいくつかあったのです。
その突撃の最中に矢の雨が降ったのです。
小矢の欠点は威力が弱いことです。
一撃で即死になることがありません。
しかし、ぐさりと刺さると毒がすぐに全身に回って動けなくなります。
苦しむ仲間を助けようと(普通の)盾を持って飛び込んできます。
殺すより傷付いた者を残す方が戦力を割けるという見本のような展開になっていました。
小矢など(普通の)盾で十分に防げるという油断もあったのでしょう。
仲間を助ける為に二重遭難が起こる。
この作戦を考えた千代女ちゃんは意地悪です。
殺すより、怪我人を増やす方が敵の戦力を削げると教えたのは私だけどね!
即、実行。
怖い子だわ!
一時休憩を終えて、組織の再編を行おうとした(安藤)守就と(稲葉)良通に思わぬ事態が襲うのです。
そうです。
ちょっとしたかすり傷を負った者も時間が経つと動けなくなっていったのです。
「残った数は?」
「2,500ほどで………申し訳ございません」
まさか、半数が脱落するなど誰が思ったでしょう。
千代女ちゃんもそこまで思っていませんでした。
後で聞いてびっくりすることになります。
(安藤)守就と(稲葉)良通は一度に半数の兵を失ったのです。
(死んでいませんよ。しびれて動けないだけです)
「如何する?」
「よろしいですか?」
「なんだ?」
「先ほど、突撃を加えた部隊の者が言っておりました。壁の近くは矢が降って来なかったと」
仕掛け箱の欠点は狙いを定めることができないことです。
作戦は簡単に決まりました。
(安藤)守就と(稲葉)良通は良い武将ですが、竹中半兵衛や黒田官兵衛など智将から見れば、もっとも扱い易い相手なのです。
むしろ、本田忠勝や可児才蔵など猛将と呼ばれる武将の方がどう動くのか予想が付かないので、もっと厄介なんだけど、はまり過ぎでしょう。
軍の再編を終わり、大盾を前に並べ、本隊を後ろに下げます。
再び、鉄砲隊と強弓隊の戦いがはじまります。
不破の鉄砲隊の前に矢盾を余分に立てて、強弓に対抗します。
怪我をした鉄砲手を下げて、替わりの者が鉄砲を持っているので数は減っていませんが、実質の打ち手は80人に減っています。
「当たらんでもよい。とにかく、撃て!」
不破様がそう下知を貰って、とりあえず撃てそうな下男が鉄砲を持っています。
矢盾を多く置いたことで鉄砲手は狙いを定め難くなり、強弓を注意深く警戒しながら鉄砲を撃っています。
強弓も警戒しながら矢を放ち、小矢が降ってきても身を隠す場所を確保しています。
不破は矢盾の後からクロスボウを百姓達に適当に撃たせており、偶然に当たればラッキーという感じ、強弓士が乱れた所を鉄砲手が撃ち抜くという手法を取っています。
一方、強弓士が3人で1人の鉄砲手を狙い、天空に撃って山なりの矢で真上から鉄砲手を狙うというかなり難しい撃ち方で挑んでいます。
打ち手が半分になったことで「当たるものなら当ててみろ!」という強気な攻めが消えたのです。
しばらく膠着した矢・鉄砲合戦が続きます。
しかし、弓の名手と最近訓練をはじめた射手の差がじわじわっと広がってゆきます。
ぐわぁ、また一人鉄砲手が傷を負ったのです。
「救護班」
傷ついた鉄砲手を下げます。
我慢比べ!
先に切れた方が負けなんて思っているのでしょう。
(安藤)守就と(稲葉)良通が一瞬のチャンスを待っています。
ぐわぁ、また一人鉄砲手が撃たれました。
(不破)光治が痺れを切らして仕掛け箱の発射を命じます。
その瞬間!
待っていましたと、(安藤)守就と(稲葉)良通が下知を送ります。
強弓士は盾を合わせた非難場所に身を隠し、わぁぁぁぁと後方にいた両軍に兵が一斉に進みます。
仕掛け箱の交換が済むより早く壁まで走れ!
交換が終わり、次の仕掛け箱の小矢が飛んで誰も傷つかないことに突撃達の兵が喜びます。
「壁と穴、双方から仕掛けぞ!」
「「「「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」」」」
(安藤)守就と(稲葉)良通の兵が襲い掛かってきます。
「樽を割れ!」
通路用のトンネルの出口置かれた大きな樽が割られると、トンネルを通って一気に水が放出されるのです。
「なんだ、この匂いは酒か!」
酒は酒でもアルコール度数99.9%の蒸留酒です。
1本の火が投げ入れならると、一気に火が燃え広がるのです。
まさに地獄絵です。
その上で、火薬筒を放り入れでゆきます。
ドガ~ン、ドガ~ン、ドガ~ン!
火の粉が飛び散ります。
火だるまになった兵が助けを求めて戻って来たことで、兵たちの限界を超えたのです。
「助けてくれ!」
「おら、死にたくないだ!」
「待て! 留まれ!」
(安藤)守就と(稲葉)良通らに仕える武将達の声など、もう聞こえません。
ズドン、ズドン、ズドン!
後方からも爆発音が聞こえると家臣達も動揺が走ります。
「殿、ここは撤退を!」
「立て直せぬか?」
「最早、無理でございます」
「後方にいる動けぬ者達はどうする」
「某と某の家臣で少しでも」
「死ぬなよ」
「はぁ」
別れを告げて、(安藤)守就と(稲葉)良通らが撤退を開始します。
因みに伊賀の衆は南宮社の周辺で火が上がると、火薬筒を後方で鳴らすように指示を受けていたのよ。
(安藤)守就と(稲葉)良通は逃げる途中で兵を糾合し、何とか牛屋(大垣)城に到着したときは城が燃え、無残な姿をした義龍を見つけたのです。
生きている者を糾合して逃げる以外に手がなかったのです。
南宮社の外れに傷ついた斉藤の兵2,500人は、伊賀衆200人に囲まれて武装解除されると縛られて捕らわれます。
面倒くさいですが、明智の将を呼び、人質引き渡しの儀式を行うと、翌朝、傷が浅い者は解放し、その将に従って帰国していったのです。
生きて帰ってきた部下や百姓たちの無事を(安藤)守就と(稲葉)良通は心から喜んだのです。




