92.ヒメ パーソンズ邸へ行く
「可もなく不可もなし。だけど、不可がないならいいかな。」
草原で薬草を採取しながら角ウサギ狩り。あわあわしながらも、なんとかやり遂げて、ギルドに戻ってきた。
「明日からは、さっきの気持ちを忘れないであなたたちだけで頑張りなさい。」
ファリナが4人を見回す。
「ま、何かあったらノエルお姉様に相談しなさい。」
「うるさいです、ヒメさん。」
わたしをギロッと睨むノエルさん。
「明日からわたしたちだけで・・・」
急に不安げな顔になるルイザ。
「大丈夫だって。言われた通りメンバーの動きがはっきり固まるまで無茶しなきゃいいんだから。」
「オトーヌが言う?この猪突猛進娘が。」
「エーヴ酷い。この間血まみれの水浸しにされてから反省してます。」
「えー、ホントー?」
ナターシャがからかうような目で見る。
「ノエルさんに言われたように、男でも何か些細な事で帰ってこないこともあるの。油断と自信過剰は禁物。でも、臆病すぎてもやっていけないからね。少しずつ毎日から学んでいって。あなたたちには時間はたっぷりあるんだから。」
「先生向きですね、ファリナさん。」
ノエルさんが感心してる。そして、受付カウンターまで椅子を引っ張ってきてカウンターによしかかるように座るわたしを見て・・・
「無理そうですね、ヒメさん。」
「ノエルさんに魔獣が狩れないように、わたしにだってできないことくらいあります。」
「できないことの方が多い。」
ミヤ、最近冷たいよね。
「ヒメ様の愛情不足。白がいなくなったと思ったらわけのわからない素人、さらに黒。邪魔者が多すぎる。」
それ以外は一緒にいるじゃん。
「そして、あれ。」
見るな。見ない様にしてるんだから見るな。
わたしたちから少し離れた席で優雅にお茶を飲むエミリア。
こっちは正式な黒のメイドドレスに白いエプロン。ヘッドドレスこそつけてないけどいかにもなメイド姿。うん、ユイあんた、コスプレ感強すぎ。
チラと見る。ヤバっ、目が合った。
なんでエミリアなのよ。マリシアの方が成功確率高いと、この間学習したはずなのに。
「2度目は絶対逃げるだろうという旦那様の配慮です。」
話しかけるな!いないことにしてるんだから。
「終わりましたか?行きますよ。」
何、そのもう行くことが確定してるかのような態度。行かないよ。
「わたしがダメな場合お元気になられた奥様が来られます。」
「・・・行きます。」
ダメだ。マリアさんに来られたら勝ち目がない。
「そうしていただけると助かります。ついでと言っては何ですが、奥様に一言お願いできませんか。奥様、薬のお礼として一緒に魔獣を狩りに行くと言ってきかないもので。フレイラ様も便乗しそうですし。」
あの母娘を連れて狩り?獲物がみんな逃げだすよ。それ以前にフレイラ、あんたは懲りるということを知りなさい。
「1人だったから危ないのです。最初から一緒ならファリナお姉様がしっかり守ってくれます。また抱き合っちゃったりして・・・エヘヘ・・・」
パーソンズ邸に着くなりこれだ。フレイラは、もうそのまま夢の世界にいなさい。
わたしたちの他、夫妻とフレイラがいるパーソンズ邸の居間を見回す。いよいよここも今日限りで燃え落ちるのか・・・感慨深いものがあるなぁ。
「燃やさないでもらえないか。」
「そうなったら、ヒメちゃん家に居候ね。わたしヒメちゃんと同じ部屋でいいわよ。」
「では、わたしはファリナお姉様と一緒ですね。」
母娘が何の危機感もなく楽しそうだ。
「私はどうするんだ?」
チラとミヤを見る。このロリコンが。
「あなたは、ハンターか商業のギルドで寝泊まりしてください。」
マリアさんが意外に冷たい。
「妄想は大概にして、なんの用?」
「白聖女様を、リリーサを探してきてくれないか。」
予想外の展開。わたしたちに関係ないのならラッキーだけど、リリーサを売るのもなぁ・・・また難癖つけられて貸しだとか言われても困る。あいつ、友達とか言いながら商人の血が抜けなくて、何でも貸し借りで考えるからなぁ。
「リリーサに何の用?彼女に不利益な用事なら悪いけど従えない。」
「国王様がお呼びなのよ。」
マリアさん何と申された?その件は片付いたんじゃなかったの。
「灰色狼はごまかした。だが、その後、国王様にパープルウルフを献上しただろう。あれが大層美味だったらしく、狩った者を呼べと。」
「知らないハンターだって言い張ればいいじゃん。」
「マリアがパープルウルフの感染症だとご存じだったのだ。その薬になるパープルウルフが都合よく手に入る、ということは知り合いのハンターに頼んだはずだと仰られてごまかしがきかなくなってきた。」
「待ってください。パープルウルフの方が灰色狼より先にそちらに渡しています。何でそんなことになるのですか?」
ファリナ、あいかわらずナイスツッコミ。
「当然のことながら、マリアの治療が優先だ。落ち着いてからパープルウルフの肉と毛皮を献上しようとしていたら、灰色狼の話が来て、先に灰色狼を王宮に渡したんだ。その後にパープルウルフを献上した。で、この騒ぎだ。」
いい夫アピールがウザい。こっちにはいい迷惑だ。
「通りすがりのハンターだ、で逃げ切れないの?」
「病気になったとたん、治療に必要な、滅多にこちら側に現れることのないパープルウルフを持った通りすがりのハンターに偶然会いました、と言えと。それで納得していただければいいが、していただけなかったら不敬罪で死罪ものだぞ。どう考えても。」
「かかってるのはロイドさんの物理的な首か。」
「物理的という言い方はやめろ。第一、この国は絞首刑だ。首は切り落とされん。」
「それで、現状どう説明してるの?」
ため息しか出ない。ここでロイドさんが不慮の死を遂げたら問題は解決するのかな。とりあえず説明責任はなくなるよね。国王だってまさか病床についていたマリアさんに説明しろとは言わないよね。何だ、一気に問題が解決しそうだよ。
「解決するか。今はそのハンターが長期の狩猟に出ていて、連絡がつかない事になっている。だが、いつまでごまかしきれるか。それで、リリーサだ。」
「あぁ、リリーサが狩ったことにするんですね。彼女なら他の国のハンターだし、しかも有名な白聖女。国王様もよけいな事は出来ないはず。」
ファリナがなるほどと頷く。
「問題はリリーサの了解がとれるかだ。とりあえず話をしたいので、探してきてくれないか。」
え?リリーサを?探す?
「どこにいるの?あのポヨポヨ。」
全員が互いを見回す。ため息しか出ない。
「ガルムザフト王国にいればいいな。」
「次の開店準備で狩りに出てるんじゃないかしら。」
うーむと頭を捻る。あの女の行動を予想しろと。そんなことができたら、毎日の天気くらい簡単に当てられるよね。
「人を探すのと天気予報が同程度ですか。」
いや、フレイラ。はっきり言って天気の方が当たると思うよ。
「行きそうなところに心当たりはないの?」
「それなんだけどね、マリアさん。あいつの狩猟範囲って、北からギャラルーナ帝国、ガルムザフト王国、ここエルリオーラ王国、そしてバイエルフェルン王国と、もう広いのなんのって。」
「東方諸国の半分か、広すぎるな。何とか扉があるから、どこでも行きたい放題か。やっかいだな。」
みんなでため息。
「店番の色物姉妹なら行き先を知っているのではないか。」
珍しくミヤが話に入ってくる。あのね色物って・・・
「あ!そうか!」
あまりにもアレ過ぎたので、記憶から追いやられていたけど、今のリリーサの店には常備の店員がいるはず。
「常備ってなに?」
いいんだよファリナ、わかればいいの。
「あてがあるのなら、行ってみてくれないか。このままではお前たちの名前を出すしかなくなる。」
うん、そうなったら、この家が物理的に炎上するけどね。
「物理的はやめろ。」
仕方ない。行ってみるか。
「だから、行き先を言っちゃうと日程の調整が面倒になるって言ってあったでしょ。」
「今回は仕方ないでしょ。とりあえず、町を出て森に入ったら、ガルムザフトまで翔ぶよ。」
「いらっしゃいませ、わたしはミロだよ。」
「いらっしゃいませ、わたしはロミだよ。」
「「二人合わせてミロロミだよ。」」
ガルムザフト王国のリリーサの新しい店に入るなり、すでにいたお客の相手を打ち切って、双子が踊り出す。
周りのお客が締まらない顔でにやけてる。ほら、変なお店になっちゃった。というかまだやってるの?それ。
「あ、店主様のご友人だ。」
「わたしたちは名乗ったのに名乗らなかったご友人だ。」
悪かったわよ。予定ではもう会うこともないって思ってたのに。
「私はヒメ。ちょっと、どちらか片方いい?話がしたいの。」
「話なら2人で聞きます。ミロはロミといつも一緒。」
「ロミはミロといつも一緒。離れることはできないの。」
「内緒の話なの。2人で奥に入ったら店番誰がするの。」
聞き分けてほしい。燃やしちゃう前に。
「泥棒されたら、ミロは店主様に叱られる。」
「泥棒されたら、ロミは店主様に叱られる。」
「「叱られたら、ミロロミは泣いちゃうかも。」」
いや、だからどちらか1人だけ来てほしいんだけど。
「安心しろ。俺が見張っててやる!商品に指一本触れさせないぞ!」
お客の1人が前に出る。さらにもう1人。
「俺も見張るぞ。ミロロミを泣かす奴は俺が許さない!」
「そうだ!俺も見張っていてやる。安心して席をはずしていいぞ!」
「俺も!」
「俺もだ!」
そこにいた全員が見張りを買って出る。
全員帰れ。それで問題解決するから。開いた口がふさがらない。
面倒だからお客に店をまかせてちょっと奥へ。
「それで、何ですか?」
「それで、何ですか?」
片方だけでいいでしょう。いや、もう気にしない。そう、気にしたら負けだ。
「リリーサなんだけど、今どこにいるか知らない?」
「店主様ですか?」
「店主様ですか?」
「「お出かけしました。」」
踊るな。見ていてイライラするけど可愛いなぁ、ちくしょう。
「どこに?」
「ヒメさんの家に。」
「ヒメさんの家に。」
「「さっき行きました。」」
すれ違いかい!
「「そう言えば、ご友人の名前もヒメなんですね。」」
「も、じゃなくて、わたしがヒメなの。」
「それは一大事。」
「それは一大事。」
「「店主様、行き違いになってます。」」
ムカッと来るけど、この娘らの踊り見てたら、なんかどうでもよくなってきた。まずいな、だんだん慣れてきちゃってるよ。
「ありがとね。ファリナ、ミヤ。とりあえず家に帰ってみよう。」
「それしかなさそうね。」
「家の前で待っているのではないか?」
「ありそうだね。で、帰ったら『どこ行ってたんですかー』とか言われそう。」
店を出て、近くの森に入る。ここなら<ゲート>を開いても、人目につかない。
マイムの町近くの森に出る。
どうせ、家の前にいるんだろうから焦っても仕方ない。ゆっくり行く。
そして、わたしたちの家の前。
・・・誰もいない・・・
「おかしいわね。リリーサが簡単にあきらめて帰るとは思えないんだけど。」
ファリナが周りを見回す。
ミヤが家の鍵を開け、ドアを開く。
「遅いです。待ちくたびれました。」
居間の椅子に、リリーサとリルフィーナが座っていた。
「どこから入ったの?」
鍵はミヤの魔法でどうやっても開かないはず。
「<あちこち扉>で入りました。この家魔法障壁かけてますね。<バラバラ>が通じなかったんですけど。」
「ミヤ?」
「物理的に閉鎖されてはいるが空間魔法までは考慮していない。」
え、空間魔法でなら入れるってこと?待って、勝手に人の家に上がり込んでるってのはどういうことなの?リリーサ・・・しかも、最初ドアを破壊しようとしたって言ってたよね。
「親しき中なら礼儀なしというではありませんか。」
「「言わない!」」
わたしとファリナの怒鳴り声が部屋に響いた。




