82.ヒメ 新人ハンターに会う 2
「戦闘経験は?」
4人の新人を見る。
「せんとうですか。わたしは・・・」
「待った。話す前に、名前を言って。『誰誰です。わたしは・・・』という風に。」
「軍隊式か何かの発言方法ですか?」
ノエルさんが不思議そう。この国じゃ騎士だから、軍隊ないもんね。帝国に行けば軍隊だって話だけど。実際私もよく知らない。
「まぁ・・・そんなとこかな・・・」
ファリナが言い淀む。
「ヒメ様名前覚えられない。4人なんて絶対無理。10回くらい名乗ってもらえば、2人くらいは覚えられるはず。」
はっきり言うんじゃない、ミヤ!
「あー、ルイザです。銭湯は行ったことありません。」
「ナターシャです。5歳くらいまでは家の近くのカミスの湯に行ってました。」
「エーヴです。わたしは・・・」
「はい、黙れ。だれがお風呂の話をしてますか!」
「「「「え?せんとうって・・・」」」」
「無理だわ。絶対無理だわ。今度魔神出たら、わたしたちだけで何とかするから、それで勘弁してもらえないかな。」
もはや泣き言しかでない。
しょんぼりとソファーに座る4人。
「ハンター以外でもみんなかわいいんだから、お店の店員とか食堂のウェイトレスとかでも仕事あるでしょう。」
「サムザス事変以来、人がめっきり減りました。店員やウェイトレスの募集なんて滅多にありません。」
「針縫いとか細々とした仕事ならありますけど、食べていくのがやっとです。男なら工場や採掘場とかの力仕事がありますけど、女のわたしたちが、それなりの収入を得ようと思うとハンターか、だめならもう・・・体を売るしか・・・」
いきなりリルフィーナの顔が浮かぶ。あの娘はリリーサに出会えて幸せだったのかな。
なんにせよ、それを言われたらもうお手上げです。
「1週間、1週間だけ見てあげる。それで見込みがなかったら、諦めて別の仕事探しなさい。あぁ、体を売る以外のね。」
「1週間じゃ・・・」
「見込みがあるなら、延長してあげるわよ。そして、ノエルさん。高くつくからね、この貸しは。」
「わかってます。フレイラ様から聞いてます。」
頬を赤らめ決意の表情のノエルさん。待て、フレイラから?すっごい嫌な予感がするんだけど・・・
「わたしのスカートを捲らせればいいんですね。」
「ウガーーーー!」
「わ、わたしもスカート捲られるくらいなら我慢します!」
「わたしも!」
「わたしも平気です!」
「わたしも我慢します!」
「帰る!もう帰る!!」
「え?なぜですか、ヒメさん?捲り放題ですよ。」
誰から燃やせばいいかな・・・フレイラは絶対だな・・・
「わたしに対するつまらない冗談は死ぬのを覚悟して言うように。」
「ヒメ様は漫談にうるさい。」
「漫談の話違う!!」
「え、と、ファリナさん。ヒメさんの趣味はスカート捲りで間違いないんですよね。」
「合って・・・いるのかな・・・」
オロオロするノエルさんを直視できないファリナ。間違ってるよ!
「あの、ノエルさん。あの人で大丈夫なんでしょうか。」
「そりゃ、男の人相手じゃ何されるかわからないから勘弁ですけど、あの人からも似たような匂いがします。」
リーダー格のルイザともう1人が、なにやら異議を申し立てているようだけど、正直嫌なら断ってくれてもいい、というより、断りなさい。わたしからは、やってもいいと言ってしまった以上断りづらいから。
「ここのギルドで女性は、今現在あの3人しかいないの。前はいたんだけどサムザス事変で戻らなかったから。それに、性格はあれだけど、腕は確かよ。Eランクの時にオーク何匹も狩ってきちゃうし、登録から半年でCランクになっちゃうし。おかげで、ギルドの中じゃ少し浮いてるけど・・・」
余計なお世話だ。というか、性格があれって何?あれって?
「Cランクなんですか?」
ノエルさんに意見してた2人の後ろの方で小さくなっていたもう2人のうち、確か最年少だった娘がオズオズと声を掛けてくる。
「Cランクなんだよ、残念なことに。」
「普通のCランクですか?勇者になれそうなCランクですか?」
「勇者になりたくないCランクかな。」
「ですから、ヒメさん。その件は、近々マスター込みで話をしましょう。」
「マスターが出てこれたらね。」
マスターとやらに1度会ってみたいから、話ぐらいなら聞いてもいいかな。
「うぅ、人格と実力は関係ないんですね。」
4人組の1人がボソッと呟く。意外と失礼だな。
「好き勝手言ってるけど、あなた方にできるのは4つ。素直にわたしたちの指導を受けるか、身の危険覚悟で他のパーティーのメンバーになるか、何も考えずにそのまま4人で獣と戦うか、ハンターになるのをやめてひっそり生きていくか、好きなのを選びなさい。あなた方の人生よ。」
ファリナが真剣な顔で4人を見回す。
「他の町に行けば女性ハンターいるんじゃないのか?」
おぉ、ミヤ、確かに。
「この領地じゃこの町が一番安全にハンターをやっていけるって聞きました。滅多に魔獣とかでないから、獣さえ狩れればやっていけるって。」
そういえば、ここってそうだったよね。なるべく人が少なくて目立たなさそうな町を選んでハンター登録してみたら、たまにオークが出るくらいの平和な町で、わたしたちの隠れ蓑になる強いハンターがいなくて、わたしたち目立ちまくりの毎日。
それ考えたら、女の子だけで、実力がまだ伴わないこの娘たちにとっては、この町って最高なのかな。
「薬草の採取と最低でも狼やウサギくらいの獣を狩れるようにしてあげてほしいの。本人たちが慣れてくれば、猪とか、がんばればオークまで倒せるようになるかもしれない。」
捕らぬノエルの皮算用、か。
「待ってください。その言い方だと、狩られるのはわたしみたいなんですけど。」
細かい!ファリナなみに細かい!
「なんかね、とりあえずハンターで稼げないかな感がもう全面から醸し出してるの。野原歩いてりゃお金になるんじゃないか、くらいにハンターを軽く見てるとしか思えない感じが。」
4人が慌てて顔をそむける。
「わかってるの?ちょっとした失敗で死んじゃうのよ。死ぬ覚悟はあるの?」
ファリナの言い方がきつめになる。
「考えなしにやっているわけではありません。剣だって、少しは練習しました。」
「ハンターが楽に稼げるなんて思ってません。前に勤めていた居酒屋さんで、常連だったハンターの方が急に来なくなるなんて、よくある事でした。」
「セリフはご立派。だけど、わたし、言ったよね。」
冷ややかな目で4人を順に見る。息をのみ、身構えてわたしを見る4人。
「名前覚えられないから、発言の前に名乗れって。」
「それ、重要なの?」
ファリナ、最重要でしょ。そこの4人もなぜ頷く。
「でも、そうか。剣の使い方から教えなきゃいけないのか。まぁ、聞くのも野暮だろうけど、獣なら戦えます、って言う人いる?」
4人とも手をあげる。えー、自意識過剰じゃないかな。
「じゃ、試してみようか。そっちは4人いっぺんにかかってきていいわ。こちらは・・・」
相手を探して周りを見回す。
「ノエルさん、相手してあげて。」
「わたし職員です。剣なんて持ったことありません!」
「それくらいが丁度いいんじゃないかな。」
4人がムッとしてわたしを見る。
「ヒメさんが相手でもかまいませんよ。」
発言した女の子を厳しい目で見る。怯む女の子。
「名乗れって言ったよね。」
「「「「そこですか!?」」」」
「まったくだ。」
ミヤ、呆れるんじゃない。
「ルイザです。ヒメさんが相手でも構いません。」
「クソー、わたしが最弱だと見破られてしまったか。」
「「「「え?」」」」
「ヒメさん、一番弱いんですか?」
ノエルさんが呆然とわたしを見る。
「剣はね。わたし、魔術師なんだけど。」
剣はおまけみたいなものだよ。
「ヒメさん、魔術師なんですか?殴る蹴るのイメージしかないんですけど。」
それは、あなたの個人的見解です、ノエルさん。
「燃やしてたよね!?わたし、がんばって燃やしてたよね!」
「そういえば、そうですね。なんか、勝手なイメージで魔術師はミヤさんだと思ってました。ヒメさんって、剣を片手に猪突猛進してるイメージしかわかないです。」
「うん、魔術師のくせに一番最初に突っ込んでいこうとするのよね。」
「ミヤより遅いけど。」
あんたより速い生き物がいたら見たいわよ。
「エーヴです。だって、ミヤさん短剣しか持ってませんよね。ヒメさんはショートソード持ってますし。じゃ、ミヤさんの専門職って何なんですか?」
「あー、ミヤはミヤって言う職業だから気にしないで。」
「オトーヌです。何なんですか?それ?」
「ヒメ、名前早く覚えて。段々煩わしくなってきた。」
え、せっかくいい調子なのに。もうちょっと我慢してよ。
「ミヤ。ミヤは剣でも魔法でも何でもいける。」
いや、あんたは名乗らなくていいから。
「やってみようか。口で言うより早いよね。誰に斬られたい?」
「ナターシャです。待って、真剣じゃないですよね。」
「え?」
考えの相違がありそう。
「ヒメさん、できれば死人が出ないよう模造剣でお願いします。」
ノエルさんがなぜだか心配そうにしてる。
「え?あ、あ?あぁ!もちろんだよ。」
「真剣でやる気だったわね。」
ファリナ、顔が怖い。
「ミヤがいるから切り刻んでも大丈夫かと思ってたよ。」
「ミヤでも死んだら治せない。」
あぁ、そうか。人って死ぬんだっけ。
「ルイザです。ヒメさん以外でお願いします。というか、なんかもうやめてもらってもいいですか?」
「オトーヌです。すみません、思いあがっていました。」
「エーヴです。まさかテストで殺されるほどハードな仕事とは思いませんでした。」
4人がなんだかショボンとしてる。
「いやいや、この人たちがおかしいだけで、そんなに過酷な仕事じゃ無いよ。」
ノエルさんが弁解してるけど、わたしたちのせいにしないでほしい。ハンターは過酷だよ。なにせ、獲物を燃やしただけで怒られるんだ。
「たちって言われちゃった。」
「ヒメ様のせいで風評が過ぎる。ミヤとファリナの人権を返してほしい。」
いや、間違いなくあんたたちもお仲間だからね。
「で、どうするの。まだハンターになりたい?」
4人が俯いて、上目でこちらを見る。
「ルイザです。確かに甘く見てました。でも、諦めたくないです。」
「ナターシャです。わたし1人なら細々とやっていけないこともないです。でも、妹には・・・ちゃんとご飯食べさせてあげたいんです。だから諦めません。」
「エーヴです。わたしも。」
「オトーヌです。わたしはどっちでも・・・いえ!やりたいです!ハンター!」
オトーヌが、他の3人に睨まれて慌てて意見を変える。
「うん。本気でやりたいって思っていて、危険なんだってことがわかってるなら、いいんじゃない。あんたたちの人生だし。」
「ルイザです。それって、認められたんですか?見捨てられたんですか?」
「あ、もう名前いいや。」
覚えた。なんとなくだけど。多分。
「両方だね。本気でやりたいなら認めるしかないし、やる以上は自己責任で自分たちの命を守ってもらうしかないからね。基本的な事は教えるよ。ただし、やってみてダメだと思ったら早めにハンターになるのを諦めなさい。それも勇気よ。いい?死んだら死ぬんだからね。」
真剣な目でこちらを見る4人。
「ごめん、わからない。」
「言ってることが哲学的ではあるが、中途半端。ボケるならもっとわかりやすく。」
ファリナとミヤにはダメ出しくらったよ。




