80.ヒメ ちょっと鬱になる
リリーサの引っ越しを知ってから数日経った。
わたしたち3人は、特に何の変りもなく、森に行って、獣や魔獣を狩ったり、薬草を採ったりしていた。
「3日前にギルドで狩った獲物を売った時、銀貨12枚とか言われて、これでやっていけるの?とか思ったけど、よくよく考えてみたら、それが当たり前なんだよね。」
「このところ、1回の仕事で金貨数十枚とか数百枚とか、普通じゃ考えられない報酬貰っていたから少し感覚がおかしくなっていたよね。」
1日で銀貨10枚稼げば、月に銀貨300枚。週に1日休んでも、銀貨260枚。金貨に換算して13枚分。世間の月の平均収入は、金貨2,3枚。収入的にはかなり贅沢をしなければ十分なのだ。それに、食べ物なら、ハンターであるわたしたちは、獣でも魔獣でもそれなりに好きに狩れるから、肉には困らないし、お店から買わなきゃいけないものなんて、野菜とか嗜好品くらい。住む所はある。着るものは、一時期いろいろ買ったけど、仕事ばかりの毎日に不要だと気がつき、最近はあまり買ってない。
つまり、大してお金は使わない。
「なんだろう。急に虚しくなってきた。」
なんで、わたしは使い道のないお金を、毎日一生懸命稼いでいるんだろう。
「始まったわね。」
「始まってしまった。」
「何が?」
「ううん、何でもない。」
ぎこちなく笑うファリナ。
「この前は、Eランクになったばかりの頃だったよね。」
「ゴブリン50匹で失敗して、しばらく薬草採取ばかりやっていた頃だ。」
「そうそう。ゴブリン50匹狩ってすぐにEランクになれたけど、世間の目が痛かったからしばらく薬草ばかり採取してた時だったわ。あの時は、『何で毎日薬草採ってるんだろう。』とか言い出したのよね。それで、ギルドにばれないように、オークには悪かったけど20匹ほど燃えてもらったのよね。今回はそれじゃ済みそうもないかな。」
2人が離れたところで何やら内緒話してる。
「何で、わたし生きてるのかなぁ・・・」
「酷くなってきた。」
「とりあえず、向こうに行って座りましょう。お茶淹れるから、器具出して。」
ファリナに引きずられるように、近場の岩の近くに行く。
ファリナに言われるまま、<ポケット>からシートと、お茶を淹れる器具、カップ等を出す。
お風呂を満水にするのは無理だけど、ファリナも水の魔法を使える。ファリナが、ポットに水を入れ、加熱用ランプに魔法で火をつけ、ポットを掛けてお湯を沸かし始める。
「早いけど、お昼もついでに食べちゃおうか。」
ファリナが、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。あぁ、気をつかわせちゃってる。元気出さなきゃ・・・そう思った次の瞬間。
「この辺で狩りをしてるってことは、初心者かな?俺たちとい・・・っしょ・・・」
わたしたちの後ろから声が掛けられる。振り向いたわたしたちを見て、男の声が段々しぼんでゆく。
「申し訳ありませんでした!」
声を掛けてきた男と共に、同じパーティーの仲間らしい男3人、計4人がわたしたちに対して土下座する。
「まさか、姉さんたちとは存ぜず、軽々しく声を掛けてしまいました!万死に値することとは思いますが、ここはなにとぞ、燃やすのだけはご勘弁を!!」
待て。どう見ても年上であるあんたたちに姉さん呼ばわりされる覚えはないのだが。さらに、先手を打たれると、燃やしづらいんだけど。
(というか、なんでこんな初心者コースにいるんだよ。)
(知るかよ。この辺にいる女の子なら、一緒に行こうって言えばついてくるとか言い出したの誰だ?)
「何?わたしたちと一緒に狩りがしたいの?」
「め、滅相もございません。」
「いいよ。行こう。」
「ちょっと、ヒメ。」
「オーガでいい?前衛任せていい?やられちゃったらほっといてもいい?一緒に燃やしちゃっていい?遺言書を書くなら早くしてね。」
「「「「勘弁してください!!」」」」
男たちが逃げ出していく。
「また逃げられた。どうしていい出会いがないんだろう。」
「今の展開でついてくる男がいたら、頭がおかしいか、自殺願望のあるやつくらいでしょう。」
「ヒメ様より強い男じゃなきゃついてこれない。それは、砂漠でミジンコを見つけるようなもの。」
「砂漠にミジンコいるの?」
「つまり無理。」
何、2人でしみじみ頷いてるかな?
「なんか急に燃やしたくなってきた。なんでもいいの。どうしよう、ロイドさんの家燃やしに行く?それとも猿壊滅しに行こうか?あぁ、この間わけわからないこと言い出した国王燃やしに行くのもいいかも。ばれないように離れたところから<爆炎>かましたら、王城はもちろん、城下町も一発でいける気がする。」
「気がするじゃなくて、いけちゃうからやめなさい。無関係な一般人巻き込まないの。」
「猿、猿がいい。ここからスタートして、大陸を1周しながら猿を殲滅していく。徒歩だと10年くらいかかりそうだけど、この際はやむを得ない。」
「10年はちょっとなぁ・・・2週間くらいにならないかな。」
「2週間だと10分ごとに<爆炎>で白黒構わず森を燃やし尽くしながら行けば、なんとか。移動は<ゲート>を使う。」
「それ、猿以前に獣も魔獣も全部絶滅するからね。当然、人族と魔人族から脅威認定されて、わたしたち3人と全面戦争だからね。」
ファリナが呆れたように言う。
「ミヤの能力開放してくれれば、2日で世界滅ぼして見せる。」
「待って!どこまでが冗談?ヒメの気を紛らわすための笑い話じゃなかったの?」
「ヒメ様が冗談だと言えば冗談。やると言えばやる。それは、つがいであるミヤの務め。」
あれ、いつの間に世界滅ぼす話になったんだ?
「そこまで手間かかるなら、王様燃やした方が楽でいい。ついでに言えば、ロイドさんの方がもっと楽だよね。」
「よし。ロイド倒しに行く。」
「ミヤ、ステイ。ヒメもステイ。」
ファリナ、それって犬のしつけじゃないの?わたしやミヤを何だと思ってるのかな?
「猫でないならいい。」
いいんかい。
「ごめん。なんか鬱になってたみたい。」
このところいろいろありすぎた。魔人族との戦いから始まって、自分の誕生に関すること・・・いっぺんに起こったけど、この前まではリリーサがいたから、そんなこと深く考えてる暇がなかった。
3人に戻って、ゆっくりできるようになったら、急にいろんなことが頭に浮かびだして、考えすぎてしまったみたい。
「普段脳を使わないのだから、急に使うと負荷がかかりすぎる。気をつけた方がいい。」
「うん、ありがと・・・って、それってバカにしてるよね!」
「してない。ミヤは淡々と事実を述べるだけ。」
「それはそれで、地味に傷つくんだけど!」
「まぁあまり深く考えないで。ヒメはいつも通りでいいのよ。毎日、3人で狩りに出る。雨が降ったら家でのんびり。晴れたら野原で、蝶々を追いかけてキャッキャしてればいいの。」
「待って、15にもなって、野原で蝶々をキャッキャ言いながら追いかけるのはいかがなものかと思うんだけど。」
「似合ってる。」
「うん、いいよね。」
あんたらの中のわたしって、どんなイメージなの?
薬草を採取してたから、白の森の手前でもいいかと思っていたんだけど、その近辺は基本初心者ゾーン。また変な奴らに声かけられたら、わたしが燃やすよりも先に、ファリナとミヤが切り刻みそうなので、もう少し奥へ行き、角ウサギと狼を数頭狩って、帰路につく。
ギルド裏の解体兼買い取り窓口に行って、ウサギと狼を解体してもらう。
「ずっと思ってたんですけど、自分たちで解体しないんですか?」
受付のお兄さんがとんでもないことを言い始める。言ってはいけないことを言ったな。
「こんなことで、このギルドが無くなるなんて・・・」
「申し訳ありませんでした!」
今日はよく土下座されるな。
「見るのは平気。でもやれと言われたら・・・やるくらいなら燃やす。辺り数キロ巻き込んで燃やす。」
「巻き込まないでください。もういいです。俺が悪かったです。」
泣くなよ、男だろ。燃やさないから、まだ。
「ミヤはできる。」
「わかってる。でも、わたしたちができないからってミヤに押し付けるのって嫌なの。」
「昔は酷かったもんね。」
ファリナが遠い目をしてる。
「ミヤがいなかった頃は、討伐の確認の部位を取るくらいなら何とかなったけど・・・」
わたしも昔を思い出す。
「獣を狩って来いって言われたら、あのころはヒメの<ポケット>がなかったから、そのまま持って帰る訳にいかないから、解体しなきゃいけなくて、2人で泣きながら獣の腹を裂いてたよね。」
「あまりに獣の状態が酷くて、村長から『お前たちは討伐以外やるな。』って怒られたっけ。昔は素直にハイって言ってたけど、今だったら村長20回くらい死んでるよね。主に燃やされて。」
「ごめんなさい、燃やさないで・・・」
いや、昔話だから。泣かなくていいから。鬱陶しくて燃やしたくなるから。
薬草を売って、肉はご飯にするから、解体料を払って引き取る。売った金額と払った金額の差は、やや黒字になった。これで帰りに野菜買って・・・今日はしっかり見張って、ブロッコリーを買わせるのは阻止しないと。
帰ろうとすると、ギルドの正規の建物からノエルさんが飛び出してくる。
「帰っているなら、こちらにも顔を出してください。戻ってるってわからなかったじゃないですか。聞けば買い取り窓口には3日前から顔出してるとか。」
「出かけてるって教えてたっけ?」
「色々あるんです。」
「何が色々なの?」
「い、言えません。守秘義務です。」
「守秘義務が発生するということは、つまり、誰かがわたしたちが戻ったら知らせてほしいという依頼を出したんだ。」
「言えません。」
「誰かな?」
「守秘義務です。」
「命より大事な事かな?」
「わ、わたしだってハンターギルド職員です!どんなに脅されたって・・・」
「ギルドのテーブル燃やしちゃおうかな。」
「フレイラ様から依頼されました。」
「「言うんかい!」」
よし、ファリナとミヤ、ナイスツッコミ。というか、自分の命よりそんなにテーブルが大事ですか!?
「言いたいことは山ほどありますが、とりあえず、帰ってきたら連絡くらいください!」
後ろから声。見ると、フレイラがいつものこちらを指さすポーズで立っていた。
「新しい剣を取りに行くのに10日とか言っておきながら、さっさと戻ってきてるわ、帰ってるのを教えてくれないわ、いいんですか?いい加減わたしも泣きますよ!こんないたいけな女の子泣かせて胸が痛まないんですか?あ、胸がないから痛まないんですね!なんとなくわかりました!」
どの辺がいたいけだって?もう燃やすしかないよね。
「知らないうちに帰ってきてるし、ギルドに顔を出さないから、いつまでたってもギルドから連絡は来ないし、ここからロクローサのギルドに伝わるのに1日かかるとか、隣町なんだから直接言いに来なさいっていうのです。わたしのところに連絡が入ったのが今朝ってどういうことですか。依頼料、結構払ってるんですよ。」
「そんなことにお小遣い使わないの。」
「大丈夫です。言ったら、お母様が出してくれました。面白いことにはいくらでも投資してくれるそうです。」
この母子でパーソンズ家潰しそうだな。
「こんなところでは、満足に話もできません。ヒメさんの家に行きますか?家に来ますか?わたしが泊まりますか?ファリナお姉様が泊まりますか?」
「黙って家を空けたら怒られるでしょう。わたしも行けないから、今日は帰りなさい。」
ファリナが優しく語りかける。
「大丈夫です。マリシアを連れてきています。マリシアを家に帰らせて、わたしが泊まると連絡します。」
建物の影から現れるマリシア。
「今日はお嬢様を殴っていいとは言われておりませんので、穏便にお願いします。」
穏便にフレイラを連れ帰ってもらえないかな。




