73.けっこう大騒ぎだった
ガルムザフトに剣を取りに行って帰ってきたあくる日。
家の工事が始まる。その前段階が、けっこう大騒ぎだった。
わたしの隣の部屋、現物置の荷物を、とりあえずミヤの部屋へ入れる。まぁ、物置といっても、大した物は置いてなかったから、それはすぐ終わった。小物しかなかったし。
ほとんどが、わたしが買って着なかった服とか、わたしが買って使わなかった小物とか、わたしが買って箱に入れっぱなしの靴とか・・・
「捨てなさい。」
「はい・・・」
うぅ、ファリナが厳しい。
次にわたしの荷物をファリナの部屋へ。ベッドも無理やり入れたらこの部屋はいっぱいになってしまう。ミヤの部屋も、わたしの小物でいっぱい。
わたしの部屋と隣の物置は空っぽになったけど、工事するから、明日終わるまで入れない。
動かしてみたら今晩寝る場所がなかった。
「居間でいいでしょ。また、床に布団敷いて雑魚寝よ。」
「それでいい。」
「なんか、ベッドいらないみたいね。」
いや、ファリナ、床に敷くと毎日片付けなきゃいけないんだよ。大変なんだよ。ところで敷きっぱなしにするのはありかな。
「なしです。」
ほら。大変だ。
「そろそろ来るかな。」
昼前から工事に入ると言われている。ファリナとミヤが、もう待ちきれなくてドアの前で待っている。あのね、明日までは完成しないんだからね。
トントン。ノックの音が。
「はい。」
にこやかな表情でドアを開けたファリナの前に立っていたのは・・・
「来ちゃいました。」
リリーサだった。
バンっとドアが閉められる。
「なんですか?何事ですか?失礼じゃありませんか?」
「何の用よ?」
ファリナが冷たい。
「相談があります。」
「わたしはありません。」
「ヒメさんを出してください。話を聞かないと後悔しますよ。」
「いいから、ファリナ。このままじゃ、ダラムルさんが来ても家に入れないでしょ。」
ため息を吐きドアを開ける。目の前で、人差し指をこちらに向けているリリーサ。
「ドア、壊すのやめてもらえない?」
「1分以内なら直せます。のーぷろぶれむです。」
問題山積みにしか思えないんだけど。
「それで、何?昨日も会ったけど何も言ってなかったよね。」
「そうなんです。昨日はヒメさんのおもちゃの剣に気を取られて話すのを忘れてました。」
おもちゃじゃないし。なんなら斬ってみるかい?リリーサを。
「治るけど、痛いのはいやです。それで話というのは、昨日、ゴルグさんのところで、ブラッドメタルベアを解体してもらいました。大変だったみたいです。3人がかりで半日かかったと言ってました。」
あぁ、次回お店開店の時の目玉商品ね。
「毛皮は来月の開店の時売ります。」
来月なんだよね。今月分は終わったばかりだもんね。
「で、土の魔石が2匹分あります。1個渡しに来ました。1パーティー1個です。」
あの熊、魔石持ってたんだ。土か。建物の強化とかに使えるんだよね。
「ブラッドメタルベアはリリーサにあげたんだから、2個とも持っていっていいのに。」
「魔石はダメです。狩ったハンターのものです。」
いや、そう言うなら、ブラッドメタルベアを狩ったのは、2匹ともリリーサでしょ。
「そんなこと言ったら、灰色狼を狩ったのはヒメさんたちです。今回はわたしたちの初めての共同作業です。なんでも半分こです。あ、毛皮は貰ったので返せません。」
バカ正直な言い方がなんか引っかかるけど、とりあえず置いておく。
「氷の魔石は欲しかったけど、土の魔石は売るしかないからなぁ。何かに使えそう?ファリナ。」
一応ファリナに確認を取る。
「魔石で強化するほど大きな建物持ってないしね。ロイドさんなら使うことあるのかな。」
領主なら使うかもしれない。でも・・・
「入手方法説明できる?最悪貰いましたなんて言っても、誰も信じないよね。」
「リリーサと狩りました、でいいんじゃない。」
「とりあえず、受け取ってください。後は売るなり捨てるなりヒメさんの自由に。」
「意外だな。リリーサなら売ってくれって言ってくると思ってた。」
「土の魔石は人気がないのです。」
リルフィーナが説明してくれる。
「昔は、城塞都市の壁を造るのに、引く手数多だったんですけど、今は魔人族との関係で、黒の森近辺には城塞が造れないので、ほとんどの国は壁を造るのをやめました。魔人族との国境近くの壁は、魔人族から見たら、前線基地に見えるらしく、造る端から壊されましたから。魔人族の魔法の前には、壁なんか紙細工みたいなものですからね。今でも城塞都市を持っているのは、我がガルムザフト王国の隣国、ギャラルーナ帝国くらいじゃないでしょうかね。あそこも黒の森付近には造らない、手抜きの城塞ですけど。」
リルフィーナのいう通りで、わたしも城塞なんて絵でしか見た事ないよ。
「大きな建物もあまり建てられなくなりました。今じゃ、鉱山くらいしか土の魔石を欲しがるところはありません。民生になるのであまり予算が出ません。高く売れないのです。貴族や王族との顔つなぎにもなりません。正直、不良在庫なのです。」
リリーサがプンプンだ。
「わかった。じゃ貰っておくよ。何かに使えるかもしれないしね。」
「はい。何でも半分です。」
魔石を受け取って<ポケット>にしまう。
「用事もすみました。それでは・・・」
あ、帰るの。わざわざありがとうね。
「・・・お茶にしましょうか。」
「いや、ちょっと待って。」
「何でしたら、わたしが淹れますよ。けっこう儲けたので、少しいい茶葉を買ってみたんですよ。香りがすごくいいんです。」
「そうじゃなくて、まだいるの?」
「はるばる遠くの国から国境を越えてきた親友にかける言葉でしょうか。信じられません。」
「いや、隣の国からで、しかも魔法で一瞬だよね。」
「これは、考えを改めてもらうためには、泊まっていくしかないんじゃ・・・」
「暇なの?」
「実は、次の目玉商品が思いつきません。もうさすがに灰色狼は無理でしょうし、パープルウルフが手に入るはずもない。今のところ、ブラッドメタルベアの毛皮2枚しか売るものがないのです。なにかいい獲物はありませんかね。」
そう言われてもなぁ。
「いつもはせいぜいオークかオーガクラスの魔獣しか狩った事ないから、高く売れそうな物と言われてもわからないよ。」
“三重奏の乙女”になってからはね。ついでに言えば、”爆炎の聖女”時代は、いろんな魔獣いたけど、ほぼ燃やしてきたからもっとわからない。
「困った時のヒメ頼みです。ヒメさんといれば、きっと珍しい魔獣に絡まれます。お宝ゲットです。」
「そんなしょっちゅう絡まれないから。」
たぶん・・・
「申し訳ないけど、わたしたち、これから来客の予定があるの。」
しびれを切らしたファリナが単刀直入に切り出す。
「あぁ、別にわたしたちは気にしませんよ。」
「わたしたちは気にするの!」
首をかしげて不思議そうにファリナを見るリリーサ。
その時、ノックの音がした。
ミヤがドアを開ける。
「待たせた。資材とか積み込むのに時間がかかってな。」
ダラムルさんと助手の人2人の3人がそこに立っていた。
「・・・あぁ!デートでしたか。申し訳ありません、気が利かなくて。」
リルフィーナ、何を言い出すかな。
「意外と趣味悪いんですね。」
リリーサ、聞こえてるから。空気が悪くなるからやめて。
「工事の人だよ。けっこう何回も言ってるよね。」
「言われたことはありませんけど、聞いてますよ。ファリナさんとミヤさんがえらくこだわっていたやつですよね。」
さすが、記憶だけは頼りになるリルフィーナ。後はダメダメだけど。
「そんなことがあったんですね。工事はいつまでかかるのですか?」
「明日の夕方には終わるかな。」
「それではリルフィーナ、邪魔になってはいけませんから、帰りましょう。それではヒメさん・・・」
「うん、ごめんね、バタバタしてて。」
「・・・いえ。それじゃ、またあさって。」
「うん・・・」
え?なに?何言ってんの?
「待ちなさい!リリーサ・・・」
わたしの声を無視して2人は人ごみの雑踏の中に消えていった。
「あさっては、朝早くから仕事に行くわよ。」
ファリナが拳を握りしめる。
あれ、ミヤは?ずいぶん静かだね。
見ると、ダラムルさんの手伝いをして、荷物を運んでいた。どれだけやる気あるの。
特に大きな問題もなく家の改修工事は終わった。
ファリナとミヤの喜びようは尋常ではなく、万歳三唱の上、ダラムルさんたち工事関係者全員と握手。まぁ大騒ぎである。
さっそく今まで使っていたベッドを持ち込み3つ並べてみる。
「もっと広くてもいいわよね。」
ファリナは、すぐにでも新しいベッドを注文するために、並べてみたベッドの寸法を測っている。
「幅はあと1メートルは欲しいわね。長さはこれでいいとして、ベッドの高さもいいかな、このままで。」
「高さは地面に近ければ近いほどボディアタックが高高度から攻撃できていい。本来なら、クッションとなるマットレスがない、床に直に布団の方がより強力な攻撃を行えるが、それがダメなら、できるだけ低いものをミヤは要求する。」
「なるほど。」
あんたら、何の話をしてるのよ。
「ベッドなんだから、睡眠のために質のいいマットレスを要求します。」
「なるほど。」
「それでは有効な攻撃が行えない。」
「なるほど。」
だから、ミヤ、何に拘ってるのかな?で、ファリナは何に納得してるの?
「質のいい睡眠を保証できないなら、この計画はなかったことにして、今まで通り別々に寝ます。」
「睡眠は大事。クッションはいいものを。」
「当然よねー。」
こいつらは・・・
朝、目が覚める。体が重い。布団を捲るとミヤが、わたしのお腹の上で寝ていた。ファリナはあたしの左腕を枕にしてる。つまり、3人くっついて寝ていた。
これ、ベッド大きくする意味あるのかな。ここまで来て疑問に思う。
「くっつきすぎだよ。夏場熱中症で死ぬよ。」
「考えておきます。」
「ヒメ様のお腹、ポヨンポヨンしていい塩梅。寝やすい。」
うるさい、それ以上言うとこの部屋の出入り禁止だ。
「ほら、朝ご飯食べて、リリーサが来る前に出かけるよ。」
「無理。ドアの前で待ってる。」
ミヤの探査魔法に反応があるらしい。
ドアがノックされる。
仕方ないな。ドアを開ける。
「いい、リリーサ・・・」
「来ちゃいましたー。」
いたのはフレイラだった。リリーサたちはその後ろにいる。
「ちなみに、わたしたちも来ちゃいましたー。」
フレイラの後にやられると、あざとい。
「消しますよ。」
その前にわたしが燃やす。
「わたしたちこれから仕事なの。出かけるの。それじゃまたね。」
「ご一緒しますよ。」
来るなリリーサ。
「ヒメさんは白聖女様とお出かけしたらどうですか。ミヤさんは雲でも数えててください。で、ファリナお姉様は、わたしとイチャイチャしましょう。」
思いのほかミヤに失礼だな、フレイラ。
「しません。お仕事です。フレイラは行けないの。ごめんね。」
「これは、あれですね。わたしも次の春には13歳です。ハンター資格とらなきゃいけませんね。」
やめなさい。貴族のお嬢様がハンターはいけません。ロイドさんから小言を言われるよ。わたしたちが。それは勘弁してほしい。
ため息を吐きながら空を見る。青空が広がっている。
忙しそうで、のんびりとした毎日。こんな日がずっと続けばいいな・・・




