67.そして、朝が来てしまった
そして、朝が来てしまった。
「このまま、起きないで寝続けるってのはありかな?」
「ダメだと思うよ。」
ファリナが冷たい。
「あ、じゃ急にお腹が痛くて起きられないっていうのは・・・」
「見苦しいですよ、ヒメさん。」
リリーサめ、こんな時だけちゃんと起きてるなんて。
「ここ数日は、きちんと起きてました。わたしは、やればできる子です。」
「起こすわたしが大変でした。」
リルフィーナがどこか疲れたよう。
「それにしても、父上様に会いに行くときのお姉様のようです。ほんと、行動が似てますね、お二人は。」
「待って!こんなのと一緒にするのはやめて!」
「失礼ですね。この世から消しちゃいますよ。」
布団から顔を出す。わたし以外の4人に囲まれてるから、逃げようがない。
あきらめて起きる。あぁ、気が重い。村を出て、やり直そうっていった時、客商売ができないからハンターになったのに。人に愛嬌が振りまけるなら、今頃わたしは、マイムの町で一番の可愛い店員さんになってる。
「夢見るのは自由。」
だから、できたならって言ってるでしょ。
「さぁ、朝ご飯食べたらお店開けますよ。」
リリーサが楽しそうだ。
「では、これより開店します。きちんと並んでください。今日の商品は、灰色狼の肉、毛皮です。その他には薬草がいつも通り。狼、角ウサギが少々、これは捌いていません。なお、灰色狼の肉は数量限定です。1人3パックまで。毛皮は、先ほどのくじ引きで当選した方にお売りします。従えない場合は、この場から排除します。よろしいですか。」
どうやら、わたしが寝ている間に、数の少ない毛皮はくじで買う人を決めていたみたい。
「おいおい、排除ってお嬢ちゃんがかい?」
いかにもといった顔の男が、列から外れて前に出てくる。
「新顔さんかい。ここには、ここのルールがある。従えないなら、他のみんなの迷惑になる。帰ってくれ。」
並んでる男の中の1人がその男に注意する。
「知った事か。客を捌くのも、店の人間の力量だ。できないなら、客の言った通りに売ればいいんだ。」
男が右腕を前に突き出す。力ずくで来る気満々だね。
「捌けばいいのか?」
列の後ろの方から声がする。後ろでお客を並べていたミヤだ。
「捌くのは得意。」
右手を振る。鉤爪が右手に装備される。近場にあったミヤでは抱えきれない太さの街路樹のところに行き、右手を斜めに一閃。
何をしているのかと、ミヤを眺めていたお客の前で、木が、根元、輪切りになった部分、その先の3つに分かれて倒れる。
「何枚がいい?3枚?4枚?」
ミヤが鉤爪の先を、言いがかりをつけてきた男に向ける。
「あーん、俺を捌くだと・・・って、違います。そういう意味で捌けと言ってたわけじゃありません!ごめんなさい!帰ります!命だけはどうか!」
男、いきなり土下座。大慌てで走り去っていく。
お客呆然。
「後、捌いてほしい奴いるか?」
全員、必死に首を左右に振る。
「じゃ、並んでくださーい。販売開始しまーす。」
以降、物音ひとつしないまま販売が続く。
「みんな行儀いいね。いつもこんななの。」
「さっきの何見てたんですか。あれで騒げる命知らずがいるなら見てみたいです。」
入り口近くで仁王立ちで立っているミヤを、なぜかみんな見ないようにして店に入っていく。
わたしとミヤとリルフィーナが、お店の外でお客の整列。ファリナとリリーサが会計。ファリナは普通の商品の。リリーサは、薬草とか薬草とか薬草の取り扱い窓口の会計を、それぞれ担当している。そこは、やんごとなき理由があるから、自分が担当するとリリーサ。お願い、売ってるのが薬草だけでありますように・・・
お客同志のいざこざがあったら止める。止まらなかったら3分の1までならヤってもいい、そう言われてたけど、みんな大人しいよ。
(なぁ・・・)
(話しかけるな!俺は死にたくないぞ!)
お客が小声で話してる。全然静かなものだよ。
(俺、あの娘になら捌かれてもいいかも。)
うん、静かなものだよ。今度同じような事しゃべったら、燃やしちゃうけどね。
お店の入口に張り紙が張ってある。
『本日の販売終了後、重大発表あります。』
パープルウルフの販売方法のことなんだけど、ぼかして書いてるから、憶測が憶測を呼んでいる。
「何だろうな。まさか、閉店とか?」
「いや、これから毎日店を開けると俺は聞いたぞ。」
「俺が聞いたのは、あの3人の新人の店員。あの娘たちが売りに出されるって話だ。」
ピシッ。額に血管が浮かび上がる。
「それ、どこ情報?」
問い詰めるわたしの周りで、男たちが囁く。
(あれが女王様担当か。)
(で、ロリ担当とノーマル担当の3人か。お前なら誰がいい?)
「ウガーーー!」
「ヒメさん!ドゥ!ドゥ!ミヤさん止めてください!」
「わたしは動物か!?」
「愚かな妄言を吐くものは死んだ方がいい。ミヤがヤる。」
「あぁ,止まりそうもありません!お姉様!お姉様!まずいです!人が死にます!」
3分の1まではいいって言われてるんだから、いいはず。ヤらせなさい。
「何事ですか。消しちゃいますよ。」
新たな厄災があらわれた。
「なるほど。ヒメさんたちが商品だという噂が流れていると。それは失礼ですね。」
まったくだよ。人を何だと思ってるかな。
「わたしがそのような不良在庫を抱えるわけがありません。」
「誰が不良在庫だ!?燃やすよ!」
「わたしがヒメさんたちを売るようなまねをするはずがないという意味なのに、本人から非難される。おかしいです。」
「お姉様の言い方だと、ちょーっと意味が違いますです。」
「そうなのですか?言葉は難しいです。消しちゃうのが一番早く意思を伝えられます。」
「それ、相手には伝わってないからね。」
「何やら妙な噂が流れているようですが・・・」
リリーサがお店の前に立つ。
「・・・早いのですが、人死にが出そうなので、先に重大発表します。今並んでいる商品販売終了後、パープルウルフの肉と毛皮を販売します。2匹分しかありません。販売方法はオークションです。」
お店の前は大騒ぎになる。
「パープルウルフって、魔獣のか?」
「何年ぶりだ?売りに出されるのって。」
「2匹?いや、パープルウルフなら多いのか?」
「何としても手に入れなければ!」
ズーン!街路樹がまた倒れる。
「だまれ。捌くぞ。」
仁王立ちのミヤを見て、シンとなるお客さんたち。
「すまない、白聖女様。ちょっといいか。」
何人かで顔を突き合わせていた中の1人が手を上げる。
白聖女様呼びなんだ。この国じゃ聖教会の司祭より有名って言ってたもんね。でも、聖女もやめたとか言ってなかったっけ。あれかな、1度ついたあだ名は消えないのかな。
「なんでしょう。」
すまし顔のリリーサに吹き出しそう。あ、こっち睨んだ。
「パープルウルフなんて珍しいものじゃ、かなりの高値になるに決まってる。まさか、そんなものが出てくるなんて予定してないから、持ち合わせがそんなにない。今オークションをやられても、灰色狼にいくばくかの色がつく程度しか払えない。そうなったら、当然オークションは中止だよな。」
「そうなりますね。こちらとしても最低金額は、肉1人前で金貨30枚、毛皮なら金貨70枚から始めるつもりです。」
「なら、金の用意ができる明日までオークションの開始を待ってくれないか?」
リリーサが空を見上げて考える。
「わかりました。いきなりで準備する時間もないでしょう。こちらの不備でもありますし、パープルウルフのオークションは明日の正午から開催します。」
あちこちから歓声があがる。そりゃそうか。金貨100枚越すかもしれない買い物の予定なんて誰もしてないよね。いくらこの店が暴利だといっても。しかも、モノはめったにどころか、ここ数年市場に出た事すらない貴重品。みんなほしいよね。
それが決まった途端、お客さんが一気に少なくなる。残っているのは、灰色狼の肉を欲しがっている人やとてもじゃないけどオークションには参加できないよという人たちが、残った商品をゆっくり買っていく。灰色狼の毛皮は先にくじで買う人を決めたためすでに売り切れている。
人が少なくなったため安心して買い物できるのか、リリーサ担当の草や木の売り場に人がちらほら。
さっきまで、帽子を深くかぶって顔を隠した、いかにも怪しいやつが他のお客さんの目を避けるように買い物していたけど、そのせいもあって、数十分に1人くらいだったのが、今は人が減ったからか、風体は変わらず顔を隠してるけど、1人が買ったら少し間をおいて次の人といったペースでさっきより売れるペースが速い。
いや、気にしたらダメだ。あそこはわたしには関係ない。見ちゃダメ、見ちゃダメ。
開店から数時間、夕方には草を除いてほぼ売り切れた。
「あいかわらず薬草が売れませんね。」
まぁ、ここの暴利な値段の薬草なら、薬局に行ってハイポーション買えちゃうし。自分で薬草から煎じるのって難しいしね。
「そうなんですか?言ってください。わたしたち<モトドーリ>があるから薬局で薬買った事ないんです。市場価格なんて知りません。」
いや、お店やるんなら調べようよ、それくらい。
「適度に商品が売れた後に、パープルウルフの話を出したから、お客さんがバラけていい具合に売れました。薬草と狼以外はほぼ売り切れです。」
リリーサがいかにもホクホクといった雰囲気でにやけてる。
「売れ残った狼は、会計の締めが終わったら、ゴルグさんのところに持っていって解体してもらってみんなで食べましょう。」
そう、ここには女の子ばかり。みんな、獣や魔獣の解体は不得意。内臓が特にダメです。見るのは我慢できるけど、触れません。
「だらしない。ミヤが捌く。」
「できるのですか?」
リリーサが意外そう。
「何度も言ってる。捌くのは得意。」
そう。わたしたちの中で、ミヤが唯一まともな解体ができる。わたしだってできないわけじゃないよ。でも、できるなら勘弁してほしい。
リリーサとリルフィーナが売り上げ金の計算している間、わたしたちは、狼をお店の裏へ運ぶ。
お店の裏は、庭になっていてピューリー鉱の水の石を使った水道もある。
狼を降ろすと、ミヤはそのお腹に、まっすぐにした鉤爪を突き刺す。
「<ミリ・ファイア>。」
ボンっと狼のお腹が膨らんで、すぐに戻る。
「何したの?」
「内臓を燃やした。」
突き刺した鉤爪でお腹を切り裂く。でてくるはずの内臓はなく、ただ空間が空いている。
「軽く熱処理もしてある。後は調理するだけ。」
首をつけた毛皮を剥ぐ。残ったのは肉だけ。
「内臓残すと廃棄が面倒。こうしたほうがお手軽。」
あ、そう。まぁいいや。
「器用なものよね。ヒメだったら灰しか残らないでしょうね。」
「灰だって残さないわよ。」
こういう調整がシビアな魔法の使い方はできないってわかってるから、張り合おうっていう気も起きない。
鉤爪を器用に走らせて、骨から肉を剥いでいく。あっという間に骨と肉がわかれる。
そこに、リリーサたちもやってくる。
「じゃ、この狼で、晩ご飯にしましょうか。」
あれ、今気がついたけど、これってこのまま、またお泊りの流れなの?帰りたいんだけど。そう思ってリリーサの方を見たけど、あの顔は帰す気無いよね・・・
「明日のパープルウルフの販売が終わるまでは逃がしません。」
逃げないから。朝、ちゃんと来るから。
「寝坊のヒメさんは信用できません。わたしが起こしてあげます。」
2日続けてリリーサに起こされるなんて、なんか悔しい。




