63.昼前までに来てほしいということです
「明日は昼前までに来てほしいということです。少しくらいならお寝坊できますね。」
そういえば、ここに来てからは、みんなと同じに起きていたから忘れてたけど、リリーサは朝弱いんだっけ。
「人の事言えて?」
ファリナがジトッとわたしを見る。
「わたしは弱いんじゃない。起きたくないだけ。」
「よけい悪い。」
あれ、ミヤまでわたしを責める。
「ヒメさん、わたしたちは所詮少数派。世間にはわかってもらえないんです。なので、明日は2人で昼近くまで寝ていましょう。」
「ご心配なく。ヒメはちゃんとわたしと一緒に起きます。」
え、ファリナと一緒?メチャクチャ早くない?
「太陽が昇り始める頃だもの、そんなに早くないわよ。」
いや、早すぎるでしょ、それ。
「そんな時間に起きたら死んじゃいますよ、ヒメさん。」
死ぬわけないでしょ、と思いつつも確かに自信がない。
「明日は、ゴルグさんのところから直接わたしのお店に行って、あさっての開店準備とかでお泊りになりますから用意しておいてくださいね。」
「本当にわたしたちに売り子させるの?」
「おもしろ・・・いえ、人手不足なんです。がんばってください。燃やすのは、不埒な行為に及んだお客様だけにしてくださいね。」
おもしろいって言いかけたね。
「燃やしてもいいんだ。」
「買い物以外の非常識的行為については、燃やそうが切り刻もうがご自由に。」
「何だろう、できるような気がしてきた。」
「燃やすの許可すると店が無くなる。」
ミヤ、よけいな事言うな。
「お店が無くなったら、一生ヒメさんに面倒見てもらわないといけないですね。」
「何だろう、無理な気がしてきた。」
「諦めるの、はやっ。」
いいんだよ、ファリナ。わたしは所詮ハンターしかできない女なんだよ。
「みんなで仲良く暮らしましょうね。」
リリーサがなんか幸せそうだ。負けるもんか。
「お風呂沸かしてきます。」
リリーサが、嬉しそうに、リルフィーナを連れてお風呂場へ向かう。3日目なのに、まだ飽きないのか。がんばるよね。
「だが、3日坊主の言葉通り、明日にはだらけた姿のリリーサが見える。」
「明日はリリーサの家だから、わたしたちがお風呂沸かさなきゃね。」
あれ?
お風呂に入って、わたしの部屋ですでに万年床と化している布団に入る。
「そろそろ布団干さなきゃいけないわね。」
「何日敷きっぱなしだっけ。3日?4日?」
「4日目ね。起きたらすぐ出かけてるから、布団も干せなきゃ、掃除もできないわ。」
「大丈夫です。過去最大3週間、部屋を放置したことありますけど、けっこう住めるものですよ。」
リリーサから、なにやら恐ろしい発言。けっこうって、どのレベルの話なのよ。怖くて聞けない。
「野宿に比べれば、全然いけますよ。」
リルフィーナまで。
「あさっては、リリーサのお店でさっさと商品売り切って速攻帰宅よ。わたしもやる。家じゅう掃除よ。」
「手伝いますよ。」
「あんたは自分の家やりなさい!リリーサ!」
確か今は、2週間は放置してるって言ってたよね。え?明日の晩、そこに行くの?
「最初に掃除します。さすがに汚れたお店にお客様を入れるわけにはいきません。わたしたちの部屋は、その後時間と余裕があれば。」
「なんだろう、時間があればって、ヒメの『今度やる』に通ずるものを感じるんだけど。」
「今度が一生来ないあれか。」
ファリナとミヤが失礼だ。今度は来るよ。いつか必ず。
解体作業で疲れていたのか、みんな布団に入るなり寝息をたてている。わたしも、もう・・・
「起きて。ヒメ、起きなさい。」
肩をゆすられて目が覚める。カーテン越しにもまだ暗いことがわかる。
「何?何時?」
「5時前くらいかな。」
「何で?」
「起こすって言ったよね。」
ファリナ、何言ってますか。あんなの本気にしてるわけないよ。
「言ったよね。」
「はい。」
ファリナが本気のようだ。逆らったら朝ご飯がどうなるかわからない。
(何もないとはわかっているとはいえ、他の女と2人きりなんて許しません。)
小声で何か言ってくる。
(あのね、わたしが寝てるなら、たぶんミヤも一緒に寝てるよ。)
(それはそれで、ミヤばかりずるい。)
「やきもちですね。」
((ヒャイ!))
いきなり声をかけられて、悲鳴が出そうになるのをこらえる。みんなまだ寝てるんだから。
(リルフィーナ、起きてたの。)
「はい。誰かが起きた気配がしましたので。なにかお手伝いできることはありますか。朝からお風呂は沸かしませんよね。」
(・・・料理はできたっけ。)
「ヒメさんよりはできますよ。」
どういう意味かな。
(それより、みんな起きちゃうから、もう少し小声で。)
「ミヤさんは2度寝に入りました。お姉様は、これくらいじゃ起きません。大丈夫です。」
じゃ、わたしも2度寝を・・・ダメですか。
キッチンに行く。かまどに薪を入れ、<小火球>の魔法を放り込む。火がかまど全体に回るまでに顔を洗う。
「お風呂だけを考えてましたけど、火の魔法って薪に火をつけるのも簡単なんですね。」
「そういえば、火打石で火をつけてたもんね。魔法なら、湿った木でも火をつけられるよ。煙がすごいけどね。」
「あー、火打石だと湿った木は火が着きませんものね。お姉様が喜ぶわけです。煙たいのは勘弁ですけど。」
ファリナとリルフィーナとで朝ご飯を作る。わたしは座っていていいって、だったら寝ててもいいんじゃないでしょうか。
「ヒメさんは少し女心を勉強した方がいいかと。」
「待って、わたし女なんだけど。」
言われようが何かおかしい。
わたしをバカにしたリルフィーナは、調理途中お皿を3枚割った時点でレッドカード。退場となる。
「もう少しでできるから、ヒメ、ミヤとリリーサを起こしてきて。」
「OK。フライングボディアタックだー。」
「何の暗号ですか?」
隣に座って、わたしのセリフを疑問に思ったリルフィーナが、ファリナに尋ねてるが気にしなくていいよー。
わたしの部屋へ。
ミヤ発見。
「起っきろー。」
ジャンプ。ミヤに圧し掛かる寸前に目を開けたミヤが、わたしのみぞおちにグーパン。
「ギャン!」
もろに食らってしまって、息ができない。倒れて動けないわたしを、布団の中に引きこみ、わたしの腕を枕にして寝るミヤ。
「いつまでかかってる・・・って、何2度寝してるの!?」
ち、違う、違うのファリナ。寝てないよ。気を失いそうだけど・・・
「なかなか、バイオレンスな起こし方・・・いえ、寝かし方です。」
リリーサが驚きの表情。起きてたんだ。
「迂闊に寝てられないです。」
まったくだよ。
「朝ご飯食べて、一休みしたらゴルグさんの家に行くよ。」
「一休み、というのは寝てもいいということですよね。」
リリーサ、まだ寝る気?
「ダメです。時間があるなら、布団をせめて窓際に干していきます。」
ファリナがダメ出し。
「仕方ありません。後、何日お世話になるかわかりません。そのくらいはしておかないと。」
「明日、店での販売終わったら、お別れだからね。」
「そんなー。一緒に寝た仲じゃないですか。」
「一緒の部屋でって正確に言って。」
「ファリナさん、細かいです。」
ファリナとリリーサが睨みあう。
「わたしたちもハンターの仕事に戻らなきゃいけないし、リリーサたちも次の商品を狩りに行かなきゃいけないでしょ。それとも、お店を大きくする夢、諦めるの?」
「うぐ・・・」
しょんぼりするリリーサ。
「まぁ、永遠にお別れってわけでもないし、たまには遊びに来てもいいし、遊びに行くよ・・・行くのは無理か。どこにいるかわからないもんね。」
月の数日以外は、自宅にいないって言ってたっけ。
「大変な獲物の時は手伝いを頼んでもいいですか?」
「いいよ。半年に一回くらいなら。」
「週1とはいいませんけど、せめて月に1回。」
「それ、ほぼ毎回ってことじゃないの?」
2,3週間かけて1回狩りに出て、数日で売るって言ってなかったかな。
「引っかかりませんね。わかりました。最大譲歩して半年に6回では?」
「そのくらいなら・・・」
「ストーップ!何でそんなに単純なの?バカでしょ。」
「月1と半年に6回は変わらない。」
あれ?
「チッ。」
聖女が舌打ちするんじゃありません。
「じゃ、行きますか。」
わたしの部屋にあった布団を、居間の窓のそばに干して出発する。
「わたしの<あちこち扉>でもいいんですけど、どうしますか?」
「あの物置の開いてる空間にピンポイントで門を開く自信はないかな。まかせるよ。」
「あれは慣れが必要ですからね。」
リリーサに扉を開けてもらって、ゴルグさんの家の物置を目指す。
「だから、狭いんだから暴れないで!」
「あぁ、もう!抱きつくなって言ってるでしょ!」
前日から何ら進歩も無く、わたしたちは目的地で大騒ぎ。そう、物置の中は、変わらず狭かった。
「おぅ、来たか。」
ゴルグさんは乾かしていた毛皮を取り込んでいた。
「肉はそのままでいいとして、薬は今、うちの奴に作らせている。お前さんたちは、この毛皮を隣の乾燥室まで運んでくれ。」
「乾燥室?そんなものまであるの?って言うか、今まで乾かしてたよね。」
「また、ミヤさんの出番です。熱で急に乾かすと、皮が均等に乾かないんで、しわくちゃになっちゃうんです。なので、一晩自然乾燥させてから魔法の熱風で乾かします。今度は熱波のピューリーの鉱石に魔力を通します。今回は20個ほどなので、ミヤさんなら一瞬です。」
「だそうよ。ミヤ、お願い。」
「ん。」
わたしたちは、毛皮を数枚ずつ持って、リリーサの後に続く。
保冷庫の反対側にあるその部屋は、4メートル四方くらいの部屋で、わたしの目の高さのちょっと上くらいのところに、部屋の入口から奥に向かって棒が通してある。
「毛皮を棒に干してください。あ、ミヤさん待って。けっこうな高温になるので、干してからじゃないと、鉱石が発動した後、中に残ってたら倒れちゃいます。」
部屋に入るなり、ミヤが鉱石に手をかけている。
「でも、鉱石を発動させるのにミヤ以外だと・・・リリーサで3分はかかるよね。いつもは発動し終わるまでどうしてるの。」
「3分くらいなら我慢です。それに、今日はミヤさんがいるので、発動に1分かかりません。あ、毛皮はしわにならないよう伸ばして干してくださいね。」
ミヤも手伝って、毛皮を棒に掛ける。
「こんなものでいいのかな?」
リリーサがかかっている毛皮を一通り確認する。
「はい。OKです。ミヤさん、鉱石の発動お願いします。」
昨日のように、ミヤが、ポンポンと触れると、鉱石が熱い風を吹き出し始める。
「けっこう熱いんだね。」
「それより、どうやったらこんなに速く鉱石を発動させられるんですか。」
リルフィーナが半ばあきれ顔。
「やっぱり、一家に一台ミヤさんです。欲しいです。」
あげないからね。
「ここの鉱石って、動き出すのにずいぶん時間がかかるのね。」
ファリナが不思議そうに部屋の壁の鉱石を見てる。
「普通の家の鉱石なら、それこそ1,2秒触れれば発動するでしょう。ここのは、ちょっとおかしいヒメでさえ10秒くらいかかるって言ってたよね。異常なヒメでさえ。」
ファリナ、何か言った?
「ここのは業務用ってやつで、効果が大きい代わりに魔力もいっぱい必要なんですよ。」
「普段はどうしてるの?もしかして、ゴルグさんって、すごい魔術師なの?」
「普段は、ゴルグさんが根性でやってます。保冷庫なら2時間、乾燥室で15分くらいかかるそうです。今回わたしの依頼だから、わたしがやるのでやってなかったですけど、他の方の依頼の時は、ゴルグさんが朝早くから保冷庫を動かします。まぁ、普段は手前だけで、奥まで保冷庫を使うことはめったにありませんけど。それでも30分くらいはかかるそうですよ。」
死ぬって。ずっと寒い中とか暑い中にいたら死んじゃうよ。
「もちろん、休憩しながらですよ。ずっと続けてたら本当に死んじゃいます。だから、時間も余計にかかるんですけどね。単純計算なら、休みなしでやれば、保冷庫が1時間半くらい。乾燥室で10分ってところですよね。」
プロって大変だ。




