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6.相談する少女たち 2

 ロクローサの町のハンターギルドに出す指名依頼の話はリーアとファリナに任せて、わたしとミヤは、その裏にあるギルドがやっている採取品の解体買取窓口に行って、昼に狩ったオークのうち2匹を売って、1匹を解体してもらう。

 わたしの<ポケット>の中では時間経過しないから、狩りたてホヤホヤだ。

 1匹、銀貨6枚。2匹で銀貨12枚だ。そこから、わたしたちが持ち帰る分のオークの解体手数料を払う。


 この国で普通使われるお金は、金、銀、銅の貨幣になる。

 銅貨20枚で銀貨1枚と同等。銀貨20枚で金貨1枚と同等。普通の人が月にもらう給料は平均金貨2,3枚だから、銀貨12枚は月の平均の4分の1から6分の1分。それに、最初にミヤと争って採取した薬草の分が銀貨5枚。1日の稼ぎとしてはまあまあかな。

 いつも稼げるときは、わたしがファリナを怒らせることなくちゃんとやれば、1日に金貨4,5枚にはなるので、今日は少ないほうなんだけどね。

 まぁ、後半は人助けでなにも捕れなかったから。え、オーク狩ったの後半。そういえばそうか。


 解体してもらったオークの肉を受け取り、ミヤと2人で表にあるギルドの窓口へ向かう。

 さすが領都のギルド。わたしたちの町のギルドの建物の何倍も大きい。

 中に入る。うわ、広―い。依頼を受ける受付も5,6か所あり、その受付カウンターの前には、待ち合わせや休憩等に使うテーブル、椅子がたくさん置かれたスペース。わたしたちの町のギルドに登録してるハンターくらいなら全員座れるんじゃないの、これ。

 大体うちのギルドじゃ、受付なんか2か所しかない上に1か所はいつも暇そうにしてるか、閉じてるのに。


 受付の1つで話をしていたリーアとファリナが話が終わったようで、こちらに来る。

 「終わったわ。詳しい話は帰ってからするから。」

 普通ならパーティー全員で依頼内容を確認して問題がないか話し合ってから引き受けるものだけど、ファリナに任せてあった。もともと、ミヤはそういう話に一切参加しないし。え?わたしもミヤと同じじゃないかって?わたしはちゃんと参加するよ。やりたくない仕事引き受けたら大変じゃない。

 今回は引き受けることが前提なので、わたしの意見はいらないのよね。ファリナに邪魔だって言われたし・・・


 「町まで送らなくて本当にいいの。」

 ギルドを出た後、リーアは、わたしたちをマイムの町まで馬車で送ってくれると言ってくれたのだけど、わたしたちはそれを断った。

 日暮れまでもう少し時間があるとはいえ、リーアがマイムの町から戻るころには日も暮れてしまうだろう。護衛のエミリアがいるから大丈夫だろうけど、暗い中、馬車を走らせるのはちょっと心配。

 「大丈夫。近いし、わたしたちだけの方が安全だから。」

 ここロクローサの町からマイムの町までは徒歩で2,30分くらい。馬車なら10分くらいの距離だ。

 「早く帰って、フレイラやお母様を安心させてやって。」

 「わかった。ありがとう。明日はお願いするね。」

 「任せて。」

 ちょっと心苦しそうにしながらも、リーアは馬車に乗り家路についた。


 わたしたちはマイムの町に向けて歩き始める。

 「町を出たら<ゲート>使うね。」

 送ってもらうのを断わった大きな理由がこれ。

 <ゲート>空間移動魔法。今いる場所と行きたい場所をつなげる門を創造する魔法。わたしはこれを使える。

 このことは、ファリナとミヤしか知らない。

 出口の門は知っている場所なら行きたい地点に、知らない場所でも距離と方向を指定すれば指定した地点に開くことができる。まぁ、知らない場所は、どこに門が開くかわからないので怖くてやったことはないけど。いや、1度やってみたら、川の真ん中の空中に出てしまって、目的地に着くなり水の中に落ちるという悲惨な目にあったので、よほどのことがない限りやりたくない。これが火口の真上とかに出ちゃったら、さすがのわたしでも大変だよ。


 ロクローサの町からでたところで森に入り、あたりに人気のないことを確かめて門を創る。

 出口はマイムの町の近くの森。向こうにも人や獣がいないことを確認して門を通る。

 「帰ってきたー。」

 朝出発して夕方帰ってきたのに、何日も帰ってない気がする。1日でいろいろあったからなぁ。

 「帰ってご飯にしましょう。今日はオークの肉があるから、途中のお店で野菜と果物買っていくよ。」

 ファリナが町に向かい歩き出す。わたしとミヤはそれに続いた。


 「わたしたち3人とフレイラ、マリシアの計5人で行く。目的は灰色狼を1匹程度。明日の朝7時にパーソンズ家出発。森までは馬車を出してくれるそうよ。なにか質問は。あ、今日のフレイラの救出に金貨5枚いただきました。明日の報酬も灰色狼を捕まえれば金貨7枚、ただし、1日で終わらなければ、最大3日をめどにキャンプ。万が一捕まらないときでも金貨2枚は出すって。」

 「1匹でいいの?ミヤなら3日もキャンプできるならもっと狩れるでしょ。」

 「それは臨機応変、成り行きまかせね。ただ、1日目で何匹も狩れるならいいけど、何匹も狩るためにキャンプをするつもりはないみたい。急いでいるみたいよ、薬。苦しいのを和らげる程度しかできないけど、あるとないとじゃ違うみたい。でも、今ある薬がもう底をつきそうらしいの。」

 晩ご飯を食べながら明日の打ち合わせ。オークの肉おいしい。問題はファリナめ、付け合わせの野菜、わたしがブロッコリー苦手なの知っていてなぜつける。というか、さっきの買い物中いつ買った。わたしが食べられないものを買わないよう見張っていたのに。

 フォークにのせ、そーっとミヤの皿へ。ミヤ、ナイフでフォークを押し返す。わかったわよ。肉1切れもつける。ミヤ、おとなしくブロッコリーを引き受ける。この肉食獣め。

 自分の皿に目を戻すと、なぜかブロッコリーが増えていた。見るとファリナの分が減っている。

 「ファリナぁ。」

 「好き嫌いせずに食べなさい。そんなだから15にもなって子ども体形なのよ。食べたら胸も少しは成長するわよ。」

 い、言ってはいけないことを・・・くそ、確かにファリナとは1歳ちがいで胸は向こうのほうがあるわよ。でも、わたしは1歳下。まだまだ成長期なんだから来年の今頃はファリナと同じか、もっと大きくなっているはず。え?来年にはファリナはもっと大きくなってるかも?大体が1歳差とは思えないぐらい大きさに違いがある?い、いつかは追い越せるよ、絶対。

 「ヒメ様夢見すぎ。」

 うるさい。あ、こら、ミヤ、なんでブロッコリーを戻す。しかも自分の分も合わせて。

 「ヒメ様の胸のためこれあげる。無駄だけどがんばれ。」

 お、おのれは・・・だったら肉を返しなさいよ。

 「ヒメ様の貧相な胸のためにはブロッコリー。肉はヒメ様のふくよかなお腹にはよくない。」

 「誰のお腹がふくよかよ?!そういうセリフはファリナに言いなさい。ふくよかなお腹のファリナに!」

 「明日から1週間、3食野菜サラダオンリー。ブロッコリーメイン。今決めた。もう決めた。絶対決めた。」

 「ごめんなさい。わたしです。わたしのお腹がふくよかです。」

 「ミヤは言ってない。ミヤは悪くない。せめてミヤにはお肉を。」

 野菜オンリーと聞いて、ミヤも平謝り。

 「くそー、わたしよりちょっと胸が大きいからって偉そうに。わたしだってミヤよりあるもん。」

 「ミヤと比べてどうするの。」

 「ミヤは今のままで困らない。ヒメ様はこのままだと人生的に困る。一生1人身。ミヤが老後の世話することになる。」

 嫌なこと言わないで。なんか、気が滅入ってきた。


 「とにかく、明日は黒の森近くまで行って、できるだけ早く、できるだけ多く灰色狼を狩ればいいのね。」

 言い争いが不毛な方向に向かってきたので、仕事の話に戻す。


 黒の森というのはそういう名前の森があるのではなく、人族と魔人族の境界になっている“黒の山脈”に近い部分の森をわたしたち人族がそう呼んでいる。人族に近いほうは白の森と呼んでいる。森の中央を走っている誰が造ったのかわからない街道があり、それが白の森と黒の森の明確な境界線になっている。黒の森の横を通るから、物騒なのでハンター以外は滅多に使わないけど。

 山脈と森は、ほとんどの国に面しているので、どの国も固有の名称はつけずにそう呼んでいるのだ。

基本、白の森には獣、黒の森には魔獣がいる。森の境界には獣と魔獣が入り混じっている。無論例外もあるけどね。

 灰色狼は白と黒の境界付近にいることが多い。つまり、今日みたいに、魔獣が出てくる可能性が高い。

 「キャンプのことを考えたら、1日でけりをつけたいわね。黒の森近くでキャンプするのは危険だし、かと言って、キャンプのために白の森の街道までもどるのは時間的にロスがあるし。」

 ファリナが肉をパクつきながら言う。

 そうなるかな。まぁ、最悪、黒の森でキャンプすることになっても、ファリナとミヤが見張りに立ってくれれば安心してゆっくり眠れるよ。

 「2人もいらない。ヒメ様1人で十分。ヒメ様強い。」

 「そうそう。全部燃やしてもいいからがんばってね。」

 ほう、全部燃やしてもいいんだね。わたし以外は全部。

 「ミヤを燃やしたらミヤはヒメ様かじる。」

 「じゃ、わたしは1か月ご飯抜き。」

 「ごめんなさい。」

 なんだろう、わたしが一番立場弱い?え?わたしリーダーだよね。おかしい、どうしてこうなった。


 だんだん悲しくなってきたので、明日も早いことだしお風呂入って寝る。明日の朝起きたら、枕が涙で濡れてそう。


 「ヒメ様。朝。起きろ。」

 「ギュム!」

 ミヤからのフライングボディアタックで目が覚める。

 寝ていても、他人からの害意や危険は感じるので対応できるけど、ミヤのはじゃれつきだから反応できない。けど、天井付近までのジャンプから1回転してのボディアタックって、これもう殺意あるよね。まじで死んじゃうよ、わたし。

 「このくらいで殺せるなら誰も苦労しない。」

 こいつ・・・


 「無事に起きたみたいね。ミヤ、ごくろうさん。」

 「いや、無事じゃないから。そのうち死んじゃうから。」


 なごやかに朝の一時が過ぎてゆく・・・この殺伐感がなごやかに感じる生活って・・・


 「準備はできた?忘れ物はない?」

  ファリナがわたしとミヤを、特にわたしを見て言う。身支度を確認する。大きな荷物は<ポケット>に入れてあるから、基本持つものは、武器と水筒があればなんとかなる。

 「じゃ、町を出たところで<ゲート>開くから。」

 そう思っていたら、町の出口にリーアが馬車で待っていた。

 「おはようリーア。わざわざ迎えに来てくれたの。」

 余計なことをと思いつつ態度に出さないように声をかける。

 「これくらいはね。現地に着くまでは少しでも休んでいてほしいから。」

 あぁ、あまりにも善意の塊で、不満に思ったわたしの胸が痛い。

 「ありがたくお世話になるわね。」

 ファリナがにこやかに答える。

 馬車に乗ると、中にエミリアがいた。誰かいる気配はしたので、フレイラだと思っていたよ。

 「なんで主人が馬車の外にいて、護衛が中で座っているの?」

 「なぜって、わたしの特技は奇襲なので、初手のためには隠れていたほうがいいからに決まっているじゃないですか。」

 「なぜ戦う前提・・・」

 「別にあなたたちと争うためのものではありません、今は。ただ、いつ、いかなる時でもお嬢様を守れる態勢でいるのがわたしの使命。そのためのものです。」

 今はって言ったよね、この女。


 「とりあえず、出発しましょう。フレイラが待ちくたびれてしまうわ。」

 リーアに急かされてわたしたちは、馬車に乗り込み出発する。

 なんかエミリアに敵対意識持たれてるような気がするけど、気のせいかな。





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