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45.事態は膠着状態に陥っていた


 ギルド内の異様な雰囲気に、受付のノエルさんは『早くでていってくれないかな』と思っていたけど、そこにいた人の中にはこの地の領主もいたため、強い事は言えない状況であった。事態は膠着状態に陥っていた。

 「そこまでわかっているなら出ていってください。」

 ノエルさんが半泣きだ。

 「すまないが、みんなにお茶を用意してもらえないか。」

 「うー、わかりました。」

 ロイドさんのお願いを断わることができないノエルさんは、渋々カウンターの奥にある流し台に向かう。

 「なぜわたしが一緒に行かなくちゃいけないの?」

 「楽しそうだからです。今夜が”ぱじゃまぱーてぃ”の”がーるずとーく”で明日から“いっしょにりょこう”です。すごいです。わたしも一気に“りあじゅう”です。」

 「お姉様は、村の食堂に置いてあった何年も前の女性向け雑誌のお友達特集を見てから、ずっとお友達といろんなことをすることに憧れていました。それでお姉様が幸せになるのなら、わたしは陰から見守っています。」

 「それってストーカーってやつですね。今度わたしもファリナお姉様にやってみようかな。」

 リルフィーナとフレイラの不穏な会話がどこからともなく聞こえるけど、全面的に無視。これ以上貴重な時間を無駄にはしない。なにせ、これから家に帰ってリリーサを構ってやらなくちゃいけない。魔法は習っておきたいからそれまでの我慢。時間と体力は温存しておかないと。

 「私からも頼めないか。灰色狼は手に入れたい。」

 ロイドさんが真剣な目でわたしを見る。

 「国王様に気に入られたいから?」

 「いや・・・うん、結局はそうかな。私が国王様に覚えよろしければ、領地をもっとよくしていけるんだ。道路の整備や農地の開墾。近海でいいから海にも手を出したい。それにはお金がかかる。お願いして、領民からの税金を優遇してもらえるよう頼めるかもしれない。そうすれば、浮いたお金が使えるようになる。今のままでは魔人族対応だけで手がいっぱいで、他に手を出す余裕がない。このマイムの町だってもっとハンターを呼べるようにしたい。やりたいことはいっぱいあるんだ。」

 ロイドさんが熱く語る。それを熱っぽい視線で見つめるエミリア。いい話っぽかったのに、なんでだろう、エミリアのせいで一気に醒めてしまった。

 「いいお話でした。ヒメさん、手伝ってやってください。」

 わたしたちの横に立ってお茶を配ろうとしていたノエルさんがトレ―をテーブルに置いて、いきなりわたしの両手を握る。

 「最後が特にいい話でした。ヒメさん、頑張りましょう。」

 「あぁ、やりたいことがいっぱいってくだりね。」

 「違います。」

 「みんな、やりたいことがあるのは結構です。でも、それをわたしに押し付けるのはやめてほしい。わたしにだって、食っちゃ寝というやりたいことがあります。」

 「言っちゃうんだ。」

 「ヒメ様怠けすぎ。」

 「最低ですね。」

 「わかります。」

 「うん、わかるよね。」

 「わたしもそうしたいです。」

 「「「え?」」」

 後半の発言者、リルフィーナ、リリーサ、フレイラを驚きの目で見る他の方々。

 ほら、賛同者はけっこういるものでしょ。


 「すまない。無理強いをするつもりはないんだ。いろいろ難題を解決してくれたから、つい頼ってしまっていた。悪かった。」

 苦笑いをしながらロイドさんが席を立つ。

 あー、もう仕方ないなぁ。

 「バイエルフェルンに灰色狼がいるとは限らないよ。」

 エッとわたしを見るロイドさん。

 仕方ないなぁ、というふうな顔のファリナと・・・未だに空中の見えない何かを目で追っているミヤ。ごめんなさい、もうやめて。

 「あ、あぁ。いなかったらそれはそれで仕方ない。行ってくれるのか?」

 「違う。最初から面倒な話だったら、リリーサについてバイエルフェルンに逃げ出す予定だったの。面倒そうだから逃げることにする。それだけ。まぁたまたま灰色狼を捕まえちゃうかもしれないけど、期待はしないでね。」

 ロイドさんとは目を合わせない。なんか言ってて自分でも恥ずかしい。


 「これが“ツンデレ”ですか?初めて見ました。」

 「じゃ、ヒメさんって、あのおじさんのこと好きなんですか。」

 顔を赤らめ様子を見ていたリリーサとリルフィーナを、ダンっと椅子から立ち上がり睨みつけるファリナ、ミヤ、エミリア。3人とも手にはそれぞれの武器が握られている。

 「待って。話が急すぎて頭が追い付かないわ。誰をヤっちゃえばいいの?バカな事言ってるこの2人?それともこの男がいなくなればいいのかしら・・・」

 ファリナが目を血走らせて、それぞれを睨みつける。

 「ミヤたち3人以外消してしまえばいい。一番わかりやすい。」

 冷ややかな目でその場を見回すミヤ。

 「あぁ、だから早めに切り刻んでおくべきだったのよ。この女さえいなければ・・・」

 わたしを横目で睨むエミリア。

 「いや・・・私には妻が・・・だが、どうしてもと言うなら・・・」 

 顔を赤らめハンカチで汗を拭うロイドさん。

 「よくわかりませんが、邪魔者のヒメさんがファリナお姉様のそばからいなくなるのなら、お義母様くらいは呼んであげてもいいです。」

 いまいちよくわかってないフレイラ。マリアさんはどうするよ。

 「これが修羅場というやつですね。」

 「ワクワクですね。」

 喜んで眺めてるリリーサとリルフィーナ。いや、あんた方もターゲットになってるからね。

 

 あぁ、面倒くさい。

 「燃やすのが一番早いよ・・・」

 一触即発だったのに、その一言で全員がピタッと動きを止めた。

 「ヒメさん、テーブルだけは燃やさないでください。」

 ノエルさんの悲鳴のような声がギルド内に響く。


 「今後、わたし、ロイドさん、オブザーバーとしてのファリナ以外の人が発言したら、連帯責任でみんな燃やします。冗談ではありません。せっかくいい話風で終わらせようとしたのに、茶々を入れられるのは我慢できません。特にリリーサ、リルフィーナの行動にあなたが明日の朝日を見ることができるかどうかがかかっていることを肝に銘じておくように。」

 汗を一筋流して、コクコクうなずくリリーサ。

 「言論の自由を主張します。」

 手をあげて発言したフレイラの目の前のカップが炎に包まれ灰になる。

 「ヒィ!」

 「2度目はありません。」

 「あぁ!おそろいのセットのカップが・・・」

 ノエルさんが喚く。

 「カップくらい10でも20でも買ってあげます。ロイドさんが。」

 「え?私?」

 ギロリと睨む。

 「は、はい。買います。」


 「で、どのくらい必要なの。灰色狼。」

 「10から20匹くらい・・・あったらうれしいかな・・・」

 「何オドオドしてるのよ。はっきりしゃべりなさい。燃やすわよ。」

 「はい。」

 「期限はあるの?」

 「来週末までに手に入らないと時間的余裕がなくなります!」

 「大声出すな、うるさい。燃やすわよ。」

 「ヒメ、それはさすがに理不尽だから・・・」


 「声を出すことを許可します。」

 話は大体まとまった、ような気がするから、発言を許可する。ここからはわたしが無視を決め込む。

 「そこのリルフィーナとかいう女のよけいな一言が原因なのに、なぜわたしたちがその責を負わなければいけないのか説明を求めます。」

 フレイラが何か言ってるけど、聞こえない。

 「わたしはツンデレで修羅場が見れて眼福ですので、どうでもいいです。」

 リルフィーナが誰の事言ってるのか気になるけど、聞こえない。

 「すごいですね。みんなヒメさんの愛人なんでしょうか。いつ刺されてもおかしくないです。ドロドロです。次回が気になります。」

 物語じゃないから。愛人でもないから。刺されないから。リリーサ黙れ。

 「愛人ではないけど刺しますよ。」

 かかってきなさいエミリア、帰り討ちにしてやる。


 「あの・・・そろそろハンターの方々も戻られますし、切り上げていただけませんか。」

 ノエルさんが、恐る恐るロイドさんに声を掛ける。

 「そうだな。それではすまないが頼む。」

 ロイドさんがにこやかにわたしに声をかける。

 「最後に一つ。この件でわたしたちの名前は、一切世間に出さない事。通りすがりのハンターが持っていたとでも言っておいて。いい?」

 「え?それは困ります。できればちゃんとした依頼としてこのギルドに頼んでいただきたいです。そして、ヒメさん方には早く勇者になっていただかないと。」

 「依頼を出したら、そのままバイエルフェルンのどこかの町のギルドに移籍する。」

 最後の手段。ギルドの登録地の変更なら、今のランクのまま移動できる。

 「そんなー。わたしたちに死ねというんですか。マスターも泣いちゃいますよ。」

 あれ、マスターって・・・

 「そういえばここのマスターってノエルさんじゃないんだよね。わたし、見たことも会ったこともないけど、存在してるの?」

 「なに言ってるんですか。ちゃんといますよ。わたしも受付になって1年になりますが、一度だけ会ったことがあります。」

 「待って、一度しか会ったことないの?それいるって言えるの?このギルド、ちょっとおかしすぎない?」

 「大丈夫ですよ。承認の書類も、晩にドアの前に置いておけば、朝にはちゃんと決済されてドアの前にあります。それ以外に、このギルドでマスターがいる意味なんてないですから。いなくても仕事は回りますし。」

 「領主!いいの?これ。」

 「仕事が滞っていないならかまわんだろ。」

 あれ、平然と言われちゃった。おかしいのはわたしなの?

 周りを見回す。

 「ヒメさん、よけいな事に首を突っ込まない方がいいですよ。」

 リリーサが当然のことのように言ってくる。アンタッチャブルなの?けっこうあるあるなの?こういうのって・・・


 「ファリナ、登録ギルド変えよう・・・」

 「うん。それがよさそうね。」

 2人で小声で話す。もう、最悪バイエルフェルンに移住してやる。


 「でも、ちょっと待って。わたしたち5日後から家の工事があるんだけど、それまでに帰ってこれるかな。」

 ファリナが思い出したように言う。そういえばそうだった。

 材木さえあればすぐに、わたしたちの家の工事に入ると言っていたダラムルさんだったけど、商業ギルドのゴタゴタが片付かないと材木が売ってもらえないとかで、少し工事の開始が伸びてしまっていた。

 「ダラムルに言って、お前たちが帰ってくるまで待ってもらうしかないだろう。私からも話は通しておく。」

 「ダメよ!最重要事項よ。延期なんてありえない。」

 ロイドさんの言葉にむきになって反論するファリナ。

 「なんの工事ですか?」

 フレイラが興味深そうにファリナを見る。

 「わたしたちの生活環境の改善ね。主にミヤとわたしの精神的な。」

 うるさそうなので、具体的な事は言わずにごまかすことにしたようだ。


 「なら、4日でここに帰ってきましょうか。」

 リリーサがこともなげに言う。

 「ヒメさんが、目標灰色狼20匹。わたしが15匹。パパッと狩ってきましょうか。」

 まぁ、元々来週末まで欲しいと言われてたし、来週末といえば、あと9日。あまり余裕があるわけではないけど、断言しちゃって大丈夫なのかな。





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