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33.俺が死なない方向でなんとかなりませんか


 「あの、俺が死なない方向でなんとかなりませんか?」

 恐る恐るダラムルさんがファリナにお伺いをたてる。

 「無理。死んでもらうのが一番手っ取り早い。」

 「犠牲は無駄にしない。」

 2人に聞く耳はないようだ。

 「って言うか、何だお前ら?何が目的だ?なんで俺が死ななきゃいけないんだ?」

 あ、そこに気づいたか。

 「わたしたちは、今住んでる家を改装したいの。でも、あの筋肉バカに頼むのは嫌なの。」

 「だから、筋肉バカを抹殺する。」

 ファリナとミヤが熱弁をふるう。

 「つながってないからそこ。別にあのバカに頼まなくても、他の大工さんにたのめばいいじゃない。」

 「「はっ!」」

 わたしの言葉に、正気に戻る2人。

 「あまりにも鬱陶しかったから、ついムキになってしまった・・・そうね、じゃ、他の工務店探しましょうか。」

 あっさり復活したファリナが、わたしの手を取って引っ張る。


 「いや、待てよ。いるだろ、ここに。腕のいい大工が。」

 ファリナとミヤがジットリとした目で見る。

 「あんな見え見えの罠に引っかかって、御用達の看板とられるような頭の程度がおもわしくない人に頼むのはちょっと・・・」

 「聞こえがいいように頑張っているようだが、要するにバカだって言いたいんだよな!あぁ、どうせバカだよ!ちくしょう!!」

 「言い過ぎたかな。」

 「バカはバカ。過ぎることはない。」

 申し訳なさそうなファリナに対しミヤは一刀両断だ。

 ダラムルさんは、四つん這いになって震えている。泣いちゃったかな。

 「ま、まぁ、話だけしてみようよ。2つある部屋の壁を取って1部屋にしたいんだけど、どのくらいお金かかるかな。」

 ダラムルさんは、のっそりと立ち上がると、店の中に入って行ってそろばんを持って出てくる。

 「部屋の広さにもよるが、最低で金貨3枚。補修が必要なようなら金貨5枚が見積もりだな。後は、実際部屋を見てって、そういえば嬢ちゃんの家は改装をやってるから図面があるはずだな。探してみるから、中に入って休んでいてくれ。」

 そういえばそうだった。なら、話がしやすいよね。

 少しの間待っていたら、丸めた図面を持ってくる。

 「この家だよな。どの部屋とどの部屋をつなげるって?」

 「こことここ。この壁を壊したいんだけど。」

 「これだと、横に長くなりすぎるから、真ん中に補強の柱がいるな。そうすると・・・」

 「部屋の真ん中に柱はじゃまになるわ。」

 「じゃ、天井と床で補強するしかないな。」

 あーしたいこーしたいと、言いあってとりあえず簡単な図面ができた。

 「後はきちんと図面にしとくわ。それで、悪いんだが、材料費だけ前金で貰えないか。なにせ、ここしばらく仕事がなくて、残っている材料じゃ椅子とテーブルぐらいしか作れねぇ。」

 「仕方ないわね。ミヤ、財布セカンド。」

 「ん。」

 ファリナに言われ、ミヤは上着の小さいポケットから、絶対にポケットに入るわけないだろうという大きさのお金を入れる袋を取り出す。生活費はファリナが持ってる財布から出すはずなので、これは緊急用ってことかな。“財布『セカンド』”とか言ってたし。でも・・・

 これ<ポケット>の収納魔法だよね。ミヤは使えないってわたしに言い張っていたよね。もう隠す気無いな、こいつら。

 「じゃこれで。」

 お金を払って、ファリナは財布をミヤに渡す。ミヤの頭の半分はあろう袋が、15センチくらいの幅のミヤの服のポケットになんの抵抗もなく消える。

 ダラムルさん仰天。わたしは見ないふり。ミヤの真似して、窓から外を眺める。

 あれ?何かがチラチラ見え隠れする。あれって・・・


 「ミヤ、探知。表から誰か見てる?」

 ミヤは顔の向きを変えることなく、目を閉じる。

 「男が1人。さっきの店の化粧した方。」

 「化粧した男?ドリアスの弟のハインリッヒじゃないのか。」

 え、あれ弟なの?全然似てなかったけど。

 「わかるのか?嘘だろう。」

 ダラムルさんが、ミヤと窓の方を交互に見る。

 「こちらを窺っているだけ。何かしてくる様子はない。」

 「さっきの仕返しでも企んでるのかしら。」

 わたしの何気なく言ったセリフに、ファリナがニヤリと笑う。

 「襲ってこないかな。向こうから来てくれたら正当防衛よね。皆殺しにしちゃっても文句ないよね。」

 「帰っていく。」

 「ちぇ。そううまくはいかないか。」

 でも、何の用だったんだろう。わたしたち?それとも、ダラムルさん?


 改装工事は、材料を商業ギルドから買い付けて、ダラムルさんの店で木材を、ある程度形にした後、壁を壊すという作業手順になるから、家に来るのは、3日後からということになった。

 「今日は買い物して、もう帰りましょう。これ以上表にいるとまたろくでもないことが起こる気がする。」

 ファリナ、それフラグだよ絶対。

 

 家に着いて、数時間。

 居間のソファーに横たわるわたし、その上にぐでーっと横たわるミヤ。

 「食器出すくらい手伝ってよ。」

 キッチンでファリナが怒ってる。まぁ、わたしたちの呆けた格好を見れば怒りたくもなるだろう。

 でも、今日はもう何もする気がしない。これは、パーソンズ家とあの筋肉バカのせいだ。わたしに責任はない。

 「やらないならご飯は抜き。」

 ミヤが飛び跳ねるようにキッチンに走る。

 「ヒメ様ご飯抜き。ミヤが食べる。」

 いや、もう怒る気にもならない。と、その時、ドアをノックする音が響いた。

 ドアの小窓の蓋を開けてみたら、立っていたのはダラムルさんだった。


 ドアを開ける。

 うなだれたダラムルさんが、さらに頭を下げる。

 「すまん。工事ができなくなった。」

 「なんですって!?」

 「なに!?」

 ファリナとミヤが、お玉と皿を手にキッチンから飛び出してきた。


 「で、どういうこと。」

 ソファーに座るダラムルさん。向かいに座るわたし。お茶すら出す気のないファリナは、腕を組んでダラムルさんの横に仁王立ち。反対側にはミヤが腰に手を当て、ダラムルさんを威嚇している。

 「実は、俺たち大工が使う材料の木材は、ギルドか馴染みの材木問屋から仕入れている。で、嬢ちゃんたちの工事用の材木を買おうとしたんだが、どちらからも断られた。ここしばらく仕事の実績がない俺には売れないって言ってな。」

 「現金取引でしょう。そんなことあるの?」

 前金は渡してある。後払いじゃないんだから、売ってもらえないはずがない。

 ファリナが顔に青筋を立ててダラムルさんを睨む。

 「有り得ないさ。だが、実際そう言って断られたんだ。おそらく、ドリアスが裏から手を廻してやがるんだ。コルド杉の時と同じようにな。」

 「ドリアス・・・」

 わたしたち3人は顔を見回す。

 「「「・・・って誰だっけ・・・」」」

 「お前たちが最初に行った店の店長だよ。筋肉野郎の。」

 あぁ、あいつか。

 「ドリアスっていうんだ。」

 「筋肉バカじゃなかったのか。」

 ファリナもミヤも驚きを隠せない。あいつに名前あったんだ。

 「そういえば、看板に『ドリアス工務店』ってあったような気がしないでもない。」

 ファリナが目を閉じ、遠い微かな記憶を呼び起こす。

 「お前らなぁ・・・」

 「言っておくけど、わたしたちに1回会ったくらいで、顔と名前を覚えてもらえると思ったら大間違いよ。」

 「たちって言わないで。わたしは覚えてるわよ。覚えてないのは、覚える価値のない奴らだけだからね。」

 ファリナがわたしを見てちょっと怒る。

 「偉そうに言うな。だが、まぁそんなわけで材木が手に入らない。つまり工事ができない。すまないが、ドリアスのところに頼んでくれ。」

 テーブルに前金で渡した金貨を出す。

 「え?なんで?」

 他の工務店探せばいいだけじゃない。

 「この町には、もうドリアスのところしか工務店がない。」

 なんかえらい緊急事態な気がする。

 「ロクローサの町まで行けば、あるでしょ。」

 「ロクローサで残っているのは、ドリアスのところの下請けだけだ。つまり、ドリアスに頼むのと同じことだ。」

 ソファーから滑り落ちそうになる。ミヤですら絶望的な目でこっち見てる。ファリナが帰り際に変なフラグ立てるから・・・

 「うん。やっぱり抹殺するしかないよね。最初からそうすべきだったのよ。」

 ファリナの目が据わっている。そう、この娘はやる時はやる娘だ。マジで。

 「ロイド・・・領主様に直談判してみたら?」

 領主と顔見知りってことは内緒だ。わたしたち、あくまで一般人だからね。

 「勝負に負けた逆恨みででたらめを言っていると言われたらそれまでだ。何せ証拠がないし、売る売らないは売る方の都合だ。たまたま売る商品がなかったから売らなかったとか言われたら反論できない。それが、永久に続いたとしても。」

 「ね、だからヤッちゃうしかないのよ。あんなに木がいっぱいあるんだもん。どこからか火がついたって誰も疑わないわよ。」

 ファリナ、ちょっと落ち着こうか。

 「部屋の改修くらいで人死にがでるのはちょっと・・・」

 「何言ってるの?ヒメ。わたしたちのためなのよ。この町くらいなら滅んでもいいと思う。」

 いや、あんたが何言ってるのよ?

 「ファリナ・・・」

 さすがにミヤですらファリナを咎める目で見る。

 「・・・ミヤは、この国くらい滅ぼしてもいいと思う。」

 あんたもそっち側かい。

 普段ファリナがわたしを止める苦労がようやくわかったよ。苦労かけてごめんね、ファリナ。

 「お前たちは何を言っているんだ。まじめな話をしているんだぞ。」

 ダラムルさんが呆れた顔でわたしたちを見る。

 「しまったわ。証人を作ってしまった。」

 冷たい目でファリナが見下ろす。

 「ヤるのか。ヤるならヤるぞ。」

 わかりづらいけど、ミヤの指の爪が鋭く尖っている。

 「え?な、何を?やるって何?」

 只ならぬ雰囲気に冷や汗が止まらないダラムルさん。怯えたように、わたしたちを見回す。

 「まぁ、落ち着いて。要はあの・・・何とかいう筋肉バカを黙らせればいいんでしょ。」

 「ドリアスな。かばう義理はないが、そろそろ憶えてやれよ。」

 「だから、2回ぐらいでわたしたちが・・・」

 「わかった。もういい。」

 ダラムルさんが頭を抱える。

 「わたしはもう覚えたわよ。」

 「2回聞いて覚えられないのはヒメ様くらい。」

 あぁ、そうですか。


 「とりあえず、今日は日も暮れるし、明日また考えましょう。万が一、今晩筋肉バカに何かがあったとしても、わたしたちじゃないから。今日はやらないから。わかった?」

 「今日は、なんだな。」

 「今日は、だよ。それが何か?」

 「なんでもありません。もう帰って酒でも飲みたい気分だ。」

 「飲むのはいいけど、酔っぱらってあることないこと言いまわらないよう気をつけてね。元気に明日の朝日が見たいでしょ。」

 「飲みません。今日はまっすぐ帰って寝ます。そんなに脅さなくても言いません。」

 真っ青な顔色で、こちらを見ようとしない。やだなぁ、脅しじゃないよ。事実だからね。

 からくり人形みたいな足取りで帰っていくダラムルさん。


 「どうするの?」

 ファリナはヤっちゃおうかと言いたげだ。

 今の問題はそこではないんだ、ファリナ。

 悲し気な目で、わたしはファリナを見る。

 「・・・ご飯作りかけだったよね・・・」

 「・・・・・・あ、キャァァァーーーー!」

 「ニャァーーーー!」

 2人がキッチンに走っていく。

 火は消してあったから焦げてはいなかった。けど、すっかり冷めていた。

 わたしたち3人は、冷めたご飯を黙々と食べた。


 「許すまじドリアス。ミヤの怒髪は天を衝いた!」

 ミヤは本気で怒っていた。

 ファリナはせっかく作ったご飯が冷めてしまい、ショボーンとしている。


 あの筋肉バカは食べ物の恨みがどれだけ恐ろしいか、身をもって知ることになるだろう。





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