288.スネイク 2
「ミヤ、お願い!」
わたしの声で、ミヤが隠れていた草むらから飛びだす。
それに気づいたスネイクが顔をミヤの方に向ける。
「こっちだ!」
先行するミヤが、スネイクの前に走り込む。それを追うように首を持ち上げ、ミヤを睨みつける。
体長が約10メートルで、スネイクとしては中型らしいけど、思いっきり大きいよね、こいつ。これより大きいのってどんなのだよ。
持ち上げた首の高さは、わたしの背の高さを越えている。その大きさのヘビが、ミヤを追いかけ始める。救いは、硬い鱗のせいか動きがその辺にいるヘビより早くない……というより遅い。
「重いんだ。」
「誰がよ!?」
いや、ファリナ。ヘビの話をしてるんだけど……
「コホン……行くわよ!」
ごまかしたな。
スネイクの目がミヤに向いている隙に、わたしとファリナが死角から回り込んで、スネイクの胴体に駆け寄る。
「刺さって!」
ファリナが剣を、スネイクの鱗と鱗の間にねじ込むように突き刺す。これが刺さらなかったら最初から作戦練り直しになるんだから刺さってよ。
鋼とピューリー鉱との合金の剣は、それなりに固そうなスネイクの鱗の隙間に突き刺さる。
「シャァァァ!」
突然の攻撃に驚いたスネイクの顔がこちらを向く。
「動けぇっ!」
刺した剣を横に薙ぎ払う。スネイクのお腹が切り裂かれる。けど、致命傷ではないようだ。
スネイクが胴から尻尾を大きくうねらせ。わたしたちを薙ぎ払おうとする。
「当たりません!」
大きいとはいえ、そこそこの大きさ。ファリナは刺さった剣を引き抜くと、尻尾の薙ぎ払いが届かない距離まで逃げる。
わたしは、ミヤにならって、ヒョイとスネイクの背中に乗った。うわ、石みたいに硬いけど生暖かいのが気持ち悪い。
胴に乗っているわたしを睨みつけていたスネイクの口が、わたしに向かってくる。呑込もうってつもりかな?させないよ。
と思ったら、スネイクの口のすぐ前に炎が現れ。それをわたしに向け打ち出す。そういや、魔石を持った魔獣なんだろうから魔法使えるのか。高位の魔獣退治は、最近は魔法を使わせる暇もないくらいに瞬殺してたから忘れてたよ。
そう思ったら、シープって何の魔法使うのか気になってきたな。
炎をかわしながら胴から飛び降りると、ファリナが斬り裂いた傷口に手のひらを当てる。うぅ、血がつくよ、これ……ええい、ここは度胸!
「<豪火><豪火><豪火>!」
傷口から体内に炎を叩きこむ。問題は、この辺に焼けちゃうと困る内臓があるのかどうかなんだけど……というか、焼けてもいい内臓ってあるのかな?とにかく、攻撃されたらすぐに動けなくなるような臓器がありますように。
「ジャァァァァ!!」
わたしを攻撃しようとしていた頭を、天に向け悲鳴のような声をあげる。効いてるのかな?激しく胴体をくねらせるものだから、手がスネイクの傷口から離れちゃう。
のたうち回るスネイクの胴体をかわしながら、さらに炎魔法を叩きこもうと思うんだけど、苦しそうに動き回るものだから、傷口に近づけない。
「ジャァァァ!!」
怒りに燃えたスネイクが、残った力を振り絞って、その大きな口をわたしに向ける。また炎を吐き出す気だね。させないよ。
「<豪火>!」
わたしの手のひらから放たれた火炎が、スネイクの顔に命中、勢いでスネイクの顔を押し戻す。
頭がひっくり返ったまま地面に落ちる。そこを狙ってミヤが駆け寄ると、あごの方から鉤爪を突き刺す。
「ジャァァ……」
伸びた鉤爪が、頭の鱗をも刺し貫き、うごめくようにしていたスネイクの動きが止まる。
「よし。倒した。」
ミヤが鉤爪をスネイクの頭から抜いて、手を一振り。鉤爪についた血を払う。
「終わってみてよく考えてみたら、さっきのエアの言ったことが正しいなら、燃やしちゃってもよかったんじゃない?」
「それもそうね。どうも、最近、リリーサの癖が移って、できるだけ傷つけないで倒さなきゃいけない気がするのはどういうものかしら。」
いや、リリーサがどうこう言う前からファリナは、わたしに、獲物を狩る時は燃やすなってうるさかったよ。
「それはヒメが端から全部燃やしちゃうからでしょう。」
「どうしよう、これ。ギルドに報告しなくていいなら燃やしちゃう?」
「ゴルグさん、解体できないかしら?」
うーん、リリーサに見せるとめんどうになりそうだ。そもそも人族の領地に現れないはずのスネイクを買おうって人はいるのかな……
「普通のヘビと違って、皮は装飾むきじゃないわよね。」
「ここまで大きいと、肉も食べたい気がおきないよ。」
うん、リリーサ風に言うなら、不良在庫だよね、これ。
捨てるのも燃やすのも、いつでもできるので、ひとまず<ポケット>に収納して帰ることにする。もう日が山に隠れようとしている。
「後は、エアの言葉を信じて、こんな大型の魔獣は滅多に現れないって信じるしかないわね。」
だね。これ以上の責任は持てないよ。
ギルドに戻ると、新人たちが待っていてくれた。
「ヒメさん、何かあったんですか?」
ノエルさんが受付カウンターから飛び出してくる。
「何がいたんですか?」
ノエルさんに並ぶように、ルイザが立つ。この疑いの目は、迂闊な話じゃごまかしきれないな。とはいえ、スネイクの話はできないし。それ以前に大型の魔獣を倒したなんて話をギルドでできるわけがない。そんなことしたら、明日にも王都から、勇者認定の呼び出しがかかってしまう……あれ?でも、そうなっても、ライザリアに言えばなかったことにできるんじゃないのかな……いや、あいつに借りをつくるのは危険だ。というわけで、どうしよう……
「特に何もないわ。あの近くの魔人族の領地へつながる谷に異常がないか確かめに行っただけ。奥までは行ってないけど、今のところは変わりはなかったわ。」
黒の山脈を越えて、魔人族が人族の領地にやって来る場合、戦闘行為が目的であり、やむを得ない作戦である場合でもない限り山頂を越えてくるような無謀な事をする者はいない。魔人族であろうと魔獣であろうと。
普通は、山と山の間に谷や沢があり、ほぼ平地なその場所を通って人族の領地にやって来る。谷や沢はそれなりの数があるけど、通り抜けるのには険しい場所もあって、無理せずに通り抜けられる場所は、ある程度数が絞られている。
人族側で、何かしらの魔人族の動きがあった時は、そこを確認するのが最初の行動になる。
「あぁ。」
「確認しなきゃいけない理由があるのですか?」
オークがいっぱいいたことを知っている新人たちは、納得した顔なんだけど、そのことは内緒のノエルさんが納得しない。
「ギャラルーナ帝国が魔人族に帝都を占領されてるの知らないわけじゃないですよね。ひょっとしたら、この国にも攻めてくるかもしれません。そのために確認に行ったんですけど、ひょっとしてノエルさん、この国は安心だと思ってます?」
ファリナに詰め寄られ、ノエルさんの目が泳いでる。
「それも……そうでした……はい。お疲れさまでした。」
大慌てで、カウンターの中に逃げる。
「でも、それくらいなら、わたしたちにだって手伝えることあったかもしれないのに。」
ナターシャがほっぺたを膨らませる。
「行ってみて、もしもウルフやベアとかの大型魔獣がいたら戦える?わたしたちだって、1匹2匹なら手助けもできるけど、10匹もいたらあなたたちを見捨てなきゃいけなくなるかもしれない。そんな場所に連れていけるわけないでしょ。」
「「「「う……」」」」
4人がうなだれる。
「まぁ、あなたたちはまだ半年の新米だもの。少しずつ強くなりなさい。」
「「「「はい!」」」」
ファリナは優しいな。わたしだったら、死にたくなけりゃ無理するなって切り捨てちゃうけどね。
「嘘つき。」
何がさ、ファリナ?
「嘘つき。」
ミヤまで……
「オークは数日中に解体して持っていくから。家どこだったかしら?」
ギルドを出て歩きながら、ファリナとルイザが隠してあるオークについて相談。
「あ、すぐそこなんで、案内します。ついでに少し休んでいきますか?」
「もう日も暮れたから今日は帰るわ。何度も言うけど、オークの肉に関してはギルドには……」
「「「絶対言いません!」」」
オトーヌ、エーヴ、ナターシャが声をそろえる。女の子4人なら、オーク7匹分の肉があれば一冬こせそうだもんね。
「冷凍庫買ってよかったぁ。」
「うん。ちょっと無理したけど、甲斐があったよね。」
冷凍庫か。うちでさえ冷蔵庫しかないのに……
「ヒメ様の<ポケット>があるから不要。」
そうなんだよね。入れとけば腐らないしな。
新人たちの借りてる家の場所を確認して、わたしたちは家に向かう。
「ちょっと遅いけど、ゴルグさんのところに行って、オークの解体頼めるかどうか聞いてこようか。」
一応、休みは明日までにしている。まぁ続けて休んでもいいんだけど、ギャラルーナ帝国の方でそろそろ何かしらの動きがあってもいい頃だ。エアもそんな事を言っていた。なので、1度行っておきたいし。
「しかたないわね。ミヤ、ご飯我慢できる?」
「今夜中に食べられるのなら問題はない。」
ファリナはミヤのご飯の心配ですか。わたしには聞かないの?
「ヒメは意地でも食べるでしょ。そのヒメが先に行くというならそっちを優先させないと。」
わたしだってご飯より大事な事があったら、そっち優先させます!
「ご飯より大事な事って何よ?」
それは……あれ?
「で、でもミヤだって……」
「ミヤは育ち盛りだからいいの。」
「わたしだって……」
「ヒメはもうお腹以外は育ちそうもないから。」
あんたが言うな!
「何ですって!?」
「ご飯が遅くなる。行くなら早くしろ。」
ミヤに怒られた。ごめん……って、千を越えてもまだ育ち盛りなんだろうか、ミヤって……
「いくつまで育ち盛りか?お前たちは頭が幼児だからまだまだだろう。」
何気にゴルグさんが酷い。このままだとこの家が火事になるよ。
というわけで、オークの解体をお願いしにゴルグさんの家へ。常識のあるわたしたちは、町はずれの森に空間移動して歩いてきたというのに、頭が幼児とか酷い言われようだ。わたしたちが幼児だったらリリーサなんて乳児じゃん。
「なるほど。悪口を言われてしまいました。この心の傷を癒すためには狩りに行くしかありません。で、どこに行きましょう?ヒメさん。」
いきなり後ろから声。何であんたがいるんだよ、リリーサ。
「問題はそこではありません。今日と明日は休むと言いながら、狩りに行きましたね,ヒメさん。そのオークが証拠です!」
「い、いや、ギルドからの依頼で断れなかったんだよ。明日はちゃんと休むよ。というか、明日はこのオークを解体してもらわないと。」
「ふーん。」
嫌な目でオークを見ないで。これは新人たちの分もあるんだ。あげないよ。
「別にオークが欲しいわけではないです。エルリオーラ王国に行けば、この時期でもオークの10匹や20匹いるんだなと思っただけです。」
原因が頭をかすめて、顔色が変わる。スネイクがいたなんて言えない……
「ヒメさん、汗がすごいですよ。」
「こ、この部屋、暑いのかなぁ……乾燥室動いてない?」
「寒くはないですけど暑くもないですよ。」
ジトッとした目で、顔を近づけてくるリリーサ。ちょっと、近い、近いって!
「何か隠してませんか?」
「いないよ!スネイクなんていないよ!!」
「バカッ。」
ファリナが手のひらで目を覆う。しょうがないじゃない。このままじゃ、き、キスされそうだったんだもん。
「そんなことするわけないでしょ!」
「だって、ファリナ……」
「惜しかったです。」
「する気だったの!?」
「切り刻む!」
「お姉様!!」
家中を怒声が飛び交う。ゴルグさんはもう慣れたもので、椅子に腰かけ、お茶を飲んでいた。




