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287.スネイク


 「こうしていても、時間が経つだけで、このままじゃ陽が沈んじゃう。とりあえず様子だけでも見に行こうか。」

 もうあきらめて、ヘビに立ち向かうことにする。放っておいて誰かが襲われたりしたら夢見が悪いしね。

 「別にスネイク自体を見せる必要はないんじゃないかしら。体を覆っているという鱗でも牙でも、何かしらの証拠さえ示せればいいわけだし。」

 いや、どのみち、そんな巨大な魔獣が森に出るかもしれないって聞いたら、多分、町中パニックになるよ。


 「その心配はないだろう。」

 いきなりどこからか声が響いた。

 周りを見回したら、わたしたちの後ろの木の陰から現れたのは……

 「エア……よく顔を出せたものだね。」

 「怖い顔をするな。敵対する気はないと言ったろう。ほら、かわいい顔が台無しだぞ。」

 そう言いながら、わたしをいきなり抱きしめる。って、顔にエアの胸が……押し付けられて苦し……

 「プハッ!離れてよ!」

 エアをはねのける。自分が、きつい目でエアを睨んでるってわかる。睨んでいるのはある一部だけど……目が離せない。あの胸から……

 「胸を押し付けられて呼吸困難になるって、都市伝説じゃなかったんだね……」

 わたしは膝からガックリと崩れ落ちた。

 「え、と……とりあえず……何してんのよ!」

 ファリナ、エアを怒鳴るのが遅い。

 「何と言われても、再会の抱擁だろう。で、言った通り、あの剣はあるべきもとに返した。お前には異論があろうが、こちらにもこちらの理がある。理解しろ。」

 持ち主に返せというなら、それはそれでいいよ。墓標にでも飾ればいい。


 「心配ないとはどういうことだ?」

 ミヤが急な話を始める。え?何の話?

 「今、エアが言っていた。心配ないと。」

 「いや、死ぬかと思ったよ。胸が武器になるなんて知らなかったよ。ファリナだってあれは無理だよ。」

 「悪かったわね!」

 「何の話をしている?」

 ファリナは怒るしミヤはあきれてる。何か間違ったかな?


 「スネイクが来ているようだな。」

 「あ、うん。何か知ってるの?」

 「いや。ただ、さっきファリナが言った通りで、餌が少なくなってたまたま見つけたオークを追いかけて人族の領地まで来てしまったようだが、もともとスネイクは、魔人族の領地中央にある湿地帯に棲んでいる。人族側まで来ることはほとんどない。今後はこっちに現れることはないだろう。だから心配するなと言った。」

 あんた、人の話をどこから聞いていたのよ?

 「ヒメがボルちゃんとか言い出したあたりかな。」

 結構前だな。

 「つまり、今いるあいつを倒せば、とりあえずはスネイクが人族の領地に現れることはないってこと?」

 ファリナが半信半疑の目を向ける。

 「まぁ、私はスネイクではないのでな。気持ちがわかるわけではないので絶対かと言われればわからんとしか言えん。」

 エアの言い方にファリナの表情が硬くなる。ミヤは、ひょうひょうとしたものだ。

 「ミヤはヒメ様さえ無事なら、人族や魔人族、天人族が何億人死んでもかまわない。」

 あんたは極端だな。でも、ま、ありがと。とはいえ、億まで死んだら、この世界滅ぶな。多分。

 「それに関しては賛同しよう。最優先はヒメだな。」

 いや、あんたは魔人族の心配……あれ?向こうの情報をよく知ってるから、魔人族寄りかと思っていたけど、もしも混血なら、向こうではあまりよく思われてなくて居場所がないとかいう話なのかな?

 「言ってなかったか?わたしは混血ではないぞ。」

 え?だって肌の色は人族の色だよね。人魔は黒っていうか灰色だし、魔神は……人間の姿をしてないはずだし……何か思い違いがあるのかな……

 「変身魔法?」

 ファリナがボソッと呟く。あぁ、あったねそんなの。あれなら肌の色を変えられるんだっけ。天人族の魔法かと思ったけど、魔人族が使えないとは限らないよね。

 「まぁ、私は言った通り、ここにいてここにはいない存在だ。細かい事は気にするな。」

 「なぜヒメ様に近づく?何が目的だ?」

 ミヤに問い詰められると、笑っているのに悲しそうに見える顔でわたしを見る。

 「目的はないよ……やんごとなきお方から言われたことをやる。それだけだ。」

 誰よ、それ。

 「それは……いや、いい。ヒメ様に害がないのならいい。」

 何かを言いかけてやめるミヤ。何よ、はっきり言いなさいよ。気になるじゃない。

 「利口だ。お互いのためにな。」

 今度はエアが、わけのわからない事を言う。だから何なのよ?ファリナも苦い顔でミヤとエアを見てるし。わたしとファリナだけ置き去りなんだけど。

 「そんな事よりスネイクだ。あれを何とかしなければならない。もう夕暮れも近い。時間がない。砂時計の砂の1粒は……」

 「金1キロより貴重なんだよね。わかってるよ、ミヤ。」

 「むう。」

 セリフをとられ、憮然となるミヤ。

 「手を貸すか?あれはかなり硬いぞ。」

 エアからの提案だけど、どうしようかな。あまり手の内はさらしたくない。ボアの時も炎系の魔法は見せてない。こいつの事だから、隠れて見てるかもしれないけど。

 「うーん、いいや。あまり借りをつくると返すのが大変だしね。」

 頭の中に眼鏡をかけた薄い金色の髪(というか、ほぼ銀色)の女の顔が浮かぶ。

 「そういうつもりもないが、そうだな。お前たちならスネイク程度、心配いらないだろう。なら、私は行くよ。あのスネイクは任せる。こちらに来ている魔獣は大体片付いたと思うし、スネイクにかけている時間もない。ギャラルーナの方もそろそろ動きがあるはずだからな。」

 「え?それって主が来るってこと?」

 わたしの質問に答えることなく、薄い笑みを浮かべて、エアは空間移動の門を開き消えた。

 「なによ!もったいぶった事ばかり言って!はっきり言いなさいよ、はっきり!じゃないとわからないからね!!」

 いなくなった相手に対して叫んでも、虚しいだけだった……


 「行きましょう。訳のわからない事で時間取られすぎ。暗くなってから、森で魔獣を相手にするのは危険だわ。」

 ファリナの言う通り、月明りすら届かないかもしれない森の中で見たことない魔獣と戦うのは危険が大きすぎる。

 「陽が沈むまで2時間あるかないか、というとこだね。ミヤ案内して。」

 「わかった。」

 急ぐとわかっているのだろう。いつもなら歩くミヤが駆け足程度に走り出す。

 「さて、どんなやつなのかな、スネイクって。」



 「赤いよ。鉄みたいな鱗って言うから黒いと思ったのに。」

 少し離れた木の陰から、覗き見たそれは黒い頭に首から下は赤いブツブツがいっぱいついてるような、要は気持ち悪いヘビだった。しかも7,8メートルはあるよね、あれ。

 「赤いわね。鱗の温度はスネイクの体を温める程度って聞いてたけど、見た感じなんか熱そうなんだけど。」

 ファリナもゲッソリと言った感でヘビを眺める。

 「表面温度は35,6度。暖かいと言った程度だ。」

 あんたそんなことまでわかるの?

「硬度まではわからない。だが、あの鱗は硬そうだ。剣が通るかやってみないとわからない。」

 「剣が通ったとして、あの鱗を突き破ったら、中から100度くらいの体液が噴き出してくるなんてことはないでしょうね。」

 剣担当のファリナが不安げだ。確かに鉄みたいな鱗の外側が35度なら中で体を温めている体液とやらは何度になるんだろう。

 「刺したら大やけどなんて嫌よ。」

 「さすがに内部構造までは今のままではわからない。封印の門を開くか?2つくらい開けばわかる。」

 ミヤの能力は大きすぎるので、わたしが形式上封印している。ミヤの策略に騙され、封印解除にはミヤにキスしなきゃいけないのと、はっきり言ってそんな事しなくても、ミヤは自分で封印を解除しようと思えばできるという穴だらけの封印だけど。

 それでもミヤは、わたしとのつながりである封印は自分で解除はしないと約束してくれている。わたしやファリナに危険が及ばない限りは。

 とはいえ、魔獣1匹倒すのに封印を解くのもなぁ。

 「よくある、大型獣を倒す方法の、口から炎を放り込んで内臓を焼くってやつ、ヒメできない?」

 よくあるのか?それ。うーん、内側だけを焼く方法か……

 「わたしの魔法は、わたしの体の近くで発動させて放つか、相手に対して固定座標を決めてその場所に発動するかなんだけど……」

 「けど?」

 「座標発動で体の内側となると動きを止めないと、座標を決めることができないかな。あと、撃つなら口の中に手を入れるくらいじゃないと内臓まで届かないと思うよ。で、ファリナとミヤがこうしがみついて、抑え込んで動けなくできる?」

 「あの、生暖かくて、木の幹ほどもあるような胴体にしがみつけ?絶対嫌よ!」

 「温いお風呂に入った感じだし、鱗が硬いからフニャフニャしてないから大丈夫だよ。」

 「じゃ、やって見せてよ!」

 いや、わたしが抱きついたら誰が魔法を使うんだよ。

 2人でミヤを見る。

 「何度も言うが、ミヤは、小規模な魔法を使うのには集中力を必要とするから、戦闘中に使う事はお薦めできない。」

 そう、ミヤの力は大きすぎるので、細かな魔法を苦手としているらしい。大きなあのヘビの内臓だけを焼くということは、ミヤにとっては、わたしたちに髪の毛の内部だけを焼くことができるか、と言われてるようなものなんだろう。

 「っていうか、それだとどの道わたしが抱きつかなきゃいけないじゃないの!嫌よ!」

 ファリナ、気づくのが遅い。

 「口に炎投げ込んでみようか。」

 内臓までは届かないだろうけど、のどくらいは焼けるんじゃないかな。

 「それで、食べ物を食べられないようにして、次第に衰弱死させるのか。ヒメ様非道。」

 ヘビ相手に非道って言われた……っていうか、それはさすがに残酷か……

 「魔獣相手に残酷もないんだけれども、さすがに弱らせて殺すのはね……きっちりとどめをさしてあげないと。」

 だよね。あぁ、めんどくさい。

 「鱗と鱗の隙間に剣が通らないかしら。」

 ファリナが目を細めてスネイクをじっと見る。隙間なんてある?

 「頭なら剣が通るんじゃないかな。串刺しにすれば倒せるんじゃない?」

 「頭頂も鱗で覆われている。あごからなら行けるかもしれないが、そのためにはヘビの体の下に潜りこまねばならん。」

 「それはミヤにしかできそうもないけど、危ないまねはさせたくないな。」

 「ミヤは平気。」

 「だめ。危ない事はさせない。」

 「むう。」

 拗ねたような顔をするけど、頬を赤らめながら、わたしの腰に抱きつく。

 「心配性。」

 顔を隠してるけど笑ってるでしょ、ミヤ。

 「ミヤだけズルい。」

 ファリナ、抱きついてこないで。そんなことしてる場合じゃないでしょ。


 「動き出すわ。」

 休んでいたのか、動かなかったスネイクが頭をあげる。頭を左右に向け、周囲を見ながら、舌をチロチロ出す。こう見るとヘビだな、やっぱり。

 「結構危険だけど、こういうのは?」

 ファリナが何か思いついたよう。危険ってどのくらい危ないのやら……


 「それは危なくない?」

 「危ないけど、みんな同じくらい危ないからイーブンという事で。」

 いや、イーブンじゃないと思うぞ。特にミヤが。

 「そばまで行くだけなら大丈夫。それよりヒメ様とファリナが心配。」

 「うん、ファリナの体が重すぎて、万が一の時逃げられなかったらどうしよう。」

 「よけいなことはいいの!ヒメが決めてくれればいいんだから。」

 剣が通らなかったらどうするんだよ。

 「その時はスネイクを燃やしちゃって。」

 「その時はファリナはミヤが守る。」

 あいかわらず成り行きまかせだなぁ……

 ま、いいか。わたしたちらしくて。

 「3人だけで魔獣を狩るのって、そういえば久しぶりだね。」

 「そういえばそうね。」

 「うむ。」

 よし。じゃ行ってみますか!






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