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286.巨大な敵


 「何かって?」

 「……これはスネイクだ。」

 スネイク……ってヘビの魔獣?え?今まで人族の領地に出てきたってあまり聞いた事ないけど。つまり、ある事はあるけど、わたしたちは出会ったことはない。ついでに言えば、魔人族の領地でも見たことない。

 まぁ、スネイクは森とかにいるらしくて、わたしたちが魔人族の領地に用事があるのは、人里の偵察がメインで、魔人族の領地の、森とか山に踏み入った事ないんだよね。

 「どの辺?近いの?」

 「黒の森の真ん中。ここからはそれなりに離れている。」

 とりあえず、名前しか知らないわたしじゃ話にならない。ここは魔獣博士のファリナと合流して、どんなやつか確かめないと。

 「よし。残りのオークをチャッチャとやっつけて、ファリナと合流するよ。」

 「わかった。本気出す。」

 言葉通り、わたしが<氷の錐>で数匹を倒す間に、ミヤは残りを斬り裂いていく。これもうミヤだけでいいんじゃないだろうか。


 「あ、ヒメ。」

 こっちにいたオークをすべて倒し、ファリナの元へ向かう。

 「ルイザたちががんばって2匹倒したのよ。すごいでしょう。」

 「へぇ、すごいじゃない。」

 「ファリナさんが牽制してくれたからですよ。」

 謙遜しつつもうれしそう。

 「ギルドから借りてる、収納魔法が付与されているバッグ、まだ持ってる?」

 「はい、ありますよ。」

 ナターシャが背中を向ける。背負ってたんだ。気がつかなかったよ。

 「それに、そこにあるオークを2匹詰めて、先にギルドに戻っていて。入りきらない2匹はわたしが持っていくから。」

 「何かあったんですか?先に帰れって……」

 リーダーやってるだけあって、ルイザが鋭い。はっきり邪魔だから帰れと言えればいいんだけど、正直、スネイクをどう扱うか決めてない。わたしたちの手に負えないやつなら手を出さないし、魔人族の領地に戻るようなら放っておけばいい。無理にケンカを売るつもりはない。戦ったことのない相手とは、いきなりぶつかりたくないんだよ。ボアとかゲーターとかの時のように、リリーサたちがいるみたいに、戦える人数がそれなりにいるのならやってもいいけど、今は戦力になるのはわたしたち3人のみ。無理はしたくない。

 「まだオークがいるかもしれないから、この辺調べてから帰るよ。これで全部ならいいけど、まだいたら、またギルドが大騒ぎになっちゃう。」

 まぁ、この辺の白の森には、もういない事はミヤに確認してもらっているんだけどね。黒の森にはオークはそれなりにいつもいるから、放っておいてもいい。ここから離れた白の森までは責任持てない。

 とりあえず、ギルドへの報告は、あの鉄拳とかいうハンターパーティーが、この辺に黒の森からオークを引っ張ってきちゃったってことだから、この辺が片付いたら文句はないでしょ。

 「わたしたちも……」

 「大丈夫。寒いからね、さっさと終わらせたいんだ。森の中動き回るから人数が多いとはぐれたりしたら面倒だからね。」

 いまいち納得できないって顔してるけど無視。この先の対応が決まってないから、あまりゾロゾロ連れ歩きたくないし、戦うことになるかもしれないから、この娘たちにスネイクの存在を知られたくない。勇者でもないわたしたちが、高位の魔獣を倒したなんて世間には内緒にしておきたいんだよ。


 「わかりました。ナターシャ、オークをバッグに詰めて。」

 「う、うん。」

 ルイザに言われ、オークに向かうナターシャ。


 「暗くなる前には帰りたいな。」

 わたしのセリフにファリナが空を見上げる。ギルドに着いたのが昼を数時間回ったところ。それからオークと戦って今、陽はあと数時間で山の陰に隠れるだろう。

 「それじゃ、ヒメさん。わたしたちは先にギルドに戻ります。」

 「ん、気をつけてね。」

 笑いながら手を振るわたしを不満げに見る4人。そんな顔しないで。人はできる事をやるしかないの。今のあなたたちじゃ無理。






 草原をトボトボと歩く『青い天使の調べ』の4人。

 「ヒメさん、絶対何か隠してたよね。」

 「多分ね。」

 後ろをチラチラ振り返りながら歩くオトーヌの言葉に、ルイザは前を見ながら答える。

 「だったら……」

 「わたしたちじゃ無理だって……そう思われたんだよ。この前のベアみたいな魔獣がいるのかもしれない。」

 「あ……」

 ベアと言われ押し黙る他の3人。

 ベアに襲われた時は逃げる以外できる事はなかった。追い詰められた時はここで死ぬと覚悟もした。ヒメたちに助けられて、何もできなかった自分たちが悔しくて強くなろうと誓った。

 「何にも変わってないね、わたしたち。」

 「オークを少しは楽に倒せるようになったからって、思いあがってた……」

 ナターシャとエーヴが、うなだれて地面を悔しそうに見る。

 「あーーー!!!」

 突然あげたルイザの雄叫びに、3人は驚きの表情。

 「悔しいね。悔しいけど、これが今のわたしたち。」

 ルイザが振り返り3人を見る。

 「だね。」

 「でも、わたしたちだってこれからだ!漫然と戦ってちゃダメだ。考えながら戦うよ!絶対強くなってやる!」

 ルイザの決意に頷くエーヴ、オトーヌ、ナターシャ。

 「そうよ!強くなるんだから、わたしたち!」

 「負けないもん!」

 「いつかきっと、絶対!」

 4人は正面を睨みつけるような目つきで歩みを進めた。







 「で、何があったの?」

 「ヘビが出た。」

 「ヘビ?」

 聞いたから答えたのに、ファリナが異物を見るような目でわたしを見る。

 「ヒメ、ヘビ苦手だったっけ?」

 「いや、好きかと言われれば嫌いな方だけど、ダメかと言われれば何とかできる。」

 「じゃ、問題ないじゃない。」

 「ヘビ言うな。話が進まない。」

 珍しくミヤが割って入る。

 「スネイクだ。おそらくボルケイノスケイルスネイク。」

 長い、長すぎる。おぼえられる気がしない!

 「という事で、ボルちゃんでいいかな。」

 ……見ないで!呆れた目で見ないで!

 「それはともかく、どんなやつか知ってる?」

 わたしの質問に、ファリナが眉間にしわを寄せて必死に思い出してる。

 「子どもの頃なら全長は1メートルくらいだから、特に問題はないんだけど、大きくなると最大のものだと20メートルにもなる個体もいるというヘビの魔獣。名前の由来になった『火の鱗』というのは、体全体が鉄のように硬い鱗で覆われていて、その鱗の中で体液の合成によって熱いとまではいかないけど、温かい状態を作れるの。これで体が覆われているから、冬でも余程寒くない限りは冬眠することなく動き回れる……って聞いたはず。」

 「何でこんなところにいるんだろう。長年魔獣と戦ってきたけどスネイクは初めてだよ。」

 「だよね。魔人族の領地から出てきたなんて話は聞いた事ないんだけど。あ、勇者の村にいた頃1回だけ話に聞いたかな。」

 それは置いておくとして、さっきの疑問。何しに来たのかな?

 「餌がないのかもしれないわ。」

 ファリナが腕を組みながら考えてる。がんばれ、もう少し。

 「黙ってて。大型のスネイクは肉食だから、ひょっとしたら餌を探しに……っていうか、この辺に大量発生したオークって、スネイクから逃げてここまで来たんじゃないかしら。で、それを追いかけてスネイクもやって来たとか。」

 いや、いくら冬とはいえ魔人族の領地にも餌になる魔獣くらいいるでしょ。

 「スネイクは森に住んでるから、エイプやウルフを餌にしているはず。ところが、そういう魔獣ってひょっとしたらだけど、ギャラルーナ帝国の占領に使うために集められてしまって、少なくなってしまったのかも。で、餌を求めて魔人族の領地の森をさまよって、オークやオーガ、ゴブリンを餌にしてるうちに、人族の領地まで出てきてしまったのかもしれない。」

 「あぁ、オークはスネイクには勝てないから逃げ出して、ついには人族の領地に来た。それをさらにスネイクが追いかけてここまで来たという事か。」

 待って、ファリナ、ミヤ。今の話なんだけど……

 「スネイクってウルフ食べるの?人族的には高級食材だよね、ウルフ。何十匹も狩ってきたわたしたちでさえめったに食べられないというのに……」

 「食いつくとこ、そこ?」

 何を驚いてるかな、ファリナ。どう考えても最大の問題じゃん。とはいえ、それじゃ、やっぱりエルリオーラ王国の山の向こう側にある魔神族の領地の魔獣までがギャラルーナ帝国に連れていかれてるってことになるよね、今の話が本当だったら。どれだけ魔獣集めてるのよ。

 「敵の総指揮が魔王だっていうなら、どこの魔神だって協力するでしょう。」

 あぁ、魔王の歓心を買うために、自分の領地の魔獣を差し出すくらいやるかもね。もしそうなら、メンタリティーは人族と大して変わらないのかな。

 「餌の魔獣がいないって話から始まって、今までの話すべてが仮定の話だけどね。」

 つまり考えるだけ無駄ってことか……


 「で、どうしよう。やっつけなきゃいけないかな。」

 「そうなるわね。こっちまで出てきてしまった以上、オークが見つからなくなれば、次の餌は人間ってことになるわ。」

 「人里に出てくるってこと!?」

 「最悪の場合はね。」

 あぁ、めんどくさい。このまま帰ってくれないかな。

 「鱗が硬いと言っていたが、剣は通るのか?」

 「わからないのよ。人族の記録で戦ったという話は聞いた事ないから、そういう姿形をしてるという噂話以上の情報がないのよ。」

 聞いたミヤは『うーん』と唸りだし、答えたファリナも困り顔。もう燃やすしかないよね。

 「それが一番早いかしらね。」

 あれ、ファリナが投げ出すなんて珍しいね。

 「どの道、誰かに見せるわけにも話すわけにもいかないでしょ、そんな大型の魔獣がいたなんて。だったら最初からいなかったことにするのが一番いいんじゃないかしら、と思うわけ。」

 「いや、逆だ。燃やすのはかまわないが、今後、餌を求めてスネイククラスの魔獣が現れるかもしれない事を伝えて注意させないと、いつか犠牲が出るかもしれん。」

 そうか。何も知らないで森に入って、いきなりスネイクに出会ったら大変だもの。そういう事もあるかもしれないって教えないといけないのか。

 「まぁ、マイムの町のハンターは2度と黒の森に入らなくなるかもしれないが。」

 ミヤの言う通りだけど、ここだけの問題じゃなく、他の領地に出る可能性もあるんだから、ロイドさんにがんばって他の領地にも知らせてもらうしかないか。

 「なら原型をとどめて倒した方がいいのかしら。話だけじゃ信用してくれないかもしれないでしょ。」

 20メートルのヘビを?燃やさないで倒して、これをわたしたちが倒しましたと言えと。無理です、ファリナ。一発で勇者認定されてしまいます。

 「そのくらいの大きさになるものもいる、というだけで、今そこにいるのがそんなに大きいかどうかわからないわよ。」

 「10メートルくらいだと思われる。」

 何だ、半分か……って、全然嬉しくないよ、その情報。十分大きいよ。






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