285.オーク退治
「森から町までは距離がありますから、町まで来ることはないでしょうけど、万が一にも町に入られたらこの町は全滅してしまいます!」
いや、オークが6匹くらいで全滅する町って何?住人が10人くらいしかいないの?
「今、動けるハンターって……」
ノエルさんが、カウンターの裏側からノートを取りだしページを捲る。
「ほとんどのやつが、冬は森林伐採の仕事か、地方に出稼ぎに行ってるから、今すぐとなると、俺たちと……そこの『青い天使の調べ』と…………」
こっちを見てやや逡巡があった後、目を逸らす。
「……そ、そんなものかな。」
「明日までなら、あと3つや4つのパーティーを集めることも可能だと思うのですが……」
そう言いながら、こちらをチラチラ見るノエルさん。
「あぁ、どこかに手を貸してくれる優しいハンターパーティーはいないんでしょうか!?」
何なんだろう、この白々しいやりとりは……というか、ちょっと待って。明日までかかって、あと3つか4つしか集まらないって、ここのギルドに登録してるハンターって何パーティーあるの?
「めんどくさくなってきた。ここにいる全員燃やしていいよね。」
「いいんじゃない。鬱陶しいし。」
「やれ。」
「待ってください!わたしたちが外に出てからにしてください!」
新人たち、意外と薄情だね。
「あれ?そこはファリナさんとミヤさんがヒメさんを説得してくれるところじゃ……」
ノエルさんが涙目で2人を見る。
「最近疲れる出来事が多すぎて、もう面倒な事は燃やして済むならそれでもいいかな、と思うわけなんですよ。」
「いや、ファリナさん、燃やすんならオーク燃やしてくださいよ。」
あれ、燃やしていいんだ。
「ごめんなさい。冬用の食料のために、できれば肉は欲しいです。」
「燃やしちゃダメなら、わたしたちの出番はないよ。」
「うーぅー……全然ギルドに貢献してくれないヒメさんがいじめるぅ……」
痛いところを……とはいえ、泣くな、鬱陶しい……
「1匹ずつ相手にして2,3匹くらいなら、順番に倒せますけど、群れをなしているなら、わたしたちじゃちょっと……あ、わたし、ルイザです。」
大事な話してるんだから、こっちに手を振るんじゃない。
「俺たちも1匹ずつなら、なんとか。俺は『赤光の鉄拳』のグジャルだ。」
聞いてないから。ついでに言っとくけど、おぼえる気もないからね。
「つまり、そこの2パーティーが1匹ずつ倒してる間、わたしたちに残りの4匹の首根っこを抑え込んでおけと。無理だね。」
「いや、倒せばいいじゃないですか。」
「じゃ、燃やしていいんだね。」
「うー、イジワルされてるぅ―……」
あぁ、ノエルさんがマジで鬱陶しい。
「まぁまぁヒメ、最近ギルドに貢献してないんだから、手伝ってあげましょうよ。」
「あぁ、ファリナさん、マジ天使です!それに引き換え……」
こっちをギロリと睨む。というか、オークの10や20で大騒ぎになるギルドって何なの?
「条件が1つ。」
「わかってます。『青い天使の調べ』と『赤光の鉄拳』がオークを狩った事にすればいいんですよね。」
わかってるのなら、よし。
「え?ちょっと待ってください。わたしたち最近結構オーク狩ってるんですけど、勇者の推薦なんてされても無理ですよ。」
そういえば、オークをいっぱい狩ったら勇者に推薦とかいう話もあったっけ。
「あぁ、みなさんは、まだEランクですので推薦はまだです。ただ、この実績が加われば、ランクがDになるはずです。」
おぉ、すごいね。
「いやいや、結成半年でDランクなんて無茶苦茶です。うれしいけれど、無理な依頼を受けなきゃいけなくなったら、死んじゃいますよ、わたしたち。」
「ヒメさんたちも半年でDランクになりました。まぁそのあと半月でCランクになったんですけどね……」
あれは、領主の依頼を達成したからであって、なりたくてなったわけじゃないからね。
「あんな規格外と同格にされたら死にます、わたしたち。わたしはエーヴだよ。」
あんた、人を悪しざまに言った後でよく名のれるね……
というか、何とかの鉄拳とかいうパーティーの他のメンバーはどうなってるのよ。ここにいる連絡に来た1人以外やられちゃったわけじゃないでしょうね。
「そういえば、誰も来ないな……え?まさか逃げ遅れた?」
あぁ、頼りにならない……
「じゃ、早く行かなきゃ。ナターシャでした。」
緊迫感が薄れるから、もう名のるのやめなさい。
「『鉄拳』さんは4人パーティーですよね。3人がオークと戦っているということですか?」
「い、いや。みんなバラバラに逃げたから。どうなってるかわからん。」
ノエルさんの質問に答える男。逃げるなら組織立って逃げなきゃ、各個撃破されちゃうじゃん。
「急ぎましょう。1人でも生き残っていてくれればいいんだけれど……」
ファリナが入口に向かう。
と、その時、ギルドの扉が開き、男が3人駆け込んでくる。
「みんな、無事だったか!」
「グジャル!生きてたか!」
4人が無事を喜び、駆け寄る……
「てめぇ、1人だけさっさと逃げやがって!」
……と思ったら、後から来た3人に袋叩きに合う最初に来た男……見苦しいな。
「その人たち使えそうにないから、わたしたちだけで行ってくるよ。」
男たち4人は、散々殴り合って、今や傷だらけでギルドの床に倒れている。何しに来たんだか……
「ま、まぁ、白の森にオークがいるかもって報告してくれただけありがたいと思わないと……」
前向きだな、ノエルさん。わたしは目まいがとまらないよ。
「わたしたちも行きます。1匹でも倒して、少しでもお手伝いします。」
ありがたいけど、ルイザ、無理しなくていいんだよ。
「それに、ヒメさんたちの戦い方も勉強したいです。」
「この人たちは色物だから、学ぶところはないと思いますよ。」
ノエルさんが酷い。そもそも色物って何よ?
そして、ギルドを出てすぐにわたしは後悔する。この4人連れてたら<ゲート>使えないじゃん!
「歩くしかないわね。」
「うむ。」
リリーサの気持ちが少し理解できたよ……
「この草原の奥、だよね。」
何とかの鉄拳から聞いた話を元に来たけど、本当にここなのか。まだこの辺りにいるのかすらわからない。
「まずいな。どこにいるのかわからないオークを探さなきゃいけないの?これ。」
まぁミヤがいるから何とかなるだろうけど、問題は……
「そうなんだけど……寒いわね。」
結構な時間、この寒空を歩いてきた。振り向くとルイザたち4人は、集まって抱き合いながらお互いを温め合っている。どこかに洞穴か何かないかな。火が焚けそうなところ。こんな冷えた体じゃ、戦闘になっても動きが鈍くなっちゃうよ。
「土魔法で小屋を作るか?」
立方体の形で、正面の入口と天井の煙が抜ける穴以外の全面を岩で作ったあれのことだね。通称ミヤハウスってやつ。
「どこからオークが飛び出してくるかわからないのに、見通しの悪い壁で覆われた空間の中に入ったら危ないんじゃないかな?」
「草原に作る。近づくものがいたらミヤがわかる。」
なら大丈夫か。このままじゃ戻るしかないしね。
「こんな家を作れるなんて、ミヤさんすごいですね。」
いや、ナターシャ、家と呼称していいものだろうか、これ。ただの四角い小屋だよね。
天井に開けた空気穴に合うように、床に薪を並べ火をつける。
「あったかーい。」
ルイザたち4人が幸せそうに火にあたる。
「体を温めたらオークを探さなきゃね。ミヤ、毎回で悪いけどお願い。」
「まかせろ。」
と、どこを見ているのかわからない視線になるミヤ。さて、近くにいたらいいな。
「まずいぞ。」
え?どうしたのミヤ?すぐそばにいるの?
「森の中にいるのだが……23匹いる。」
「「「「23!?」」」」
ルイザたちの悲鳴が小屋の中に響く。
23か。ちょっと多いな。
「つまり、6匹残して後は燃やしていいってことだよね。」
「わたしはかまわないけど……」
チラと新人たちを見る。
「しまった。見られたうえに聞かれた。ギルドに報告されたらノエルさんがまた鬱陶しくなる。」
「やむを得ない。10匹いたことにして、数が多くて対応しきれず、こいつらは尊い犠牲になったとギルドに報告すればいい。」
ミヤの目がマジだ。
「「「「い、言いません!絶対言いません!誰にも言いません!!」」」」
涙目になって、壁際まで這いずって下がる4人。
「とはいえ、どうするの?23匹全部この娘たちが倒したって報告させるの?」
新人がいきなりオーク23匹やっつけました、か。ギルドが王都のギルド本部にどう報告するのか楽しみだな。
「楽しくありません!わたしたちの未来に暗雲しか見えません!!」
ルイザが両手を前に出してブンブン振る。まぁついて来てしまったのが運のつき。あきらめようよ。
「人生あきらめるには早すぎます!!」
しょうがないな。これ以上いじめるのもかわいそうだし。
「全部まとまっているの?」
「向こうに4匹。200メートル離れて7匹。さらに……」
要するに数百メートルごとに何匹かずつのグループに分かれていて、そのグループ数が6あるというんだね。
「しかたないわね。わたしがこの娘たちについて、数の少ない群れを叩くから、ヒメとミヤは残りやってきて。できるだけ燃やさないようにね。」
いいの?ファリナ。まぁそれが現実的なんだけど。
「死なせるわけにもいかないし、帰すわけにもいかないでしょ。帰したら、誰がオークを倒したんだって話になっちゃうし。」
そうなんだよね。
「で、ギルドには6匹で報告します。残り17匹は、逃がさずに全部倒せたら、山分けにしましょう。」
「「「「え?」」」」
4人がキョトンとした顔。
「わたしたちは、ギルド以外で解体できる伝手があるから、内緒の17匹のうちの7匹分を肉にしてあなたたちにあげる。冬の間の食料にしなさい。」
「いいんですか!?」
一番若いナターシャが食いつく。他の3人もまんざらではなさそう。
「報告した6匹は、解体料がかかるけどギルドに持ち込んで売りなさい。ギルドに売った料金と解体料の差額分を儲けて、さらに肉も手に入る。どう?」
「「「「お願いします!!」」」」
4人が一斉に頭を下げる。よし、話はついたね。
「じゃ、向こうの4匹を倒してくるから。」
「気をつけてね。無理しないでよ。最悪、犠牲が出てもしかたないから。」
ファリナを抱きしめる。
「「「「ヒメさん!」」」」
いや、ファリナの方が大事だよ、わたしは。
「うぅ、ひょっとして騙されてる?わたしたち……」
騙してないよ、エーヴ。ヤるならそんなまどろっこしい事しないで燃やしちゃうから。
「あぁ、来るんじゃなかった……」
オトーヌ、諦めてがんばりなさい。
渋々、ファリナについて歩き出す4人。
「さて、わたしたちも行こうか。」
「この方向の6匹が一番近い。さらにファリナの向かった群れに一番近い。」
それから倒していけば、ファリナの方に他の群れのオークが行く心配は減るんだね。
わたしとミヤは走り出す。急がないので、ミヤも私にスピードを合わせてくれる。
「前の木の向こう。あと10メートル。」
走ってきた物音に気づきオークたちがこっちを向いた時には、もうミヤが最初の1匹を斬り裂いていた。
「<氷の錐>」
並んでいた3匹の頭を細く尖った氷が突き抜ける。次は……と思った時には、ミヤの足元に残りの2匹が横たわっていた。
「<ポケット>にしまって次に向かうよ。」
「次は向こう。7匹。」
そう言った途端、ミヤの動きが止まる。
「奥に何かいる。」
え?何かって何?




