284.ギルドにて
次の日、わたしはお昼近くまで起きることができなかった。余程疲れていたのだろう。
「いつも通り。」
「うん、放っておいたらいつもこのくらいまで寝てるよね。」
ミヤとファリナの無理解が悲しい……
「で、リリーサは……まだ起きてないか。」
布団に包まってグッスリのリリーサ。そうだよ、ほら見てごらん。みんな疲れてるんだよ。
「お姉様もいつも通りですね。お休みの日に朝ご飯を食べることは滅多にありません。」
「文句言わないの?朝ご飯食べ損ねたとか?」
「用事がない時はご飯より睡眠ですね、お姉様は。」
会話を聞いて、リリーサの目が開く。
「ご飯ですか!?」
「お昼のだけどね。」
「あぁ、午前は休むと決めたんです。朝ご飯の尊い犠牲はやむを得ません。」
いや、そんな大層な話じゃないでしょ。
「お昼ご飯作るけど……手伝えそうな人はいないわね。軽いものでいいかしら。リリーサ、キッチン借りるわね。」
「あぁ、ファリナさん、わたしが手伝います。顔を洗うまで待ってください。」
リリーサが立ち上がる。起きるなり動けるなんてすごいな。
「ミヤも手伝うか?」
「ごめん、ご飯焚いてる時間はないから、また今度お願い。ヒメは、そろそろ布団から出なさい。」
しかたないなぁ。
「大丈夫だ。ミヤがついている。」
そう言うと、わたしの布団にもぐりこんでくる。
「待ちなさい!だったらわたしも寝るからね。」
いや、ファリナ、お昼ご飯はどうなるんだよ。
「それくらい我慢しなさい。」
絶対に無理です。
「ミヤ、起きるよ。」
「しぶしぶ。」
まぁでも、久しぶりによく寝たような気がする。
「エルリオーラやガルムザフトの王宮でもグッスリだったけどね。」
気分の問題だよ、ファリナ。やっぱり王宮とかだと、気が休まらないというかなんというか……
「「はいはい。」」
あれ、ミヤまで?
「急いでお昼を食べたら、ゴルグさんのところに行って毛皮の乾燥です。ファリナさん、ミヤさんの出番です。」
あの乾燥室の熱風に耐えられるのは2人しかいないからなぁ。
急ぐと言った割には、食後のお茶を淹れだすリリーサ。
「お茶の時間もないような人生なら、仕事なんてやってられません。ヒメさんに養ってもらいます。わたしとリルフィーナは毎日お茶を飲んで過ごします。がんばってくださいね。」
リリーサが何を言ってるのかわからないから無視だ。
「狼の毛皮も乾燥しちゃう?」
「どうしよう。乾燥しておいて、持ってるだけでもいいのかしら。冬の狩りの時に羽織ったら暖かくないかな。」
あぁ、そういう使い方もあるのか、ファリナ。
「わたしの話、聞いてますか!?」
「聞いてないよ!」
「ちゃんと聞いててくださいね!」
「聞く気はないよ!」
「早くしないとまた正座させられるわよ。」
ファリナに怒られた。けど、もう正座はごめんだ。リリーサもそう思ってるようで、慌ててカップに残っていたお茶を飲み干す。
「行きますよ!」
なんかドタバタしながら、わたしたちはリリーサの開いた空間移動の門に飛び込んだ。
「乾燥するだけだから勝手にやっててくれ。あぁ、乾燥室は作業が終わった後もそのままにしておいてくれ。俺が使う。」
オークを解体中のゴルグさんが、こちらを見ずに声をかける。
「わかった。」
ミヤが乾燥室の方に走っていく。
「待ちなさい、ミヤ!毛皮を掛けてから動かすんだからね!先に動かされたら部屋に入れなくなるよ。」
「大丈夫でしょ。」
大丈夫なのは、ミヤとあんたくらいなの、ファリナ。
とりあえず、シルバーウルフ、黒狼、狼の毛皮を乾燥する。
「問題は、王国から何らかの発表がないと、特殊商品販売日を開催できない事です。現状、王都を通さない商品の売り買いは禁じられています。さっさと問題は解決したので、商品の売り買いは自由と宣言してほしいものです。」
まぁ、問題解決したのは昨日の朝だからね。あの山になった商品をどうするかすら決まってないんじゃないかな。
外は寒いので、いけるのではないかと思われた乾燥室への突入は、やはり無理であり、早々に撤退を決めたわたし、リリーサ、リルフィーナをしり目に、ファリナとミヤが淡々と毛皮を回収していく。なぜかリリーサたちのわたしを見る目が冷たい。
「終わったので戻ります。代金はリャリャさんに渡しておきますから。」
「おう。今度は約束の日に来いよ。」
「は、はい……」
うぅ、気をつけなくちゃ……って、頼んだのはリリーサなんだから、リリーサがちゃんとおぼえておくべきで、わたしたちが怒られる理由はないんじゃないだろうか?
「今頃そんなことを言ってもしかたないでしょ」
いや、ファリナ、言わなきゃ気が済まないんだよ。
「一蓮托生というやつです。運命です。しかたありません。」
ぬけぬけとリリーサめ……
リリーサの家でお茶をいただく。ゴルグさんの家を出て、ケーキを買ってからリリーサの家に戻ったので、ゴルグさんの家の物置での騒ぎは回避できた。
「明日からは2日ぐらい休みにするからね。反論は受け付けない。」
リリーサをジットリ見ながら、先に釘を刺しておく。
「ですね。王国から今回の件の見解がいつ発表されるかわかりません。わたしとリルフィーナは家にいなければならないので、出歩けません。」
あ、そうなんだ……あっさり了承されたからなんか気が抜けちゃった。
「まぁ、発表が終わったらすぐにヒメさんの家に行きますから待っていてくださいね。」
どこかにでかけるべきかな、これは。
「だったら狩りに行っても同じでしょう。休むんじゃなかったの?」
あれ?どうしてこうなるんだ?まぁいいや。何かしらの発表があるまではゆっくりしててもいいってことだよね。
「そろそろギャラルーナにももう1回行ってみようか。」
「そういえば、そろそろ主が来てもいい頃だものね。」
うん、ファリナ、この前話を聞いた時は、あと3週間くらいでご訪問なさると聞いたはず。
「なぜ丁寧語?」
「え、神様なんでしょ?海の。」
「そういう扱いでもないようですけどね。」
まぁ、リリーサの言う通り、扱い雑なんだけどね。邪魔になったらやっつけるとか。
「そうですよね。今回邪魔だから倒すけど、魔石や残った鱗はお墓まで運ぶとか、敬ってるのかいないのか、扱いが微妙なんですよね。」
まぁ、邪魔者は敵、な魔人族と天人族のやることだからね。
「じゃ、今日のところは帰るよ。」
「晩ご飯食べていかないんですか?」
「こっちも、エルリオーラで何か起こってたら困るからね。」
「わかりました。こちらの事情が落ち着きましたら、説明がてらに伺いますので。」
「いるかどうかはわからないよ。」
「あぁ、家の中に空間移動の門を開けなければ留守だなとわかりますから。」
いやな判断方法だな、おい。
真面目なわたしたちは、リリーサの家を出て近くの森に向かう。そこから空間移動の門を開き、わたしたちの家があるマイムの町近くの森まで移動する。昼から毛皮を乾かして、少し休憩して戻ったので、陽はまだ高い。とはいえ3時間も経てば夕暮れだ。
「そろそろギルドに顔を出しておかないとまずいんじゃないの?」
「いや、そうなんだけどね……」
前からそう思っていたんだけれど、いろんなことがありすぎて結局行かずじまい。最後に行ったのがいつだったのかさえおぼえていない。
「言われてみたらそうね。いつだっけ?」
「興味ないので記憶にない。」
あぁ、ミヤでさえおぼえてないんじゃ、もうかなり前ってことか……
どの道、町の中央の商店街には、今晩のご飯の材料を買いに行こうと思っていたし、ついでという事で顔だけでも出してこようか。
「どなたでしょう?」
あぁ、ノエルさんの視線が冷たいうえに痛い……
「あれ、生きてたんですね。」
偶然居合わせた新人パーティーまで、この扱い。わたしたちが何をしたっていうのよ。
「いえ、ずっと顔見なかったんで、全滅したんじゃないかって噂がギルドに流れてましたよ。」
「あの3人を倒せる獣や魔獣が、この近くにいるかもしれないってことで、1時期みんな狩りに行くのを自粛してましたもん。」
この頃、他の国か、近くても王都にいたからなぁ。それでも、まめに帰ってきてたはず。その辺のお店に聞けば生存確認はできるでしょう。
「誰がお店に行って、あの3人見ました?なんて聞かなきゃいけないんですか!ヒメさんたちがまめに顔を出せばいい事でしょう!」
「あちこち行ってたから、顔を出す暇がなかったんだよ。」
「どこに行ってたというんですか?」
「王都とか、ガルムザフト?」
王都と言われ、ビクッとなるノエルさん。
「ま、ま、まさか、王女殿下絡みってことはないですよね?」
「それも込みで。」
バタンとカウンターに倒れ込むノエルさん。
「あぁ、ただでさえ極悪非道なのに、さらに権力と結びつくなんて……最悪です。史上最悪の暴君の誕生です。この町はもう終わりです。」
何言ってるのかわからないんだけど、ノエルさん。
「元々ヒメ様が暴れればこの町程度ならあっという間に壊滅する。権力は関係ないと思う。」
何言ってるのかな、ミヤ?
「あぁ、つまり世界の終わりってことですね!」
めんどくさくなってきたな。燃やそうか。
「どうせ世界は滅びるんです。」
いや、元気だしなって。世の中悪い事ばかりじゃないよ。
「諸悪の根源に慰められても……」
やっぱめんどくさいな、まったく。
「何か変わった事はあった?」
「特にこれと言っては。寒くなってきたので、獣も魔獣もめっきり数が減りましたね。最近じゃ、狼か角ウサギ、たまに鹿が持ち込まれる程度です。あとオークくらいですね。」
どこもそんなものか。まぁ、大型の魔獣は多分だけど、ギャラルーナ帝国方面に連れていかれてるんじゃないかな、と思うからそんなに出現しないと思う。多分。ここでは言えないけど。
「あ、変わった事と言えば、最近国境を越えて、ガルムザフト王国から食料を買いに来る人が増えてるらしいですよ。なんか、この間まで戦争になるとか騒いでいたようですから、食料が足りないんじゃないですかね。」
実際に戦争になったわけじゃないから、足りなくなるわけないんだけど、いろいろあるんだよ、世の中。
「でまかせだったんだけど、ほんとに国境越えて買いに来てる人いるんだ。」
そういえば、ガルムザフトの国王に、わたしたちの事を話す時に、そんな話したっけね。そうか、『ウソから出たまとも』ってことかな。
「なにがまともなわけ?」
「うん、ファリナ、なんなんだろ?わたしもずっと不思議に思ってたんだよ。」
「え、と、ヒメさん?……いえ、幸せならいいです……」
歯切れが悪いな。はっきり言いなよノエルさん。
「言ったら燃やされそうだから、いいです。」
泣きそうにならないでよ。わたしが悪いみたいじゃない。
「まぁ間接的にはそうなるのかしら……」
だからどういう意味なんだよ。
「ガルムザフト王国に行ってたんですか?いいですね、外国。」
新人ハンターの……誰だっけ?この娘?
「ナターシャです……うぅ、ヒメさん冷たい……」
ごめん。でも3日会わないともう記憶が……
「ごめんね、うちのヒメ、頭悪いから。」
その言い訳は酷いんじゃないかな、ファリナ?
「何しに行ったんですか?旅行ですか?それとも向こうにしかいない獣か魔獣狩りですか?あ、わたしはオトーヌですよ。」
名乗ってくれてありがとう。何しにって……何してたんだろ?いや、ガルムザフト王国ってごまかしたけど、留守の半分くらいはギャラルーナ帝国に行ってたんだよね。絶対に言えないけど。
「り、リリーサの手伝いでね。あの娘お店やってるから。」
もうリリーサに丸投げだ。言い訳が思いつかない。
「た、大変だ!」
くだらない話を続けていたら、男がギルドに駆け込んでくる。あぁ、まずい時に来ちゃったなぁ。
「オーク6匹が黒の森に現れて、しかたなく逃げ出した俺たちを追いかけて白の森まで出てきてしまった!下手すると町の近くまで来るかもしれない!」
「オークが6匹?」
ノエルさんや新人パーティーの顔色が変わる。
いや、オークくらいなら任せても大丈夫だよね。




