282.解決 3
「まず、森の倉庫の食料を、各領地に、できるだけ早く返しませんと。」
「無償で戻した方がいいのか?販売はやつに任せていたから、どのくらいの金が動いていたのか恥ずかしながらよくわからんのです。」
「それは、ウソの帳簿と裏帳簿をつき合わせて調べるしかないだろうな。倉庫の食料だが、私が調べた分でもかなりの量だ。分配、移動だけでもそれなりの人件費がかかる。」
キャサリーラ、国王、元国王の話し合いが続く。
帰ると言ったら、少し待てと言われてもう昼近く。そろそろミヤがお昼ご飯を気にしだす頃だ。
「この空気で要求するほどミヤはバカではない。」
はいはい。
隅にあった小さなテーブルで、リリーサの淹れたお茶を飲むわたしたち。もちろん、キャサリーラたちにも淹れてあげたよ。わたしたちだけで飲むわけにはいかないでしょ。
「なるべく安い値段で領地に戻さないといけない。今まで高値で買っていた分を相殺できる値段にしないと国民も納得しないでしょう。」
「だが、1時期でも値を下げたら、元の値段に戻す時にまたひと騒ぎ起きるかもしれん。ここは、やつに責任を押し付け、定価に戻すことで我慢してもらうしかないだろう。」
国王と元国王の言い争いが止まらない。
国王は、国民から巻き上げた形になっている分を還元したい。元国王は、財務の監察官として赤字は認められない。お互いのせめぎあいが続く……って、そんなこと、わたしたちが帰ってからやってよ。
そもそも、何で元国王が監察官なんてやってるのよ。
(国家の財政を今の国王様が無駄に使わないか見張るためといわれています。国王様の座から退いてすぐに就任しましたから。)
どれだけ信用無いのよ、現国王……って、今回もやらかしちゃってるもんね。
で、キャサリーラは、最初の1言以来、2人の話に口を出そうにもアイデアがないらしく、ひたすらうんうん唸ってるし。さっきの啖呵はどうしたのよ。
「口出しよろしいでしょうか。」
リリーサが手をあげる。
「かまわんよ。何か気になる事でもあったか?」
よし、帰るって言っちゃいなさい、リリーサ。
「バリギャルドの事務所は調べたのですか?」
「いや、使用人を含め、中にいたものはすべて捕縛したが、そのままだ。一応立ち入り禁止にして、見張りの騎士をたててある。」
「使用人の半数は、多分事情すら知らないのではないですか?」
「おそらくな。やつと一部の部下の犯行だろうが……」
バリギャルドの話になると、今度はバツが悪いのか、現国王が黙ってしまう。
「誰が犯人かはどうでもいいです。お金に執着しているようでしたから、今までの売り上げは事務所のどこかに隠し持ってると思うんですよね。もし、あるのなら没収して今回のよけいな経費に使えますよね。」
「そうか。この1週間だけでも金貨2.000枚くらいは儲けているはず。それを使えば倉庫の食料を各領地へ配給する際の人件費や雑費に当てられる。」
「その上で、国王様の取り扱いですね、問題は。」
「私?」
驚きの表情の国王。
「責任の所在をどこにおくかです。」
「それは、国王としてお父様が国民に謝罪すべきでは?」
キャサリーラ、それは正論だけどダメだな。
「はい、それは悪手です。国王様が下々に謝るなどというのは、一見潔く見えますが、今度何か問題が起こった時、国民が王国を信用しなくなる恐れがあります。今回もまた国王様の不手際なんじゃないか、と思って。王は国民に不信感を抱かせてはいけないのです。」
なんか、リリーサが頭よさそうに見える。そうか、寝不足だから夢見てるんだね。
「消しますよ。」
怒られたけど、夢の中だからいいや。
「これでも、聖女として最低限の知識を得られるよう、ガナープラの教会で、それなりの勉強をしてるんですよ。あの頃は遠目でしか見ることができませんでしたけど、お姉様が泣きながらお勉強する姿は傑作でした。」
あれ、リルフィーナ、後半、話の持っていき方がおかしくなかった?
「そんな事はどうでもいいんです!ここは、バリギャルドにすべての責任を押し付けて、国王様の信頼を裏切って、好き勝手やっていたことにした方がいいでしょう。せいぜい、国王様がまずかったのは、気がつくのに時間がかかった事。それすらもバリギャルドに騙されていたからとすべきでしょうね。」
あくどすぎない?
「それくらいの事をやらなきゃいけない案件なんですよ、今回は。特に王室が国民からの信頼を失うなんてあってはならない事です。国の将来にかかわる問題です。」
「白聖女殿の言う通りだな。信頼は築くのは難しいが、壊すのは簡単だ。お前は、軽い気持ちで状況に流されてしまったようだが、言われた通り、国民からの信頼を失うところだったのだぞ。」
あっちこっちから責められ、顔を真っ赤にして俯く国王。
「いえ、まだ失いつつある状況です。ですから、一刻も早く動いて、国民のために努力しているとアピールして見せなければいけません。」
「私は国王だぞ。国民を導く努力はするが、下手に出るような事は……」
「国民の信頼があってこそ、民を導く、王国の王と呼ばれます。信頼のない王はただの独裁者です。」
「そうです。今のお父様は、国民から独裁者と思われても仕方のない事をしでかすところだったのですよ。」
「う……」
娘にまで責められ、小さくなる国王。
「まだ間に合います。そのために一刻も早く、各領地の物価を以前に戻さないと。」
チラチラとリリーサとキャサリーラ、そして前国王の顔を見ながら、国王が大きく深呼吸。
「わかった。まず、バリギャルドの事務所の家宅捜索、それと並行して森の倉庫とやらの物資の種類、量の確認を直ちに始めよう。王都の最低限の警備を除いて、騎士団および王都登録のハンターも繰り出せ。急ぐぞ。」
と、宣言されても、ここには王国関係者は、国王とキャサリーラ、それに前国王しかいない。ジー君は騎士団の仕事でここにはいないし、後はわたしたち部外者だけ。誰も返事のないまま、国王は顔を真っ赤にして何も言わない。ごまかす気だな。
「改めて礼を言うぞ、白聖女殿、エルリオーラの特使殿。」
前国王が、わたしたちの前まで来て微笑む。
「バカ息子を救ってくれて。」
「わたしは、自分のお店のためにやったので気にしなくていいです。」
あのね、リリーサ、もう少し言い方があるでしょ。わたしだってわかるよ。
「エルリオーラ王国は、この件に対して何らかの要望はあるのか?」
あぁ、わたしたちが国からの命令で動いてるような事言っちゃったもんね。まずいな。勝手な事したってライザリアに怒られそう。
「いえ。わたしたちは、あくまで密偵。しかも、今回は自国の都合で動いています。できれば内密にお願いします。他国の王族の前に素顔で顔を出したとばれたら、わたしたちが叱責を受けます。さらに言えば、わたしたちは、ライザリア王女殿下の密偵。国王陛下らはご存じありません。なおさらです。」
困っていたら、ファリナがかわりに答えてくれる。
「それでは、わたしの気が済みません。わたしが何日もかかって調べても何もできなかったのに、あなたたちのおかげで、実質3日で問題が片付きました。確かに放っておいても国が亡びるような事ではありませんけど、このままだと王室と国民の間に亀裂が入るところでした。それは小さな亀裂かもしれません。でも、それがいつかは国を揺るがすことになったかもしれないんです。」
いや、もう揺るがしそうだから、ほんと、急いだ方がいいよ。食べ物の恨みは怖いよ。絶対忘れないからね。
「まぁ、エルリオーラ王国とガルムザフト王国の平和の懸け橋の、欄干の1部くらいになればいいよ。戦争は嫌だからね。」
「でも……」
「ライザリア王女殿下からの依頼で、国は何も知りません。なので、逆にわたしたちが何か頂いたら面倒にしかなりません。今、ヒメが言った通り、両国が平和であればそれでいいです。そのために、この国が平和であってほしい。わが国からの勝手な希望です。褒美を頂くことも、ましてや礼を言われることもありません。」
よし、ファリナうまいぞ。
「わかりました。わが国とエルリオーラ王国の永遠の平和を守ることを誓いましょう。」
「いや、キャサリーラ、勝手にそのような……」
「恩知らず。」
「や、その、あれだ……好きにしろ……」
こうして、この国も国王が王女に頭が上がらなくなるのであった……キャサリーラはもう少し頑張らないと、ライザリアみたいになれないぞ……なってほしくもないけど……
せめて昼食を、と言われたけど、これから忙しくなるのに、わたしたちみたいな部外者がいつまでも邪魔してちゃいけないでしょ。という名目で、王宮を後にする。あぁ、面倒な事ばかりだった。
「さて、どこかでご飯食べて帰ろうか。」
「何かが心に引っかかります……」
リリーサが盛んに首をかしげてるけど、後は国王やキャサリーラに任せるしかないでしょう。
「あ!」
リルフィーナが通りの真ん中で大声をあげる。何事よ、いったい。
「3日もこの件にかかりきりでした……」
うん、で?
「あぁっ!!」
今度はリリーサかい。何なの?
「昨日、行く約束してました……ゴルグさんのところに……」
あぁ、狼とかウサギを解体……そういえば、領主のところに行った時以外、ずっとわたしたちと一緒にいたけど、ゴルグさんに断りの連絡してある……わけないか……
「はい……すっかり忘れてました。」
「ま、まぁ、もう領主に獣の肉を渡さなくてもいいんでしょ。だったら解体しなくても……」
ファリナ、笑ってるけど、汗でビッショリだよ。
「それとこれとは関係ありません。あぁ、どうしましょう……無断キャンセルなんて、怒られる……」
そ、そうか。大変そうだけど、大丈夫だよ。ゴルグさんだって鬼じゃないんだから、ちゃんと謝れば許してくれるよ。
「そ、そうよね。」
わたしもファリナも笑いながらも汗が止まらない。
「じ、じゃ、後は気をつけて。わたしたち帰るね。」
急いで、マイムの町への門を開く……前にガッシリとリリーサに肩を掴まれる。
「何言ってますか?責任の一端、いえ50端くらいはヒメさんにあるんです。一緒に来てもらいますよ。」
いや、リリーサ、50端ってどれくらい?
「そんな事はどうでもいいでしょう!」
「あんた、普段は細かいくせに気にならないの?」
事あるごとにツッコんでくるファリナのセリフとは思えない。
「気にしてる場合じゃないでしょ!」
「ケンカは後にしてください。行きますよ。」
「待って!わたしはいいよ!そういうのはファリナが得意だから!」
「人に振らないで!あぁ、もう一蓮托生、毒を食らわば皿までよ!」
「え?一連チクショウじゃないの?」
「毒を食らわば、おさらば、ですよね。」
「あんたたちそこに座りなさい!勉強の時間にするわ。」
いや、ファリナ、そんな余裕ないって。
その後、ゴルグさんのところに行ってメチャクチャ怒られた……
それから、ややしばらくたって……
「で、何これ?」
エルリオーラ王国王都の王宮では、王女であるライザリアが不審な手紙に頭を捻っていた。
差出人は、ガルムザフト王国国王、および王女。
内容は、ライザリア王女殿下の3名の部下による、ガルムザフト王国の問題解決協力に対するお礼の手紙だった。ただその問題とやらについては一切書かれていなかったので、国王、宰相、大臣以下、誰もが首を捻るばかりだった。
ただ、お礼に加え、両国間の変わらぬ平和を願うという文言が、すべてライザリアに向けてのものだったので、国王、宰相、大臣らが、座り込んで頭を抱えるくらい、王宮内でのライザリアの株はさらなる急上昇を遂げる事となった。
まぁ、当のライザリアは、内容はわからないけれど事の展開は予想できたので、手紙を見てはニヤニヤしっぱなしで、国王らがさらに頭が上がらないと恐怖しているのもどこ吹く風。
その笑いも、なかば苦笑いのようにも見えなくもなかったが……
書かれていたのは、ライザリアの3名の部下。つまり……
『どこに行って、何をしてるんだか。早くわたしのところに来て、ちゃんと報告しなさいよ。』
黒髪の幼馴染の顔を思い浮かべ、ニヤニヤが止まらないライザリアであった。




