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281.解決 2


 「わたし、あのおじいちゃんも知ってますよ。」

 リリーサが私の耳元で囁く。知ってるって、今、自己紹介したじゃん。

 「おう、白聖女殿。久しぶり、その節は世話になった。」

 リリーサに笑いかけるブルングルさん。え?じゃ、リリーサにケガを治してもらったことあるんだ。

 「まぁ、昔話は後にするとして、問題はこの帳簿だな。」

 「え、えぇ、どこのものなのやら、私にはわかりません。そもそも王女殿下がでっちあげたものなのではないのですか?」

 「国王にどう取り入ったかは知らんが、それが一国の王女に対する言葉かな?商人殿。」

 「こ、国王陛下……」

 言葉に詰まり、国王に救いを求めるバリギャルド、なんだけど、国王は顔をゆがめてそっぽを向いてしまう。

 「そこに国に届けた帳簿もあるんだったな。キャサリーラ、どこでもいい。日付と領地名、それに買い上げた料金を読み上げてみなさい。」

 いきなり声をかけられ、驚いたように飛びあがるキャサリーラ。

 「は、はい。」

 国王の前にあった、国に届けられた方の帳簿を手にする。

 「え、と、では5ページ目。12の月1の週の1日で、コーズリャル領、狼の肉、〇〇キロ。支払った金貨12.000枚。ダリオールス領、オーク肉、××キロ、で、金貨14.800枚……」

 その後もいくつかの領地を読み上げる。

 「それが何なんですか、監察官。」

 「今、読み上げた国に届けてあった帳簿と、このどこのものとも知れぬ帳簿。同じ日付に同じ領地で同じ商品を同じ量取引しておるな。違うのは金額だけ。という事は、この帳簿も同じ商店のものということになるかな。つまり、お前さんのところではないのか?商人殿。しかも、隠してあったそうだが。で、隠してあった帳簿じゃ2,3割は安く仕入れた事になってる。つまり、仕入れ値に差額が相当出ておるようだな。これは商人殿、ホクホクだな。」

 「い、いえ、そ、そのような事は……」

 ブルングルさんは、バリギャルドの方を見もせずに国王を冷たい目で見続けている。その視線に青くなる国王。

 「そうなのか!?バリギャルド!」

 「め、滅相もございません!」

 「この裏帳簿といわれるものがお前さんの店のものなら、商人殿、国家に対しての偽証という事になるが。」

 「ち、違います!国王陛下、これは何かの間違いです!誰かが私を罠にはめようとしているのです!再度お調べください!」

 跪いて、すがるように国王に懇願する。

 「調べることはない。私が財務省の監察官として、各領地を調べさせた。各領地が売った金額は、こちらの裏帳簿といわれている帳簿と一致している。」

 「だ、黙れ、ジジイ!俺をはめる気なんだろう!王女殿下と組んで、俺を罠にはめようとしているんだ!!」

 見苦しいな、こいつ。しかも、焦りまくって『私』が『俺』って、本性出ちゃってるよ。

 「貴様!ジジイとは何事だ!」

 国王が声を荒げる。え、誰なの?そのおじいちゃん?

 「前の国王陛下ですよ。わたし知ってるって言いましたよね。」

 「「「「「えぇぇぇ!!!???」」」」」

 わたし、ファリナ、さらに商人一同が驚きの悲鳴をあげる。そういえば、よくよく考えたら、国王とかキャサリーラとか呼び捨てにしてたっけ……

 「監察官、いえ、父上。もう王位はわたしに譲られたのです。あまり国政に口を出されるのは……」

 「任せておけないからこうなっているのだろうが!聞いたところによると、そこの商人から賄賂やおべっかを使われ、調子に乗ってその商人の言うがままに国を動かしたそうだな!」

 「わ、賄賂など……確かにいくつか献上物は貰いましたが……」

 「それを賄賂というんだ、この愚か者が!!」

 前国王強し。国王がもう小さくなってるよ。

 そして、この展開に唖然となってついていけない商人たち……と、わたしとファリナ。リリーサとリルフィーナはポケポケと様子を見てるし、ミヤはあきたのか、壁の絵を見ていた。

 「あ、これはガルムザフトの画家でボイジューラのものですね。本物ですね。すごいですね。」

 ミヤ、リルフィーナ、場の空気を読みなさい……


 「教えたはずだな。大手も含め商人は複数存在するのが望ましい。独占は絶対にさせるなと。複数いれば、競争原理がはたらく。それでこそ物価が適正になるのだと。なぜそこの商人が、他の大手の商店を合併させようとした段階で介入しなかったのだ?お前は何もわかってない!」

 「し、しかし父上。今は緊急事態ですので……」

 「どこも緊急になどなっていない!全領地の領主を集め、話を聞いたのか!?どうせ、そこの商人に言われたままが事実だと信じていたのだろう。逆に食料を持っていかれた現在が緊急事態になっている!」

 「ま、まさか……」

 「ぜ、前国王陛下、そのような事はございません!何かの間違いです!」

 しどろもどろになろながらも、このままじゃまずいと感じたんだろう。バリギャルドが口を挟むけど、前国王は厳しい目を向けるだけ。

 「各領地での商品価格は、国に食料を集約し始める前の2倍から3倍。酷いものだと5倍というものもある。国民はその理由がわからないから、陰でお前が何と言われているか知っているか?ドリュノーグ。」

 待って、新しい名前が出てきたね。誰?

 「どう聞いても国王様の名前でしょ!」

 怒らないでよ、ファリナ。へぇ、国王ってそんな名前なんだ。

 「愚王、愚かな王と呼ばれて、人民はお前に対する反感でいっぱいだ。そのうち一揆でも起きるのではないかな。」

 「そ、そんな……私は国民のために一生懸命やってきました。」

 「その結果が愚か者扱いか。大したものだ。」

 悔しそうにうつむく国王。その目がバリギャルドに向く。

 「バリギャルド……貴様……」

 こいつ、どう申し開くんだろう、そう思っていた時期がわたしにもありました。


 「騙されるのが悪いんだよ、国王陛下。」

 バリギャルドとその手下の3人がズボンのすそに隠し持っていた短剣を取り出す。え?こいつらバカなの?王宮のど真ん中で、国王に対して武器を突きつけるなんて。

 「それで、どうするつもりだ。私を刺すのか?」

 腐っても国王。目の前の剣に怯む様子もない。

 「どうせ捕まれば、軽くても強制労働はまぬがれないだろう。なら、ここにいるやつらを皆殺しにして、逃げるだけ逃げてやる。」

 やばい、マジのバカだ。とはいえ、商人相手の会談で、しかも懇意の仲。こんなことになるとは予想もしてなかったからだろう、護衛となるのがジー君しかいない。

 「誰か!誰かおらぬか!?」

 国王の後ろに控えていた大臣が、大声を張り上げる。

 「何事ですか!?」

 入ってきたのは入口を守っていた騎士が1人。これで騎士2人か。ジー君は室内に入るため武器持ってないけど。

 「こ、これは?」

 状況を呑込めずウロウロする騎士を、バリギャルドの部下が蹴り倒す。倒れたところをさらに蹴り上げる。王宮内で動くことが優先されてる体を覆う部分が少ない鎧だったから、攻撃された騎士は、何発も蹴られて気を失ってしまう。

 「まずは邪魔をしてくれた王女殿下からあの世に行ってもらいましょうか!」

 バリギャルドが剣を振り上げる。

 「キャァァ!」

 キャサリーラが悲鳴をあげるが、恐怖で逃げることもできないよう。とっさの事でジー君も動けない。誰もがキャサリーラが刺される、そう思っただろう。

 「<大火球>」

 わたしはゲッソリしながら、バリギャルドの短剣を持った手を焼いた。女の子だと思ってこっち無視してるけど、わたしたちこれでもハンターだからね。1番最初に無力化しなきゃダメでしょ。まだまだだなぁ。

 「ギャァァ!!手っ!手が?も、燃えてる!!」

 炭になった右手を押さえて、痛みで床を転がるバリギャルド。

 「後、燃やしてほしい人は?」

 わたしのセリフに、なぜか国王、キャサリーラ、前国王、ジー君さらに後ろにいた大臣が、必死に首を横に振る。いや、あんた達には言ってないよ……

 「え?何?何だ?」

 そして、状況を呑込めず右往左往するバリギャルドの部下2人。わたしの脅しも聞こえてないよう。その隙にミヤが一気に詰め寄る。

 「爆散パーンチ!」

 左右のワンツーで、2人が壁まで吹き飛んで気を失う。

 「え?え?」

 何が起こったのかわからないでキョロキョロするキャサリーラにどこを見てるのかわからない視線で呆然とする国王と大臣さらにジー君。

 「ほほぅ。」

 元国王だけが興味深げにわたしたちをニヤニヤ笑いながら見ていた。このお爺さん、意外に食えないやつだな。


 「あれ?わたし、また何もできなかったんですけど。」

 早い者勝ちだからね。しょうがないよ、リリーサ。

 「痛い!痛いぃ!」

 炭になった右手を押さえて、床を転がりまわるバリギャルド。

 「うるさいです。ジー君、さっさととどめを刺しなさい。」

 いや、リリーサ、治してあげなよ。こいつ、まだ容疑者だから取り調べないと。

 「王族に刃物を向けたんですよ、どうせ死刑です、死刑。なので治してあげませ-ん。」

 「すまんが、白聖女殿。まだ聞かねばならんことがあるんだ。治せるなら治してやってくれんか。とにかく静かにさせんと、うるさくてかなわん。」

 前国王のセリフに、リリーサが頬を膨らませる。

 「エルリオーラ王国の王宮でもこんな役割でした。待遇の改善を要求します。」

 渋々言いながらも、バリギャルドの手を治す。

 「あぁ、手……俺の手だぁ……」

 倒れたまま、自分の手を見て、泣きながら喜ぶバリギャルドを、しゃがみながら不満そうに見つめるリリーサ。

 「ミヤさん、撲殺本借りてもいいですか?」

 何も言わずに収納から出した、例の分厚い本をリリーサに渡す。

 「えい!」

 受け取ったリリーサは、立ち上がるなり本をバリギャルドの顔面に叩きつける。

 「グギャ。」

 奇妙な声を出し、鼻血を流しながら気を失う。あのね、あんた……まぁいいけど。

 「ちょっとだけ気が晴れました。」

 その様子を、顔を青ざめて見ている国王、キャサリーラ、ジー君。

 さらにミヤが、気を失ったままのバリギャルドの部下のそばにトコトコ近づいていって……収納から例の巨大な針を出す。

 「こっちのやつなら、刺してもいいか?」

 国王に尋ねる。

 「や、いや、待ってくれ。それは……」

 国王に止められ、むくれた顔になり針をしまうと、鋼の糸をまいた糸巻きを出すミヤ。

 「なら、吊るすのならいいか?」

 「頼むから殺さんでくれ!」

 「ヒメ様、こいつ邪魔ばかりする。吊るしていいか?」

 やめてあげなさい……


 殴られて気を失った廊下で見張りをしていた騎士が目を覚まさないため、結局、この場では1番下っ端のジー君が、近くにいた騎士を呼びに行くことになる。宮仕えの不条理さだ。

 バリギャルド以下3名は、駆けつけた騎士たちによって、気を失ったまま縛られ連れていかれた。

 「騎士団を出せ。バリギャルドの店、事務所に向かわせ、関係している者を全員捕縛しろ!その後は王宮から調査の者が行くまで立ち入り禁止、誰も入れるな。別の騎士団も出撃させて、森にあるという倉庫を押さえさせろ。急げ!」

 国王が残っていた騎士に命令する。


 「とりあえず終わったね。」

 「まだ何1つ片付いてないけどね。」

 後はこの国の問題だよ。というより、これからが面倒なんだから、もう手を出す気はないよ。

 「エルリオーラの特使の方。世話になったな。」

 元国王が会釈程度だけど、頭を下げる。いいのかな、そんなことして。

 「かまわんよ。私はもう国王ではない。ただの隠居のジジイだよ。まぁ、後釜がだらしなすぎて手を焼いているところだがな。」

 俯いてしまう国王。

 「わたしがお父様を支えます。」

 キャサリーラが、真剣な目で元、そして現国王を見つめる。

 「ですから、ちゃんとわたしの言葉に耳を傾けてください。わたしはもう子どもではありません。お父様のお手伝いくらいできます。」

 かなり危なげだけどね。

 「すまん。父上、キャサリーラ、それにゴルザよ。皆に迷惑をかけた。戦争が回避できて、つい気が緩んでしまったところにつけこまれてしまった。愚かだったよ。」

 椅子に深く腰掛け、疲れ切った様子の国王。


 さて、後は任せて、わたしたちは帰りますか……






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