280.解決
(誰が何をいくらで売り買いしたか、わからなくなっています。)
うん、リリーサ。何言ってるのか全然わからないよ。
(現状、あいつらが領地から商品を買う時は、そこの領主様が問屋から集めた商品をあいつらがまとめて買います。そのうえで、領主様は、あいつらから貰った代金で、商品を集めた問屋やギルドに品代として払います。)
領地の問屋ごとにあいつらが買い付けるわけじゃないんだ。
(個別だと、取引の数が膨大になるので、その方法になっているのです。で、逆に国、というか、あいつらのお店から買うのは領地の問屋です。この場合は、取引の数は問題にならないそうです。不思議ですね。まぁ、それは、領主様をはさむと、問屋ごとに必要な量が違うので、領主様がそれぞれに分けるのが大変だからとされています。つまり、ここに領主様は関与しません。たとえば、ある領地の問屋が狼の肉10人前を領主様に渡して、いただいた代金は金貨2枚でした。で、同じ問屋が、あの男のお店から買う時には金貨が10枚になってました。当然、領地の問屋は5倍のお金を払って買うことになり、誰かがどこかで儲けようと値段を高く設定してると思うでしょう。さて、値段を高くしてるのはどこでしょう?)
(そりゃ、あいつらでしょ。)
(あ、そうか。)
何?ファリナ。何がそうかなの?
(そう思うのは、わたしたちがあいつらが犯人だってわかってるからそう言えるだけで、何も知らない領地の問屋にすれば、値を釣り上げたのが、あいつらなのか、領主様なのかわからないはず。つまり、領主様があいつらに高値で売ったかもしれないし、あいつらが自分たちに高値で売ってるのかもしれない。もしかしたら国王様かもしれない。でも、誰がそうしたのかはわからない。)
あ、言われてみれば……
(だからといって、領主様に、いくらであいつらに売ったんですか?なんて言えると思う?あいつらに、いくらで買ったんですかって聞けると思う?)
そんなこと聞いたら、自分を疑うのかって、領主やあいつらに睨まれることになるよね。
(領地の問屋は、その値段で買って、自分たちの儲けを足してお店に売ります。お店でも同じです。領主様やあいつら、さらには問屋のうち、誰かが儲けているのか?そう思っても言い出せないでしょう。今のところ、このルート以外では商品が手に入らないのですから。)
うわ、きたない!
「ここに王宮に提出した各領地から買い上げた量と値段、それに、各領地の問屋に売った量と値段を報告した帳簿があります。ところで、バリギャルド。さらにここに、お前の事務所から見つかった帳簿があるのだが、調べてみると、領地からの買い上げた値段に差があるのですが、どういう事でしょう。」
キャサリーラが勝ち誇った笑みを浮かべる。
(チッ!やはり小娘が持っていったのか!)
言葉には出さなくても、顔がそう叫んでいる。でも、証拠を突きつけられたんだ。これまでだよね。
(ヒメさん、エルリオーラ王国の紋章のレリーフを用意しておいてください。まずい事になる可能性があります。)
え?リリーサ、何に使うの?
(あの女王様の権威を借ります。)
ライザリアに借りをつくるの?いやだなぁ……ところで、そろそろ女王呼びやめてあげたら?
(あれは女王で十分です。しかも、風俗的意味合いの。)
あんた、不敬罪で死刑になるよ。あいつ結構気が短いからね。
横ではファリナも嫌な顔。
(しかたないわ。エルリオーラの名前を借りるしかないかも……)
2人揃って何を言ってるのかな……
「それが何か?」
「裏帳簿ですよね。」
「そうなのですか?どこのでしょう?」
「とぼけないで!あなたのお店のです!」
「証拠は?」
「え?」
「その帳簿が私の店のものだという証拠はあるのですか?」
「あなたのお店から持ってきました!」
「どなたが?まさか、王女殿下、泥棒行為を行ったとおっしゃるのですか?1国の王女様が?そんなことありえませんよね。」
「そ、それは……」
「まぁ、それ以前に、見たところその帳簿には商店名も入っていない。私の店のものとは思えませんな。」
「今更言い逃れを……」
「ですから、誰がその帳簿をどこから持ってきたのですか?」
顔色が悪くなるキャサリーラ。
「キャサリーラ、まさか王女たるお前が、どこかに忍び込んで盗んできたなどとは言うまいな?」
「そ、それは……」
ライザリアあたりなら平気で、そうです、くらい言いそうだけど、キャサリーラにはそんな事言えないだろうな。いい意味でお嬢様だもんね。
(そりゃ王女様ですからね。)
あれ、リルフィーナにまでツッコまれるとは思わなかったよ。
「わたしたちがそれを持ってきました。」
リリーサが部屋に響く声ではっきりと言う。あれ?でもそれって、わたしたちが泥棒ですって宣言するようなものじゃないの?
「ほう、自分たちが盗人だと白状するわけだ。だが、それを持ってきたのが私の事務所からという証拠はありませんよね。」
「間違えるはずありません。」
「なぜ?」
憎々しい笑いでこっちをあざ笑う商人。
「だから名前はバリギャルドよ。」
「今、気にするとこ!?それ?」
めげないな、ファリナ。
「こちらは、あなたたちを調べに来たエルリオーラ王国の密偵の方々だからです。」
その場の空気が固まる。いや、リリーサ、密偵が名のっちゃいけないでしょう。
「な、何を言っている?エルリオーラ?なぜ隣国が?」
国王の顔から汗が滴り落ちる。
「証拠は!?お前たちがエルリオーラの密偵だという証拠はあるのか!?」
バリギャルドが大声で喚き散らす。名前で言わないとファリナがうるさいからなぁ。
「ヒメ、あれを。」
いや、ここで出して大丈夫なの?国際問題になるような気が……
「いいから、早く。」
もう知らないからね。
わたしは、<ポケット>から出して、服のポケットに入れておいたレリーフを出す。ポケット・ポケットでまぎらわしいな、もう。
「そ、それは……エルリオーラ王家の紋章……」
国王が愕然とした顔。
隣にいた大臣らしい男が近づいてきて、しげしげと見る。
「署名入りです。ら、らい……ライザリア・エルリオーラ!エルリオーラ王国王女殿下のお名前!!」
「なんだと!?」
さらに国王愕然。ちなみに、キャサリーラもビックリしてる。
「な、内政干渉だ!国王陛下、この者たちを捕らえ、エルリオーラ王国に内政干渉として異議を申し立てるべきです!」
青ざめた顔で喚くバリギャルド。
「いいえ、わたしたちは、我が国の利益の確認にこの国の調査をしています。」
すました顔で語りはじめるファリナ。
「ど、どういうことだ?」
「よくお聞きください。最近、国境を越えガルムザフト王国から、食料を求める者が増えてきました。たまに数人、十数人くらいなら、まぁ国境を越える税金を払ってでも買い求める者がいても見過ごせましょう。しかし、それが毎日となれば、異常事態です。ガルムザフトは食糧危機なのではないかと考えるようになりました。」
「そんな事はない!民を飢えさせるような事は、私がさせない!」
国王がわめくけど、実際このままじゃやっていけなくなる人が出るよ。食べ物の値段が前の2,3倍じゃ。
「そう。国境を越えてやって来た者に尋ねたところ、食料はあるのだが、値段がかつての3倍になり、これ以上国内で買い物をしていては生活していけない、ということでした。わが国としては、物を買っていただけるのは結構なのですが、それがいつまで、どのくらいの量を供給しなければならないのかがわからないのでは、安心して冬を越せません。そのため、王女殿下の命によりわたしたちが調査に参りました。で、浮かんだのがそこにいる商人だったのです。」
まじめな顔で、よくスラスラ出るな、ファリナ。なんかそう思うと、吹き出しそうになるけど我慢、我慢。
「待て、食料の値が3倍?バリギャルド、お前の説明ではせいぜい以前より20パーセント程度の値上げですむといっていたな?それが300?」
「や、その……わ、私の言った通りです!あいつらは何か間違えているのではないでしょうか?」
顔を赤くしたり青くしたりしながら、必死に訴えるバリギャルド。
「間違えていません。国王陛下。王都の隣の領地でさえ2倍の価格。さらには、港町の漁民でさえ、国に治めてからでないと魚を食べてはいけないと、倍の値段を払って干し魚を買って食べている状況。民は困っています。」
「そんな話は聞いてないぞ。バリギャルド、どうなっている?」
「し、食料の種類によっては、不足しているものもございます。おそらく、値が張ると言っているのはそれらのものではないでしょうか。足りなければどうしても高値になってしまいます。」
「なるほど。そういう理由だそうだ、キャサリーラ。」
「では、私が閉じ込められた、王都の近くの森に立てられた数十の倉庫に隠してある食料をもってしても足りないものがあると?どう見ても、国中に渡しても数週間分はありましたが。」
「倉庫?いや、その前に閉じ込められたというのは何だ?」
「王都の外に散策に出かけましたところ、森に何十もの数の倉庫を見つけました。届け出のないものでしたので、護衛をしていたゴルザに頼み、中を確認しましたところ、倉庫にビッシリと食料が冷凍されていました。ところが、その場にいきなりバリギャルドの部下がやってきて、見られては困るものを見たから死んでもらうと冷凍倉庫の中に閉じ込められてしまいました。幸い、偶然出会ったそちらの方々がご一緒だったので、逃げ出すことができましたが、危うく命を落とすところでした。」
「バリギャルド!その話は本当か!?キャサリーラを殺そうとしたというのは……」
「何かの間違いです。確かに倉庫はございますが、王女殿下に危害を加えようなど。おそらく、倉庫の物資を盗もうとした盗賊と出くわしたのでは?」
「キャサリーラ、間違いなくバリギャルドの部下だったのか?」
「いえ、それは……」
キャサリーラが、バリギャルドの部下の顔を全部知ってるわけないじゃん。というか、ここはその件じゃなく、森の倉庫に異常な量の食料が隠してある方を問題にしなきゃダメだよ。
「ならば、お前の勘違いではないのか?」
そう言われて言葉に詰まるキャサリーラ。
「その倉庫というのは、国王陛下はご存じなのですか?」
リリーサがしょうがないとばかりに口を出す。
「いや、知らん。だが、国中の食料を預かるのだ。倉庫は必要だろう。」
まずったな。あの量の食料倉庫と、裏帳簿があればバリギャルドを追い詰められると思ったけど、思いのほか国王の頭が固い。賄賂もらってるとか言ってたもんなぁ。バリギャルドが悪いというより、そのバリギャルドから貢物を貰っていた自分が悪いと認めるのが嫌なのかもしれない。
「その量が問題ですな、国王。」
いきなり、どこからか声がかかる。見ると、扉のところに結構なお歳のおじいちゃんが立っていた。
「か、監察長官殿……」
苦虫を噛み潰したような顔になる国王。
「どなたですか?」
バリギャルドが横柄な態度で、おじいちゃんを見る。
「我が国の……」
「財務省監察長官のブルングルという。まぁ名前の方だ。家名は……いいだろう。」
国王が口ごもるので、自分で名のる。
「ざ、財務省……」
わずかに顔色を変えるバリギャルド。国のお金を扱う部門のお偉いさんのようだから、事をかまえるのはまずいと感じたのかな。
ブルングルさんは、ゆっくり部屋の中に入ってくると、テーブルの上にあった裏帳簿を手に取りパラパラとめくる。
「ふむ。なるほどな。」
「そ、それは私とは関係ないもの。先ほどもそう言って認められたはず。」
深いしわに隠れた目がギラリとバリギャルドを睨む。只者じゃないみたいだよ、このおじいちゃん……




