28.昔話をしよう 7
この世界での人族と魔人族の戦いは、ほとんど、いや、すべてが局地戦だ。
人族の国の間では、国の存亡にかかわるような大規模戦争になった時は、近隣の国が救援に向かうという協定が結ばれているけど、今まで使われたことはない。
戦争の原因は、大抵は魔人族側が人族側に侵攻して始まる。
理由は、人族側の土地での利権、と言えばかっこいいけど、それらの土地で狩れる獣が欲しいとか採れる鉱物が欲しいなど、実際くだらないことが多い。あ、後、国境付近で両者が出会っちゃって、なし崩し的に戦闘状態になっちゃったとか。
元々、戦争になれば、戦闘能力的に人族側が不利なのだから、こちらから喧嘩を売ることは滅多にない。
理由がそういうことなので、戦争になるのは魔人族と、魔人族が権利を主張した土地に面した人族の国の間で起こることになる。魔人族側も他の魔神の領地の揉め事に参加するもの好きもいないようで、そうして戦争はその土地近くに住む魔人族と人族だけの局地戦になるわけ。
人族が勝てば、魔人族は自分たちの領地に引き上げる。魔人族が勝てば、人族の土地は魔人族が使うことになるけど、大抵、欲しいものがある程度取れたら、魔人族は引き上げるので、しばらくすれば国境線は元に戻るという訳の分からない状態が続いている。
その程度の理由なら、話し合いで解決できそうなものなんだけど、両者は絶対話し合いはしない。お互いの威信をかけて戦うのだ。バカみたい。バカみたいでも人死には出るというのに。
そんなどこまで本気かわからない喧嘩みたいな戦争がずっと続くんだって思ってた。
事はエルリオーラ王国サムザス領で起きる。後に言う『サムザス事変』だ。
ミヤが仲間に入って1年が過ぎようとしていた。
みんな仲良くやってるよ。
ミヤが来てすぐの頃は、ミヤが夜中にわたしのベッドに潜りこもうとしたり、それを阻止するとか言って、ファリナがわたしより先にわたしのベッドに入って隠れてたりとかあったけど、わたしは元気だよ。空元気でも元気だよ。
今日もみんなで魔獣狩りだ。
「おかしい。ミヤはカニ食べに行くと聞いた。」
「おかしいのはあなたの耳でしょ。カニ退治に行くって言ったの。」
あぁ、今日も2人は仲がいい。
「これは美味しいのか?」
「ポイズンブルクラブ?味は誰も知らないわ。全身どこも毒だらけだから、食べた人みんな、その場ですぐ死んじゃうから、味の感想を聞けたことないの。ミヤならいけるんじゃないかな。食べてみて教えてよ。」
「味覚はファリナが優れてる。ファリナに任せる。」
わたしはポイズンブルクラブのハサミによる殴り攻撃と毒の泡を流れるようなステップでかわしている。なんでハサミなのに殴り攻撃なんだろ。
「だからミヤが・・・」
「いや。ファリナが適任。」
プチン。
「いつまでやってるかな!?討伐だから燃やしちゃっていいんだから、証拠になるハサミさっさと取っちゃってよ!」
怒られた2人は慌ててポイズンブルクラブに向け走り出す。
左右に散ると、ファリナの剣が、ミヤの鉤爪が左右のハサミを切り落とす。
「いいわよ。燃やして。」
ファリナが親指を立てる。何だろう、ムカつくんですけど。
「<豪火>。」
ポイズンブルクラブが炎に包まれる。
「終わった・・・」
簡単な魔獣の討伐だからって、2人とも気を抜きすぎじゃないの?
「いいどつき漫才だった。」
ファリナがミヤを鋭い目で睨む。よし、怒ってあげて。
「あんた、わかってるの?今のは掛け合い漫才よ。」
そっちかーい!
「ヒメカ様いいツッコミ。」
わたしのパーティーが・・・
村に戻ったわたしたちは、村長からの至急の呼び出しを受ける。呼び出された先の広場には、主だった勇者がほとんど集められていた。
「非常事態だ。」
「非常事態です。わたしのパーティーがお笑い芸人になりそうです。」
「・・・何を言っている?」
「非常事態についてです・・・」
わたしの憂いを完璧に無視して話が始まる。
ここ勇者の村があるサムザス領に面する黒の山脈の魔人族側に、軍が集結している。その数、魔獣を含めて1万近く。
今までの戦いでは少なければ数十、多い時でも千までいかないくらいの軍勢だったのが、1万だよ。
もはや、サムザス領だけの問題ではなくなりエルリオーラ王国の存亡にかかわる事態だと国王は判断し、国中の勇者の出動を決めた。
隣国には連絡したけど、王都まで攻撃されるような事態にまでならないと、協定に従って勇者を派兵してはくれないだろう。国家的危機って言うのはそういうものらしい。
最悪、全ハンターおよび王国騎士団も出動させる。ということになったらしい。
いや、魔人族に勝てないレベルのハンターとか対人戦しか訓練してない騎士団に何の意味があるの。死傷者増やすだけじゃん。
そして、戦いは始まった。
『「爆炎の聖女」は敵中枢に潜入、今回の戦闘の指揮官を叩け。』
村長は気楽に言ってくれた。
幸運だったのは、敵の本陣が魔人族領内にあって、人族が攻め入ってこないと思ったんだろう、戦える兵士は、ほとんど人族の領地に進行していて、本陣に兵士の数が少なかった事。
そして、司令官が休憩中だったのかわからないけど、一人で部屋にいた事だった。
わたしたち3人は指揮官の部屋に突入する。
3メートル近い巨躯に黒い鱗のような肌。頭には3本の角といった司令官の魔神の姿。
人魔は、肌や髪の色以外、人と姿形は変わらない。
人族の貴族にあたる魔神は、人型、獣型色々いて、大きさもそれぞれだ。共通してるのは、言語を話し、なにより魔力がふざけるなと言いたくなるくらい高い。
「まさか、ここまで潜入してくるとはな。だが、女が3匹、何ができよう。」
「人を匹で数えるな!」
ファリナが剣で斬りかかる。そういえばファリナ、体重気にしてたもんね。大丈夫、誰も豚さんだなんて思ってないよ。
「よけいに傷つくからやめて!」
なんでわたしが怒られる。
「なんで、戦争なんか始めたのよ。何が欲しくて攻めてきたの?」
「ふざけるな。此度は人族が100人を超す人間を、魔人族の領地を侵略するために進行させたのが原因であろう。」
「何言ってるの?わたしたちが侵略なんて・・・」
「村を1つ焼いておいて何を言うか!」
冗談じゃない。こちらから侵略行為なんて未だかつてやったことないわよ。
魔神の風魔法が部屋を荒れ狂う。話してる場合じゃないね、これは。
ファリナとミヤの剣撃もわたしの魔法も魔神の障壁に跳ねかえされる。室内だから、あまり強力な魔法は使えない。みんな焼けちゃう。
魔神の防御魔法ウザい。今のミヤでは傷つけるのがやっと。すぐに復元してしまう。
仕方ない。魔神の前で出したくなかったんだけど・・・
わたしは魔法のみでの攻撃をあきらめて、<ポケット>から父の形見(もしも生きてたらごめん)の剣を出す。
魔神の顔色が変わる。いや、色なんてよくわからないけど。
「な、なぜお前がグラバゾールの剣を持っている!?」
「形見よ!」
やっぱり剣の事知ってるやついるのか。だから出したくなかったのに。
魔力を通した剣を走らす。パリン。障壁が砕け散る。
やった、いける。
「形見!?お前はバルドア・フィールドの娘なのか?親の仇を討ちに来たのか!?」
誰よそれ。親?
「わたしは、ヒメカ!ヒメカ・ローフィールドだ!」
斬りつけた剣をかわされる。後ろからファリナが斬る。寸前に防御魔法の障壁が張られてしまう。
「ローフィールド?母親の名字のローか?バルドアらしい。女々しい男だったからな。」
だから知らないし。どうでもいいし。覚えてない親の話なんて知らない!
「わたしにはファリナとミヤがいるの!会ったことない親なんて知らない!聞きたくもない!」
「仇である私を討ちに来たのではないのか?呪われた血の娘よ。自らの母親を殺し、父親を追放しただけでは不満か?今度は何を壊しに来たのだ?」
「知らない!知らない!知らない!どうでもいい!ファリナ!ミヤ!」
一気に詰め寄って、魔法剣を振る。障壁が壊れる。同時にわたしの左右からファリナとミヤが障壁が復元される前に斬りかかる。
ファリナの剣が魔神の腕を、ミヤの鉤爪が顔を切り裂く。
「おぉぉぉぉ!!」
魔神が苦しみながら、障壁を張ろうとする。
「<爆炎>。」
障壁の内側だからちょっとくらい強力な魔法でも大丈夫。だと信じて現状最強火炎魔法を閉じる寸前の障壁の中に叩きこむ。
「ぐぉぉぉぉぉっっ!!!」
よし!希望通り、もとい予想通り。町1つくらい燃やせる炎は、なまじ魔神の障壁が強力なため、壁のこっちまで炎は来ないで、壁の中の魔神を燃やし尽くす。
叫び声をあげて、魔神は炎の中に消えていった。
カラン。足元に魔神が持っていた剣が転がる。
あいつ、何を言ってたの?父さんの仇?母さんを殺したのがわたし?父さんが追放されたってどういうこと?
「ヒメカ様!」
ファリナの声にハッとなる。
「他の魔人族が来る前に逃げるわよ。指揮官らしいのはやっつけたんだから。」
「あ、うん・・・そうだね。」
足元の魔人族の剣を拾う。
「それ持っていくの?」
「今の剣がなんかヤバそうだから。まだこっちの方がましかな。」
「指揮官の剣でしょ。素性知ってる魔人族多いんじゃないの?」
「それでも今のよりはいいよ。あれなんかほんとにまずそうだもん。」
魔人族から追放された人の剣なんて、知ってる魔人族から狙われちゃうんじゃないかな。
「話は後。急ぐ。」
ミヤが、ドアはまずそうだから窓から逃げ出そうと窓際に行く。
窓から逃げ出す直前、魔神の燃えた灰を見る。
あいつが仇?仇討てたの?
もやもやした気持ちのまま、わたしは村への帰路についた。
途中、崖の上から隠れて見たのは、急いで魔人族の領地に戻る人魔たちの姿だった。
魔人族は指揮官が倒れたため退却したのだ。
帰路につくわたしたちの向かう先が赤かった。立ち上る煙が見える。
「村が・・・燃えている?」
ファリナが立ち竦んでしまう。
「いくよ。」
わたしたちは走り出す。
駆け上がった丘から見えたものは・・・
燃える家々。人の姿は見えない。魔獣が焼け残った家を壊している。
「ヒメカ様・・・」
ファリナが呆然と焼け落ちる村を見ていた。
わたしは、村に向かって走り出す。
暴れていた魔獣は30分かからずに全滅させた。人魔は領地に引き上げていたのだろう。いなかった。
焼け落ちた村には何も残っていなかった。と思ったら、村長と商会長の家の大きな金庫だけが残っていた。どれだけしっかり防火してたんだろう。
村長の家の金庫の中には一通の書状。
内容は、わたしたちを愕然とさせた。
サムザス領領主と村長の密約書だった。
アルバダールという男の協力のもと、領主配下のハンターと勇者、それに勇者の村の勇者数名をもって、魔人族領内に侵入。僻地の小村を襲い占拠。そこで採れるレアメタルを採掘するという計画。
本当に、こちら側からの侵略行為だったわけ。
「バカじゃないの。」
ファリナが吐き捨てるように呟く。
この戦いで勇者の村を含む黒の森近くの町や村、3つが全壊または半壊した。
今回の戦争に出撃した勇者数6,284名。これはエルリオーラ王国の全勇者の92パーセントになる。そして、生存者は、今のところわかっているだけで1,142名。約8割が還らなかったんだ。
さらに、村長と商会長の金庫の中からは、それはもう大金が出てきた。一生豪遊してもあまるくらいだよ。
「よし。もらっておこう。」
「ヒメカ様外道。」
「死んだ人間は使わないでしょ。お金は生きてる者のために使わなきゃ。」
「どうせ、ロクなお金じゃないわよ。ヒメカ様のお父様からもうそれはいっぱい貰っていたっていう話だし、それに、わたしたちの派遣料ってかなり暴利だったらしいからね。」
「なら、これはわたしたちのお金も同然。この資金をもとにどこか知らないところにいってやりなおすよ。」
「やりなおすって・・・」
「『爆炎の聖女』は今回の戦いで帰ってこなかったことにして、わたしたちは他の土地で新米ハンターから始めるの。もう、国や貴族の思惑で戦わされるのはごめんだわ。お金はあるんだし、これからはゆっくり、ゆったり暮らすのよ。このお金を未来資金と名付けるわ。」
「外道資金。」
「そうね。相応しいわ。」
なんて夢の無いやつら。
「あと、聖女じゃなくなったんだから、わたしを『様』付けで呼ぶの禁止。ついでに名前も変える。王族とか貴族で、わたしの名前知ってるやつがいるかもしれないし。」
「ヒメカ様を知ってる人はいるかもしれないわね。」
「はい、様をつけない。そして今日からわたしの名前は・・・・・・ヒメ。ヒメよ。」
「大して変わらない。」
「センスないわよね。」
あっさりダメ出しくらった。うっさい。とにかくヒメに決めたの。
「ヒメ。でいいのね。」
「うん。さぁミヤも。」
「名前を変えるのはいい。でもミヤはつがい。だからヒメ様と呼ぶ。」
「だーめ。ヒメ。」
「ヒメ様がだめなら、旦那様と呼ぶ。どちらがいい?」
「いや、だから・・・」
「どちらがいい?」
「・・・ヒメ様で・・・お願いします・・・」
「よわ!」
うっさい。ミヤの圧、半端ないんだから。
「よし、行こう。どこに行きたい?」
「わたしは、ヒメカ・・・ヒメの行くところならどこでも。」
「ミヤはそれとおいしいご飯があるところならどこでもいい。」
2週間後、わたしたちは、パーソンズ領マイムの町に着いた。
わたしたちの新しい生活が始まった。
あと1回。
ファリナ視点での過去話で「過去 編」終了です。
お付き合いのほどよろしくお願いします。




