279.国王の元へ 3
(わたし、あのオジサン知ってます。)
後ろから、リリーサが訳のわからない事を言い出した。
(そりゃあんたの国の国王様でしょ。)
(そうではなく……)
またうんうん唸りだした。
(リルフィーナはわかりませんか?)
(国王様だという以外は。)
(という事は、リルフィーナと教会を出る前……教会時代の……)
首を真横までかしげるリリーサ。何やってんのよ。
「あ!思い出しました!」
「そこ!うるさいぞ!」
総隊長さんがこっち見て怒りだす。
「わたしあのオジサン知ってます。」
「だから、オジサン言うな!あんたの国の国王様でしょう!」
指さされた国王がビックリしてこちらを見る。
「き、貴様……言うに事欠いてお、オジ……」
「何者だ、その者たち……」
今まで目にも入れてなかったんだろう。国王がこちらを睨んだと思ったら、驚きの表情に変わる。
「し、白聖女様?」
「は?」
国王が様付で呼んだんで、ビックリした顔で国王を見返す大隊長。
「あ、や、いや、その、お前は下がれ。キャサリーラの知り合いなら危険はない。」
「し、しかし……」
「下がれ!命令だ!」
「は、ハッ!」
渋々部屋を出る大隊長。
「あの件は内密にと願いしたはずだが。」
「聖教会の信徒が、異端の教会に来ちゃまずいですものね。」
「ですから、お願いです。内密に!」
いきなり下手にでてきたな。よっぽど弱みを握られてるのか……って、今の口ぶりじゃ、教会時代のリリーサのところに治療に行ったみたいなのは見え見えなんだけどね。
「まぁいいでしょう。昔からのよしみです。」
冷や汗ダラダラで頭を抱える国王。これリリーサが脅せば素直に聞く耳持つんじゃないの?いや、だめか。脅迫で言いくるめても、内心納得しないだろうしなぁ
「朝からだと向こうに何かしらの策を講じる時間を与えてしまうかもしれません。」
キャサリーラが思い切った様子で国王に進言する。
その頃には、わたしたちが倉庫から逃げ出してるのに気がついてるだろうから、国王に何かしらの報告が行ってることを考えての対策をとってくる可能性があるんだよね。
「証拠の帳簿はここにあるのです。言い逃れはできないでしょう。」
さすがジー君。お気楽な貴族様だから、考えもお気楽だな。それも含めて対策を打ってくるかもしれないのに。
「とにかく、明日の朝。話はそれからだ。」
国王が立ち上がる。キャサリーラが何かを言いたそうだけど、説得できる言葉が見つからないんだろう。止めようとした手を差し出したまま、国王が部屋を出ていくのを見送るしかなかった。
「やむを得ません。朝まで待ちましょう。いろいろありすぎて疲れました。体と頭を休ませないと。部屋を用意します。あなた方も休んでください。」
いや、帰りたいんだけど……
「呼び出しがいつになるかわかりません。申し訳ないけどお願い。」
「わたしたちがいて、状況がよくなるとは思えないんですけど。」
ファリナの言う通り、平民であるわたしたちの意見など、国王は聞く耳持たないだろうし、逆に怒らせてしまうだけのような気がする。
「リリーサは、お父様と、国王陛下と知り合いなのですか?」
キャサリーラが、先ほどのやり取りを思い出したんだろう。
「患者とその家族に関しては、守秘義務がありますので。」
「つまり、昔、お父様がケガか何かでお世話になったという事ですか。」
「内緒です。」
ハァとため息をつき、天井を見上げる。
「まぁいいでしょう。とにかく今夜は泊まっていってください。ミーキャンに案内させます。ここでしばらく待っていてください。」
そう言って、ジー君と2人部屋を去る。
「いい加減ゴルザって名前くらいおぼえてあげたら?」
「何か言いやすいんだよ。」
「2文字ですもんね。3文字より1文字少ないですし。」
シメるよ、リルフィーナ。1文字くらいで……いや、そうかもしれない。
「そのくせ女の子の名前だけはちゃんとおぼえるのよね。キャサリーラなんて6文字よ、6文字。」
ファリナからの視線が突き刺さって痛い。なぜだろう、人の名前をおぼえても、おぼえなくても文句言われるのは……
その後、やってきたミーキャンさんに王宮内の客間に案内される。なるべくみんな一緒がいいだろうと大きな部屋を用意してくれたようだ。
「とりあえず早く寝ましょう。明日、何時に起こされるのかわからないわよ。」
いや、ファリナ、もう真夜中だよ。これから寝て、そんな早い時間になんて起きれないよ。
「じゃ、朝まで起きてる?」
それは死ねといわれてるようなものだしなぁ。
「最悪の場合、ヒメさんお願いしますね。わたしがいなくても大丈夫。心置きなく燃やしてください。」
リリーサはすでに起きる気はないようだ。絶対起こしてやるからね。
「その前に自分が起きないと。」
うぅ、ファリナ、言わないで……とにかく眠ろう。
翌朝、ミーキャンさんが部屋にやって来たのは、常識的な時間だった。なので、何とかみんな起きている。いや、立ちながらうつらうつらしてるのも約1名いるけど。
「女王陛下が朝食をご一緒にとのことです。ご案内いたしますので、お支度を。」
こんなでも、一応支度は終わってるよ。いや、リリーサの目を覚まさないといけないのか……
「ファリナさんの剣、ヒメさんの収納にしまっておいてください。多分、武器の持ち込みは禁止されます。」
支度と言われ、リリーサを起こす。そのリリーサがわたしに告げる。あんた、起き抜けでよく頭が働くね。
「普段ならともかく、騒ぎになるかもしれません。生き残るための努力を惜しむ事はしませんよ。」
ある意味、わたしたちみたいに相手は魔人族だったのと違い、世知辛い、人の中で生きてきたから、リリーサの方が世間の厳しさを知っているのかもしれない。お店もやってるし、いろいろあったのかもしれないなぁ。
「でも、武器を持っていたのは、もうばれてるのよね。控室に置き忘れた事にする?」
うーん、ファリナ、どうしよう。万が一にも探しに来る可能性もあるし……
「そうだ!かなり前に買った鋼の剣を持っていて。」
収納から鋼の剣を出す。
「これって、ちゃんと研いでないから斬れないんじゃなかったっけ。」
「最悪騒ぎになっても、ここに置いていけるから余計な心配いらないじゃん。」
「それもそうね。」
「ミヤの短剣はしまっておいて。そこまでは気がついてないと思うんだ。わたしも予備の鋼の剣持つから。リルフィーナは……」
「わたしの予備の剣を持たせます。わたしの短剣とリルフィーナの剣は<なんでもボックス>に入れておきます。」
予備の剣なんて持ってたんだ。
「ハンターの登録をした時に剣を持とうと思って買ったのですが、重くて振れないので<ボックス>送りです。不良在庫です。」
あぁ、そりゃ大変だ。
ファリナの剣を預かり、<ポケット>にしまう。
部屋を出ると、ミーキャンさんが待っていてくれる。その後ろに付き従い近くの部屋へ。あまり大きくない部屋の中央にテーブルがあり、キャサリーラが座って待っている。ジー君は……いないな。
「お待たせしました。ジー君は?」
「ゴルザは、さすがに王宮内で、わたしとの食事は……」
あ、身分違いでできないのか。悲しそうにうつむく。
「まもなく、バリギャルドがやってきます。意見を求めるかもしれません。そばは無理でもわたしの後ろの方にゴルザとともに控えていてください。」
ご飯を食べながら、今後の成り行きを一応頭の中でシミュレーション。口には出さないけど、わたしの頭の中ではどうやっても最後は、その商人と国王が燃えて終わるのはなんでだろう……
食後のお茶を飲んでいたら、扉がノック。
「殿下、やつが来ました。」
ジー君が呼びに来る。さて、いよいよか……
廊下を延々と歩く。王族の居所にいたため、執務をする部屋に行くには1度1階まで降りて隣の棟に移らなければならない。
「わたしはもうダメです……わたしを置いて先に行ってください……」
リリーサが息も絶え絶えだ。歩くだけならともかく、階段の上り下りがかなりこたえているようだ。が、かまうと調子に乗るので、みんな無視。
「何とか言ったらどうですか!?」
置いていこうと思ったら、一気に階段を駆け上ってきてわたしの肩を掴んでゆする。元気じゃん。
「この階です。さぁ、行きますよ。」
キャサリーラが力強くこぶしを握る。ようやくか。で、誰を燃やせば話が早いのかな。
入口に立っていた騎士に武器を預け、扉の前に立つ。昨夜は帯刀したまま国王の前に出るという、ある種無謀な事をしたわけだけど、誰も咎めなかったのは、みんな半分寝てたんだろうなぁ。
「キャサリーラ王女殿下および、お付きの皆さんが入ります。」
入り口の騎士が、話し合いに使う部屋の扉を開け、宣言する。
中に入ると、あまり大きくない部屋。昨夜より小さいんだけど。
さっきジー君から、形としては非公式なものになるので、謁見の間や大会議室は使えないと聞いていたけど、この広さじゃ<豪炎>は無理だな。隣の部屋まで燃やしちゃいそう。
わたしたちが入ってくるのを苦々しげな顔で見つめる、顔を初めて見る男たちが何人か。こっちにいる、見るからにあくどそうなやつが悪徳商人で、その後ろに立っている2人が部下ってことか。それに、国王の後ろにも知らない男が1人。この人は、国王のそばにいるのだから、国の偉いさんなんだろう。
「キャサリーラ、昨夜は聞きそびれたが、そちらの者たちは何者だ?」
「わたしの調査を手伝ってくれた者たちにございます。」
うーんと唸って、こちらを見る国王。
「見たところ、格好から察するにハンターでございましょう。金でやとわれた者たち。話すことにどれだけ信憑性があるものやら。」
太って、鼻の下に髭を生やした、いかにも悪人面の男が含み笑いでわたしたちをそう評する。さすが悪徳商人、見た目だけでわかっちゃうよ。
「とはいえ、白聖女様のご一行。無下にはできん。」
「白聖女?」
「あぁ、お前は最近この国に来たから知らないのかもしれないが、異教徒ではあるが、いかなるケガをも治すと、国民から信頼を受けている者だ。」
「昔の話です。国王陛下。」
リリーサが頭を下げる。
「お互い、過去の事は忘れましょう。」
「そ、そうだな。」
リリーサにそう言われ、ちょっと慌てる国王。やっぱり、昔リリーサの世話になってるみたいだね。
「話を始めよう。バリギャルド、お前の販売方法に問題があると、とある方面から苦情が出ている。それに関して、お前の話を聞きたい。」
「はて、苦情を言われるような商売をした覚えはございません。一体何が問題なのでしょう?」
猿芝居が始まった。どうしよう、どの時点でこいつらを燃やしたらいいんだろう。
(待ちなさい。ステイ、ステイよ。)
その止め方ってどうなのよ。
「あなたは……」
キャサリーラが、商人を睨んで話し始める。
部屋の半分以上を占めるテーブルの、上座に国王と大臣か何かだと思われるオジサン。国王から向かって右側に商人たち3人、左側にキャサリーラとジー君。その後ろの壁際にわたしたち5人が並んでいる。
「……というやり方で、領地から買った値段より高く買ったと国に報告して、その差額をごまかしてますね。」
「勘違いではありませんか、王女殿下。私どもはそのような事実はございませんが。それとも、どこかの領主様がそう申し立てたのですか?」
「領主たちからは、特には……だが、現実に市中の物価が、以前より2から3倍になっている。これでは国民はやっていけないでしょう。」
「確かに、私どもが領地の問屋に売る際はいくらか値段を上乗せしています。しかし、それは、こちらも商売です。当たり前でしょう。儲けといっても手数料を引いたら、さほど私どもには残りません。当然です。国のためにやっていますから。値段をあげているのは、私どもが卸した問屋か売っている商店が、これ幸いと高値で売っているのではないですか?」
お店のせいにしてきたね。
(なるほど、うまい方法を考えましたね。)
え?リリーサ、どういうこと?
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




