245.再度 お休みの日
3人でゆっくり眠った翌日。わたしを起こしに来たのはファリナだった。
「珍しいね。」
「ミヤが昨日買った釜を試してみたいんだって。」
てことは、朝はおにぎりか。
キッチンに行くと、テーブルにはすでにいくつかのおにぎりが並んでいた。
「ヒメ様おはよ。先に食べてていいぞ。」
「いいよ、待ってる。一緒に食べよう。何か手伝う?」
「もう終わる。」
「じゃ、わたしはスープをカップに盛っちゃうね。ヒメは果樹水を冷蔵庫から出して。」
「わかった。」
3人分のコップをテーブルに並べ、冷蔵庫へ。
あぁ、久々にゆったりした朝だなぁ……誰か来る予定もないから、時間を気にしなくていいし、のんびり朝ご飯。
「なんか幸せ……」
「バカね。」
ファリナに笑われた。
「どうしよう。さっき見たら冷蔵庫の中もだいぶ食材が無くなってるし、買い物行く?」
「うーん、どうしようかな。この前ギャラルーナ帝国に行って、女帝様としばらく旅したりしたから、帰って来てみたらダメになってた食材もけっこうあってね。もったいないけど処分したからなのよ。冷蔵庫が空に近いの。」
あぁ、そうか。毎日帰ってくるなら買い置きできるけど、この前みたいに急に何日も家を空けると、そういうことになるのか……
「<ポケット>に食材は入れておこうか。」
時間経過のない<ポケット>に入れておけば、ずっと鮮度を保てる。
「そうすると、朝ご飯を作る時に、ヒメに起きてもらわないといけないけど。」
ごめん、無理です……
「この頃は外食が多かったからなんとかごまかしてきたけど、それでも今日の晩ご飯の買い物は行かなきゃいけないわね。」
冷蔵庫の中空っぽだもんね。
「生野菜ないからサラダも作れなかったし。」
「ラッキー。」
うぅ、ジットリとファリナに睨まれた……
「このままじゃまた寝ちゃって、リリーサの事、言えなくなっちゃうな。どうしよう。」
「散歩にでも行ってみる?隣町まで。」
隣ってロクローサ?パーソンズの誰か出会いそうで嫌だなぁ。
「反対側よ。サルテットの町。」
反対側か。そういえば、マイムとロクローサ以外のパーソンズ領の町って行ったことないよね。
「行ったことないから目新しいお店があるかもしれないわ。お茶屋さんとか。」
呆れた顔のミヤ……に対しファリナが逆襲。
「……本屋さんとか。」
「行くべき!人間些細な事でも探求の心を忘れてはいけない!行ったことのない町がミヤを呼ぶ!」
町じゃなくて本屋さんでしょ。まぁいいか。お昼ご飯はそこで食べましょう。新しい何かに出会えるかも。問題は……
「どのくらい歩くの?行ったことないから<ゲート>使えないよ。」
「ロクローサの町よりちょっと歩くかな。」
まぁ運動には丁度いいか。
天気がいいけど寒い。いよいよ12の月。今年も最後だなぁ。
午前もそれなりに遅いこの時間だと、道を行くのは商人か乗り合いの馬車くらい。歩いてる人はいないわけではないけど、目に見える範囲では数人くらい。
「この辺は雪が積もることはないけど、降ったら狩りもできなくなるわね。」
彼方にそびえる山に視線を走らせながら、ファリナが呟く。
獣の多くは冬眠に入る。魔獣もオークやオーガでさえ、あまり見かけなくなる。冬の間はハンターにとっての獲物が極端に少なくなる。
冬のハンターは2種類。
1種はわずかでも獲物を求めて狩りに出る者。もう1種は、本格的な冬の前にできるだけ狩りをして、寒い間は休む者。
わたしたちは、どちらにするか決めてない。予定では、家にこもるとお腹の辺りが大変な事になるので、天気を見ながら適度に狩りに出るつもり。
なにせ、本格的に、冬にハンターをやるのは初めてなんだ。
去年までは、勇者として勇者の村にいて、さすがの魔人族も寒いのは苦手なのか、冬の間に2,3回出かけたかな、というくらいしか仕事がなくて、もっぱら冬は訓練の日々だった。
「今年は食っちゃ寝になりそうだね。」
「狩りに行くわよ。獲物なんてどうでもいいの。お日様の下を歩くのが大事なの。」
正直にお腹廻りが気になるって言いなさいよ、グェ!道の真ん中で首絞めるのやめて!
目的の町に到着。
「サルテットの町ね。」
また来るかどうかわからない町の名前なんてどうでもいいよ、ファリナ。
大きさはロクローサの町よりちょっと小さそう。ま、あっちは仮にも領都だからな。
初めての町なので、勝手がわからないから、散歩だと思って大通りを歩く。
大きめの食料品店、食堂が並ぶ。枝道には、小さな専門店などが並び、雰囲気的にはロクローサと大した違いはない。
「見つけた!」
珍しくミヤが声を張り上げる。本屋さんがあったようだ。
「ガルムザフトでも結構買ってたけど、読み終わったの?」
「後に回す。国が違うと作家のせいか、国土のせいか、いろいろな違いが著しい。ガルムザフトの冒険小説は恋愛分が多すぎて、ワクワクよりドキドキがメインだ。ミヤにはエルリオーラ王国の小説の方があっている。」
お国柄って出るものなのかな。
冒険小説のコーナーに向かうミヤをお店の前で見送り、わたしは、そこから見える範囲の食堂を探す。
ファリナも料理のレシピ本でも見に行くかと思っていたけど、この場に残る。
「平和よね。国2つ向こうじゃ戦争してるなんて信じられない。」
平和だよね。目の前のお店の前では、おばさん連中が集まって、ワイワイ笑いながら談笑中。向こうじゃ女の子2人、が何やら言い争って……争って……あ、1人がこっち見た。
「ファリナお姉様ー!」
走ってきた。そしてジャンプ一閃、ファリナに飛びつき……かわされたけど、どうにか転ぶのだけは回避する。
空の両手を呆然と見つめる少女、フレイラ。
「いや、さすがに怪我するから抱きとめてあげなさいよ。」
「つい……」
「こんなところで何をしているのですか?」
めげないな……
「人と話している最中にどこに行きますか?フレイラさん!?」
もう1人の女の子がノシノシと擬音がつきそうな勢いで迫ってくる。
「あぁ、ごめんなさい。お話はもう終わったと思ったもので、リョーラさん。」
「終わってなど……どなたでしょう?こちらの方々は?」
2人が話していると油断した隙に、ファリナの腰に抱きつくフレイラ。そして、それを見て、負けじとわたしの腰に抱きつく、本屋さんから出てきたばかりのミヤ。
「状況がカオスなのだが。」
うん、あんたのおかげでさらにね。
「だが、ミヤは負けるわけにはいかない。」
こっちもわけがわからんな。
「で、こっちの小娘はなんだ?」
ミヤが見た事ない女の子をじっと見る。
お互いがお前は誰だと言ってしまったら話が進まないじゃないの。
「フレイラ、紹介してくれるかな?」
両方を知ってるフレイラに話を振る。正直、このまま去ってくれるなら紹介はいらないんだけど。
「知らない人です。」
「ちょっと!!」
もう1人の幼女が地団駄を踏む。
「幼女ではありません!」
ジロリと値踏みするように、わたしたちを見る幼女。
「幼女ではないと何度言えばわかりますか!?この、平民の分際で……」
「あぁ、リョーラさん。ちょっとこっちへ。」
フレイラが幼女を……リョーラっていうのか……連れてわたしたちから少し離れる。
「何ですか!?今、あの平民をこらしめてやるところですのに!」
フレイラは両手を組み、目を閉じながら、ウーンと唸った後……
「あの方に常識は通用しません。下手にケンカを売るとあの世を見ることになります。」
「な、な、な、何言ってますか?貴族を手にかけるなど一族郎党死罪ですよ。」
「それは、あなたが生き延びられれば、いえ、あなた方一家が生き延びられればのお話ですよね。」
「は?」
「とても言いづらいのですが……あの方たちは、ハンターとしては大変優秀です。一部、人間としては最低な方もいますけど。最近もあの3人だけで魔獣のベアを倒したとお父様から聞きました。何で毛皮を残さないのかとちょっとだけ怒ってましたけど。」
「冗談でしょ!」
「どうとられるかはあなたの自由です。が、その気になれば、あなたの一家がこの世から消え去るかもしれません。ちなみに、その腕前で王族からも信頼を得ています。何かあった場合、不利になるのはこちらの可能性が高いです。」
幼女、リョーラが疑いの目でこちらを見る。ちなみに、全部聞こえてたからね。聞かれたくないならもっと離れなさい。ついでに言えば、そのままどこかへ行ってしまえばなお良し。とはいえ、言いたい放題だな、フレイラ。誰が最低の人間なのかな?
しばらく考え込んでいた幼女が笑顔でこちらに来る。
「初めまして。わたし、この周りの町の、町領主をやっておりますハミング家の娘、リョーラと申します。お見知りおきを。」
スカートを軽く持ち上げ挨拶する。日和ったな、こいつ……
「パーソンズ領って町領主おくほど大きいの?」
今さらながらにビックリ。
町領主とはこの国の制度で、領地が広いとか町が多いなど、領主1人では領地すべての管理が難しい理由がある時に、その領主の下に、いくつかの町を管理するために置かれる補佐の領主の事だ。無論、領主の部下扱いである。
「町は4つしかないんですが、土地だけは広いんです……無駄に……」
フレイラが恥ずかしそうに答える。
「というか、ヒメさんたちはいつからこの領地に住んでいるのですか?そんな事も知らないなんて。」
「い、いや、ここに住み始めたのは、つい最近だから……」
「いつからですか?」
「じ、10ヶ月くらいになるかな……」
「2ヶ月も住んでいれば、子どもだって理解しますけどね。」
クッ!だって、夏の終わりにフレイラと出会うまで、マイムの町から出た事なかったんだよ。
「まぁ、自分が住んでいる領地の名前すら知らなかったんですものね。」
「そんな物知らなくても、生きていけるんだよ、ファリナ。人はご飯さえあれば生きていけるんだ!」
「あの、フレイラさん……言っていいのかどうか迷いましたけど、どうしても聞かなきゃいけないと思いました……大丈夫なんですか?これ?」
「リョーラさん、慣れです。人は慣れるものなのです。」
「わたし、自信が……このままでは、たとえ王家のひんしゅくを買っても、この方たちをおバカ呼ばわりしてしまいそうです。」
「あからさまな虚言でない限りは構いませんよ。事実は事実なのですから。ケンカを売らない限りは気を使う必要はありません。事実は事実なのですから。」
あんたたち、せめて離れて小声でやりなさい。っていうか、それってケンカ売ってるよね。
「こんなところにいたのか、フレイラ。」
聞いたような男の声。ロイドさんだった。
「で、お前たちは何をしているんだ?」
「晩ご飯の買い出しとお昼ご飯を食べに。あと、本屋さんを見に。」
「こんなところまでか?」
「わたしたち、ハンターの仕事が忙しくて、マイムとロクローサ以外の町に行ったことがなかったので、休みの今日行ってみようかと思ったんですけど。」
無視していいよ、ファリナ。
「お前たち、行動範囲は広いわりに、生活範囲は異常に狭いんだな。」
最近はガルムザフト王国とかにも、ご飯食べに行ってるよ、とは言えない。行動範囲が広いのは、空間移動魔法を使えるリリーサのせいって事になってるから。
「リョーラ、こんなところにいたのか。」
また新たなる男がやってくる。こいつは知らないぞ。
「父です。」
リョーラが紹介してくれる。
「こちらは?」
「マイムの町のハンターだ。いろいろ世話になっている。」
「ロイドがそういうという事は、件のお嬢様方かい。灰色狼を持っていたとかいう。初めまして。私はこの辺りの町領主をやっている、グルドフ・ハミングです。お見知りおきを。」
「マイムの町所属、ハンターチーム『三重奏の乙女』のヒメです。」
「同じくファリナです。」
「ミヤ。ミヤはミヤであり、それ以外の何者でもない。」
名のられた以上、無視はできない。こちらからも名のるけど、はっきり言って帰りたい。




