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244.魔剣 3


 「前に見た時はそれほど気にならなかったんだが、言われてみたらなるほどと思えることがある。」

 ズールスさんが剣を縦にしたり、横にしたりしながら、じっくりと見分する。

 「なるほど?」

 「まず、重さが前に持っていた盗まれた剣と大して変わらない。お前の親父のだと言っていたから、男性向けにしては軽いなと思っていたが、まぁ、そういうものなんだろうと思っていた。盗まれた剣もそうだったしな。」

 確かに、何度も使ったことないけど、問題なく扱えたな、この剣。

 「魔神族の武家の家は、魔神でも人魔でも、子どもが生まれたらその子専用の剣を打つ。普通は鋼なんだが、地位が高くなると魔人族のピューリー鉱を混ぜ込めるから黒い剣になる。黒ければ黒い程親は偉いやつだということだ。」

 そういえば、ユイの剣は、これよりちょっと白っぽいな。

 「この剣くらい黒い剣なら、親は魔神なのかもしれないが、最近は人魔でも能力のあるやつは重用されて、高い地位も与えられることもあるそうだから、お前の親父が魔神なのか人魔なのかまではわからない。」

 ズールスさんが、視線をわずかに逸らしながらそう言ってるところを見るとウソだね。

 そもそも、最初にこの剣を見た時の様子から、多分ズールスさんはこの剣について何か知ってるはずだ。

 昔は天人族のメラク会議にいた事があると言っていたから、魔人族と顔を合わせたこともあるはず。その時に、この剣の何かを知ったのかもしれない。

 父さんは、混血の子の父になったから追放されたと言われた。言えない理由はその辺にあるのかもしれないから、迂闊に聞くわけにもいかない。

 「で、親父のだというには新しいんだよ、この剣。子どもを持ったという事は50歳は過ぎてるはずだよな、お前の親父。」

 「待って!50って何?おじさんどころかお爺さんじゃない。」

 「寿命が長い天人族や魔人族は、50歳を過ぎないと男も女も子ども扱いだぞ。まぁ、稀に例外はいて、2,30代で結婚するやつもいるが。」

 あぁ、これだから無駄に長寿の種族はめんどくさい……

 「で、生まれた子どもが男なら普通の剣、女ならショートソードを守り刀として送ることになって……いたんだが、いまはどうなのかな?ここ10年以上、魔人族と話したことないからなぁ。」

 10年以上、か。多分、リリーサが生まれて、仲間から何か言われて、何とか会議を辞めたんだろうな、ズールスさん。多分だけど。

 「子どもの成長に合わせて、剣を打ちなおすこともあるが、普通はそうなんだ。俺の知る限りだから、状況が変わっていたら的外れな話になるんだがな。」

 「どの道、他の魔人族や天人族に剣を見せるわけにはいかないからね。ズールスさんの知ってる範囲でいいよ。」

 「で、今の流行は変わっていて、ヒメさんが笑いものになるんですね。」

 いや、リリーサ、流行ってあるのかな?それ以前に他人には見せられないし、教えられないから、笑いものになる以前なんだよね。

 「何だ、面白くない。」

 こいつは……

 「で、これは新しいうえにショートソードだろ。ヒメの親父の剣と、形と銘が同じ別の剣か、もしくは親父の剣を溶かして新しく打ちなおしたか。」

 え?何、それ?

 「俺は後者だと思っている。自分が守ってやれない代わりに、自分の剣を打ち直して娘の守り刀として残したんじゃないかとな。」

 いや、いきなりそんな事言われても……頭がついていかないよ……

 「武家の魔人族にとって、自分の持つ剣は、命の次に大事なものだ。だから、さっき話に出てきた魔人族の女も、剣を持ち主に還してやってほしいと言ってきたんだろう。」

 「待って……剣の見てくれを変えてってお願いに来たのに、なんか話が重くて精神的に限界なんだけど……」

 頭から火が出そう……






 「でもそうすると、ヒメさんのお父さんは、その後剣なしでどうしたんでしょう?」

 リリーサが頭の上にクエスチョンマークを浮かべているのを、ちょっと忌々しく、だがさすが俺の娘、よく気がついたなと褒めたい気分のズールス。

 「打ち直したんじゃないのか?別に人生に1本しかダメという事はなかったはずだし。」

 「そうなんだ。」

 ヒメも納得したようだ。

 ようやく笑顔になって話す娘たちを見ながら、ズールスは別の可能性を考えていた。話すことのできない可能性を……


 (あの男が、ヒメを人族に預けなきゃならない状況……しかも、自分の剣を打ち直してまで持たせて……となれば、ヒメをそれ以上自分の手で育てていけない……そばにいたくてもいられなくなる状況になった……いつからだったろう。追放され実家に隠遁した後も、しばらくの間は世間に流れていた噂すら聞かなくなったのは……あの男が追放された後も、表舞台に出ていたあの一族が、ある時期から急に公式の場から離れていたのは……喪に服していたという事だったのだろうか……)

 (あの一族には、あの男の下に、もう2人か3人子どもがいたはずだ。秘密主義の一族だったから、正確な人数も、性別もわからないんだが。すぐ下の子どもがあの男の跡を継いで家長になって……そして……)

 視線がヒメに向かう。

 「何、いやらしい目で見てますか?」

 リリーサに怒られ、現実に戻ってくるズールス。

 (いかん、いかん。想像の域を出ない話だ。よけいな事は言わない方がいいだろう。)

 「何、黙ってますか!?マジだったんですか?」

 「いや、そうじゃない!」

 「ヒメさんはお父様から剣をいただいているというのに……」

 「お前には短剣をやっただろう。」

 「つい最近じゃないですか!?子どもの時にはないんですか?」

 「天人族にはそんな習慣はない!」

 「負けずにやろうという気概はないんですか?」

 「昔からないし、お前が生まれた頃は人族の土地で暮らしてたんだ。魔人族の風習なんか忘れていた。」

 「あいかわらず騒がしいな。昔の人曰く、ケンカするほど仲悪い、ってほんとだね。」

 ヒメが何やら言出すのを苦々しく聞くズールス。

 「違うからね!」

 ファリナが混ざってさらに騒がしい。



 そして、騒がしい面々をいつもと変わらない面持ちで眺めているミヤ。

 だが、その心中は穏やかではなかった。

 (女に贈るのがショートソード?では、あの魔神が持っていた、あの剣は……)

 (非力な男かも。)

 (だが、力を何より重視する魔人族が、非力な男を一軍の指令と認めるだろうか?)

 (そもそも、エアがヒメ様を守る理由は何だ?)

 神の身であっても、人の心の中は知ることはできない。

 (まぁいい。何が起ころうと、ヒメ様とファリナを守れれば、後はどうなろうと知らない。)

 ミヤの興味はすでに、ズールスの店の棚に並べてある鍋に移っていた。






 「で、この剣を前の剣みたいにピューリー鉱でデコレートしてほしいんだけど。」

 「でこ……何?」

 「デコレート。飾りつけ。」

 「いや、あれは飾りじゃないぞ。」

 まぁ、なんにせよ、前の剣みたく、見ただけじゃ魔人族の剣ってわからなくしてほしいわけ。

 「剣がないと困るだろうから急ぐが、それでも2日くらいはかかるぞ。」

 「なるべく急いで。剣がないと……」

 ……ないと、あれ?剣がないと何が困るんだろう?

 「お前らハンターなんだから、獣や魔獣と戦うだろう。」

 「燃やしていい時は燃やすし、ダメな時は、氷の槍かなんかでやっつけるし……」

 「そもそもヒメって魔術師だもんね。」

 いや、待って。剣だって使ってるよ……そう……

 「相手が人間で、殺しちゃまずい時とかに剣の腹で相手を殴って意識を狩るのに使ってるよ。」

 「棒でいいんじゃないのか?」

 ズールスさん、失礼だな。棍棒を武器にしたハンターなんて聞いた事ないよ。

 「殴りやすくした方がいいのか?」

 「さすがに斬れなきゃ困るから!接近戦になって氷魔法使う余裕がない時は斬ってるから!」

 ちゃんと使ってるよ。年に何回かだけど。それ以外は、ほとんど殴ってるけど。

 「急ぐ必要ないな。今年中には何とかしておこう。」

 あと1ヶ月あるじゃん、今年いっぱいって。


 あと数日したら、ギャラルーナ帝国の様子を1回見に行く予定なんだから、何があるかわからないから剣はいるよね、とは言えないな、ズールスさんには。一応行かないと約束してるからね。守る気無いけど。

 「急ぎなさい。剣がないから狩りに行かないとか言い出されたら、責任をもって貰いますからね。」

 リリーサがザンっとズールスさんを指さす。

 「具体的には、ブラウンマッドベアの毛皮を金貨100枚で売りつけます。」

 「そんな金あるか!しかもいらんわ!熊の毛皮なんか!」

 「今ならこの国じゃ、唯一、国王様がブラッドメタルベアの毛皮を持っているだけという逸品ですよ!」

 「持ってたら国王様に睨まれる不良品じゃないか!」

 「買いたくなければ、剣の方を急ぎなさい。」

 「買っても買わなくても、何にもいい事ない商品を売りつけようとするんじゃない!この悪徳商人が!」

 何だろう、こちらサイドが悪人っぽいような気が……

 「ポイじゃなくって、もろ悪人ですけどね。」

 いや、リルフィーナ、関係ないような顔しないでよ。あんたのお姉様案件なんだからね。

 「2日くらい待て。あまり急ぐとピューリー鉱がうまくなじまなくて、つばぜり合いとかで剥がれてしまう危険がある。剣の腹で殴るとなるとなおさらだ。斬る以上の衝撃がかかってしまう。やはり棒の方がいいんじゃないか?」

 いいから、剣でお願い!

 「丁度、大量注文が入っていたスプーンが打ち終わったところだ。すぐに作業にはいれる。」

 あぁ、昨日スプーンが打ちたてだとか言ってたね、そういえば。

 「じゃ、悪いけどお願い。あ、いくらくらいかかりそう?」

 「あー……」

 視線はリリーサへ……

 「ただでいい……と言ってやりたいが、この剣、表面に塗るためのピューリー鉱を結構使うんだよ。ピューリー鉱の分だけでもいいから払ってくれないか?」

 「ちゃんと払うよ。今回は、こっちの都合なんだから、リリーサに面倒かけたくない。」

 「俺を労われよ。働くのはリリーサじゃなくて俺だぞ。」

 ズールスさんは役に立たないからダメです。いい情報を入手したら褒めてあげます。

 「さびれた武器屋の親父に入ってくる情報なんてない。」

 「武器屋が鍋とかスプーンを作っていてどうするんですか。」

 「同じ金物だ。町の人が喜ぶならいいだろう。」

 いじけるズールスさん。

 「うむ、これはいいものだ。」

 ミヤが、釜を手に右から左から眺めている。

 「米がおいしく炊けそうだ。おにぎりが捗る。」

 うん、いいよ。買いなさい。ファリナ、お金出してくれるかな。

 「そういえば、昨日、お前たちと知り合いのアリアンヌとユイが、雇われている領主様のお嬢様と来ていたが……」

 ズールスさんが眉をひそめる。

 「……いきなり、万が一の場合に旦那様を間違いなくやれる包丁が欲しいとか言われたんだが、冗談だよな?」

 あぁ、わざわざこの領地まで買いに来たって言ってたもんね。

 「鍋やら食器やらを買いそろえていたが……包丁を見る時の目がマジでちょっと怖かったぞ。」

 あのお嬢さんもどこまで本気なんだかわからないんだよね。短剣でも売ってやればよかったのに。

 「じゃ、明後日来るから剣の方お願いするね。」

 リリーサがいたからか、ズールスさんの態度もまぁまぁ普通だったし、剣の方もめどがついた。帰って休もうか。


 「ヒメさんの剣がないのでは、狩りは危険ですので明日は休みましょう。というか、草が結構な量、手に入ったので仕分けなければなりません。明日は大忙しです。明後日の朝、伺いますので、明日はゆっくり休んでください。」

 そう言うと、リリーサたちは自分たちの家に帰って行った。


 「最近魔獣相手で、剣使ったことないけど、そう言うならそうするかな。」

 確かに腰に剣がないと不安なので、明日はゆっくりすることにする。

 「3日間働くという話はどこに行ったのかしら?」

 わたしのせいではないよ、ファリナ。文句があるなら、とりあえずエアに言って。







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