243.魔剣 2
ズールスさんのお店で話は続く……
「後、心配なのは、ギャラルーナ帝国の兵隊さんたちの被害だけど、こればっかりはどうしようもないもんね。」
主を倒すまでの1か月間、黙って見ててくれればいいけど、そういうわけにもいかないだろうし。
「わたしたちが、どちらかに力を貸すわけにもいかないですしね。」
そうなんだよね、リリーサ。今現在、どちらかが勝ってしまうのは問題になる可能性がある。
魔人族が勝てば、ギャラルーナの人的被害は甚大になるだろう。ギャラルーナが勝てば、人族が主を迎え撃たなきゃいけなくなる。ま、街が壊れるのを我慢すればスルーって手もあるんだろうけど……
うまいくらいにトントンにならないかな。
「なるわけがなかろう。戦うってことは、どちらにも死者は出る。傷つく者、泣く者が出ないわけないんだ。」
ズールスさんが、お祭り気分のわたしたちを一喝する。
わかってるよ。特にわたしたちは……
「変身魔法使える天人族の人が、神さまっぽい恰好でギャラルーナ帝国の兵隊たちの前にこう、空間移動の魔法で現れて、お告げでもしたらいいんじゃないかな?」
「いいね、ファリナ。『この地に危機が迫っている』とかなんとか言ってもらって、1ヶ月待つようお告げを授ければ……」
「あのな、帝都を占領しているのが魔人族って段階で誰が信じるんだ、そんな話。そもそも神様っぽい恰好ってどんなのだ?」
「夢がないな、ズールスさん。」
とはいえ、その通りなんだよね。
「で、そんな話をしに来たのか?先に言っておくがケーキはないぞ。」
場の空気が一変する。
リリーサが怪しく目を光らせてこちらを見る。
「ケーキって何ですか?ヒメさん?」
よけいな事を……後で燃やしてやるからね、ズールスさん!
「さ、さぁ、何だろうね。」
よけいな事を言ったのがわかったんだろう。ズールスさんもリリーサと目をあわせようとしない。
「わかりました。棚に飾ってある剣や包丁、お鍋、どれから消していきましょうか。」
「お前、それ、売り物……」
「売り物が何でしょうか?」
目が笑ってない笑顔が怖いよ。
「「「ハァ……」」」
わたし、ファリナ、ズールスさんがため息。そして、ミヤとリルフィーナが、守るようにお鍋を1つずつ抱えている。そのお鍋、そんなに気になるの?
女性陣5人で買い物に出る。
リリーサに行くよう頼んだらめんどくさがり、わたしたちが行くと言ったら、ズールスさんと残るのは嫌だとごね、ズールスさんが行くと言ったら、信用できないとごねる。どうしろと……
「この男に頼んだら、ケーキといってるのに、メロンパンくらい買ってくる可能性が大です。危険すぎます。」
そこまではおバカじゃないでしょ。
「メロンパンはケーキだろう。」
全員からの愕然とした視線に、ズールスさん意気消沈。結局、わたしたち5人で買い物に行くことになった。
「まさかケーキまで馳走になっていたなんて。ズルいです。卑怯です。一生忘れませんからね!」
「ケーキくらいでネチネチいうのやめてくれないかな。」
「くらい?」
「ご、ごめん……」
感情の読めない表情で覗きこんでくるリリーサが怖かった……
時は遡り、ゴボル、リーラーがヒメたちとズールスの家で話し合いをした後の事……
ギャラルーナ帝国の宮殿、東側にある一番大きな部屋は、今回の作戦の指令室となっていた。
窓から帝都の東側を一望でき、彼方には海も臨むことができる……海の主が上陸してくるであろう海が……
何人かの天人族や魔人族の男女が、目まぐるしく動き回る部屋の隅で、ゴボルが疲れたように椅子に座っていた。その隣にはリーラーが椅子に座り、2人の前に腕を組み渋い顔のロロックが立っていた。
「小娘の2人や3人と話をしただけで、何を疲れた顔をしているのですか?」
「なら、次はロロック君がやるっす。」
「む……」
言い返してやろうと思ったが、リーラーの目つきは、今まで見たことのない程険悪なもので、リーラーから鈍いと言われているロロックをして、余計なツッコミは避けた方がいいと感じるほどであった。
(何があったというのだ……)
「というか、お前、最後の方はあいつらの方についていたよな。」
「ゴボルさん、あっしも命は惜しいっす。緊急避難は権利として認めてほしいっす。」
「……わかった。認めよう……」
(おいおい、この2人は何と話をしてきたんだ?よもや、魔人族でさえめったに関わろうとしないという魔獣のドラゴンとでも話をしてきたとでもいうのか?)
「どの程度まで話をしてきたのですか?」
下手なツッコミは藪蛇と思ったロロックだが、一応、人族の少女たちに話した内容は確認しないわけにはいかない。場合によっては、人族側に情報が流れるかもしれない。どのくらい知られたのかによっては、今後の作戦行動に支障が出ないとも限らないのだ。
「天人族側の目的と魔人族が協力している理由、それに主についての簡単な説明くらいかな。」
「ほとんどじゃないですか……」
呆れたようにロロックがぼやく。
「あいつらが帰った後、ズールスに、魔法陣についてとその発動方法を教えてきた。まぁ、使用する魔法までは教えてないが。」
「そういえば、聞かれなかったっすね。」
「秘密と言ってあったから、あいつらなりに気を使ったのかもしれんが、どうせ、我慢できなくて聞きに来るだろう。ズールスを盾にする。」
「ゴボルさん非道っすね、でもナイスっす。ズールスさんご愁傷さまっす。」
「だから、ドラゴンとでも話してきたんですか?」
耐え切れず、つい突っこんでしまうロロック。
「ドラゴン?そんなかわいいものじゃないっす。あの娘らとドラゴン10匹のどちらかを説得して来いと言われたら、あっしはドラゴンを選ぶっす。」
「そんなにか!?あ、いや……」
思わず声を荒げた自分に驚く。おかしい。自分はどんな場面でも沈着冷静でいられるはずだ……ロロックは大きき深呼吸をする。
(小物っす。)
リーラーのつぶやきは耳に入ることなく、ロロックは我を取り戻した……と自分では思い、軽い笑みを浮かべる。その様子がリーラーにして、小物扱いされてしまう理由なのだが……
「問題は、あいつらが介入してくることはないだろうが……」
言いづらそうに視線をずらすゴボル。
「……見学に来るかもしれん……」
「は?」
「様子を見に来る可能性がある、と言っている!」
切れ気味に怒鳴られる。いや、怒鳴るのは私の方だろう、とロロックは思う。話をすれば関わらないというから、説明を許したのに……
「100年に1度あるかどうかという珍しい事件だ。隠れて見に来る可能性がある。」
「あー、ありそうっすね。」
「あのですね……」
心の中でロロックは、一生懸命“落ち着け”とつぶやく。
「それに、エルリオーラ王国を出る時に耳にした話だが、あいつら、エルリオーラの王女と関わりがあるかもしれん。」
「たかだかハンターが?」
「いや、言われれば、そうっすよね。なにせ、あの娘たちって“あれ”の可能性が高いんっすから、王族と知り合いでもおかしくないっす。」
「あれって……あぁ……」
何を言っていると思ったロロックだが、彼女らを説得に行くと言われた時の事を思い出す。
「『ばくえ……』」
「ストップっす!言うなっす!殺されるっす!」
リーラーからすごい勢いで怒られる。言い返すところのはずだったが、リーラーの勢いがすごすぎて言い返すのも忘れてしまう。
「何かあったんですか?」
リーラーに聞いても無駄そうなので、ゴボルに尋ねてみる。
「こいつ、あいつらに直接名前を出して聞きやがった。」
は?ずっと秘密にされてきた事実を直接聞く?バカなのですか?この女……ロロックがあきれ顔。
「殺されるかと思ったっす。怖かったっす。ゴボルさんがマジで怒ってる時より怖かったっす……」
どれだけだよ……青ざめて、ガタガタ震えるリーラーを感情のない目で見る。
バカかと思うと同時に、自分が行かなくてよかったという安堵感が心を占める。
「とにかく、そういうわけで王女から様子を見てこいくらいの命令を受けるかもしれない。」
素直に従うとは思えないけどな……とは思うゴボルだったが、可能性が小さくなるわけではない。
「で、どうしろと。もしも見つけたら始末させますか?あぁ、ズールスさんの娘さんもいるかもしれないんでしたね。殺さない程度に痛めつけて追い返すくらいにしておきますか?」
「バカっすか?」
リーラーのセリフが理解できなかった。まさか、面と向かって愚か者呼ばわりされるとは考えたこともなかったから。
「手出し無用だ。作戦活動に明確に介入するそぶりを見せない限りは手を出すな。どの道、人族とのもめ事は、できるだけ小さくが今回の作戦の指示の1つだ。人族の女には手を出すな。見つけた場合は、俺かリーラー、それにロロック、お前に知らせるよう現場の天人族、魔人族に伝えろ。これは絶対だ。」
「作戦現場をウロチョロされるのは困ります。排除はさせていただかないと。」
「前にも言ったっすよね。下手につついたら大変な事になるっすよ。」
「“あれ”だとしても、ここで作業しているのは万人単位の魔人族ですよ。天人族だってかなりの数がいます。何ができるというんですか?」
「ギャラルーナ帝国と戦ってる最中なのに、これ以上戦う相手を増やしてどうする。しかも、被害がでかくなりそうな相手と。」
「あ、いや、しかし……」
「見ない事にすれば何の問題もないっす。迂闊なことして、魔人族に大きな被害が出たら、作業に遅れが出るっす。それだけはまずいっす。」
ロロックとしては納得がいかなかった。当初から、あの女たちの行動を認めるような態度を取り続けるゴボルとリーラーに。だが、だからといってよけいな被害を出すことだけは避けなければならない。たとえ杞憂に終わるような事でも、万が一にも何かがあるのは、ロロックにしても不本意な事なのだ。
「触らぬ神に祟りなし、ですか。」
「そういう事っすね。ちょっと悔しい気もしますが、あっしらの仕事は聖地を守る事っす。そのためなら泥くらいいくらでもかぶるっす。」
リーラーの言うことが正しい。やるべき事の優先順位のためには、不本意でも納得しなくてはいけない事があるのだろう。
「そうでした。私たちの目的は、聖地の守護。それが最優先でした。」
(扱いやすいっす。)
自らに酔うように頷いているロロックは、リーラーがあざけた目で見ていることには気がついていなかった。
その間でゴボルが頭を抱えていた。
遠くギャラルーナ帝国では、邪魔者の上化け物扱いされている、その少女たちは、今はガルムザフト王国のケーキ店の前でケーキを選ぶのに大忙しであった……
「言っておくが、話せることはもうないぞ。」
お店に戻ると、ズールスさんがなぜか疲れ果てていた。謎だ。疲れてるなら少しでも休んだ方がいいよ。
「そう思うなら帰ってくれ。」
「用事があるからきました。正直、ギャラルーナ帝国の一件に関しては、もうどうでもよかったんですが。」
「俺の説明は無駄だったという事か?というか、用事があるなら最初からそう言え!」
ファリナの説明に怒り始めるズールスさん。勝手に語り始めたのズールスさんじゃん。
「わたしの剣を、ピューリー鉱でコーティングしてほしいんだよね。」
<ポケット>から剣を出す。
「それは人前に出すなと言っておいたろうが!」
怒鳴らないでよ。前の剣盗まれちゃったんだよ。
「盗まれた?なぜ?誰に?」
立て続けに聞かないでよ。
「エア。」
「誰だ?それは?」
説明できるほどの情報はないお姉さんなんだけどね。ほんと、誰なんだろ。
「……あるべき場所ね。」
「だから、もうじき1年になるから、死んだ魔神のお墓にでも添えるのかなと思ったら返せとも言いづらくて。」
「で、これはお前の剣なんだからこれを使え、と言われたと。」
父さんの剣をしげしげと見るズールスさん。
「なるほど。そういうことなのかもな。」
剣を見ながら納得したように頷く。何がそういう事なのよ……




