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242.魔剣


 「か、返してよ!」

 立ち上がって、エアを睨みつける。

 「お前のものではなかろう。」

 いや、まぁ、そう言われればそうなんだけど……

 エアが剣を鞘から3分の1くらい抜く。

 「酷い姿になってしまったな……」

 何だろう、悪いことしてしまった気がする。ズールスさんにピューリー鉱で覆ってもらったから元の剣の形はしていない。けど、ピューリー鉱を剥がせば、元通りなんだからそんなさも悪いことしたように言わなくても……

 「その剣をどうする気?」

 エアに話しかけながら魔法を撃つタイミングを探す。隙が無いんだよね、この女。

 「あるべき場所へ還す。」

 どこよ、それ?

 「それがないと困るんだけど。」

 その剣を奪われちゃうと、父さんが置いていった剣は使えないから、新しく剣を買わなきゃいけなくなるじゃない。

 「お前にはお前の剣があるだろう。」

 あれは、だって……父さんの剣で他の魔人族に見られるわけには……

 「天人族に頼んでこの剣のように形を変えてもらえ。」

 「その手があったか。」

 「ヒメ!」

 怒らないでよ、ファリナ。

 「その剣をヒメが持っていたことを知られるわけにはいかないの。返してもらえないかしら?」

 強気に言うけど、ファリナも攻撃のタイミングがつかめないよう。汗が滴り落ちる。

 そして、ミヤは……構えもせずに、わたしたちの会話を聞いていた。やる気見せなさいよ!

 「ヒメが持っていたことは誰にも言うつもりはない。ただ、あるべき場所に還してもらうだけだ。」

 「だから、どこよ?それ?」

 「言えないな。知る必要もない。いや、魔人族と関わって生きるつもりがないなら、知らん方がいい。」

 意味深な事言えば、事全てすむと思ったら大間違いだからね!

 「お前の剣は……お前の父が、お前に残したお前だけのものだ。使ってやれ。」

 「何言ってるの?あんた……父さんを知ってるの?」

 「それも知らん方がいい。あぁ、剣は貰っていくが、敵対するつもりはない。状況が面倒になってきたのでな。」

 こっちにすれば、あんたが面倒にしてるんだけど。


 「すまんな。」

 エアが空間移動の門に消えていくのを、わたしたちは動けないまま見送った……


 「……」

 ガックリとその場に座り込む。

 「ヒメ……」

 「あぁ、大丈夫、ファリナ。父さんの剣を持っていかれたわけじゃないからね。何もできなかったのが不甲斐ないだけ。」

 攻撃はしようと思えばできた。通用するかどうかは別として。

 ただ……そんなはずないんだけど、いつものエアと何も変わらないはずなのに……なんでだろう、剣を奪った時の顔が悲しそうに見えたから……動けなかった……

 「ミヤにしては珍しく動けなかったね。」

 話しかけるファリナを見ないで、ミヤが呟く。

 「あるべき場所があるのなら、戻すべきかと考えてしまった。ごめんなさい。」

 わたしに頭を下げる。

 「いや、そうだね……何となくで使ってきたけど、あれ、わたしの剣じゃないしね。あるべき場所か……あの魔神のお墓に添えるのかな……」

 燃やしてしまった魔神を思い出す。自分の剣が、他人に使われるのっていい気はしないよね。


 「それって泥棒ですよね。」

 洞窟に戻って、リリーサに話をしたら大騒ぎだった。

 「いや、だから、拾った剣で、元々わたしのじゃないんだよ。」

 拾った場所や理由は言えない。わたしたちが、元勇者だってばらさなきゃいけなくなるから。

 「じゃ、ヒメさんが泥棒ですね。」

 いや、その……それは……

 「それでどうするのですか?」

 急に話を変えないで。

 「ズールスさんに頼んで、もう1本の剣をこの前の剣みたいに、元の形がわからないようにしてもらおうと思う。」

 「まだあるんですか?」

 しまった。リリーサには言ってなかった。魔人族の剣が2本あったということを。

 「あるんだよ、これが……」

 「何本持ってるんですか?まだあるなら売りましょう!」

 とんでもない事を言いはじめた。

 「もうないよ。前のは拾ったものだったけど、今持ってるのは……父さんの形見の剣なんだ。だからしまっておいたんだけど……」

 「それは、ごめんなさいです。失礼な事言いました。」

 リリーサがシュンとなる。変な所でまじめだな。

 「その言い方は失礼です!わたしは常識ある大人です!」

 うん、そういう事にしておくよ。

 「消しますよ!」

 ごめん、ごめん。


 「では、陽の高いうちに戻りましょうか。」

 「え?日が暮れるまで狩りをするって言い出すかと思った。」

 むしろ泊まっていくと言い出さないか心配だったんだけど。

 「ヒメさんの剣の方が大事です。この間のように数日かかります。早めに手を打たないと。」

 何だろう、こう、親身になられると、その……

 「偽物?」

 「消しますよ!マジで!」

 本物だ。よかった。もう少しで燃やすところだったよ。


 「直接、ズールスのお店に乗り込みます。万が一店内にお客さんがいたら大騒ぎです。楽しみです。」

 いや、楽しくないって。いい加減、ズールスさんから嫌な顔されてるのに。町の近くに出ようよ。町中に直接は禁止じゃなかったの。

 「町中禁止はわたしの村だけです。そもそも、店中です。大丈夫です。」

 あんた、さっき常識のある大人がどうこう言ってなかったっけ?少しは見直したわたしがバカだった。


 丘の洞窟を崩す。

 前の洞窟と違い、土の魔石を使ってないから、放っておくといつ崩落するかわからない。ミヤの土魔法の壁があるから心配はないだろうけど、一応ミヤに尋ねたら、『大丈夫だろうが責任は持てない』とのこと。

 「よし、ミヤ、崩して。」

 忘れ物がないかを確認、焚き火の跡は土に埋まっちゃうんだからいいよね。

 「えい。」

 ズン!っと丘が穴を埋めるように崩れる。

 「丘がデコボコになっちゃったわね。」

 いいの、ファリナ。自然の大地なんてこのくらいの起伏は当たり前だって。

 賛同はなく、冷たい視線を背中に感じつつ、わたしは丘を後にする。

 「歩かないでここから行くです。」

 少しくらい歩こうよ、リリーサ。運動に来てるんだからさ。

 「それはヒメさんとファリナさんだけです。わたしたちは、体に悪い草を採取に来てるんです。」

 必要なのは、獣か魔獣じゃなかったのかい。

 ムッと来たので、わたしはリリーサへの視線を下げる。

 「フーン。」

 わたしの視線に気づき、慌ててお腹を手で隠すリリーサ。

 「す、少しくらいなら歩いてもいいです。」

 怒るに怒れない複雑な面持ちで、リリーサは歩き出した。


 「またお前らか。話すことはないぞ。しかもリリーサを連れてきやがって……」

 ズールスさんの家への門から出るなり、ズールスさんが渋い顔でこっちを睨んでる。

 「娘にも言えない様な秘密があるなんて、恥ずかしくないんでしょうか?」

 「待て!話を聞いたんだよな?なら、言えない事もあるとわかるだろう。」

 「わかりません。やはり、置き去りにする娘になんて、その程度の態度なんでしょうか。あぁ、悲しいです……」

 「違う!違うんだ!今回の件は、話を聞くまで俺も知らなかったんだ!ギャラルーナ帝国と戦争にはならないと知っていたなら、心配してヒメのところまで探しに行くはずないだろう!」

 「……うそですね。国境近くに行くなと何度も言われました。何らかのことが起こることは知っていたはずです。」

 「グッ!」

 言い淀むズールスさんに1歩近づくリリーサ。同時に1歩退くズールスさん。

 「……ギャラルーナ帝国に魔人族が攻めこむことは聞いていた。だが、場合によってはそのままギャラルーナとガルムザフトを戦争状態に持ち込む可能性もあると聞いていたんだ。そうすれば、ギャラルーナの兵隊たちは国境から帰ってくる余裕がなくなるだろう。わずかでも戦争になる可能性があるのなら、親として戦争に行かせたくないと思っただけだ。さすがに騎士やハンターがかなり集まっている国境まで行って探すというわけにはいかなかったが……」

 「割とえげつないですね。聖地がいくら大事か知りませんけど。」

 親だもの心配してたんだね、と思ったんだけど、リリーサの冷たい眼差しは、変わることなくズールスさんを見下している。

 「今の作戦を指揮しているやつが考えたそうだ。ロロックと言ったかな?さすがにゴボルさんがやめさせたらしい。」

 あぁ、それだもの、リーラーに嫌われるわけだ。天人族としては確実性が増すだろうけど、人としてはどうよ。


 「で、大規模な魔法って何をするの?」

 わたしも話に参加する。

 「詳しい魔法の種類はわからん。魔石は残さなきゃいけないから火炎系じゃないかと思うんだが……」

 火炎系で何とかなるの?主の魔法障壁を?なんか勝ち目出てきた。

 「え?火炎系で魔石って残るの?」

 そりゃファリナ、わたしは……残らないな。

 「お前の火魔法はどういうレベルなんだ?」

 ズールスさんが睨むけど、わたしだって燃やしたくて燃やしてるわけじゃないんだけど、魔石が手に入るなら欲しいよね。

 「<豪火>でさえ残ってるの見た事ないわよね。」

 あれ、なんでだろう?

 「ヒメ様の炎は、普通の火魔法とは違うのかもしれない。」

 ミヤが誰も見ることなく、そう呟く。

 「じゃ、主にも効くかな?」

 「さすがにどうかしら。」

 まぁ、そうだよね。しつこいようだけど、魔法障壁がなぁ……

 「そもそも火魔法かどうかは知らんぞ。そこまで詳しく聞いてない。ただ分解魔法はないだろうとは思う。魔石が残らないからな。それに、普通の魔術師じゃどうにもならんから今回、何十人だか何百人だかの魔術師を、天人族と魔人族から集めたらしい。新たな魔法があるのかもしれない。」

 「魔力を倍増するための魔法陣か。」

 100発撃ったって、そのうちの1発は1発にすぎない。威力が倍増していくわけじゃない。でも、100発分の魔力を1発に集約できるなら……

 「あぁ、ばれてるならいいか。主に対する魔法専用の魔法陣を地上に描くんだ。巨大な岩とピューリー鉱、それに魔人族の持つ特殊なピューリー鉱で、直径100メートルを越す魔法陣を描く。それだけの場所が必要だから、わざわざギャラルーナの帝都を占拠したんだ。」

 「やはり、そういうことなのか。」

 なんだろ、この騒ぎが始まってから、いつもはボーッとしてるミヤが、ずっとまじめな顔してるように見えるんだけど。

 「ヒメ様失敬。ミヤはボーッとした顔などしたことない。」

 怒りながら腰に抱きついてくる。はいはい、そうだね。

 「心がこもってない!」

 「ごめん、ごめん。」

 頭を撫でてやる。

 「むぅ。」

 ファリナがうらやましそうにこちらを見てるけど、人目が多すぎて、さすがにファリナの頭まで撫でてあげられる状況ではない。


 「言っておくが、これ以上俺から情報を聞き出すのは無理だぞ。なにせこれ以上は知らないからな。」

 「何を自慢げに語ってるんですか。情けない。」

 リリーサに責められて、ズールスさんが体を小さくする。

 困ったものだ……







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