241.狩りに行こう 3
翌日。
ミヤにほっぺたを引っ張られて起きる。まぁよくある朝の風景だ。
「嫌な風景ですね。」
そう言いながら、リルフィーナがリリーサのほっぺたを引っ張っていた。
ほらよくあるじゃん。
「太ったのではなく腫れたんだと思います。」
ほっぺたを撫でながらリリーサが何か言ってるようだけど、唐突なリリーサの意見は無視され、みんな朝ご飯を食べるのに夢中だ。
「こう毎日引っ張られては……」
「お昼はおにぎりにしようか。ご飯だけで。で、調味料を持っていって焚き火で炙って食べるの。」
「いいわね。」
「ミヤが握る。」
「聞いてますか!?」
「聞いてないよ。」
「ヒメさんが太って見える理由を説明しているのに……」
自分の顔を撫でながらとくとくと語っていたよね。
「早く食べないとおいていくよ。」
「これからお米を焚いておにぎりを作ると聞きました。時間はまだあります。」
ほっぺたを撫でながらパンに手を伸ばす。
「まぁ、目的がよくいる狼や角ウサギなら焦ることはないけどね。」
「とはいえ、ヒメさんがいます。間違いなく魔獣が出てくるでしょう。いっぱい狩れそうな予感がします。楽しみです。」
絶対魔獣が出そうな森の奥まで行かないからね。
ガルムザフト王国では、戦争が起きる起きないで、ハンターが狩りにしばらく出てなかったため、元の生活に戻ったハンターが森に繰り出して、森は大賑わいなんだそうだ。という事で、わたしたちは平和なエルリオーラ王国の森の目指すことにして、昨夜はリリーサたちもわたしたちの家に泊まっている。
「吹きっさらしにならない場所で、焚き火ができる場所を探さないとね。」
ファリナの言う通り、草原のど真ん中で焚き火をしても寒いだけで火の意味がない。
「山の麓まで行けば、穴を掘れる斜面くらいあるんじゃないですか?」
あのね、リルフィーナ、今回の目的は狼等の獣なの。黒の森の奥まで言ったら獣はあまりいないじゃない。
「魔獣はいます。魔獣でもいいですよ。」
話がコロコロ変わるな。獣の肉が欲しいって頼まれてたんじゃないの?
「高位の魔獣じゃなくてもいいんです。オークとかオーガの肉も足りないんですよ。」
「本当に戦争になっていたら、今頃ガルムザフト国民みんな飢え死にしてるんじゃないの?」
「嫌ですね、ファリナさん。在庫はまだありますし、戦争になったとしても1部のハンターは各領地に残してありますから、当面の分は大丈夫です。ただ、今回の教訓を生かして、少し多めに在庫を確保しておくべきじゃないかと、国王様と領主様たちの会議で決まったようなんですよ。」
「ま、冬になったらどのみち獣も少なくなるし、いいんじゃないの。」
うちの国はどうしてるんだろ。そう言えば、この領地で冬を迎えるのって初めてなんだな。後でギルドに顔出ししておかなくちゃ。
エルリオーラ王国パーソンズ領に面した白の森を、黒の森に向かう、というか、山に向かって歩く。
数匹の狼や角ウサギを狩りながら進むけど、寒いので暖をとれる拠点を作ることが先だね、これは。
「この先にちょっとした丘があったと思ったんだけど。」
そういえばあったかも。丘というより高台みたいな感じのが。
「向こうだな。」
ミヤの道案内で、丘まで到着。
「では、お願いします、ヒメ洞窟2号を。」
いちいち名前つけるのやめてもらえないかな、リリーサ。
「どのくらいの大きさにしよう。今回は土の魔石ないんだよね。」
ドルミント王国の洞窟は、次回も使えそうなので魔石は埋めたままにしてきた。今現在、魔石がないのなら、さほど大きい穴は掘れない。
「今回は5人ですし、うーん、でも、奥行きは欲しいですよね。」
腕を組んで考え込むリリーサ。
「あまり奥まで掘ると、上に向けて空気穴がいるんじゃないの?」
洞窟の中での焚き火は酸欠になりやすい。空気がうまく回るようにしないと。
「「「うーん……」」」
みんな考えこむ。
「どうせわからない。適当に1つ掘ってみればいい。」
ミヤにサラッと言われてしまう。そりゃそうか。
「20個くらい掘ってみれば、1つくらいいいものができるのではないでしょうか。」
いや、リリーサ、この丘で20個も穴掘ったら、丘が崩れるね、多分。
丘の高さは10メートルくらい。あまり大きくすると、天井部分が崩落しちゃうかもしれない。とりあえず、この間くらいのを1つ掘ってみる。
「ここってこの前の場所より土が多めだから、結構脆そうね。」
ファリナの言う通り、天井からパラパラと土が落ちてきている。
「火を焚いて、リリーサを留守番に置いてみよう。帰って来た時にリリーサが埋まってなかったり、酸欠で倒れてなければ大丈夫、という事で。」
「なるほど。いい考えです。ただ留守番はヒメさんにお願いします。」
「いやいや、リリーサに任せるよ。」
「埒があかないな。2人で留守番すればいい。」
そういうならミヤが……
「むぅ。」
顔に出たかな。ミヤが怒ってる。
「ヒメさん土魔法で壁は作れるんでしたよね。」
「あまり大きいのは無理だよ、リルフィーナ。」
「洞窟の壁をヒメさんの作った壁で強化できませんか?」
あぁ、ただ掘るだけの穴と違って、壁なら魔獣の体当たりを食らっても平気なくらい硬いから使えるかな。
穴の中の左右に壁を作ってみる。問題は天井だな。
「上は難しいんだよね。」
「ミヤがやるか?」
え?土魔法使えるの?
「この前、バイエルフェルン王国で虹の鱗を探した時に、エアが使っていた魔法陣を見た。可能。」
相変わらず器用だな。
「フムっ!」
地面に手をつくと、ミヤが気合を入れた声をあげる。
穴の左右、奥、天井が硬い岩で覆われる。
「声をあげるほど魔力を使うの?」
「無言でやるとすごそうに見えない。」
あぁ、そうだね。聞いたファリナが苦笑い。
「えい、リリーサきっく!」
跳び蹴りのつもりのようだけど、蹴りが壁に届かないで地面を蹴ってるんだけどどうしたいのかな?
「リリーサきっくでも壊れる気配はありません。大丈夫です。」
まずい、なんか逆に心配になってきた……
「これって、わざわざ斜面に穴を掘って岩で覆わなくても、岩の壁だけで、平地のどこにでも建てられるんじゃないでしょうか?」
リルフィーナの指摘に、全員その場で固まる。
「なるほど、ヒメ洞窟に続く、ミヤの家、ということですね。」
「犬小屋みたいに言うな!」
ミヤがプンプンだ。
焚き木を拾ってきて、火をつける。
「入口が大きいから風が入ってくるけど、何とか我慢できそうね。」
「酸欠にならなくてかえっていいのではないでしょうか。」
ファリナとリルフィーナが何か話してるけど、わたしとリリーサは火に当たるのが忙しくて聞いてない。
「さて、じゃここを起点に獣などを探すことにしましょう。ミヤさん、何か近くにいませんか?」
すっかりミヤ頼りだな。
「西南607メートル、狼が4。南に823メートル、同じく狼2。その先314メートル、角ウサギが5。この近くじゃ獣はそんなところか。」
やっぱり寒くなってきたから、あまりいないね。
「ちなみに魔獣なら、オーク4があと8メートル。」
待ちなさい、オークがどこ?
「そこの藪から出てくる。後4メートル。」
「せ、せんとーじゅんびー!」
穴から飛び出すのと、オークが木の陰から飛び出してくるのが、ほぼ同時だった。
リリーサがオークの足を消して倒したところを、リルフィーナが剣を突き立てる。ファリナが胴を薙ぎ払う。ミヤの鉤爪が大きく斬り裂く。そして、わたしは呆然と見ていた。いや、攻撃しようと思ったけど、急だったから燃やしてしまいそうになって、とっさに我慢したんだよ。わたしすごいよね。
「えらいえらい。」
「うむ、よくできた。」
うぅ、褒めてるんだよね、ファリナにミヤ。言い方が雑で、素直に喜べない……
「伸ばす時はきちんと褒めてあげないと伸びませんよ。即ち、ブタも鳴かずば撃たれまい、というやつですね。」
なんでブタで、しかもなんで撃たれるのよ。
「というか、ミヤ、オークが襲ってくるのけっこうギリギリだったんだけど。」
「獣を中心と言われている。魔獣は2の次。」
うん、わかってたけどね……とにかく獲物がいたら教えて。
数が多ければ別だけど、獣は基本臆病なので、風下から隠れながら近づく。
「準備オーケーです。ヒメさん、やってください。」
以前にもやったように、獣たちがこちらに逃げてくるように、向こう側に炎の壁を作る。
逃げてきたところを、飛び出していって一網打尽。
この繰り返しで、狼が12匹、角ウサギ16匹、オークが7匹狩れた。
一段落ついたので、洞窟だか家だか、とにかく焚き火の場所まで一度戻って暖をとる。
「この丘の上の方はどうなってるんでしょうね。」
坂を上りたくなかったので、平地をメインで狩りをしてきたけど、そろそろ頭打ちなので、リリーサが新天地を求めだした。さすが天人族の血を引く女。
「くだらない事言ってると消しますよ。」
気にしてるのかな?怒られた。割とマジで。
さほど高くない丘なので、登れそうな坂を見つけてしまえば、リリーサが文句を言う寸前に登りきることができた。
「こ、これは……」
リリーサが感嘆の声をあげ、わたしたちは頭を抱えた。
寒さで半分は枯れているのだけれど、素人のわたしにもわかる毒草が辺り一面に生えていた……しまったよ。久々に大失敗だ。リリーサに見つけられてしまうなんて……
「素晴らしいです。ここは、リリーサ第2農場と名付けましょう。」
つけるな、つけるな。言っておくけどここはエルリオーラ王国内だからね。ガルムザフト王国国民のあんたが権利を主張していい場所じゃないからね。
「なら、女王様に許可もらいます。いろいろこの国のために骨を折ってますからね。」
待ちなさい!ライザリアにここの事を言ったら、なんだか大変な事になりそうな気がするの。
「この国と近隣諸国の邪魔な者はすべて不審な死を遂げるな。」
言わないで、ミヤ!冗談ですみそうもないから……
「では、内緒で。リリーサ農場エルリオーラ支店ということで。」
「何で支店なのよ……」
「かっこよくないですか?」
あぁ、もういいや。どうでも。
「草を触った手でご飯を食べると大変な事になるので、お昼ご飯を食べてから採取しましょう。」
悪いけど、わたしたちはやらないからね。体に悪い草には関わり合いたくない。
リリーサがお昼ご飯を気にしてるなと思ったら、そういえば、おにぎりにしたんだっけ。うん、あの草を触った手で触れないわ、確かに。
「獣しかいないわね。」
ファリナが呟く。
お昼ご飯のあと、リリーサたちに草狩りをまかせて、わたしたちは獣や魔獣を追いかける事に分担した。
「ヒメ様がいるのに魔獣が出ないなんて。」
あのね、ミヤ、言いがかりっていうんだからね、そういうのは。
「そうとも言い切れんだろう。」
いきなり後ろから声。驚いて振り向いた先には……
「エア……久しぶりだね。」
エアが木に寄りかかるように立っていた。
「うむ、いろいろ忙しくてな。で、いきなりで悪いんだが頼みがある。」
頼み?何の?
歩き出した、と思った瞬間、エアの姿が消えた。
「え?」
「ヒメ様!」
ミヤの叫び声。
手が後ろから伸びてきて、わたしを抱きしめる。
「ひゃ!?」
「お前の大事なものを貰いに来た。」
エアの手が、背中から腰を撫でまわす。
「わひゃぁ!」
「ヒメ!?」
「ヒメ様!」
ファリナとミヤが駆け寄ってくる。ミヤが鉤爪での攻撃態勢に入った瞬間、わたしはエアに突き飛ばされた。
「みぎゃ!」
転がるわたしをミヤとファリナが、慌てて支える。
「な、何すんのよ!?」
振り向いたわたしの目に、エアの手の中のものが映る。
「ち、ちょっと!それ……」
魔人族の剣が鞘ごと奪われていた……




