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213.急転直下


 帝都を出て3日目。何事もない行程が続く。

 進軍するのは、女帝の馬車、それに付き従う第3師団の兵士が90名弱。食料などを積んだ荷馬車が数台にわたしたちを乗せた馬車。


 進むのは黒の街道。白の街道を、現在病に伏していることになっている女帝の馬車が通るのはちょっと目立ちすぎるだろうということ。なにせ、帝室専用の馬車にお乗りだ。通れば女帝か弟のどちらかが乗っているだろうと騒ぎになること間違いない。

 そうなれば、国境にいる将軍に連絡が行ってしまい、待ち伏せされる危険もある。


 黒の街道を選んだのは他にも理由がある。人通りが少ない理由である魔獣の出現が、ここしばらくギャラルーナ帝国ではほとんどない、という報告にかけたんだ。つまり、魔獣が出るから、黒の街道は人通りが少ないけど、今なら魔獣は出ないはず。なら、余計な邪魔が入らず国境まで行けるんじゃないか、と。

 事実、今日までの旅の間、魔獣は1匹も出現しなかった。まぁ狼くらいは出たけど、兵士たちでもなんとかなったしね。

 その分リリーサが、何もでないとうるさいのを我慢すれば、快適といっていい旅が続いていた。


 「狼8。こちらに来る気配はない。」

 読んでいる本から目をそらさずに、ミヤが伝えてくれる。

 「まぁ、この数ですからね。8匹で襲おうなんて考えるほどバカではありませんか。ヒメさんより頭いいんじゃないでしょうか。」

 「まぁ、確かにヒメなら相手が何人いようと飛びかかるだろうけど。」

 飛びかからないよ!人を何だと思ってるかな、ファリナ?

 「今日で3日目。明日には国境に到着。いよいよ将軍様と会いまみえる時が来るわけよね。」

 一昨日の早朝、出発して特に問題なく馬車は進んでいた。そしてファリナの言う通り、明日には国境に着くだろう。何の問題もなければ。

 「わたしたちは馬車に隠れて見ているだけなんですよね。」

 リルフィーナが、みんなを見回しながらそう言う。本当にそれでいいのか自信がないんだろう。

 「女帝様と将軍が話し合って、女帝様が勝てば兵は国境から撤退するでしょう。わたしたちの役目はそこで終了です。負けたなら、女帝様を連れて逃げるだけ。とりあえず、勝ち負けがはっきりするまで、わたしたちは見てる事しかできません。」

 リリーサがビスケットを片手に窓の外を眺めながら答える。

 「問題は……」

 リリーサの目つきが厳しくなる。

 「……もう3日も馬車に揺られてるだけで動いていません。ずっと食っちゃ寝です。いろいろと心配です。」

 「う……」

 顔色を変えるファリナ。

 「み、3日だよ。まだ大丈夫だよ。そう、まだ……」

 わたしもなるべく考えないようにしてたのに。

 「この件が片付いたら、再度ドルミント王国に行きましょう。シルバーウルフをもっと狩るのです。」

 リリーサが拳を固く握りしめる。シルバーウルフか。狩りに行くのはいいんだけど、問題は寒いんだよね。いつ雪が積もってもおかしくないこの時期に、北国で狩りか。

 「南に降りてワニでも狩る?」

 いや、ファリナ、ワニはもういいや。獣でも魔獣でもめんどくさい。


 しばらくなにも起きなかったから、ウトウトし始めた時。

 「問題が現れた。ベア。1匹。ブラウンマッドベア。」

 「魔獣の熊?こんなところに?」

 ミヤの報告に馬車の中が大騒ぎ。

 「距離は?」

 「前、600メートル。森の中。こちらに気づいていると思われる。街道に向かっている。」

 熊さんの乱入かぁ。兵隊じゃまともに相手できないよね。

 「わたしたちがやるしかないのかしら……」

 あまり目立ちたくないんだけどね、ファリナ。

 「熊さんは不良在庫です。無視しましょう。」

 「いや、向こうは無視してくれそうもないよ。」

 リリーサのやる気がゼロだ。

 「どうする?」

 ファリナが困った顔。そんなこと言われても。

 「いい運動にはなる。」

 ミヤがボソッと放った爆弾が破裂する。

 「一撃で燃やすのはダメですよ。わたしも細々と消していきますから、一発であの世に送ってはダメですよ!」

 「久々に剣の出番だね。まぁ、本当に危なくなったら燃やすから、ケガしないでね。」

 「さぁ、斬るわよ。いっぱい斬るんだから。」

 馬車の中が異様な熱気に包まれる。


 「魔獣だ!ベアが!」

 行進の前の方で騒ぎが起こり、馬車が止まる。

 よし、いくか。覆面忘れないでよ、みんな。


 「ギルベリン!」

 「馬車からお出にならないでください!」

 馬車の窓を開け、顔を出すエリザベートに叫ぶ師団長さん。

 「クソッ!こんなところに魔獣が出るなんて聞いてないぞ!」

 馬から降り、熊さんに向かって剣をかまえる第3師団のみんな。

 人数は多いけど、所詮わたしたちの国で言う騎士。魔獣なんかとまともにやり合ったことないから腰が引けてるよ。


 「ガルムザフトから流れてきたんでしょうかね。」

 「えー?あそこから結構距離あるよ。」

 「移動して来たなら、そろそろこの辺はいい距離ですよ。」

 軽口をたたきながら現れたわたしたちを見て、驚きで動きが止まる兵隊さんたち。

 「な、何を出てきている!危険だ!下がっていろ!」

 師団長さんが焦って大声で叫んでるけど無視だ。邪魔なのはあんたたち。

 「あれ、いる?」

 師団長さんの横に並んで確認する。毛皮が欲しいとか言われたら残すようにしないといけないから面倒だな。

 「いらん!だが、お前たちに何ができる!?」

 「熊さんくらいなら簡単だよ。」


 ダッと駆けだす。振り上げた手が下りてくる前に熊さんの足元にたどり着くと、足に斬撃を入れる。

 痛みで熊さんがバランスを崩す。転びはしないけど、振り上げた手を振り下ろすことができない。

 その隙に、ファリナとリルフィーナが反対の足に駆け寄り、切り刻む。

 「ギャォォォ!」

 悲鳴をあげ後ずさる熊さん。

 ミヤがジャンプして、鉤爪で片目を潰す。ミヤなら一撃できるんだろうけど、みんなで少しずつ削るって決めたから、ミヤにとっては遊んでいるかのようなものだろう。落下しながらも胴体を切り刻んでいく。

 「ちょっとだけ<バラバラ>」

 片足が分解され消える。さすがに片方の足がなくなって立っていられなくなり、倒れる熊さん。

 「よーし、刺すよ。」

 横たわる熊さんの周りを走りながら、次々と剣を突き立てる。意味はない。走れば運動になるかなくらいしか。

 「ちょっとだけ<バラバラ>」

 腕が、足が、次々と消えていく。

 「あ、あの。」

 師団長が声をかけてくる。

 「て、手助けは……?」

 「いるように見える?」

 「い、いえ……」

 さすがに可哀想になってきたので、一気に燃やす。

 熊さんは天に召されていった。


 「物足りないな。もう2匹くらい欲しいわよね。」

 「まぁいい運動にはなりましたし。」

 冷や汗を流しながら、ただただわたしたちを見つめる兵隊さんたちをしり目に、わたしたちは自分たちの馬車に戻って行く。

 「え?」

 「どうなってる?」

 兵隊さんたちが何かブツブツ呟いてるけどどうでもいいや。


 熊さんの出現で、兵隊さんたちが動揺してしまったので、早めのお昼休憩になる。

 ご飯が運ばれてくるから、わたしたちは覆面をかぶったまま待機。

 トントン。

 馬車の扉がノックされる。

 「食事だ。その、少し話をしてもいいかな?」

 師団長さんが何人かの部下と一緒にご飯を持ってきてくれる。

 「何?」

 ご飯の乗ったトレーを受け取ると、師団長さんを残し、他の兵隊さんたちは逃げるように去っていく。何だろう。随分恐れられているみたい。

 「大型の魔獣をものともせず、だからな。お前たちは。」

 「でも、こんなところで兵隊さんの数を減らすわけにもいかないでしょう。」

 エリザベートは将軍を説得できなければ、自分が死ぬ気みたいだけど、その会談の席に将軍を座らせるためにも、エリザベートにはそれなりの支持してくれる兵隊がいることを示さなければならない。1人で行っても相手にもしてもらえないだろう。

 「それには感謝してる。」

 何か言いづらそうだな。

 「お前たち、補軍なのか?」

 ほぐん?ほぐん。あぁ、補軍ね。

 「そんなところかな。まぁ気にしないで。女帝様からよけいな詮索はしないよう言われてないの?」

 「言われているが、俺たちがどうしていいかわからず大騒ぎしたベアを、あぁもあっさり倒されてはな。気にするなというほうが無理だろう。」

 「気にしない方がいいよ。どうせ、もう2,3日しか顔会せることもないだろうし。」

 明日にも話し合いが行われれば、結果はどうあれ、わたしたちはこの場から去る。

 「まぁいいか。敵でないなら良しとするしかないか。」

 師団長さんが、そう言うと馬車を降りて行く。


 以降は魔獣も出現することもなく、只々馬車は進む。

 そして問題がまた1つ。


 黒の街道をまっすぐ進めば、当然、ガルムザフト王国の国境に至る。

 ところが、ギャラルーナ帝国の陣は、白の森の方に建てられているから、そこに向かうには、どこかで馬車は白の街道に出なければいけない。

 そして、白の街道と黒の街道は全く別々に作られたものらしく、両方がつながる道はない。

 「というわけで、なるべく平坦な草原を探して、白の街道まで白の森を突っ切らなければいけないようです。」

 今さら、そういう話になるの?自信満々に黒の街道を進むって言い出したから、多分なんとかなるものだと思ったのに。

 「まぁ、わたしたちもギャラルーナ帝国の地理は詳しくないですから、そうなんだと聞き流してしまいましたし、文句は言えませんよね。」

 「文句はないけどさ。どうするの。女帝様の大型馬車走れるような、平坦な草原なんて存在するの?」

 リリーサはすでにどうでもいい様で、お茶を飲むのに忙しそうだ。

 これはあれかな。明日中の到着は無理になったってことかな。あぁ、めんどくさい。


 「そろそろ将軍とやらにも女帝が逃げ出したのがばれている頃だ。こんなペースで大丈夫なのか?」

 ミヤが相変わらず本から目を離すことなく話しかけてくる。

 「ばれる?なんで?」

 「……将軍の別荘にいた見張りは、夜はともかく朝になれば食事などを運ぶために別荘に入ってくるだろう。まさか、女帝が食事の支度をしていたとは思えない。」

 ミヤが呆れた顔で本から顔をあげる。あれ、そう言えばそうか。

 「なら、一昨日の朝の段階で、別荘が無人となっていることに気づいてるだろう。そこから国境の将軍に連絡に向かえば、もう到着してもいいころだろう。」

 「つまり……」

 わたしたちは顔を見合わせる。

 「……焦ってもしかたないってことですね。ばれてるなら、もう何時到着しても問題ないわけです。」

 「だね。もう待ち伏せされてるなら急いで行くこともないか。何だ、余計な心配しちゃったよ。」

 よーし、もうこうなったら馬車の床に毛布敷いちゃうぞ。人目を気にしてたから、晩ご飯食べ終わった後に敷いてたけど、もう今日から1日中敷いちゃえ。

 「じゃ、ミヤ、待ち伏せされてたら教えてね。」

 「わかった。」

 毛布に横になったわたしの腕を枕に本を読み始めるミヤ。

 さて、向こうはどう出てくるかな……






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