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211.リリーサの家で


 「続きを聞かせて。」

 いつまでも睨んでるのもなんなんで、普通にズールスさんに話しかける。

 「言った通り、俺はさほど重要な立場にいるわけじゃないので、大した情報は入ってこない。昔馴染みのゴボルさんから話が聞ける程度なんだ。まぁ、そのゴボルさんも、ちょっと考える事があって、第一線を退いて後進を育成してるような状況だからな。お前らが知りたいような話は多分知らないぞ。」

 あきらめたように話し始める。ウソは言ってないのかな。

 「ゴボルさんってそんなに偉いの?」

 「あの人は『新世界』移住前から生きてるからな。まぁ、その頃は子どもだったそうだが。それでも、こちらに残ると自分で決めたとか。」

 フーン……

 「って、何!?あの人100年以上生きてるの!?」

 「まぁ、見た目おじいさんですからね。驚くことでもないでしょう。」

 あっさりだな、リリーサ。

 「あれはそう見せてるだけだ。400年は生きる天人族なら、本来はもっと若い姿をしている……いや、あの件があったからな。精神的に老けてしまったかもしれんなぁ。」

 どの件よ?

 「見せてる、ってどういう事?」

 ファリナが驚きを隠せない顔でズールスさんに尋ねる。

 「そうです!見せかけの年齢の姿になれるってことですか?どうやるんですか?それができれば、わたしも何十年経っても今の姿のままでいられるってことですか?」

 いらない方に食いついたな。しかもファリナまで。

 「<変身チェンジ>の魔法は、天人族でも使える者が限られてるからな。そもそも俺は魔法陣を知らんし。」

 「ゴボルを捕まえましょう。あれも天人族だから、<モトドーリ>は使えるでしょうけど、ヒメさんが回復を許すことなく燃やしまくれば、すぐに音をあげます。勝利は我が手に、です!」

 ゴボルさんの回復魔法の名前が<モトドーリ>なのか、から始まってツッコミどころ満載すぎ!そもそも、わたしはそんな虐待やらないからね。

 「つまり、その魔法って見た目を変えることができるってこと?」

 ファリナの食いつきがすごい。

 「ピンキリだな。下級の魔法だと姿形は変えられない。髪や肌の色を変えるのが精一杯だ。上級の術を使える者なら他の種族に変身も可能だ。天人族から人族、みたいに。」

 「変身って、例えばヒメならヒメの姿形のまま、魔人族や天人族っぽい見た目になれるってこと?」

 「見た目を変えると言った。さすがに筋肉を大きく変化させることはできないから、女から男、男から女は無理だが、ヒメの姿から人族はもちろん、天人族や魔人族の髪や肌の色をした別の人間、たとえばファリナとかリリーサとかに変身くらいは……いや、無理かな……」

 待て、こら!今どこ見てそう言った?胸見たよね!胸見て無理とか言ったよね!?

 「き、気のせいだ。」

 「さいてーです!」

 頬を赤らめて視線を逸らすズールスを見て、リリーサがプンプン。

 「ち、違う!俺はそんなつもりじゃ……」

 クソ、燃やしてやりたいけど遊んでる時間はない。

 「そんなことはどうでもいいのよ!ガルムザフト王国とギャラルーナ帝国。あそこで何をする気なの?何で、魔人族と天人族が動いているの?」

 「そこまでは知らん。魔人族が人族にちょっかいをかけるのはよくある事だが、なぜ今回天人族が絡んでいるのかまでは知らないんだ。ゴボルさんに聞こうと思ったが、ずっと会えないままで、さっき行ったら店は閉店してやがるし。ただ、あの国境近辺でイザコザがあるかもしれないから、娘……リリーサたちが心配なら近寄らせるなとだけは言われていたんだ。そうしたら、いきなり今回の戦争になるかもしれんとかいう騒ぎだ。どうなっているのか俺が聞きたいよ。」

 全員でズールスさんの顔をジッと見る。結構がんばっていたようだけど、5秒で視線をそらしてしまうズールスさん。

 「ウソね。」

 「ウソですね。」

 「あのな!そんな一斉に見つめられたら、その、照れるだろう……」

 ガタンとリリーサが立ち上がる。

 「ウザったいです!何調子乗ってますか!?消します!娘の前で女の子に見つめられてデレデレするなんてさいてーです!しかも、このメンツのどこにドキドキする要素がありますか?」

 「……それもそうだな……」

 よし、親娘揃って燃やしてしまおう。

 「ヤるか?ヤるならヤるぞ。」

 「まぁ、仕方ないわね。」

 「確かにこいつが失敬でしたね。どうぞ。」

 いや、あんたもだからね、リリーサ。


 「知らん!何も知らん!」

 腕を組み、頑として話をするのを拒むズールスさん。

 「ハァ。」

 ため息をつくリリーサ。

 「わかりました。」

 「わかってくれたか?そうか。」

 「燃やされるのと消されるのどっちがいいですか?」

 「わかってねーだろ!」

 「このわたしがこれだけ妥協してあげてるのに。」

 「どこに妥協があるんだよ!」

 「死ななければなんとかなるでしょう。」

 「死ななきゃいいってもんじゃないぞ!」

 世の親子喧嘩ってこんな風なのかな。

 「死ぬ死なないというのは滅多にないんじゃないでしょうか。まぁわたしもその辺はよくわかりませんが。」

 親のいないわたしたちには、眩しい風景だ……

 「そんないいもんじゃないだろうが!止めろ!」

 ズールスさんがわめいてる。風情がないな。


 「これ以上話していても無駄のようですね。わたしは、わたしのやりたいようにやります。」

 ズールスさんから視線を外すリリーサ。

 「国境は一触即発だ。近寄るな。」

 「女帝様を開放しました。女帝様は、国境の陣地にいる将軍との対話を求めています。最後まで見届けます。別に戦争に参加しようとか考えてるわけじゃありません。」

 「……女帝はいつ動くと言っている?」

 「明日の朝、国境に向け宮殿を出る予定です。」

 「帝都には主だった者は残らないのか?」

 「宰相が留守番することになっています。女帝様の弟君は、侍女と、侍女の家がある領地に避難したはずです。」

 だね。準備でき次第移動させるって言ってたから、わたしたちがこっちに戻ってる間に出立してるはずだ。

 「わかった。女帝を見送ったら、お前たちは家に戻って来い。どの道できる事もないだろう。」

 何だろう、いきなり協力的になったな。

 「言っても聞かないだろう。最大限の譲歩だ。とにかく女帝を見送って帰って来い。」

 「わかりました。」

 全然わかってない風にリリーサが答えるけど、ズールスさんもそれ以上ツッコむことはしなかった。

 「着替えを用意します。待っていてください、ヒメさん。あ、あなたは、今後2度と家の中にいないように。今度家の中にいたら、警吏に訴えますからね。」

 リリーサに指を指され、ムッとしながらも、ズールスさんは何も言わずに家を出いていった。


 リリーサたちの用事を済ませて、エルリオーラ王国のわたしたちの家に戻ってくる。

 ズールスさんとの対決があったので忘れていたけど、わたしたち眠ってないんだよね、一晩中。

 寝る前に何か胃に入れるのは体に悪かろうと、ミヤも渋々朝ご飯をあきらめ、布団に倒れ込む。昼すぎには起きたいなぁ……


 「ヒメ様。」

 ミヤが話しかけてくるけど、もう眠くて聞いてられないよ。

 「誰も考えないから、やむを得ない。現状推測できることだけを言っておく。」

 何?

 「魔人族と天人族は元から協力体制にあるわけではない。だが、今回は両者が協力して動いている。両者が一緒に動くのは1つだけ。聖地に関することだ。だが、過去、年に1度あるという墓参りのために、天人族が、人族もしくは魔人族との間で戦争があった事はない。同様に1年ごとに魔人族が、人族に対して大規模に動いた事もない。今回、何か特別な事が起きたと考えるべきだろう。事態は戦争突入以外の方向に動く可能性もある。気をつけて。ヒメさまとファリナはミヤが守るから……」

 ミヤが寝息をたてる。その前にわたしは深い眠りの底にいて、ミヤの話を半分も聞いてなかったんだけどね……






 家に戻ると、中に1人の男。

 「なるほど、勝手に家に入られるのは腹が立つな。」

 「もう少し防犯意識を高めた方がいいぞ。何だ、あの入口の鍵は。」

 ムッとするズールスに、ゴボルが答える。

 「どうだった?娘は?」

 ゴボルの質問に睨みつける目線で答える。

 「お互い苦労するな。」

 「ほとんどあんたのせいだからな。」

 キッチンに向かい、コップに水を汲み、飲み干すズールス。

 「そもそも、親が娘を心配して何が悪い。」

 「人格形成に大事な幼少期に、放任なんかするからだよ。」

 「蝶よ花よ、と育てられたあんたの娘も大したタマだったがな。」

 そう言われ、さすがに機嫌の悪くなるゴボルを見て、言い過ぎを感じたズールスは、話を変える。

 「予定通りなのか?」

 「あぁ。今のところは。そこから逆算して、やることはいっぱいだよ。」

 「やるのは魔人族だろう。」

 「見てるだけというわけにもいくまい。お前にも手を貸してほしいところだが。」

 「俺は、もう天人族とは関わりたくない。」

 ズールスがソファーに腰を下ろす。

 「静かに、リリーサと暮らしたいだけなんだ。」

 「あの娘に大人しくしていろというのは無理があるだろう。」

 ゴボルがクックと笑う。

 「あんたの……いやいい。俺が10年間放っておいたのが悪いんだろう。」

 目を閉じて、ズールスがソファーに深くよしかかる。

 「思うようにいかないものだな。」

 「あぁ。」

 2人の男が深くため息をつく。

 「それでも、やらなければならないことはやる。『会議』の決定はもちろんだが、あそこには……」

 決意を秘めた目で宙を睨むゴボル。

 『彼女の墓もあるんだよな……』

 悲しいような、懐かしいような視線を宙にさまよわせるズールス。

 しばらく沈黙が部屋を流れていった……






 「ご飯できてるわよ。」

 目を覚ますと、ファリナがそう言ってほほ笑む。

 ミヤはテーブルに食器を並べていた。

 そして、リルフィーナはわたしの横で正座していて、リリーサは目を覚ましたところだった。

 「何してるの?リルフィーナ?」

 「お皿を2枚割りました。」

 あぁ、そう。また今度多めに買っておかなきゃいけないな。

 「で、リリーサも起きたんだ。」

 「ご飯と聞こえました。」

 うん、もういいや。


 「何時くらい?」

 「お昼を過ぎちゃった。夕暮れまであと3時間くらいかな。」

 「明日の夜明け前までに、宮殿に行けばいいんでしょう。余裕じゃない。」

 ファリナとミヤがなぜか浮かない顔。

 「この時間のご飯は、お昼扱いなのか?晩扱いなのか?」

 「お昼でいいんじゃないの?朝も兼用で。」

 「明日の深夜には起きなければならない。つまり、今日は早く眠る必要がある。」

 ミヤがいつになく真剣だ。うん、で?

 「消化時間を考え、寝る3時間前には晩ご飯を食べなければならないと考えると、日が暮れる前に晩ご飯を食べなければならない。つまり、この後すぐに晩ご飯を食べないと。」

 「いや、あまり細かく考えなくてもいいんじゃないかな……」

 「そうです。食べられるときに食べられるだけ食べる。生きていく基本です。」

 野生動物ですか、リリーサ。

 「晩ご飯は軽めにして、深夜に目が覚めた時にも少し食べておきましょう。いつ何があっても、動けるようにしておきませんとね。」

 リルフィーナがまともだ。正座してる以外は……

 

 そして、夜中に何とか起きてギャラルーナ帝国に向かう。

 リリーサを起こすのが大変だったよ……え?わたしも?






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