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208.帝都の騒動


 真夜中の帝都。物音1つしない街並みを、わたしたちの人影が進む。

 「こちらです。」

 兵士の1人が、塀に隠れて通りの様子を確認した後手招きする。

 エリザベートには師団長ギル、ギル、何とかさんが付き添っている。

 「ギルベリンね。ガッザリオ・ギルベリン。」

 だから、いいよファリナ。師団長で通じるんだから。というかよくフルネーム知ってたね。

 「出かける間際に名乗られましたけど。」

 そうだっけ、リルフィーナ。出がけは、リリーサをケーキの入った冷蔵庫から引き離すのに忙しくて、そんなの聞いてる余裕なかったよ。


 で、その師団長とエリザベートの前に兵士が5名。後ろに6名が従っていて、その後ろ、最後尾にわたしたちがいる。

 「M、なんかいたら教えてね。」

 「わかっている。H様を危険な目にはあわせない。女帝は何かあったらあったで運命だ。」

 うん、できればあっちの危険も教えてくれるとうれしいな。

 「イニシャルで会話ってめんどくさいですね。」

 主にあなたのためなんだけどね、リリーサ。基本、女帝以外にこれ以上余計な情報は教えたくないんだ。他の国が関わっているってことを。


 人っ子1人いない裏道を、なるべく物陰に隠れながら進む。街の警備に出会わないようになんだろう。けど……

 「前方の通り、左からオス2匹。400メートル。」

 やっぱりまるで出会わないわけにはいかないか。街中は別部隊だから、どういう配置でいつ、どこを警備に回ってるかは知らないって言ってたもんね,師団長さん。

 わたしが先頭まで走る。

 「兵が来る!あの角まで下がって!」

 エリザベートの手を引いて、大慌てで移動する。とはいっても、足音たてるわけにいかないから、全力で走るわけにもいかない。


 「いや、もう寒いぞ!」

 「だからしつこいって……」

 笑いながら2人の兵士が通りを過ぎていく。隠れているわたしたちに気づかずに。

 「助かったよ。よけいな戦闘は避けたいからね。これでも、同じ仲間なんだ。」

 師団長さんがにこやかに笑いかけてくる。ただ、相手が覆面の女だから、何となくぎこちないけど。

 「見張りが来るのがわかるのなら、すまないんだが先頭を頼めないか。万が一戦うことになったら、我々が出るから。」

 ミヤがわたしを見る。どうしようって?

 「いいよ。なんなら、相手を燃やしていいなら、そっちもわたしたちがやるけど。」

 「いや、火は目立つから遠慮しようかな。」

 師団長がお断りしてくる。冷や汗を流しながら。

 「使い勝手が悪すぎます。」

 あれ、リリーサ、わたしが悪いのかな。

 「なら、切り刻むか?」

 「わたしが消してもいいですよ。」

 「あ、え……と、いや、なるべくなら命までは奪いたくない。こちらに対処させてもらえないだろうか。」

 師団長がしどろもどろだ。まぁ、どうでもいいからどうでもいいよ。


 ミヤを先頭に再び進む。

 ミヤは、付近の様子がわかるから、隠れたり、物陰から様子を見たりすることなく、スタスタ歩いて行く。

 「ま、待ってくれ!大丈夫なのか?警備の者と出くわしたりしないんだよな?」

 「こいつうるさい。ヤってもいいか?」

 ミヤが面倒そうに師団長を見る。勘弁してあげなさい。

 普通に歩くわたしたちに比べて、後ろの兵隊たちのびくびく進む様に呆れつつも、わたしたちは、宰相の家の近くまで来る。

 1街区離れたところの塀の陰から覗くと、屋敷の前に警備の兵士が立っているのが見えた。正面の門には2人。

 「家の周りには10名程度いるはずだ。さすがにこれは隠れてやり過ごすというわけにはいかない。宰相閣下の家の正面の建物の陰まで移動。そこから全員で一気に進攻、正面の兵を倒して女帝陛下と私が突破する。家の中には兵士はいないはずだ。お前たちは、正面の兵を倒した後、集まってくる残りの兵を家の中に入れないよう門を死守してくれ。なるべくなら殺したくはないが、今は陛下の御身が最優先だ。やむを得ない場合は倒せ。」

 「「「はっ!」」」

 悲壮な顔つきになる兵士たち。仲間と殺し合いなんて嫌だよね。

 「死ななきゃケガしてもいいの?」

 ハァ?といった目でこちらを見る師団長。

 「この辺に他に兵隊いる?」

 ミヤを見る。

 「いない。10人が守っているからだろう、この周囲には見張りの兵はいない。」

 「重要な場所を最優先に守っているんでしょ。この辺は宰相様の家さえ守れれば問題ないってことじゃないの。そもそも、外出禁止で人が出歩いているはずないんだし。」

 ファリナの言う通りだね。宰相が最優先。ここを守れれば、周りの家は最悪何かあってもしかたないと考えてるんだろうね。でも、それならここにいる10人をやっつければいいってことだよね。しかも、廻りに他の兵隊はいないから、少しぐらい騒がれても大丈夫。

 「わたしたちが殴ってくるよ。」

 「「は?」」

 師団長さんはともかく、エリザベートがそんな顔しちゃダメだよ。仮にも女帝様なんだから。

 「力技では出番がありません。」

 「万が一こっちに来たら、手足の5,6本消しちゃって。全部消しちゃダメだよ。」

 「面倒です。」

 リリーサが面白くなさそうだ。

 「いや待て、何を勝手な事を言っている?お前たちに何ができるというんだ。」

 師団長さん大慌て。

 「エリザベート様と師団長だけで中に入って、もしも中にまだ兵隊がいたらどうするの。できるだけ多く兵隊連れて行って。そもそも2人だけじゃ宰相だって甘く見て説得聞かないかもしれないでしょ。」

 「それはそうだが……いや、だめだ。女性には危険すぎる。認めるわけにはいかない。」

 頭硬いな。まぁ家の敷地内には警備の兵隊はいないのはわかってるから、わたしの言ってることも詭弁なんだけどね。

 「まぁ、こんなわけのわからない覆面かぶった女に言われてもね。」

 ファリナが自虐的だ。

 「じゃこうしましょう。正面の2人をわたしたちが倒します。念のためこちらの兵士もわたしたちの後ろについてもらって、何かあったら援護してください。それで、わたしたちが役に立ちそうもなかったら、後はそちらに任せてわたしたちは手を引きます。」

 「女性にケガをさせるわけにはいかない。大人しく納得してくれないか。」

 万が一ケガしてもリリーサがいるから大丈夫、とは言えないのか。こっちの正体明かすわけにいかないしなぁ。

 「まかせてみましょう。」

 めんどくさいから全員殴ろうかと思っていたところに、エリザベートが仲介に入ってくれる。

 「陛下、それは……」

 師団長が困った顔になる。認められないけど、女帝の言葉に逆らうこともできない。

 「危険だと思ったら、あなた方が守ってあげなさい。」

 「……はっ。」

 そう言われてはもはや従うしかない師団長さん。宮仕えはつらいよね。


 宰相の家の正面にある建物の陰に移動。宰相の家までは、あと10数メートルってところ。

 「爆散しない爆散パンチを使う。」

 すでにどんなものなんだかわからないけど、一応殺さないであげてね、ミヤ。まぁ、ヤってもいいんだけど、この先しばらくはこの兵隊たちと一緒にいることになるかもしれない。あまり心証を悪くしたくないんだよね。

 「気を使うなんて珍しいわね。」

 「態度が鬱陶しくなったら全員燃やしちゃいそうでめんどくさいのよ。」

 ここまでがんばってきたのに、女帝側の兵隊全滅させちゃったら今までの努力はどうなるのかと。


 「じゃ行くね。Mは左から、わたしとFは右から。Rたち2人はエリザベート様をお願い。」

 わたしたち3人と兵隊4人が、建物の陰から飛び出して、正面の門の前に立つ2人の見張りに向かう。

 「な、何者?敵襲……」

 大声を出して仲間を呼ぶ前に叩かなくちゃ。と思っていたら……

 「爆散パンチ!爆散パンチ!」

 わたしたちが道半ばなのに、すでに門にたどり着いていたミヤが、一瞬で2人の兵隊のお腹にパンチを入れて意識を失わせる。

 え、と……まぁいいか。お腹の部分の鎧がありえないほど凹んで体にめりこんでるけど……

 「息があるから生きてるよね。」

 ついてきた兵隊に一応確認する。

 「あ、あぁ……生きてるようだから……大丈夫じゃないか……」

 顔が青いし声がひっくり返ってるけどそっちこそ大丈夫?

 「では、ミヤは屋敷を1周してくる。」

 「うん、じゃわたしたちはこっちから行くから、どこで出会うか勝負だね。」

 「負けない。」

 「楽しそうです。わたしもやりたいです。この際ですから何人か天に召してもいいんじゃないでしょうか。」

 こら、リリーサ、隠れていた建物の陰から出てくるんじゃない!まだ見張りはいるんだから見つかったらどうするの!

 「つまんないです……」

 「待ってくれ。いや、いいんだが、国家の一大事なんだ。こう、何と言うか、もう少し緊張感が欲しいんだが……」

 いや、師団長さんにエリザベート、あんたたちまでこっちに出てきてどうするのよ。

 ええい。構ってられません。頭を抱えてる師団長さんと呆気にとられてるエリザベート、それに、小石を蹴っていじけてるリリーサたちを残して、わたしたちは屋敷の塀沿いに左右に散った。


 まぁ、結果は予想するまでもなく、ミヤが圧勝した。

 塀に沿って、正面以外の3面のうち、わたしたちが右面に立っていた3人を剣の腹で殴って倒して、角を曲がろうとしたら、左面と裏面にいた5人を倒したミヤが勝ち誇った顔で現れた。いや、わかってたけどね。わたしもファリナも苦笑い。

 「いやぁ、負けた、負けた。」

 「勝利!」

 3人でエリザベートの元に戻る。

 「い、いや待て……ここを離れてから数分しか経ってないぞ。しかも、物音も聞こえなかったし。」

 汗をダラダラ流しながらわたしたちを見る師団長さん。

 「後片付け頼めます。女の細腕では、男性を運ぶのは無理なので。」

 「どこが細腕だ……いや、こんな事をしている場合じゃない。カルッタの班は見張りが目を覚まさないうちに拘束。騒がないようさるぐつわも忘れるな。」

 4人ほど走っていく。門にいた2人も、いまだ目を覚ますことなく、縛られて転がっていた。

 「楽しそうです。つまらないです。」

 リリーサはまだふくれた顔で小石を蹴っていた。


 「ここから先は任せたから。もう兵隊もいないみたいだしね。」

 「え、今更?ここでやめる?」

 師団長さんが呆れた顔をするけど。

 「そうじゃなくて。宰相様に会うのはエリザベート様の仕事だから立ち入ることはしないってこと。得体のしれない輩がいたら、まとまる話もまとまらないでしょ。本番はまだ先なんだから、こんなとこで負けないでよ。」

 そう、本番の相手は国境にいる将軍なんだから、宰相如きに言い負かされたりしないでよ。

 「わかっています。さぁ、バーガンに会いに行きましょう。」

 倒した見張りは縛って屋敷の裏にまとめて寝かせている。というか、孤立無援に近いこの状態では、どこかに閉じ込めることも治療のために病院に連れていくこともできない。


 師団長が門を開く。

 エリザベートは、1つ深呼吸をすると、屋敷に向け歩き出した。




 


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