表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/517

207.宮殿の騒動 2


 「現在、宮殿の警備は我ら第3師団146名。宰相閣下の護衛に第6師団の一部である53名が当たっております。また、市街には、他の第6師団、第7、第11、第16師団の458名が当たっております。」

 「つまり、それ以外の団と補軍は国境にいるという事か。」

 厳しい顔で帝都の地図を睨むエリザベート。

 「補軍も帝都警備に数百、各領地にも100名前後の者が残されているはずですが、その数を正確には知らされておりません。我々第3師団はとにかく宮殿を守れとしか命令されておりませんので。」

 「ハイマンめ。第3軍が他の軍と連携をとって動かないようにするためでしょうが、面倒ですね。どこにどれだけの将軍の息のかかった兵がいるのかわからないというのは。」


 「ねぇ、冷茶でいい?」

 リリーサを肘でつつく。

 名前バレしないように、基本名前で呼ばないように言われているから話がしづらい。

 「あそこの暖炉のポットのお湯借りられませんかね。」

 リリーサが指さす先には、暖炉がありポットが火にかけられていた。

 「何かお菓子でもないの?小腹がすいたわ。」

 いや、ファリナ、真夜中だよ。物を食べるのは体に良くない、けど、確かにお腹空いたね。

 「この前の大騒ぎした時の晩ご飯用に捌いた灰色狼の肉なら残ってるけど。」

 「何で肉なのよ。そこまでガッツリ食べたいわけじゃないわよ。」

 「クッキーなら確かあったはずです。ヒ……じゃなく、あなたは何か持ってないんですか?ケーキとか。」

 「だから灰色狼の肉ならあるってば。」

 「夜中に肉はさすがにお腹に悪すぎませんか?」

 「あの……街の者から貰ったケーキで良ければ、そこの冷蔵庫にある。それ食べてもいいから、少し静かにしてくれ。」

 師団長さんがなぜか困った顔。わたしたちに構わず会議続けてよ。

 「ケーキがあるのですか!?」

 しまった、リリーサが食いついた。よその家なんだから、灰色狼の肉で我慢しておきなさい。

 「いや、ここで肉焼かれるよりは、ケーキ食べてくれた方が助かるんだが。」

 そう?ならそうさせてもらおうか。


 「遠慮と常識というものをご存じ?」

 何言ってるのかな、エリザベート。当たり前じゃない。言葉くらい知ってるよ。

 「この中の、HとRにはないものだ。」

 ミヤ、何よそれ。

 「H、M、F、R、L。」

 それぞれ順に、わたし、自分、ファリナ、リリーサ、リルフィーナを指さす。

 「あぁ頭文字ね。」

 ミヤの言いたいことに気づいてファリナが手を叩く。名前で呼ばないように決めたから、頭文字で呼び合おうってことか。あれ、じゃ、つまりわたしとリリーサには遠慮と常識がないと言いたいの?

 「そんなもの、ケーキがあれば必要ありません。」

 ほら、ないのはリリーサだけだよ。

 「恐れ多きことながら女帝陛下、あれは信用して……いや、頭は大丈夫なんでしょうか?」

 師団長さん、こっち指さして何言ってるかな。

 「確かに陛下を救出していただきました。ですが、正体は明かせない、挙動は不審、とてもまともな常識の持ち主とは思えないのですが。」

 「まともな者がこの状況下で、わたしの力になろうなどと考えるものですか。あぁ、先に言っておきますが、言ったように故ある者たちですから、当面は共に行動しますが、将軍と話をする際はそばには置けません。その時はお前が頼りです、ギルベリン師団長。よろしく頼みます。」

 「勿体なきお言葉。ギルベリン、この命にかけましても最後まで陛下をお守りいたします。」

 「すまない。」

 燃やしてやろうかと思ったけど、段々聞いてられない話になってきた。なに、その死亡前提の展開は。とはいえ、こちらも女帝を全面的に応援するつもりもない。死にそうになったら逃がすくらいはするけど、それ以上、つまり、わたしたちが将軍をやっつけるつもりはない。

 「まぁ、死んだら死んだで運命です。しょうがありません。」

 「あれ、本当に味方なんでしょうか、陛下……」

 「いや……まぁ……」

 いや、リリーサ……だから、どっちも相手に聞こえないように話しなさいよ。段々ギスギスしてきたような気がするのは気のせいだろうか。

 「こんな格好してるやつを信用するやつなど信用できるか。」

 ケーキを片手にミヤが辛辣だ。その通りだけど、こっちも好きでこんな格好してるわけじゃないし、それじゃ向こうがこっちを信用しないのは当然みたいになっちゃうんだけど。ところで、いつの間にケーキを……


 お湯を貰い、お茶を淹れる。

 エリザベートが動き出すまでは、こっちはこっちで好きに休んでいていいと言われたので、わたしたちの分だけお茶を淹れて、冷蔵庫から勝手にケーキを持ち出す。ここの師団のおやつらしく結構な数のケーキがあった。

 「夜中だし、これから動かなきゃいけないかもしれないから、1人2個まで。言っとくけど、この時間の食べ過ぎは太るからね。」

 「「フグッ!」」

 約2名が、わたしのセリフにケーキに伸ばした手を引っ込める。

 「大丈夫、大丈夫、これから動けば2個くらい平気よ。」

 「消します。1個につき20人消します。だから3つはいけるはずです。」

 不穏当な発言はやめて。あとリリーサ、60人くらいじゃカロリー消費にならないからね。

 「というか、60人も消したら、宰相様の護衛が皆殺しです。」

 「え?みんなで誰を殺すんですか?」

 リルフィーナとリリーサは隅に行ってなさい。ここにいる兵隊みんなが青ざめてるんだけど大丈夫かな。


 エリザベートには前もって、わたしたちは本当の意味での最後の手段だと伝えてある。わたしたちはともかく、ギャラルーナ帝国でいろんな人と会っている可能性のあるリリーサは基本表に出せない。

 白聖女、つまりガルムザフト王国が動いていると言われるのは国家間的にまずいだろうし。女帝がガルムザフトの人間とつながっているとなると、女帝も立場が危うくなるだろう。国内の状況的に。

 できるだけ、ここにいる第3師団と、他に協力してくれる兵士だけで何とかするようにと言ってある。

 とはいえ、女帝がやられる場合も考えると、わたしたちもそばを離れるわけにはいかない。亡命くらいはさせてやらなきゃね。

 「ここにいる者たちに女帝様が黙ってろといえば、こんな仮面必要ないのではないでしょうか。」

 「甘いわね、L。世の壁には、目も鼻も耳もあるの。どこでばれるかわからないの。」

 「鼻は知りませんけど、壁に目や耳があったところで、口がないならしゃべれないのだから特に問題ないのではないでしょうか。」

 リリーサが首をかしげてる。比喩ってわかるかな。まぁ、それでも……

 「わたしとしてはお風呂場に目があったら嫌かな。」

 「あ、それは嫌ですね。」

 リルフィーナもそう思う?リリーサは平気みたいだよ。

 「わたしだって嫌です。けど、それは屁理屈というものです。正々堂々とかかってきなさい。」

 何にどうかかっていけって言うのよ。

 「陛下、あの者たちは何を話しているのでしょうか?」

 「構うな、聞くな。今はバーガンの様子を見に行った者の連絡だけを待つのです。」

 エリザベートが何だかイライラしてるけど、焦りは禁物だよ。

 「あなた方のせいです!」

 何が?


 何人かの兵士が戻ってくる。宰相であるバーガンの様子を偵察に行かせた人たちだ。

 まだ一応は平時であるという事、真夜中であるという事からバーガンは、自宅でのんびりとお休み中らしい。

 「なるほど。ヒ、じゃない、Hさんが屋敷ごと燃やしてしまえば問題解決ですね。」

 いや、屋敷には奥さんや子どもとか、住み込みのメイドさんとかの従業員もいるんでしょ。一蓮托生はちょっとなぁ。

 「甘いです。老後の憂いを断つと昔から言うでしょう。」

 「お姉様、後顧の憂いを断つです。」

 リリーサが理解できないようで、しきりに首を捻ってる。無視しよう。

 「全員を粛正するつもりはありません。話をして和解できるのならそうしたい。これから先のためにも。」

 静かにエリザベートが語る。まぁ、全員が望んで女帝に逆らおうとしたわけでもないだろうし、命令されて敵対した者まで全員殺していったら、先は恐怖政治になってしまう。人々はついていけないだろう。

 「まぁ。バンスの邪魔になりそうな者は、この期にいなくなってもらいましょう。」

 いや、ちょっと待ちなさい。


 「屋敷の周りには警備の兵が10名。塀の外側を囲むように配置されています。」

 帝都全域と、宰相の家の周りだと思われる地図を見ながら話し合いは進む。

 わたしたちは隅でケーキを食べてるだけだけどね。いや、さっきも言ったけど、先頭に立って動く気はないよ。特に宰相はリリーサの顔を知ってるかもしれないんだ。迂闊に前に出るなんて。

 「いや、この仮面かぶってたら大丈夫じゃないかしら。」

 甘いわ、ファリナ。このポヨポヨのリリーサがどこでボロを出すか。

 「ちなみにだが、これは仮面ではない。覆面だ。」

 言わないで、ミヤ!気にしない様にしてたんだから!

 「ですが、この形のおかげでケーキが食べられます。わたしの選択に間違いはありませんでした。」

 まぁリリーサの言う通り、口の部分に穴が開いてるから、物を食べたり飲んだりできるのは助かるけど。

 「大間違いだ愚か者が。」

 ミヤの機嫌が悪い。もう諦めなさい、この覆面に関しては……


 「基本、夜間の外出禁止令が守られていることもあり、街中の警備はさほど厳しいものではありません。この時間帯なら、この通りは兵の巡回はありません。」

 まだ戦争が始まっていない事、帝都に忍び込もうとする者も今の段階ではいないだろうという事から、街の中の警備は手薄のようだ。そもそも、主力の兵士のほとんどが国境に派遣されてるんだ。街に配備されている人数はしれたものだろう。

 「では、この通りを進んで宰相閣下の屋敷まで行くことにしよう。女帝陛下、気づかれては困るので馬は使えません。歩くことになりますが大丈夫でしょうか。」

 「国の非常時です。そのくらいは覚悟しています。」

 「はっ!ご立派でございます。」

 え、偉くなると歩くだけで褒められるの?でも、ライザリアなんかしょっちゅう歩いて王城抜け出しては街で遊んでるらしいけど、褒められたって聞いてないなぁ。

 「アレを参考にしないで。というか、褒められる要素がないわよね、それ。」

 同じ歩いてるんだけどな。人格の差かな。


 「よし、バーガン様の邸宅に向かうのは、第3、第6隊の12名と私。それと……」

 なぜ嫌そうな目でこっちを見る。

 「万が一の場合、女帝陛下を頼めるか。」

 「まかせなさい。何かあったら、わたしたちが女帝様を地獄の果てまでだって送り届けてあげるわ。」

 「できれば天国でお願いしたい。」

 え?死にたいの?エリザベート。

 心配そうな兵隊のみんな。おかしいな、心配するようなことあった?

 「この娘、ちょっと言葉が不自由なんで……」

 「頭も不自由ですけどね。」

 ファリナ、リリーサ、燃やすよ、まったく。






お知らせしていた通り、更新は月の奇数日(ただし31日を除く)となっていますので、次回の更新予定は8月1日を予定しております。


これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ