14.さらに悩む少女たち
「それじゃヒメ、行くってことでいいのね?」
ファリナの言葉に、今さら何をという表情の面々。
「依頼は正式なものではない。」
「ミヤさんってそれなりに状況わかっているんだ。」
ミヤの言葉に意外と失礼なリーア。まぁ、ミヤは気にしないけど。
「依頼はお願いしたい。条件も飲む。それでお願いする。」
「お父様。」
いまだに行くことに拘るフレイラに、ロイドさんが言い放つ。
「お前のわがままで依頼を断られたら、他の誰が行けると思う?領地すべてのハンターギルドを合わせても、魔獣の相手ができる勇者クラスのハンターは何人もいない。マリシアやエミリアでも魔獣相手に無事に帰ってこられるかどうか。」
エミリアは、黙って聞いている。
わたしの見立てでは、エミリアは、対人ならかなりいいとこいけるけど、獣や魔獣向きではないと思う。マリシアは、Cランクの中から上の間くらいだけど、魔獣を何体も相手にするのは無理だと思う。まぁ、森や山に入って、出てくるまでの間にパープルウルフ1匹以外に出会わないのであれば・・・それでも、パープルウルフの相手は厳しいかな。
わたしたち以外じゃ無理だよね。ただ、行く方向で話が進んでるけど、ここで返事はできない。わたし1人の一存で決めていい話じゃない。
わたしが行くといえば、ファリナとミヤは黙って従うだろう。でも、わたしたちはパーティーなのだ。そんな決め方で仕事を引き受けるわけにはいかない。
「どこか場所を貸してもらえませんか。3人で話がしたいんですが。」
「あぁ、わかった。先ほどの部屋を使ってくれ。話し合いが終わったら、廊下にエミリアを残しておくから、彼女に知らせてくれないか。」
えー、こいつ絶対聞き耳立てるよね。内緒の意味ないじゃん。
「まさか、ここまで乗せておいて断るなんて選択肢ないですよね。確認だけはさせてもらいます。」
わたしのそばまで来て、堂々の盗聴宣言していくエミリア。断るって言ったらどう出るか、なんか興味出てきた。
さっきの控室なのか応接室なのかわからない部屋に戻る。
「応接間です。では、わたしはここで聞かせて、いえ、お待ちしておりますので。」
もう隠す気無いな、この女。
「エミリアと漫才やったら?受けるわよ。」
ファリナ、真面目な顔でとんでもないこと言うのやめて。
「やるなら王都の方が劇場大きくていいんじゃないかしら。」
「そうなったら、あんたたちもやるんだからね。」
「わかった。ミヤマネージャーやる。」
「わたしは会計担当ね。」
ボケをボケで返されたらツッコマなきゃならないじゃないか。と思っていたら壁がドンと鳴る。
「ほら、ふざけてるから怒られた。」
え?話振ってきたのはファリナだよね。
「さて、どうしたい?」
2人を見る。ミヤは珍しくこちらを見つめている・・・ように見えて、目の焦点が合ってないから向いてるだけだな。
「決めているんでしょ。まぁ、あそこまで話が進んでたら断れないけどね。」
「決めてないよ。わたしたちはパーティーだから、誰か1人でも嫌ならやらない。断るよ。パーソンズ家には悪いけど、わたしにはあなたたち2人以上に大切なものなんてないから。」
「ミヤはヒメ様と一心同体。ヒメ様が行くならミヤも行く。ヒメ様が決めていい。」
「そうね。わたしたちは3人でひとつ。ヒメのやりたいようにやっていい。で、ヒメは助けたいんでしょ。」
助けるだけならわざわざ魔獣なんかにケンカ売らなくてもミヤに頼めばいい。でもそれは、平穏を捨てかねない賭けになる。
「だからね、2人に無理させてまでやらなきゃならないのかなって。」
「いまさら。」
「ほんと。いまさらよね。今まで散々な目にあわせておいて。」
悪かったわよ。反省はしてる。後悔はしていないけど。
わたしはそっと2人を抱きしめる。
「けどエミリア、あの女の力の入り様はなんなの?ちょっと引いちゃうんですけど。あれかな、旦那様に気があるのかな。」
「だったら、奥様がいなくなった方が都合がいいんじゃない?」
壁がドン・ドン・ドンと数回鳴る。壁壊れちゃうよ。
「すでに不倫関係。」
おぉ、ミヤ。どこでそんな言葉を覚えた。
バン!とドアが開く。
「わたしは、ご夫婦に命を助けられました。わたしの命はあの御二人のものなのです。下衆の勘繰りはやめてください!」
バン!とドアが閉じる。ドアが壊れるよ。
本気で重い女。ちょっと鬱陶しい。
「入ってきたら?どうせ聞いてるんでしょ。立ち聞きなんて鬱陶しいんだけど。」
ドアが再度開く。
「失礼な言いがかりはやめてください。廊下に立っていたら、たまたま聞こえただけです。あなたたちこそ、当家ご家族を誹謗するような発言は慎んでください。」
そう言うと、部屋の中に入ってきてドアを閉める。
あぁ言ったら遠慮するかと思ったら、本当に入ってくるとは。やるな、エミリア。
「続きをどうぞ。」
「必要な物はなにがある?」
エミリアを無視して会議再開。
「ご飯。」
はい、ミヤは単純明快でいいなぁ。
「他は?」
やり切った感のミヤを置いといて、2人で頭を捻る。
「ないね。」
「ないわね。」
「ちょっと、ふざけないでよ。仮にも魔獣と一戦やらかそうっていうのよ。必要な物が食料しかないってそんなはずないでしょう。」
エミリアがなぜかキレる。わたしたちのポアポア感との、この温度差はなんなんだろう。
声に出しては言わないけど、たかだかウルフ系の魔獣だよ。見つかりさえすればなんとでもなるでしょう。
「あなたたち、やっぱり勇者なんでしょう。元?かな・・・なんで、こんな僻地でハンターなんか・・・」
「勇者なんて、お金にはなるけど、魔人族との争いになったら国や領主に縛られる。それが嫌で勇者にならないハンターだっています。あまり目立つと、ギルドや国から推薦されて勇者の登録をしなければならなくなる。わたしたちは、静かに生きてゆきたい。いけませんか?」
「いけないでしょ。魔人族との戦争なんていくら戦力があってもいいのに、あなたたちみたいな強力な戦力が見て見ぬふりなんてダメに決まっている。」
ファリナにむきになって反論するエミリア。魔人族関係でいやな過去でもあるのかな。
「さっきの話じゃこの町には勇者、何人もいないんだよね。」
ちなみにマイムの町には1人もいない。
「半年前のサムザス事変に出兵して・・・壊滅しました。生き残った者はほとんどここには帰ってはきませんでした。」
サムザス事変は、半年前、この国のサムザス領で起こった魔人族との大きな戦闘だ。規模が大きすぎて、サムザス領だけでは勇者の数が足りなくて、国中の勇者が集められた。その数、数千人。そして、戦いが終わった時に生き残ったのは半分以下だった。
「わたしたちみたいな生き方を否定するのはかまわない。でも、そのおかげで、マリアさんの病気がわかって、治療法もわかった。わたしたちが真面目に勇者をやっていたら出会うこともなくて、マリアさんは助からなかったかもしれないよ。」
言葉に詰まるエミリア。
「マリアさんを助けたいのよね。だったら邪魔しないで。」
両手を握りしめて震わすエミリア。大きく息を吐くと頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。」
そう言って部屋を出ていく。
自分は無力だとか思っているんだろうなぁ。
でもね、餅は餅屋って言うでしょ。自分ができることを精一杯やればいいんだよ。本人には絶対言わないけどね。
「ヒメ様非道。」
あれ、今の会議の邪魔した向こうが悪いよね。なんで、わたしが悪いような雰囲気になってるの?
「気を取り直して・・・後、何が必要?」
考える。
向こうに着く。探す。やっつける。うん、武器と食料と寝るとこあればいいよね。
武器はある。テントもある。やっぱり、無いのは食料だけだよね。いや、武器は・・・
「で、探すのはどうするの?」
ファリナがミヤの方をチラと見ながら聞いてくる。
ミヤ、瞳を輝かせてこちらを見ない。
わたしは大きくため息を吐く。
「第一封だけ解くよ。」
「まぁ、それが一番早いよね。」
ファリナは面白くなさそう。
わたしとファリナの話を、フンフン言いながら聞くやる気のミヤ。わたしは頭痛いよ
「話は決まったのかね。」
応接室を出たわたしたちは、ロイドさんの執務室に通される。
「話を始めたのはわたしたちだから、最後まで責任は持つよ。」
「すまない。助かる。」
見回すと、さっきの面子にフレイラとマリアさんが足りない。
マリアさんは自室で寝ているとして、フレイラは付き添っているのかな。
「あまりにしつこいので、マリシアに言って自分の部屋に監禁中だ。」
あぁ、なるほど。
「それで、一家でピクニックに行ったというのは、白の森のこちら側の草原なんですね。」
ファリナが確認の話を始める。
「そうだ。あの辺りは獣も少ないということだったから安全だと思っていたんだ。」
「そこにキャンプを張ります。何日かかるかわからないので、毎食の食べ物だけ用意してほしいのですが。」
「それだけか?他に何かないのか強力な武器とか、サポートのハンターとか・・・」
「武器は使い慣れたものでないといざというとき困ります。サポートはさっき言った通り邪魔です。連絡のために毎夕に1人、キャンプによこしてください。毎日の連絡と必要な物ができたら、その人経由でお知らせします。その時に料理のできる方を一緒に。夕飯と朝昼用の簡単なものを作っておいていただけますか。わたしたちが森から戻って料理するのは時間がもったいないもので。」
ファリナが淡々と決めていく。
こういう交渉事はファリナの役目だ。わたしだと、ザックリすぎるとファリナからダメ出しを食らっている。
「わかった。それで、出発は?」
「明後日でいいかな。数日となると、持っていくものの準備もあるから。」
ファリナがあれ?という顔を見せるが、誰も気づかなかったようだ。
「そうだな。では、明後日早朝、迎えの馬車を向かわせる。」
「了解。後、申し訳ないけど・・・」
「なんだ?」
「フレイラに見張りつけておいてね。」
「・・・わかった。」
ロイドさんはちょっと考え込むと、渋い顔をする。フレイラが何かしらやらかすことを失念していたようだ。
屋敷を出る。見送りはリーアとメイドのライラさん。フレイラは監禁されたままのようだ。
「で、なんで明後日?明日でもいいでしょう。」
「晩ご飯ご馳走になったら遅くなった。」
灰色狼を狩って、町に戻ったのが夕刻。晩ご飯頂いて、マリアさんの話をして、依頼の話まで終わったら日が暮れていた。
「武器の剣を買いたいんだけど、今からじゃ時間がない。明日ゆっくり見たい。」
「今の剣は?いいものなんでしょ、あれ。わたしじゃ使いこなせないけど。」
「魔人族の加護魔法がかかっている。万が一、魔人族に見られたらまずいかもしれない。」
「あぁ、魔神の持ち物だもんね。相手は燃えちゃったけど、剣のことを知ってる魔神や人魔がいるかもしれないか。」
今の剣は、以前倒した魔人族の軍団の一番偉い奴がもっていたものだ。剣のことを知っている魔人族に会う可能性もある。山の向こう側に行かなきゃ大丈夫だとは思うんだけど。
「だったら、パーソンズ家に買ってもらえばよかったじゃない。お金は出すって言ってたんだから。」
「貴族に借りは作りたくない。」
ファリナが『あぁ。』と頷く。
「魔人族が相手になる可能性が1パーセントでもあるなら、注意しないと。」
2人が危険な目に合う確率は1パーセントでも減らしたい。
「いつもの通り燃やせばいい。」
お気楽に言うミヤ。
わかってる。わたしたちの前に立ちふさがるものはすべて灰にしてあげる。




